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糸魔術師の日常  作者: 3号
25/51

引っ越し騒動3


エグジムの集中が途切れたあたりで、ボロボロの剣を振りかぶったゴブリンが飛びかかってきた。

とっさに転がって避けると、剣は地面に深く突き刺さった。あのまま受けていたらエグジムの頭くらいは砕けそうな勢いだ。


「くそっ!」


死んでたかもしれない、そんな恐怖心をかき消すように放った糸玉が、まるでモーニングスターのようにゴブリンの頭を打ち据え昏倒させる。

しかし、その後ろから更に武器を手にしたゴブリンが三体襲いかかってくる。


「どっからこんなにゴブリンが!」


反撃する生徒が多くなっており、ゴブリンの撃破数もカサ増しされているはず。しかし現状はむしろゴブリンの数に押されている状態だ。

一体一体が弱いゴブリンといえども、数はそれだけで力になる。


「ヤバイぞ囲まれる!」

「下がれ、下がれー!」


単体は弱いが数で攻めてくるゴブリンに、果敢に立ち向かった生徒たちも後退を余儀なくされる。


「きゃっ!」

「危ない……ですわねっ!」


もともと荒事に向いてないミリリも、飛びかかってきたゴブリンから間一髪でユーリに救われていた。


「あ、ありがとうユーリちゃん」

「大事なお友達に手を出されてなるものですか! かかってきなさい、この私に!」


砂のガントレットに包まれた拳を握りしめ、ミリリの前に仁王立ちするユーリ。


「お嬢様、そのような言葉は騎士が使ってこそなのですが」

「いいことシューイン、淑女たるもの細かいことは気にしないのが作法です、わっ!」


砂が弾け、その勢いで振り切る脚は死神の鎌のごとく。ユーリの蹴りでゴブリン二体の首が胴体とお別れして宙を舞った。


「そのような嗜みはありません……」


頭痛を堪えるように頭を抱えたシューインがミリリの側に付いたのを認めたユーリは、すぐ近くで自分たちを、正確にはミリリを狙っていたゴブリンの集団へと特攻をかけに行った。

ユーリの手足、それぞれに作り出された砂の鎧が彼女を押し出すように砂を吐き出し、両手足に砂嵐を纏ったユーリは放たれた一矢のごとく。まるで反応ができていないゴブリンの頭蓋を推進力を殺さぬ右拳で粉砕した。

先頭の仲間が頭部を失い倒れようとしたところで仲間のゴブリンもユーリの存在に気がつき武器を構えようとするが、静から動に移る彼らと動を殺さず加速するユーリでは、そも勝負になろうはずも無い。


「凄い……」


意図せず言葉が出るミリリ。それだけ、ユーリの戦いは圧倒的で、そして砂風の中で舞踏でもしているかのような姿は美しさすら感じさせるものだった。


「ミリリ様、お下がりください。後は私が」

「いいえシューインさん。私だって」


何かできるはず。そう続けようとしたミリリの声は、突如巻き起こった轟音に掻き消された。

とっさに頭をかばうミリリにシューインが覆い被さり、その身を盾にするが、その心配は無用だったようだ。


「これはゴブリンを狙った魔法ですか」


それも一つ二つじゃ無い。生徒を巻き込まぬよう的確にゴブリンを狙い撃つ魔法の連打。それらに紛れるように槍を持った男が乱入し、ゴブリン数体の胸を穿った。

場に凛とした声が響く。


「生徒会執行部です! 魔物の鎮圧を行います! 周囲の新入生は退避を!!」


言葉と同時に戦場に複数の結界が張られ、ゴブリンと戦えない生徒とを分断した。


「この結界って、なんか見覚えあるな」

「そうだろう。また会ったね糸使い君」


そう言って結界でゴブリンを押しつぶしながら現れたのは、いつか入学式で関わった水色ショートヘアの少女。確かフェリムといったか。


「この前ぶりです。なんか毎回厄介ごとを引き連れてきますね」

「私が原因みたいな言い方やめてくれるかな!?」

「だって会うたび荒事です、し!」


背後から迫ってきたゴブリンを縛り上げ、ついでに吊り上げて地面へと叩きつける。


「会うたびって、まだ二回だろう。全く、これは私の普段を知ってもらわないと。ということで入学しないかな? 今からでも遅くないよ」

「何ですか藪から棒に」


話しながらでも糸を首に絡めてゴブリン数体を窒息させてるエグジムに、結界でゴブリンを三体ほど弾きとばしながらフェリムはクスリと笑った。


「ふふっ、いやなに。君が新入生ですらないと聞いたのでね。どう、考え直さない?」

「庶民にはお仕事があるのですよ」


どうも最近入学を進められることが多い気がする。魔術を極めたいわけでも騎士になって出世したいわけでもないので、余計なお世話でしかないが。

懐から取り出した結界用の札を中に浮かべて術式を展開。エグジムが拘束したゴブリンへとまるで大槌のような結界で打撃を与え無力化していくフェリム。そんな彼女から「ちっ」と小さな舌打ちが聞こえた。


「入学したら真っ先にスカウトに行こうと思っていたのに。簡単にはいかないか」

「舌打ち、聞こえてますよ」

「さぁて、何の話かな。よし、そろそろゴブリンも少なくなってきたか」


周囲を見渡すフェリム。その横に槍使いの男子生徒が滑り込んだ。


「部長! 掃除ほぼ終了っす!」

「お疲れ。相変わらず良い槍さばきだねグレッド君」

「あざっす!」


逃げる生徒の姿はなく、数少ない生徒たちは4〜5人で固まり周囲を警戒し、倒れているのは討伐されたゴブリンと、手当てを受けてる怪我人のみ。

まだ立っているゴブリンはおらず、鎮圧は完了したと思われた。


「にしても中々の数っしたね」

「ふむ、恐らく五〜六十といったところか」

「何処から来たんすかね」

「それは今調べ……お、来たようだね」


戦闘は終わっても手当てや状況確認などで慌ただしく人が行き来する中、人波を縫うようにして長身の女生徒が駆け寄ってきた。

女生徒はフェリムの前に立つと、少し息を整えてから口を開く。


「部長。報告でーす」

「はいご苦労ミュンレイ君。で、何か見つけたのかな」

「はい。簡素なものでしたが召喚の魔法陣が設置してありましたー」

「召喚っすか。あれほどの数を?」

「はい、ご丁寧に魔石まで組み込んでありましたよー。拳大くらいでゴブリン程度ならまだまだいけそうな位のサイズを」

「ほほぅ」


すぅ、と目を細めるフェリム。


「それほどの魔石だ。用意できる人間は限られるね」

「探りましょうかぁ?」

「お願いするよ。私もこの現場終わったら手伝うからさ」

「はーい。んじゃお先に」


周囲の状況とは似つかわしくない、どこかゆるい空気を纏ったミュンレイは、指の曲がった形だけの敬礼をすると三つ編みにした黒髪を揺らしながら何処かへと去っていった。おそらく調査に行ったのだろうが、何かを探るという行為がミュンレイの印象とはあまり合わないように思えてならない。


「そんなに心配そうな顔をするな。ミュンレイはあれで優秀な奴だ」

「……顔に出てました?」

「エグジム君、君は分かりやすいと言われないかい?」


苦笑とともに見つめられ、思わず顔をそらすエグジム。その逸らした先にユーリが飛んできたのがちょうど同じタイミングだった。

右足を綺麗に伸ばし、左膝を曲げ、理想的な飛び蹴りのフォームをしている彼女の足先にはくの字に曲がったゴブリンが。


「ラストォ! ですわ!」


まるで砂の尾を引くような彼女は空中で身をよじると、片手を地面に当て軸にし回転。勢いを殺しきりエグジムのすぐ隣に着地する。


「ふぅ、終わりですわね」

「びっくりした……。なんか『ふう、やり切りましたわ』みたいな清々しい顔してるね」

「私のモノマネですの? それにまだまだ不完全燃焼ですのよ?」


『ゴブァー!』と悲鳴? 断末魔の絶叫? の尾を引きながら地面を激しく転がるゴブリンが、壁に激突して赤いシミを作った。

 

「そうかぁ、これでもまだ暴れ足りないか」

「この間のロックリザードは楽しかったですわね! また出会えないかしら?」

「また、ね……」


現役傭兵が逃げ惑う魔物を望む令嬢。その傭兵が新人だったということを置いておいても、少し、いやかなり違和感がある。……のだが、なんだかユーリならそんなものかと最近エグジムは思い始めていた。


「毒されてんのかな、俺」


 普段から貴族相手にも商売しているので、令嬢全てがユーリの様じゃないと知っているのが幸いだろう。でなければ『令嬢=暴れん坊』とあらぬ勘違いをする所だったから。


「さっきから何をブツブツ言ってますの?」

「はっはっは。まあ青少年には悩みがつきものですよ。にしても見事な腕でした、エルフィン伯爵令嬢様」

「面倒です、敬称なしでお願いしますわ。フェリム先輩?」

「ん、んん。なら有難いね。では改めて、御助力感謝するよユーリさん。しかしながら、今後は少し控えてくれるかな」


 途中から真剣な声音になったフェリムに、ユーリも少し表情を固くする。


「あら、足を引っ張った記憶は無いのだけれど……」

「君の強さはしっかり見たさ。そうではなくて、立場の方だ。令嬢がやることじゃないだろ?」

「むぅ」


 自覚があるのか、ユーリからの反論はない。


「というわけで、入学後は令嬢らしく過ごされるのを期待しますよ。荒ごとは私たちに任せてね」

「フン。自分だって男爵令嬢じゃないの」

「私はいいのですよ。立場が許してますから」


ドヤっと胸を張るフェリムと悔しそうに膨れるユーリ。魔力が漏れているのか、ユーリの周りに少し砂が浮かんでいた。

 

「とはいえ今回の件は正直助かったよ。私たちも不意を突かれたからね、対処が遅くなってしまった。感謝する」

「ま、まあ当然ですわね!」


 少し機嫌が良くなるユーリ。周りに浮いていた砂がサラサラと風に流されていった。


「私たちが到着するまで持ち堪えてくれてなければ、被害はもっと出ていたと思われる。勿論、今回の件がなぜ起きたか、しっかりと調査もさせて貰うよ。……というわけで、申し訳ないが引っ越しは一時中断。ここは調査のために閉鎖するから君たちは早めに引き上げてほしい」


周りにも聞こえるようにフェリムが手を叩くと、淀みない動きで執行部の面々が避難誘導を開始した。フェリムも「失礼するよ」と、その誘導の中に加わっていった。

 流石にこの段になってゴブリン残党も出てこないかと、張り巡らせた糸を糸玉にして回収するエグジムへ、少し強張った顔のミリリが駆け寄ってきた。少し顔色が悪く、相当怖かった様子だ。


「なんか、大変なことになっちゃったね」

「そうだな。ミリリは大丈夫だった?」

「うん。執事さんが守ってくれてたから」

「いえいえ、ミリリ嬢も素敵な魔法でしたよ。これはお嬢様も油断できなさそうだ」


 そう紳士的に笑うシューインの手袋は、黒と赤の斑模様に染まっており、もう原型の色合いがわからない状態。エグジムのそんな視線に気がついたのか、シューインは「失礼」と一言断ると手袋を手にはめたまま燃やし尽くし、手早く懐から出した真新しい手袋を装着した。

 なんとも鮮やかな隠滅である。


「もう! せっかくのお引っ越しが台無しじゃなくて!? 運動できたからいいけど!」

「あ、いいんだ」


 お嬢様は安定の平常運転。周りでは怯えた表情の執事がへたり込んだ少女を介抱しつつ避難したりしているが……さて、どちらが本来の姿なのだろう。平民のエグジムにはわからない。


「とりあえず、荷物の運び込みは終わってて良かったね。荷解きはまたの機会になりそうだけども」

「仕方がないよ、こういう事態だもん。たとえ出来ても、もう帰りたいよ……怖いし」

「だなぁ。んじゃ、帰るか」


 結局、ミリリの部屋は木箱山積みの倉庫状態で引っ越し終了。馬車で送ってくれるというユーリの申し出をやんわりと断り、エグジムとミリリは並んで商店街へと帰宅した。

 それにしても、この短い期間にトロールやらゴブリンやら、学園は大丈夫なのだろうか。

 ほんとうに学園が危険地帯にしか思えなくなってきた。そのうち、また何か事件があるような気がしてくる。

 そんなエグジムの予感はその日の夜に現実のものとなった。

なかなか更新できず、すいません。

自分の構成力・文章力のなさが恨めしい

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