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夢見る少年

「どうしたのでしょうね」


「大方、子供が舗装中の道路に、無断で入ったんだろう」


「舗装ですか」


「この道は舗装されているが、この街は石畳の道が多い。石畳の道は凸凹していて、歩きづらいんだ」


「それで、舗装しているんですね」


「将来的には、街の中でも馬車が通れるようにしたいんだが、それだと立ち退きが問題になってしまうし、坂が多いから馬に負担が掛かってしまう」


「ああ……」



 馬車は車のように、ブレーキがない。止まる時、馬の馬力に頼ってしまうことになる。馬が休憩できる所といえば、ここに来るときに通った道くらいだ。


 後に聞いたのだが、あの道の脇には、馬車も置けて、厩舎がある、宿があるらしい。アンジェリカを送ってくれた人達と馬は、そこで一泊して、翌日に帰っていったという。


 馬車が通れるのは、あの道しかないというのは、貴族にとって不便ではあるらしい。観光するのは主に金持ちなので、馬車持ちが多いそうだ。普通の貴族にとっても、この街の坂道はキツいらしく、出来れば楽したいようだ。


 視線を逸らして、坂の上を見ると、ここから大分離れた家と家の隙間の小道から、赤茶色の髪をした少年が出てきた。背丈からして、八歳くらいだろうか。少し小汚い。


 少年がこちらを向くと、大声を出した。



「あ、クルト様ー!」



 少年が走ってくる。クルトは呆れた様子で溜め息をついた。坂道だから転ばないだろうか、と眺めていたが、杞憂に終わった。少年は転ばず、自分たちの傍に来ると、元気一杯に挨拶をした。



「おはよう! クルト様!」


「おはよう。さっきの騒ぎは、お前か」


「だって、新しい魔法機を使っているんだぜ!? 見たいに決まっているじゃんか!」



 目をキラキラしながら、興奮気味に語る少年。どうやら、クルトの知り合いらしい。



「クルト、お友達ですか?」


「なんだよ、お前! クルト様を呼び捨てにして!」



 少年がアンジェリカに吠える。



「アルファ、口を慎んでくれ。この人は、俺の婚約者だ」



 クルトの言葉に、アルファと呼ばれた少年が、ぎょっと目を剥いた。



「え、こんやくしゃ!? コイツが!?」


「コイツ、じゃない。この人だ。言葉遣いにも、気を付けたほうがいいぞ」


「ふん! おれが認めたヤツなら、考えなくもない!」


「なに上から目線で、言っているんだ。この人は、この国の姫でもあるんだ」


「姫がなんだろうが、関係ないやい! クルト様のこんやくしゃにふさわしくなかったら、ぜったいに考えないかんな!」


「お前な……」



 クルトが心底呆れた風に、盛大に溜め息をつく。

 その様子を見て、アンジェリカは思わず小さく笑った。



「随分と慕われていますね」


「当たり前だろ! なにせ、クルト様は魔法機のげーあんを作った人なんだぜ!」


「げーあん……原案ですか?」



 アルファは半眼になって、アンジェリカを見据えた。



「なんだよ、そんなことも知らないのかよ」


「原案じゃなくて、提案しただけなんだが……」


「とにかく! おれは魔法機を作っている人を、ソンケーしているんだ! お前も、おれにソンケーされたかったら、魔法機職人になれよな!」


「あらあら」



 アンジェリカは、口元に手を当てて、ふふふ、と笑う。

 その笑い方が気に食わないのか、アルファは顰めっ面になった。



「どこだぁ!! クソガキィ!!」



 先程の怒鳴り声と、同じ怒鳴り声が聞こえてきた。



「げっ! やばっ」


「お前、どんな悪さしたんだ」


「悪さなんかしてないやい! それじゃ、クルト様、さようなら! あ、母ちゃんが新作作ったから、ぜひ食べていってくれよな!」



 アルファが素早く、坂を下りていく。脱兎の如く、とはああいうことだろうな、と思いながら、アンジェリカはその姿を見送った。



「元気な子ですね」


「ただ生意気なだけだ」



 クルトは疲れた様子で、一蹴した。



「新作って言っていましたが、あの子の実家はなにをしているんですか?」


「甘味処だ」


「あらあら。宣伝するなんて、ちゃっかりしてますね」


「そうだな……せっかくだから、寄ってみるか?」


「いいんですか?」


「昼時だからな」


「では、ご案内、お願いします」

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