手紙
エマ・トリューゼから手紙が来たのは、それから二日後の朝だった。
宛先は、アンジェリカ。一度お会いしませんか、とのことだった。
「やはり、わたしに接触して来ましたか」
手紙の内容を確認して、アンジェリカは溜め息をつく。
接触してくるだろうとは思っていたが、いざとなると気が重くなっていく。
「それで、日程は?」
「そちらの都合が良い日に、だそうです」
アナが目を瞠る。
「初めて手紙が来たと思えば、初めてこっちの都合を考えている、とは」
「さすがに、立場が悪いと分かっているのでしょうね」
「どうしますぅ? トリューゼ令嬢とお会いしますかぁ?」
アンジェリカは嘆息した。
「面倒くさいですが、早く片付けないといけませんね」
「では、お会いになる、と」
「手紙の用意をしてきますねぇ」
「いえ、その必要はありません」
アンジェリカの言葉に、二人は怪訝そうに首を傾げた。
「ですが、日程の確認をしないと」
「彼女がどこに泊まっているか、分かってはいるのでしょう?」
悪戯っぽい笑みを刷るアンジェリカを見て、二人は唖然とする。
どうやら、アンジェリカが何を考えているか分かったらしい。
「アンジェリカ様、まさか……今すぐ向かわれるのですか?」
アナから絞り出された言葉に、アンジェリカは頷く。
「とっとと済ませたいですから」
「いや、その気持ちはよく分かりますが、しかし」
「つまりぃ、やり返そうってことですかぁ? あたし、賛成です!」
「ベルベット!」
アナが叱咤する。だが、ベルベットは怯まず、それどころかぶぅぶぅと反論してきた。
「いいじゃないですかぁ。今まで突撃訪問されてばっかりでしたしぃ。たまには突撃訪問される身にもなれっていう話ですよぉ」
「だからといって、こちらもそうしたら、示しがつかないでしょう?」
「一回だけくらいなら、可愛いものですよぉ。あっちは十回はしましたしぃ」
「しかし」
「アナ、なにもやり返しだけじゃ目的ではないのですよ?」
アナはアンジェリカを見る。
「と、いうと?」
「もし、あちらが何かするつもりであれば、準備は必要でしょう? 何日前からこちらにいらっしゃるけれど、準備はこっちがあちらに行く時間が分かってしまえば、あちらの準備が完璧になると思うんです」
「突然やってきたら、準備が疎かになって、なにかをするつもりであれば、阻むことができる、と?」
アンジェリカは笑みを刷りながら、頷いた。
「クルト曰く、小細工する人物ではないようですが、令嬢自身がどうであれ、周りの人は令嬢の意思を尊重する、という証拠にはなりません。ましてや、わたしは突然現れた恋敵。恋は人を変えるとはいいますし、念には念を、ということで」
アナはじっとアンジェリカを見つめる。真意を探るような視線だったが、アンジェリカは少し首を傾げながら、微笑んだ。
しばらくして、アナは観念した、というばかりに盛大な溜め息を吐いた。
「分かりました……出掛ける準備をしましょう」
「そうこなくちゃ! では、クルト様に知らせますねぇ」
ベルベットがタタタッと駆けて、部屋を出て行く。その足取りは軽やかで、小さな鼻歌が聞こえたような気がした。
「ベルベットは、やる気満々ですね」
「血の気が多いし、泥沼が好きなんですよ」
頭が痛い、と言わんばかりにアナがこめかみを押さえる。
泥沼、とは再放送のほうではない昼間のドラマで見たような、あの展開のほうのことだろうか、とアンジェリカは考える。
不倫、三角関係、愛憎劇など、そういった言葉を知ったのは、主にドラマからだった。ベルベットが望んでいるのは、三角関係のほうだろうか。
「では、服を決めましょう」
「はい。お願いします」




