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底辺種族の逆転  作者: ナオフミ
三章黒鉄聖也暗殺編
44/49

激怒

 

「なんでお前たちまで・・・・」


 目の前の光景に聖也は理解できなかった、いや、理解したくはなかった。


「ふふふふ、聖也君のその顔が見たかったのですよ」


 女性は遠くから聖也のことを見物しながら、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「さあさあ、これからさらに面白くなりますよ!さあやってしまいなさい私のパペット(人形)たち」


 女性の命令でシャーロットたちはいっせいに攻撃を再開した。


「我シャーロット命ずる、目の前の敵を灰とかせ、『ヘルフレア』」

「っ!」


 シャーロットが放った魔法は聖也が生徒会戦前に訓練していた時と同じものだ、あの時は『圧縮』による壁で防ぐことができたが目の前まで迫ってきている炎の塊はそのあまりの大きさに守ることができない。しかもあの時は一個だけだったが今は目で数えることができないほどの炎の塊が聖也を襲う。


「うおぉぉ!『メテオソニック』っ!」


 普通の回避では避けたところに待ち伏せされて終わってしまう、だから聖也は体から聞こえる悲鳴を無視して炎の塊一つ一つを『メテオソニック』で避けていく。

 体中の筋肉繊維がブチブチと音を立てて切れていくのが分かる、一般の人ならあまりの激痛に立っていら

 れなくなるところだがそれでも聖也は立って居る。聖也が抱えているたった一つの聖也の心の支え。


「幸雨!大丈夫か!」

「パパ、幸雨は大丈夫だよ」


 聖也に喋っている暇はない、だが不安でしょうがなかったもしも今自分の腕の中の大切なものまであいつに奪われていたらと・・・。


「レオベルト流剣術『剛断・獄』」

「っ!このっ!」


 聖也が喋っている一瞬のすきにエミリーは聖也の背後から攻撃を仕掛けてきた。しかもその技は生徒会戦で魔剣に体を乗っ取られていた時に出していた技。

 その威力を聖也はよく知っている。ただ剣を頭の上から振り下ろしているようにしか見えないがその一振りはあらゆるものを切る。生徒会戦の時は『圧縮』で防ぐことができたが、聖也の予想だとシャーロット同様威力は確実に上がっている。だからむやみに腕などで防げば切り飛ばされるのは間違いにだろう。

 なので聖也は攻撃することにした、『メテオソニック』でついていた体の反動を利用して今の自分の体制で一番攻撃力がある攻撃、両腕はふさがっている残されたのは足のみ。

 反動のついた体を左足だけで支え、勢いに体を任せコマのように回転しながら右足で攻撃した。剣の腹の部分を。

 確かにエミリーのこの一振りはとてつもない威力だがこの技の弱点は一直線にしか来ないこと、だから攻撃を剣の腹に当てて軌道をずらしてやれば、エミリーの剣は聖也の左側を通り過ぎた。

 しかしそれで安心はできないエミリーの攻撃は終わったがまだシャーロットの魔法は続いている、これも回避し開ければ安心したとは言えない。


「やむを得ない!」


 エミリーの攻撃を避けてもまだまだ迫ってくる無数の炎の塊に聖也は一つの決断をした。

 聖也は炎の塊を避けるのをやめてその場に止まった、そして右手の甲に紋章を出し力を貯めた。


「吹き飛びやがれ!『メテオストライク』っ!」


 聖也は『メテオストライク』を真上に放った。すると聖也を中心としてもの凄い上昇気流が発生して迫ってきた炎の塊は聖也が作った上昇気流に乗り上空に消えていった。聖也の作った上昇気流の勢いは凄まじく周りにいた一般人も吹き飛ばした。

 いくら攻撃されていても一般人には攻撃はしないと思っていたが、これ以上避け続ければ自分の体が壊れるのが分かった聖也は攻撃してしまった一般人に心で謝りシャーロットから距離を取った。


『グサッ』


「な・・・に・・・?」


 聖也は体の脇腹辺りが熱くなるのを感じた。そしてその熱さがどんどん痛みに変わっていった。


「ごはっ!」


 口から血を吐いて、聖也は痛みのある個所を見た。右の脇腹に深々と突き刺さるナイフそのナイフを手に持つサテラ。全く気付かなかった、足音も気配も殺気すらも何も感じなかった。

 足に力が入らなくなっていく、聖也はその場に両膝をついた。ナイフを刺していたサテラはナイフを抜いて後ろに下がった。


「ついに聖也君にヒット!いや~それにしても凄いね、あれだけの攻撃をここまで避けるなんて!でも鬼ごっこももうおしまい、さあフィナーレにしよう」


 女性が何を言っているかよくわからなかった、ナイフで攻撃されたが動けなくなるほどではなかった。それよりも信じていた人に攻撃されたのが聖也にとって何よりもダメージだった。

 訓練で本気で戦うことはあるが、傷つけそうになったときには攻撃をやめていた。しかし今は何の躊躇もなく攻撃された。あの女性に操られて自分を攻撃してくるのは知っていた、攻撃を受けても避け続けると思っていた。だがそんなのは自己暗示に過ぎなかった。


 かすれる視界で見えるのはニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべる女性と目に光がなくなっているシャーロット、サテラ、エミリー。そして聖也に涙目でギュッと服を掴み寄り添っている幸雨。


「ねえねえそういえば大切なことを言い忘れてたから今言うね。私の名前はヴィーネ、これからあなたを殺す女よろしく」


 ヴィーネは気持ちの悪い笑みを浮かべながら、自己紹介をした。


「さてさて私の紹介も終わったし、とっとと殺しちゃうか。っとその前に聖也君にはもっと絶望してもらわなくちゃ。わかってんでしょ聖也君今から私がすること」


 何となくだが聖也はわかっていた、しかし考えないようにしていた。それがもしも起きてしまったら自分がどうなってしまうかわからなかったから。


「無視かい?酷いね聖也君、今から私のパペット(人形)にあんたの娘も加えてあげようと思ってるのに」

「っ!」


 背筋が凍った自分が忘れたくてしょうがなかったことを、自分が予想して最も嫌な展開をこのヴィーネはやろうとしているのだから。


「やめろ・・・」

「えっ?何言っちゃってんの?やめるわけないじゃん?私はね、聖也君の絶望に染まった顔が見たいんだよ!」

「そんなことをしてみろ、殺すぞ」

「ええ、ええいいですよ。だけど聖也君にこの人たちを殺す勇気があればですけど?」

「・・・・」


 ヴィーネはシャーロットたちの方に手を置く。聖也はわかっているもしもヴィーネに攻撃したとしてもシャーロットたちが前に出てきてヴィーネを守ると。


「聖也君と話しているのは楽しいけど私にも予定があるから、とっとと終わらせるよ」

「おい待てよ・・・」

「『マインド・オブ・・・・」

「待てって言ってんだろうが!」

「パレード』」

「あっ・・・」


 聖也の声はよく響いた、しかしヴィーネはそんな聖也の姿を面白がりながら魔法を唱えた。聖也の服をギュッと掴んでいた幸雨が声を漏らすと、ガクッと手を下ろした。


「おい幸雨?」

「・・・・」

「無事だよな?」

「・・・・」


 聖也は幸雨の両肩を掴んで声をかけるが返事はない。


「無駄無駄その子はもう立派な私のパペット(人形)だもの」

「嘘だ!おい幸雨!返事をしてくれ」

「本当よ、目に光がなくなってるでしょ?それが証拠よ」

「幸雨!」

「いい加減にしないと私もさすがに引くわ。現実を見なさい、さあ私のところへ来なさい」


 ヴィーネが命令すると幸雨は聖也の腕をほどこうと動いた。


「幸雨!騙されるな!行っちゃだめだ!」

「・・・・・」


 聖也の声は届かない、ヴィーネの方へ行こうとする幸雨を必死に止める。止めるだけだ。しかし止めていなければまた()()()()()。あの時と一緒。


「うう~ん、もう面倒だな~待ってるのも疲れちゃった。ほらちゃっちゃと振りほどいてこっちに来な」

「幸雨!」


『パンっ!』


「こ・・・あ・・・?」

「・・・・」


 見たくなかった、知りたくなかった、理解したくなかった。幸雨が聖也の腕を払ったのだ。


「おい幸雨!」

「・・・・・・・・・・・()()

「っ!・・・・・・・・」


 聖也は必死にもう一度幸雨を掴もうとするが、幸雨が言ったその一言は今の聖也にとってどんな攻撃よりも痛く苦しく辛く・・・・。

 幸雨がどんどん遠ざかっていく、聖也の周りにはまた誰もいなくなる。


「そう!その顔を私は見たかった!いい顔だよ聖也君、とても私好み。うふふふ」


 視界が真っ暗になった。頭の中で昔の記憶がよみがえる。周りは火の海、そして誰もいない。何もできなかった自分、ただ見ることしかできなかった自分、弱かった自分、情けなかった自分、悔しかった自分、復讐を誓った自分、力を求めた自分。

 聖也の心は真っ黒だった、また何もかも失った。また大切なものを守れなかった。また・・・・。


『これでよいのか・・・・』


 頭の中で声が響く。


『こんな出来事を認めるのか・・・聖也よ』

「・・・・・ギゼル」

『お前はあの時我に言ったではないか』

「・・・・あの時?」


 聖也はギゼルと会った時を思い出す。


『貴様はなぜ力を求める』

『俺は俺の全てを奪った奴に復讐する。そして今度は大切なものを守れるように、その為だったら命でも何でもくれてやる!』


『今度こそ守るのだろ』

「ああ・・・俺はあいつらを守るあんな奴のところへは行かせない」

『ならば力を貸そう、代価は主の腕でどうだ?』

「そんなのお安い御用だ」

『契約成立だ』


 その言葉を最後に聖也は自分の体の中を凄まじい力があふれだしてくる感覚がした。

 これで守ってやれる、これで一人じゃなくなる。

 そしてもう一つの感情も生まれる。

『俺から大切なものを奪っていく奴は許さない、殺してやる。絶対に・・・・殺してやる!』


「っ!なんなんですか!この力!」


 ヴィーネはいきなり背筋が凍るような威圧感に声を上げた。

 力が感じられる方を見てみるとそこには禍々しい黒いオーラを放つ聖也が立って居た。


「えっ!聖也君!うっそ、さっきとは全然雰囲気が・・・てか本当に聖也君?」


 真っ黒だった視界が開けた、目の前では目に光を失った自分の大切なもの。シャーロット、サテラ、エミリー、そして幸雨。

 その前でこちらを見て笑っている一人の女性。


『こいつか』


 聖也の心の中の感情が急速に膨れ上がる。


『こいつが俺の大切なものを・・・』


 心がその感情で塗りつぶされる。


「お前は・・・・・」

「おお聖也君が喋った、はいはいなんて?」

「お前は絶対に許さねえぞーー‼‼‼‼」


 聖也の心を塗りつぶした感情、怒りのままに聖也は体を動かし始めた。


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