助け
「それも考えました。しかし、最近発見されたであれ、貴女は王族です。王族を殺したら、反逆罪。彼女に反逆罪の婚約者という、汚名を着せたくはありません」
「あら。誘拐は反逆罪ではないのですか?」
「危ない橋を渡っているには変わりありませんが、誘拐の方がまだ罪は軽いです」
そういう問題なのだろうか、と疑問が浮かんだが、流すことにした。
「では、わたしをどうするおつもりで?」
「簡単なことです。僕のお願いを叶えてくれたらいいのです」
「具体的には?」
「貴女から、クルト・グレーウェンベルクとの婚約を解消してもらったら、円満に解決できますので、呼びかけてくれたら」
アンジェリカは目を細める。
「この婚約は、半分王命ですよ。でしたら、王様に文句を言ったら早いのでは?」
「僕に面会は許されません。たかが伯爵ですからね」
「それもそうですね」
王の面会を許されるのは、腹心、あるいは公爵か侯爵、もしくは非常事態の時くらいだ。ただの伯爵家の息子がおいそれと面会出来る相手ではないのだ。
「どうですか? 貴女はクルト・グレーウェンベルクに対して、あまり関心がない様子。悪い話ではないと思うのですが」
アンジェリカは目を閉じる。
たしかに最初は、あまり関心がなかった。だが、一緒に過ごす時間が増えるにつれ、少しずつ相手のことが気になり出した。
まだエマと出会った時なら、考えるところだろう。
しかし、クルトが小太郎だと分かっている今は違う。
答えは、彼の目的を聞いた時から、決まっているのだから。
アンジェリカは、にっこりと笑ってみせた。
「断る、と言ったら?」
セリウスの目が見開かれる。セリウスが口を開いたそのとき。
「しゅ、襲撃です!! 表のほうで警備兵と、なんか美少女が暴れています!」
一人の仮面を被った男が、慌ただしく扉を開き、報告してきた。
「襲撃、だと」
セリウスの顔が強張る。
「場所がバレたか」
悲しい顔をした仮面の男が、舌打ちしながら呟いた。
暫定的にかなしんぼうと心の中で呼ぼう、とアンジェリカは決めた。
「依頼主さんよぉ。どうするよ?」
怒った顔の仮面の男が、セリウスに指示を仰ぐ。こちらは、おこりんぼう、と心の中で呼ぶことにした。
かなしんぼうも、セリウスを見上げる。
「こうなった以上、仕方ありませんね。彼女をこちらへ」
おこりんぼうとかなしんぼうが、アンジェリカの腕を掴んで、無理矢理祭壇の上に上がらせると、セリウスに渡された。
「君たちは逃げるか、表にいる者の加勢に行ってくれ」
「あら? 逃げないのですか?」
表の襲撃から然程時間が経っていない。ここに来るのは時間の問題にしても、逃げる時間はあるはずだ。
セリウスはアンジェリカに視線を向け、薄く笑った。
「ここで逃げたとしても無駄です。この計画には、穴があったことを自覚しています。貴女を連れて攫っても、僕が犯人だということがすぐにバレて、追い詰められてしまう。ここで終わらせたほうがいい」
「なるほど」
覚悟はあるようだ。
「わたしを人質にして交渉する、ということですか」
「理解が早いですね。その通りです」
アンジェリカは溜め息を漏らした。
簡単には諦めてくれそうにもない。
おこりんぼうとかなしんぼうが、顔を見合わせて頷く。
「じゃ、俺らは表の奴らに加勢するぜぇ。一人でも多くを助けないとな。お前はどうする?」
入ってきた仮面は、強く頷いて、お頭についていきます、と告げる。
どうやら、おこりんぼうがリーダーらしい。
仮面の男たちが頷き合い、礼拝堂を出ようとした刹那。
仮面の男が、倒れた。
背中には、一本の小さな矢が刺されていた。仮面の男は絶命していないのか、びくびくと動いている。
突然のことに騒然としていると、向こう側から足音が聞こえてきた。一つではない、どうやら二人いるようだ。
足音で仮面の男たちが我に返り、戦闘態勢に入った。腰に携えていたナイフを構え、扉の向こうを見据える。
セリウスも短剣を出し、背後からアンジェリカを拘束すると、短剣をアンジェリカの首に添えた。接してはないが、刃と近い部分がひやりとした。心なしか、刃が震えているように感じた。
二人は、すぐに現れた。クルトとヘルツだ。




