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二人の侍女

 それから数日後。クルトと出掛ける日がやってきた。

 その日は、朝から騒がしかった。



「やっぱり、この服ではなくて?」


「いやいや! この服のほうがいいと思います!」



 主に、この二人が。


 この二人は、アンジェリカのお付きの侍女となった女性だ。


 一人は、アナ・マイル。二十五歳で、この屋敷に勤めて十五年になる、ベテランだ。凜としていて、落ち着いた赤い色の髪が、とても艶があって綺麗だ。しっかり者で、気遣い上手だ。


 もう一人は、ベルベット・ソール。アンジェリカと同じ年だ。ここに勤めて三年になるらしい。か弱そうな美少女で、水色の髪と翡翠色の瞳が印象的だ。か弱いのは見た目だけで、中身はそうではない。今も大先輩のアンリに強く意見を述べている。


 赤色といい水色といい、元いた世界ではありえない髪の色だ。異世界はこうも違うのか、と思いながら、アンジェリカは二人を眺める。


 二人は、アンジェリカが着る服を選んでくれているのだが、何故か白熱な戦いになっていて、当のアンジェリカが置いてきぼりになっている状態だった。



(なんでこうも、白熱するのかしら……)



 アンジェリカは、こっそり溜め息をつく。


 この世界の女性のファッションセンスが分からないので、二人に任せたら、これである。


 ちなみに二人は、アンジェリカが聖女で異世界から来た、ということを知らない。それでも、表向きの身分と事情は知っているので、流行が全く分からない、と言ってもすんなりと納得してくれた。


 部屋着でも構いはしないのだが、どうやら外出となると、部屋着はいけないらしい。言ったら怒られた。



(そういえば、一時的退院する時、パジャマで帰ることはなかったわね……退院するたびに、おばさんが服を選んでくれていたっけ。一回しか着れないのに、毎回可愛い服を用意してくれていたな)



 と、昔のことを回想していると、声を掛けられた。



「アンジェリカ様!」


「アンジェリカ様は、どちらのほうがよろしいですか?」



 アンジェリカは、二人が選んだ服を交互に見る。

 アナが選んだのは、水色と白を基調としたワンピースで、ベルベットは白を基調にしたワンピースだ。



「では……こっちで」



 アナが選んだほうを指すと、ベルベットが肩を落とした。



「ううう……悔しい~」


「ベルベットが選んでくれた服も、とても可愛いと思います。次の機会があれば、これを着ます」


「でもでも! 一回目のデートは、ぜひともこれを選んでほしかったですぅ」


「デート?」



 アンジェリカは首を傾げる。


 デートとは、恋人同士が出掛ける時に出る単語である。クルトとは、恋人同士ではないし、今回出掛けるのは、教養がちゃんと身に付いているか確認するためだ。はたして、デートと呼べるのだろうか。



「デート、なのかしら?」


「だって、婚約者のクルト様とお二人でお出掛けって、これってつまり、デートではありませんかぁ! デートですよ! 間違いなく、デートです!」


「ベルベット、落ち着きなさい」



 アナが、興奮しているベルベットを窘める。


 侍女ではあるが、どうしてこうも他人のデートで興奮するのか。アンジェリカには、全くもって理解不能だ。



「さて、次は髪型ですね。どのような髪型が良いですか?」


「別にこのままでも良いですよ」


「それではいけませんわ!」



 両手を腰に付けて、アナが力説する。



「ベルベットではありませんが、アンジェリカ様にとっては、初めてのお出掛けです。アンジェリカ様はお人形のように可愛いらしいですから、領民たちに自慢したいのです」


「アナは、大袈裟ですね」



 アンジェリカがくすくす笑うと、アナは微笑した。



「大袈裟ではございませんよ。だから、着飾るのが楽しいのです」


「わたし、着せ替え人形みたいですね」


「アンジェリカ様は、着せ替え人形よりも、着せ替えるの楽しいですよぉ。時間が押しているので、さっさと着替えましょう! あ! どうせなら、髪型は私がやりたいです!」


「許可しましょう」



 アナが許可を出すんだ、と思いながら、アンジェリカは着替え始めた。

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