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 夕餉はいつ頃になるのか分からないが、とりあえず空が赤くなったら部屋に戻ろう、ということで、庭に出てみた。


 ゆっくりと歩いてみる。花畑の中を歩く、というのは、こういうことなのか、と晴れやかな気持ちになる。


 屈んで、花をじっくりと見る。形や色は違うものの、無造作に生えているのではなく、ちゃんと計算して植えられていることが、よく分かる。病院では、見たことがない花がたくさんある。



(まぁ、病院に庭師だなんていなかったから、手入れがあまりいらない花しかなかったわね)



 病院にも中庭があった。主に患者が歩くための道で、少しでも楽しく歩いてもらいたい、と看護師たちが花を植えて、育てていた。仕事の合間なので、手入れが簡単なものしか植えられなかった。



(あれって、上からの命令だったのかしら。でも、中には、煩くて性格の悪い患者の世話をしなくてもいいから、喜々としてやっていた人もいたでしょうね)



 寿命が近くて、自暴自棄になった人もいたため、怒鳴り声もよく聞こえてきたものだ。



(この花って、この世界の固有種かしら? 花の図鑑は持っていたけど、あまり覚えていないわ)



 しばらく花を観察していると、見覚えのある形をした花を見つけた。



(秋桜によく似ているわ……)



 ピンク色のそれは、元の世界にあった秋桜によく似ていた。


 病院の中庭で見たことはない。秋桜は種を撒いたら、放っておいても生えて手入れはいらない。だが、繁殖力が強くて狭い花壇の中では植えられないのだと、看護師が言っていた。ミントよりかマシだけど、と看護師が遠い目をしながら笑っていたのを覚えている。


 だが、アンジェリカは実物を見たことがあった。



『見てみたいって言っていたから、道端で咲いていたのを、取ってきたんだ』



 屈託ない笑顔を浮かべながら、何輪かの秋桜をくれた、男の子。

 ありがとう、とお礼を言うと、嬉しそうにしていた。

 あの子は今、どうしているのだろうか。



「……馬鹿みたい」



 思い出して、どうなる。会う術どころか、知る術すらないというのに。


 その時、ガサガサと花が不自然に揺れた。

 何かいるのかしら、と花の間をじっと見てみると、一匹の動物が姿を現した。



「あら」



 その動物は、リスにとてもよく似ていた。違うのは耳が大きくて、耳たぶがクルクルしているくらいだろうか。大きさはリスと比べられない。実物を見たことがないからだ。両手で乗せられるほどの大きさだ。少しばかり太っているような気もする。


 リス(仮)は、じっとアンジェリカを見上げる。人に慣れているのか、警戒はされていないようだ。



「どこから来たのかしら……」



 リス(仮)が首を傾げる。鼻をクンクンと嗅ぎながら、ゆっくりとアンジェリカに近寄ってくる。


 なんとなく手を差し伸べると、リス(仮)はアンジェリカの手に乗り、そのまま肩まで登ってきた。



「あらあら」



 肩に登ってきたリス(仮)は、アンジェリカの両肩を忙しく行き来して、左肩に落ち着く。



「人に飼われている子なのかしら」



 そういえば、動物を触れ合うのは、一度だけ病院に来た移動動物園以来だ。



(たしか、大人しいシーズーだったかしら。リスはいなかったはず)



 リス(仮)に触ろうとしたら、横から声を掛けられた。


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