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糸魔術師の日常  作者: 3号
22/51

幼馴染来る

前から空いてすいません。スローペースですが、どうぞ!

商店街の朝は早い。

仕入れ、品出し、清掃に仕込み。今日この日も客を出迎えるため、商店街は朝日が昇ると共に活気に包まれる。

商店街のちょうど中央付近に位置する仕立て屋「ねこのヒゲ」でもそれは変わらず。トルソー出しやショーウィンドゥ磨きなど手抜きなく行う親子がいた。


「新作の服、ここでいい?」

「おう! それは中央な! んで靴はこの辺に」

「レミ雑巾とって」

「はい」

「ありがと」


いつもと変わらない光景。しかし違うのは親子だけでなく二人の少女も一緒に掃除しているところか。

両方エグジムよりも少し年上、十七〜十八くらいだろうか。華やかさは無いが、素朴な可愛らしさがある少女たちに近所の八百屋二代目(二十歳)は先程から目が行きっぱなしだ。


「これ、あの嬢ちゃんたちは坊のコレかえ?」


隣のおばちゃんがビリームへと小指を立てて聞いてくる。とってもゲスい、もとい好奇心に輝く笑顔をしていらっしゃる。


「おう婆ちゃん。あの娘らは昨日からうちに下宿してる傭兵たちだよ。開店手伝ってくれてんだ」

「ほう! つまりは同棲ってやつかい! 坊も隅に置けないねぇ。ミリリちゃんに報告しないとね」


八百屋のにいちゃんが「ピクッ」と反応。鋭い目つきでエグジムを睨んでいる。

大商会の一人娘であるミリリは可愛らしい容姿と、立場に甘えない控えめで柔らかい雰囲気から商店街でも人気がある少女だ。

父親がこの商店街の顔役に近い位置にいることから娘のミリリもよく商店街の集まりには顔を出しており、男性衆、特に若い次世代からは高嶺の花のように扱われている。

故に父親同士の仲が良いという理由で幼馴染の位置に収まっているエグジムへの嫉妬、やっかみがあったのだが……今回のことで当たりは更に強くなりそうだ。

逆にお婆さん始め、女性陣は楽しそうな目でエグジムたちを見ている。恋愛ごとが好きなのは、女性の性なのか。井戸端会議に花が咲きそうだ。

背中にそんな多種様々な視線が突き刺さるのは、当然当事者たるエグジムには分かっている。分かりたくないが、無視できる視線の強さではない。


「はぁ……」

「どしたのエッ君。朝から元気ないよ?」

「エッ君、昨日ので疲れた?」

「昨日すごかったもんね」


「昨日の!?」と、仕事の手が疎かになり母親にド突かれながらも聞き耳を立てていた次世代組が、思春期特有の思考回路で騒めく。

いつまでも少年の心を忘れない店主たちも「三人でなのか!?」と驚愕している。

すごい誤解が広がっていた。


「ああ、ちょっとね。昨日の『素材集めが!』思ってたより響いたみたい。少し筋肉痛気味かな」


わざと一部を強調して返答。伝えたい相手は少女二人ではなく、周りで聴いてる冷静さを欠いた皆様だ。ちなみにエグジムは昨日の疲れなど特に残っていない。完全に今の状況への気疲れです。


「そうなんだ。少し休んでてよ、あとの掃除はやっとくから!」

「ん、任せて」


健気な二人が忙しい時間なのにそんな言葉をかけてくれる。家業を手伝い尻を叩かれ働く青年たちには、そんな彼女らが眩しく見えた。


「また視線強くなった……」

「どしたのエッ君?」

「いや、何でもないよ。それよりもう少しで終わるから、みんなで一気に終わらせちゃおう! そしたら朝ごはんだ!」

「「朝ごはん!」」


周りからどう思われてるか知らない少女達は、食欲に忠実だった。

そしてエグジムは、気にするのをやめた。



時は流れてお昼時。

朝ごはんのフレンチトーストを絶賛しながら平らげた二人は、食休みもせずにギルドへと駆け出していき(早く行かないと割りのいい依頼に有り付けないという)、エプロン姿で見送ったエグジムはそのまま開店。

男所帯に戻った店内で数組訪れた客をもてなしていると、お昼を告げる鐘とともに、ふいに背筋を悪寒が駆け上がっていった。

さり気なく振り返ると、店の入り口から覗く赤い瞳。ただ見つめるそれは恐怖すら抱く。


「今日もいい仕事だったよ、じゃあ、また……ひっ!」


ハットを注文していた紳士が出来上がった一品を機嫌よく被り、振り返った途端に小さく悲鳴を上げた。

まあ、少し空いたドアの隙間から無表情で少女が覗き込んでいれば、そうなるか。

恐々とドアを開け、少女とは逆側のドア枠に背中を擦るようにして退店する紳士をお辞儀して見送り、エグジムはそっと溜息を吐いた。


「なにやってんの、ミリリ」

「浮気者の調査なんだよ」

「なんだ彼氏でもいたのか? 知らなか……」


シュン。耳の横を何かが通り過ぎ、冷たいものが頬を伝う。

ぎこちなく背後を見ると、柱に氷の針が突き刺さっていた。


「えっと、そのですね」


エグジムの頬を冷たい何かが滑り落ちて行く。


「つまらない冗談はね、嫌いだよ?」


ミリリさん、目がマジだった。


「いやいやいや、浮気者って俺、今まで彼女とかいたことないんだけど!?」

「今までってことは、今はいるの!?」

「いねぇよ! 悲しいこと言わせんな!」


年齢イコール彼女いない歴のエグジムである。まだ十五歳だから焦る必要ないとは分かっているが、二十歳になる前にはだいたい結婚する世の中、気にしてしまうのは仕方がない。

貴族などは十前後で婚約者が決まってるのが珍しくないという。うらやま……いや、恐ろしい話だ。

故にあまり主張たくない事実だが、正直に話したのが良かったのだろうか。ミリリの空気が少し軽くなったような気がした。目にハイライトも戻っている。


「そうなんだ、いないんだ……。あの、ユーリ様も違うよね? この前広場で仲よさそうに、その、ご飯食べてたけど」

「いや、身分違いすぎるだろ。辛うじて友達認定はしてもらえてるっぽいけど」

「よかった」

「何が??」

「何でもないよ!」


と思ったらまた氷の粒が飛んできた。コン! と額に当たったそれは小石大で、床に落ちたらすぐに溶けて無くなった。


「もう、全くもう! デリカシーが無いよ!?」

「いったい何だってばよ……?」


思わず変な言葉遣いになるほど疑問符いっぱいのエグジム。そんな息子の様子をビリームとお客の夫人は生暖かい目で見ていた。


「何でもないの! そ、それよりさ、このあと暇ある……かな?」

「いや午後からもしご「いいぜ予約ないしよ!」」


振り向くと親指を立てて白い歯を光らせている父親のドヤ顔が。捲られた袖から毛深く逞しい腕が突き出されている。


「お、おい親父」

「いいんですか? おじ様」

「いいから行って来いって! ミリリちゃん、うちのバカ息子頼むよ!」

「はぁ、まあもうお昼だし。とりあえず昼飯食べてくる」

「おう! そのままミリリちゃんと行ってこい!」


笑顔で手を振り、小遣いにと小袋まで投げ渡してくるビリーム。せっかくの流れだし、たまには仕事を忘れて幼馴染と遊ぶのもアリかもしれない。


「じゃ、お言葉に甘えるよ。行こうミリリ」

「うん! あ、あのおじ様、有難うございます!」

「おう! 楽しんでな!」


愛息子と、小さい時から面倒を見てる少女が出て行き、パタンと閉まる扉。

カウベルの音が聞こえる店内で夫人に仕上がった帽子を手渡しながら、さて午後の仕事はどう回そうかと悩むビリームだった。

午後の仕事、予約五件。修羅場が訪れた。




「ね、ねえ。どこで食べよっか?」

「んー、そうだなぁ」


アンダーウッド商店街。子供の頃から走り回った見慣れた景色は、もはや庭を歩いているのと変わらない。

店である以上、流行り廃りで入れ替わりはあるが、その流れでさえも記憶の中で補完されている。

ゆえに少し考えるだけで何の店があるか、エグジムにもミリリにも把握できる。そのため二人は無駄に歩いて探すことをせず、商店街の中心にある噴水の縁に座って、ああでもない、こうでもない、これが良いあれが良いと昼ごはん先を話し合っていた。


「ミリリはこれ好きだろ? ハンバーグってやつ。ならあそこの角の店とかどう?」

「んー、少し高いからね。エグジムは野菜も好きだよね? ならあのカフェとかどう?」


しかし、そこは幼馴染二人。互いの好みは把握している。

そのため、お互いに食べたい店を言い合うのではなく「お互いが食べたいだろう店を予想して提案する」という、なんとも珍しい話し合いになっていた。

十三回目の鐘がなる。お昼の時間は少し過ぎていた。

「ぐぅ〜」と、二人同時にお腹の虫が空腹を訴える。


「ありゃ、もうこんな時間か」

「しょうがないね。あそこ入ろ?」


そうやって二人が入った店は家庭的な雰囲気の小さな食堂。商人風の男性にランチプレートを運んだおばさんが、二人を見てにっこりと微笑んだ。


「あらいらっしゃい」

「おばちゃん空いてる?」

「そうねぇ、いつもの窓際の席空いてるわよ」

「あいよー」


入口の左脇、通りがよく見える席に促されるまま向かう。二人が席に座ったあたりでおばさんが水の入ったカップを二つ、テーブルに置いた。


「しばらくぶりだねー。元気してたかい?」

「学園の入学式関連で忙しくてさ」

「学園……そういえばミリリちゃんは入学したんだってね! 寂しくなるけど、頑張るんだよ!」

「はい! といっても近くなんでまた来ますけどね」

「おや、そうだったね。いやだねぇ歳とると、こういう時にどうしても子供が旅立っちゃうような気分になって。いつものでいいね!」

「「はい!」」


おばさんは快活に笑うと大声で厨房に注文を伝えつつ次の客の相手に向かった。


「結局いつもの店だな」


おばさんを見送って苦笑するエグジムに、ふんわりと微笑むミリリ。


「そしていつものメニューだよね」


あれでもない、これでもないと語りながらも、最終的にはいつもの馴染みの店に入る。二人がお金の管理を覚え、外で食事ができるようになってからの習慣だ。おばさんとも身内のように仲が良い。

むしろお金の使い方を教えてくれた一人でもある。


「はい、おまちど!」


それから他愛ない会話をしていると、おばさんが二つのプレートを手にやってきた。


「ハンバーグプレートと、ビーフシチュープレートね!」

「相変わらず旨そうだ!」

「うん! 美味しそう!」


エグジムたちの歓声に厨房から禿げ上がったおじさんも嬉しそうに頷いている。


「さて、頂こうか!」

「うん!」


ハンバーグは肉汁が溢れ、ビーフシチューはスプーンで簡単に切れるくらいトロトロに煮込まれている。お世辞抜きで美味い。特にビーフの味を吸った野菜がエグジムのお気に入りだった。


「毎回同じので、飽きないねぇ」


おばさんが苦笑いで言ってくるが「飽きないよ!」と二人で返すと高笑い。同じく馴染みの常連さんも悪ノリして「気に入った料理は飽きねぇよな!」「毎日食っても良いぜ! だから割引して!」など賑やかに囃し立てる。


「あんたら! ただでさえ限界の安さなんだ! 割り引いたらうちが潰れるって何度言ったら分かるんだい!?」


そしておばさんが一喝。また笑いが。

この食堂ではよくある事なのだ。

そんなこんなで騒がしいなか食べ進める昼食は、空腹も手伝って会話もそぞろに終了。おばさんがサービスで出してくれたお茶を飲みながら、エグジムとミリリは「ほうっ」と満足げに息をついた。


「美味かったな」

「だからここに来ちゃうよね」


そしてまたお茶を一口。


「そういえば、今日これから何の用だったんだ? このまま遊びにでも行くか?」

「それも良いけど、ねぇエグジム、一緒に学園に行ってくれない?」


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