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糸魔術師の日常  作者: 3号
21/51

夕食にて

クレイがユーリと共に行った部分を、話の都合上、ギルドに残ったとして修正しました。


スローペースの更新すいません。

「ほんとにいいんですね!?」

「頂いちゃうよ!?」

「もう三度目だよ? いいから食べちゃって」


やけに疑り深い少女二人。だんだん面倒になってきたエグジムはおざなりに返しながら古布でフライパンを拭っていた。




ギルドで起こったひと騒動。ドナドナと連行されていくユーリを見送った一同は暫く佇んだあと、なんとも微妙な空気での解散となった。

ふつうの傭兵や兵士なら、ロックリザードなんて大物を倒した後はパアッと打ち上げでもして自身の無事と勝利の余韻に浸るものだ。そうやって次の活力を養っていく。

エグジムのような一般人でも、一仕事終えた後は打ち上げくらいはしたい。

したい、が、大きな立役者たるユーリがお説教確定な空気で連行されていったのだ。あれはお迎えでは断じてない、比喩でなく連行だった。


「貴族のお嬢様は、やっぱり大変なんだな」


完全に人ごとで遠くなる背中を見送るバルロッサのつぶやきが、やけに明瞭に聞こえた。


「なんか、最後まで賑やかな人だったね」

「勝手に最後にしないの」


ミーファの一言にレミがすかさずツッコミ。


「ええ、最後なんて言わずまた会ってあげてください。お嬢も喜びますよ」


主人に同年代の知り合いができたのは喜ばしい、逃してなるものか。そう願いのこもったクレイ渾身のスマイル。

もともと整った顔立ちの細マッチョ、つまりはイケメン。少女二人は頬を赤くして無言で頷くのみ。それにクレイはまたスマイルを投げかけ二人を更にドキッとさせ、なんだこれ無限ループか? とエグジムがクレイにジト目を送り始めたあたりで騎士服に身を包んだ青年がギルドへと駆け込んできた。

青年は少し視線を彷徨わせると、クレイに向けて駆け寄り敬礼をした上で彼に小声で報告をしている。

様子を見る限りクレイの部下だろうか。聞き終えたクレイが「先に行くように」と言うと青年は敬礼で応え、早足にギルドを後にした。


「すいません、少しトラブルがあったようで、私は詰所に戻ります。本日はお嬢がお世話になりました」

「大変ですねクレイさん。お疲れ様です」

「いえ、騎士の勤めなので何でもないですよ。それではまた、近いうちにエグジムさんの店には顔出しますね」

「ええ、そうして下さい。ついでに注文も頂けたら嬉しいです」

「ははっ、しっかりしてますね。分かりました。そのときは是非お願いします」


楽しげに笑うクレイは「では」と告げてギルドを後にした。


「なんか仕事ができる人って感じだったね」

「優良物件かな、アタックしてみる?」


騎士といえば高級取りかつ安定した職。おまけに出世すれば今代限りとはいえ貴族位がもらえ、騎士団長ともなると長く勤めれば継承可能な本物の貴族に任ぜられることも不可能ではない。

平民からの立身出世、その代表が騎士なのだ。当然、女性にモテる職業の上位。男性諸君からやっかみを受ける職業でも上位。それが容姿にまで恵まれてるとなると、女に縁のない男性には敵にしか映らず。ギルドの彼方此方から、クレイたちが去った方向へ向けて舌打ちがプレゼントされている。

彼らモテない男性傭兵たちのそんな態度に、女性たちが冷めた目を向けているのも気がつかずに。彼らに幸はあるのか。


閑話休題。


「んで、ボウズ。お前これどうやって持って帰るつもりだ?」


解体所職員が積み上げた素材の山を指差し、小首を傾げるバルロッサ。

皮と爪、骨とあと気が向いたので肉も少々。おおよそ大人で食べて二週間ほどといった分量。品目としては四つだが、エグジム一人で持っていくのは不可能な量になっている。


「なんか台車借りられませんか?」

「別に構わない……と、言いたいところだが、今ちょうど出払っててな。すまん」

「そうですか……なら分けて持って帰るしかないですね」


多少手間だが仕方がないだろう。もしくは家に帰って仕入れ用の台車を持ってくるか。


「ねね、私たち手伝おうか?」

「ん。依頼も終わったし、体力ならまだある」

「いいの!? ありがとう! そうだ、なら夕飯ご馳走するよ」

「「さあ、早く運ぶよ!!」」


むしろエグジムより早く荷物を担ぐ少女たち。駆け出しの零細傭兵には夕飯一つとっても大きな出費なのだ。それがタダ、荷物を運ぶだけで。喜んでやらせて頂きます、と。


「そんな張り切らないで。試しにロックリザード焼くだけだから」

「「やったー! 早くいくよ!!」

「はっはっは。モテモテだなボウズ。お姉さん的には実に楽しい」

「モテてるのは俺じゃなくて肉ですよ」


さっきから息ピッタリの二人は背負った荷物の重さを感じさせない軽やかさで出口へ向かい、バルロッサが現金な二人の様子に笑い声をあげる。

クレイに続き、見た目も美人と美少女な二人を荷物持ちにしたエグジムに、モテない男の視線が突き刺さる。が、肉と聞いた途端に装備を整えて打ち合わせを始めるグループがチラホラと。向かう先は美味しい肉の魔物がいるスポットだろうか。モテたい欲は昼間から酒を飲んでいる男たちの表情を一瞬で引き締める力を持っている。普段からそうしてればモテるかもしれないが、そんな頭は彼らにはない。

傭兵とは刹那的な生き物なのだ。今の幸せに全力投球。それが大多数の生き方だ。


そして話は冒頭に戻る。


「なにこの香り、これが肉なの!?」

「お腹すく、これはヤバイ」


住居一体型店舗「猫のひげ」。男二人暮らしにしては簡素に片付いたリビングに香ばしい香りが漂う。

思ったより上手く焼けてご満悦なエグジム。テーブルでは二人プラス一人がロックリザードのステーキを前に牽制しあっている。

ズバリ、二枚しかないステーキは誰が食べるのか!


「いや親父、それミーファとレミのもんだから。つか店戻れよ」

「ひどっ! あんなに良い匂いさせておいてお預けはないよ!? それに俺ほら、昼も食べてないし!」

「だってほら、朝のこと思い出して……」

「まさか抜く一品がコレとか言わないよな? な!?」

「……」

「おいコラどうして目をそらす! こっち見ようぜほら父さんのこの純粋な瞳を!」

「あ、二人ともそこのオジさんに構わず食べちゃって良いから」

「せめて反応くらいしようぜぇ!?」


ビリーム、もはや涙目である。


「しょうがないな。これじゃ二人も食べにくいだろうし、これでも食べて閉店まで頑張ってくれ」


そうして出したのはロックリザードのステーキ、ではなくステーキ肉整形の時などに出た端切れを集めた焼肉プレート。ニンニクの香りが食欲をそそる。

ついでにパン(昨日の残り物)とサラダ(根菜オンリー)を付け合わせに出すと、待ってましたとばかりにビリームはフォークとナイフを手に取った。


「よっしゃ! 神よ、本日もこの恵みに感謝します!」

「「感謝します!」」


息ピッタリの少女二人も同時に唱和し、揃って肉を一切れパクリ。


「「「うまっ」」」


一口食べれば、もう言葉は不要。野生的でありながら旨味が凝縮したような赤身、少ないながらもコクの強い脂身。その二つが香ばしく焼き上げられたことで調和し言葉を奪うほどの味わいを出している。


「ん、上出来」


キッチンに取り置いておいた自分用のステーキを一口たべ、作ったエグジムも満足げだ。

肉の部分は内臓ほど魔力が濃くないため、エグジムでも何とか調理できたのだが、それでもバロメッサに解体時、適度に魔力抜きをしてもらっていた。印象としては家畜の血抜きのような感じだ。

「魔物の肉は調理すれば美味いから、少し持ってけ。そしてまた狩って納品してくれ」とバロメッサが気を利かせた結果である。


「うおぉ、美味いぞ! これこれ、昔傭兵やってた時もたまにやったけど、魔物の肉は美味いなぁ」

「おじさん魔力抜きできるんですか?」

「ん? いやなに、昔の仲間が器用でな。頼んでたんだよ! ありゃ美味かったな。んでこれも美味い!」

「魔力抜き、私も覚えよう」

「レミがんばれ、応援してる!」

「ミーファもやるの」

「いや私はそのほら、ね」

「私だって解体苦手」

「はっはっはっ! まあ若い時は色々とやってみることだ!」


美味い肉を食って上機嫌なビリームと、魔物の肉の旨さにやられて魔力抜きを覚えようと、正確には相手に覚えさせようと意気込む二人。

女性が加わっただけで普段より賑やかなリビングに、エグジムも自分の皿を持って合流した。四人がけのテーブルはビリームの隣がちょうど空いていたので、気持ち椅子をずらして座る。


「息子よ、何で少し離れる? 」

「暑苦しいんだよ。それ食ったら仕事戻ってよ?」

「実はもう閉めてきたさ。最後の客も終わったところだったからな。学校関係の注文もひと段落したし……ひさびさに飲むべ!」


どうやら仕事は終いにするらしいビリームが足取り軽くキッチンの裏手へと入っていった。ガサゴソと何かを漁る音がする。


「おやじー。エールなら下の木箱の中なー」


聞こえているのかいないのか、探す音に混じって下手くそな鼻歌が聞こえてきた。


「楽しいお父さんだね」


なんだかミーファの微笑ましいものを見るような、優しい目がむず痒くて、エグジムは大きめに切ったステーキを一口で頬張った。


「優しい空気に美味しいご飯。居心地いいわねここ」

「そだね〜。なんか宿に帰るのが余計に嫌になっちゃうよ」

「ん、あの宿より余程いい」

「あれは、安いのだけが取り柄だよね……」


ミーファもレミも浮かない表情。アンダーウッドは交易都市なだけあり、宿屋は豊富にある。その分、良し悪しはピンキリにあるわけだが、もしかして二人はその悪い方に当たったのかもしれない。

少し気になったエグジムは聞いてみることにした。


「むぐっむぐ……んくっ。と、そういや何処の宿使ってるの?」

「えーと、『土の家』ってところ」

「えぇぇぇぇ」


エグジム、思わず顔がひきつる。

『土の家』はエグジムが知る中でも下から数えた方が圧倒的に早い名前だ。評判どうとかではなく、余程金に困らない限り、アンダーウッドを知ってる人は利用しようとは思わない。

ボロい、汚い、無愛想。その辺のスペックは一通り揃えている。加えて治安も悪く、安心して泊まれる環境ではない。

かつて商人が一人で宿泊したところ、翌朝には下着すらなくなり全裸で雑魚寝部屋に転がっていたなんて逸話がある程だ。


「それ、荷物とか大丈夫?」

「あはは、流石にあそこに荷物置きっ放しは危ないって分かるよ」

「私たち、そんなに着替えとか無いし、買えないし。荷物は持ち運んでるバックパックの中身だけ。だから宿屋に荷物はないよ」

「そう思うと戻る必要は無いんだけど……お金がね。そろそろ着替えもほしいし、入浴もしたいし……。あそこ、安いから……」

「ちなみにいくら?」

「女二人だから個室は意地で維持してた。扉は魔法で固められるし。それでも一泊銅貨五枚。破格よね……」


安いと言う割にはレミのため息が深い。


「初日に扉、破られそうになったよね……怖かった」

「ドアロックの魔法を熱心に教えてくれた村のシスターに感謝しないとね」


とんだ無法地帯らしい。ドアを物理的に破らなかったのは犯人にも多少のモラルがあったのか、それとも魔法の守備力が高かったのか。

ドアロックの魔法は戸締り用の魔法で扉を開かなくするだけでなく、扉自体の耐久も上げる効果がある。

場末と言って相応しい宿屋に泊まる連中だ。生活魔法のドアロックでも破ることは出来なかったのかもしれない。

あそこの宿は、例え中で殺しがあっても主人は何もなかった事にする等と噂される程だ。

もし金がないだけで力のある暴漢が泊まっていたら、彼女たちには不幸としか言えない現実が待っていた可能性が高い。

さてどうするか……などと考えるのはエグジムの素直ではない部分か。既に応えは出ているのに。


「一泊銅貨五枚。それでいいならうちの空き部屋使っていいよ」


視線はステーキに向いたまま、食べながらのそっけないものだったが。それは何となく気恥ずかしかった故。

ホクホク顔でワインを抱えて戻ってきたビリームもサムズアップで歓迎している。


「いいね、うちも華やぐな。出来ればたまに売り子手伝ってくれたら嬉しいぜ!」


ミーファとレミはお互いに顔を見合わせ、状況を飲み込むと満面の笑顔で歓声を上げたのだった。

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