夢の描き方
「姉ちゃん、どうしたんだ?」
「夢があって、いいなぁ、と思っていたところです」
「姉ちゃん、夢ねぇの?」
「夢を持っても、しょうがなかったので」
「それって、かんきんされた時のこと? 今は違うじゃん」
アンジェリカは少し困った。
そう言われたらその通りなのだが、どうも切り替えが出来ないでいるのだ。長くそういった人生を歩んできて、今さら自由の幅が広がっても、と思ってしまうのだ。
「そうですけど……アルファ君はどうして、魔法機を造る人になりたいんですか?」
「好きだからさ!」
アンジェリカは、きょとんとした。
「好きだから、ですか? 魔法機のどこが好きなんですか?」
「なんていうか、見た目も好きなんだよな! みんな、ブコツ? っていうけど、おれはそれがいい! あと、動いているのを見るのも好き! すごいんだぜ? 見た目は鉄の塊なのに、ずばばばぁってなって、どごごぉってなって!」
「それはすごいですね」
何を伝えたいのが全く分からないが、とりあえずこの少年にとって、とてもすごい物だということは分かった。
「好きだから、魔法機を造りたいのですか」
「おう! 姉ちゃんも好きなやつを夢にしたら?」
「好きな、もの……」
考えてみると、自分が好きなものはなんだろうか。
読書はどちらかといえば好きだったが、あれは暇潰しのために読んでいた部分が多い。そう考えたら、好きだが大好きというほどでもないということだろう。
「ねぇの? 好きなもん」
「ちょっと、待ってくださいね」
促されて、さらに考えてみる。
テレビもあれは暇潰しのために見ていた。それに、大きな事件が起きると、それ一色になって、面白くなくなるから全く見ない時期もあったりした。そもそも、テレビというものはこの世界に存在していない。テレビが好きだとしても、何をやれというのか。
(あ……)
そういえば、よく歌を歌っていた。音楽番組で聞いた歌も口ずさんでいたが、アンジェリカが好んで歌っていたのは、友達の兄がくれたCDの曲。CDプレーヤーも、友達の兄から貰った物だった。
そのCDに収録された曲は、テレビだとあまり聞かない感じの曲だった。よく歴史や世界遺産系の番組のBGMに使われるような曲。
それは、ジャンル的に言うと、民謡調の曲らしい。あれをよく口ずさんでいた。
歌うことを暇潰しに使ったことはない。あれは、好きで口ずさんでいた。
「そうですね……歌うのが好きですね」
「歌? なら、歌ってみて!」
「そうですねぇ……」
歌はこの世界に来てから歌っていない。あの部屋で歌う気にはなれなかったし、こちらでは勉強と読書に時間を割いていたので、結局歌っていなかった。
ここなら歌っても、近所迷惑にはならない。
「久しぶりに歌うので、音程が外れるかもしれませんが……」
「おぉ!」
深呼吸をする。さて、何を歌おう。
一番好きだった歌を歌おうか。
アンジェリカは、歌を紡ぎ出した。
歌っている時は、頭が空っぽになる。自然と、口が次の言葉を紡ぐ。そうしている時、アンジェリカは自然と一つになっていくような気がした。
無邪気のようで、艶やかな響きを持つ、高く澄んだ歌声が、空に吸い込まれていく。
歌い終えて、アルファを見ると、アルファはぽかんと、口を開けていた。久しぶりだから音程外れすぎたのか、と懸念したがそれは杞憂に終わった。
「すっげぇ……」
アルファから感嘆した声が出る。
「姉ちゃんの歌、すっげぇな」
「すごいですか?」
「なんていうか、こう、サァァってなった」
「砂ですか?」
なんて伝えたいのか分からなくて、首を傾げていると、拍手が聞こえてきた。




