表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/62

犯行

 この所、クルトの様子が変だ。


 アンジェリカは、首を捻らせる。


 あの試作品を試した時から、変な気がする。変になるのはアンジェリカの前だけで、他には変わりない。


 何か言いたげなのは分かるが、内容を憶測するには情報が足りなさすぎる。


 本人にずばっと訊いてもいいが、本人が言うまで待ったほうがいいのだろうか、とアンジェリカは悩んでいた。 



(あの人って、奥手……いいえ、ヘタレかしら? なんかそんな感じがするから、聞き出さないといけないような気がするわ)



 すぐに伝えなくてはいけないことは伝えてくれるのだから、すぐ言わなければならない事柄ではないだろう。


 現に二日前、怪しい男達が街を彷徨いているから、またしばらく外に行かないほうがいい、と伝えてくれた。



(待つのが得策、かしら)



 そういえば、二日前からだ。クルトが変になったのは。と、いうことは怪しい男達関連だろうか。



(でも、歌を歌った後から、変になったから……違うわね)



 その日の朝に一回会っているが、特に変わった様子はなかった。



(歌に関して訊きたいのかしら? あの歌、この世界にないはずだから気になっている、とか)



 そもそも、クルトは歌に興味があるのだろうか。



(これ以上考えてもしょうがないわね)



 アンジェリカは空を仰いだ。今日は曇り空で、雨が降りそうだ。


 屋敷の外には出られないので、庭を散策し、原っぱエリアのほうまで足を運んでいたのだが、そろそろ屋敷の中に戻ったほうがいいだろう。


 その時、後ろの林から物音がした。風の音ではない。

 振り返ると、アルファがいた。



「アルファ君?」



 声を掛けるが、返事がない。顔を強張らせ、目は恐怖に満ちていた。

 ただならぬ様子に、アンジェリカは顔を顰める。



「姉、ちゃん……」



 虫の羽音のような、か弱い声だった。がたがたと怯えていて、アンジェリカは駆け寄ろうとした。


 刹那。茂みから、複数の影が躍り出た。男だ。体付きはいいが、顔は仮面を被っていて分からない。


 反射的に後ずさると、その内の一人がナイフを出し、刃先をアルファの喉元に当てた。



「動くな」



 アルファから息の呑む音が聞こえる。

 アンジェリカは男達を見据えた。



「あらあら。穏やかではありませんね」



 気付いたら、声を出していた。



「貴方たちの望みはなんですか?」


「俺たちと一緒に来てもらおう」


「アルファ君を生かしてくれるのなら」


「約束しよう。お前が大人しく付いてきてくれるのなら、な」



 アルファを一瞥する。


 状況は大体分かった。


 おそらく、抜け道のことがこの男達にバレてしまい、脅迫され案内したのだろう。


 男達の目的が自分であることは違いないが、その先が分からない。

 表向き、王族ということになっているので、転覆しようとしているのか。だとすると、裏には貴族が絡んでいるということになる。



(この男達の目的がどうあれ、やることは変わらないわ)



 男達を見回してから、アンジェリカは笑みを刷った。



「分かりました。大人しく、貴方たちに付いていきます。ちゃんと、アルファ君を生かしてくださいね」


「ああ」



 ナイフを握っていた男が懐から、布を取り出す。それをアルファの口と手足に巻き付け、そのまま茂みに隠した。


 その間、アルファがずっとアンジェリカを見ていた。今にも泣きそうな顔でアンジェリカに、ごめん、と伝えようとしているのが分かった。


 拘束され、目隠しされるまで、アンジェリカは、気にしないで、を伝えようと、それに笑顔で応えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ