代償
「おいおい、何だよあれ」
爆発音がした方向を見ると観覧車を支えている部分が爆発して、支えがなくなった観覧車がどんどんとこちらに近づいてくる。
「ちっ!しかもこっちに向かってきやがる。破壊するのは可能だがそれだと周りに破片が・・・・・」
現段階でこの遊園地内にいる来客の人数は一万人を超えている。いくら聖也の力が上がってスピードが速くなったといっても全員を非難することはできない。そして破壊したとしてもその破片が来客を傷つける。
「いや・・・・壊すにしても破片も残さずいっそのこと消してしまえばこの状況を回避できる!」
地面を思い切り蹴り上げて聖也は観覧車に向かって行った。自分ができるできないはこの際関係なく、やらなくてはならない大切な人たちを守るためにも一般の人に害を与えないためにも。
「我、力を求める、我が命令に従い、この身に宿れ『デスガイス』っ!」
観覧車に向かっている途中で今聖也が使える中で一番の強化魔法を使い、右腕に力を溜める。聖也の体の中で溢れるように出て来る力がどんどんと右腕集まっていく。そして右腕の違和感に聖也は気づく。
「なるほど代償は右腕っててっきり右腕がなくなると思ってたぜ」
聖也は今まで戦いや他の事で見ることがなかった右腕を見てみると、そこには悍ましい腕があった。表面はゴツゴツとしていて血管のようなものがドクンドクンと脈を打ちながら赤く光っているそして相変わらずの紋章。一目見るだけで他の種族とはいやこの世に存在しないものの腕だとすぐにわかる。
『今回の代償は腕を悪魔にすることだ、まあ腕をなくしても良かったのだがこの腕は我からの気遣いということにしてくれ。それに主達人の腕よりもよっぽど使いやすいぞ』
「そりゃあ気遣いをどうもありがとさん!腕がなくなっちゃ不便だからな!」
ギゼルの気遣いに聖也は本心から礼を言った。この右腕はもう常識の範疇を超えたもの、その証拠に今まで聖也が力を籠めすぎて自分の腕を壊してしまうかもしれないと右腕に込める力をコントロールしていたが、ギゼルから貰ったこの腕はいくら力を込めても壊れる気がしない。力を溜めていくと紋章の光がさらに力強く輝きどんどんと広がっていく。
聖也が観覧車に向かって行く途中で何人も道に倒れている人を見た。みんなヴィーネに操られていたのでそのヴィーネが意識を失ったことによって力がなくなりみんな糸が切れた人形のように倒れていった。そんな倒れた人を見ながら聖也は一人の人物を捜していた。観覧車に向かって走っているのはその人物を捜しているからである。
「クソっ!この人数だとネルを探し出すのは難しいか!」
そうヴィーネに襲われた時に聖也の目の前に現れたのはシャーロット、サテラ、エミリーだけだった。一緒にいたはずのネルがいなかったのだ。ヴィーネことだから油断させて奇襲としてネルを使うつもりなのだと聖也はずっと警戒していたが結局ネルの姿は見えなかった。ネルはどうしたと聞こうと思っていたがそれよりも聖也の中で怒りの方が勝ってしまい聞くことはできなかった。
「あの時きとけばよかった!」
『主よ、今更過去を後悔してももう遅いぞ』
「わかってる!だがあいつは一応俺のつれだ、もしも死んだら俺の責任だ!」
『なるほど、主はまた一つ強くなったのだな』
「お前は喋ってないでネルの気配でも感じ取れないのか!」
『まあそう怒らなくてもよい、その娘ならもうすぐ会えるぞ』
「なにっ!」
ギゼルの言葉を聞いて聖也は周りをよく見てみると、目的の人物は持っていたバックの中身をバラバラに落としながら倒れていた。
「ネルっ!『メテオソニック』っ!」
すぐにネルのところへ移動してネルの状態を見た。
「おいおい、あの女やってくれるじゃねえーか」
ネルの状態は酷かった、顔色は真っ青でとてつもない汗をかき呼吸も荒い。
『毒であるな』
「ああ、しかももうかなり体に回ってやがる」
このままではネルは死んでしまう。早く適切な治療をしなければ手遅れになる、しかしネルが倒れていたのはちょうど観覧車が通る道だった。観覧車はもう目の前まで迫っている治療している暇はない。聖也は判断する。
「ここで食い止める!ギゼル俺の体が持てる限界まで力を寄越せ!」
『ふむ、本当ならば腕一本では足りないところだが、主の成長は我にとっても喜ばしいことだからな特別だ受け取とるがよい』
「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
上がってきた紋章がついに右腕全部を飲み込み顔にまで侵食する。右腕以外の体から悲鳴が聞こえる。この膨大な力に脳が焼き切れそうなほどの回転をして心臓がいつもより速く強く動き、その圧力に負けて目から鼻から血を出し満身創痍になる。
ついに観覧車が近くに来るあと数秒で聖也を巻き込みネルを巻き込みシャーロットもサテラもエミリーも幸雨もすべてを巻き込む。
「そんなことさせるかーー!!ヒューマンをなめるなよ!!!『ストライクバーン』っ!!!!!!!!」
膨大な力を溜めこんだ聖也の右腕から一気に力が放出され、そのあまりのエネルギー量に辺りは光に包まれた。
「はぁはぁどうだ」
光が開けると目の前には何もなかった、自分の背丈の何倍も何十倍もあった観覧車が見事塵一つもなく消えた。
「おっと・・・・」
聖也は力を一気に放出したおかげで足が震えだし、目の前がぼやけ倒れそうになるがまだやることが残っているためグッと倒れるのを我慢た。
「ここで倒れるのはダメだせめてネルを助けてから」
そう言って聖也はふらふらとネルのそばまで移動した。
「まずい、さっきよりも毒が回ってる。今から病院に連れて行っても間に合わない、おい、ギゼルなにか方法はないか!」
『はぁ、力を貸した後は今度は知恵か?』
「代償は後でいくらでも払ってやるから!早くしろ!」
『わかった、わかったって、それでは我の力を使って毒を浄化するため主にはこの娘に触れててもらいたい』
「わかった」
ギゼルの言うことを聞いて、聖也はネルの手を握った。
『ん?ああ、すまんすまん、触れろと言ったが手ではない』
「なに?手じゃないならどこだ頭か胸か足か一体どこだ」
『いやいや、そもそも触れると表現するのがおかしいかな』
「早くしやがれ!一刻を争うんだぞ!」
『それではこの娘と接吻をしろ』
ギゼルの意外な一言に聖也は一瞬固まった。
「ギゼル、ふざけてたらこの腕ごとお前を切り落とすぞ」
『ふざけてなどおらぬ、我の力を流し込むには唾液から渡すのが一番手っ取り早いのだ』
「だからって他に方法はないのかよ!」
『主よ今はそんなことを言っている暇はないはず、それともその娘が死ぬのを見ているのか』
「くっ!・・・・・・・・・・わかった」
聖也は覚悟を決めてネルを抱え起こす。
「その代わり絶対に治せ!じゃないと本気でお前を殺すぞ!」
『わかっている、では始めよ』
「・・・・・・」
ネルの唇に聖也の唇が重なる。そしてさらにそこから聖也はネルに自分の唾液を流し込む。長くとてつもなく長く感じた。聖也の体からネルへ力が渡っていくのが感覚でわかった。
『もういいぞ、娘の毒は浄化した』
「ぷはぁ!はぁ、はぁ」
ギゼルの言葉と同時に聖也はすぐにネルから唇を離した。そして肝心のネルの方を見てみると、真っ青だった顔色はすっかり肌色に戻り、荒かった呼吸もしかっりと整っていた。
「はぁ~~、これでひとまずは一段落だ。たく、散々な一日だったぜ」
一段落した聖也をまるで祝福しているように、さっきまであった雲が晴れていきその隙間から差し込む太陽の光が聖也を照らしていた。




