一歩
「ああ~怠い」
目の前に山積みにされた書類を見て黒鉄聖也は愚痴った。
「聖也っ!さぼってないで仕事しなさい、あんたが言い出したことでしょうが!」
「主人あとは私がやるから、主人は休んでいて」
「こらっエミリー!あんたは自分の仕事だけしてればいいの!」
「・・・・」
「そうですよエミリー先輩、これは黒鉄君がやることです。だから大人しく自分の仕事だけをしていてください」
「わかった」
「ちょっと!なんであたしの言葉では返事しないのにサテラのは返事するのよ!」
「・・・・」
「だから無視するなー!」
目の前で行われている女子たちの話しを聞き流しながら聖也は目の前にある書類を処理する作業を再開したのだった。
学校の放課後聖也はいつも通りに帰る準備を早く終わらせ下校しようとしたが、校長先生から呼び出しをくらったので渋々聖也は校長室に向かった。
別に聞き流して帰ってもいいのだが、もしもその時に起こる身の危険を考えれば仕方がないだろう。
校長室前につきノックして入る。
「おや、随分と早かったですね」
「そりゃ遅く来ると自分の身がどうなるのか・・・・」
「ふふふ賢い判断です」
「それで放課後なんかに俺を呼び出してどうしたんだよ」
聖也は校長が呼んだ要求を早く聞いて、できるなら早くそれらを終わらせて少しでも強くなるために訓練をしたかったのだが。言われた要求は聖也が想像するよりも苛酷なことだった。
「それじゃあ黒鉄君、君の願いを叶えることによって我が学園の奴隷制度はなくなりました」
「おうそれがどうした」
「それに伴って、今まで奴隷に落ちていた元生徒たちをどうするか君に決めてもらおうと思います」
「・・・・・」
「おや?伝わらなかったですか。要するに奴隷になっていた元うちの学園の生徒たち約千人を黒鉄君の判断でどうするか決めてくださいということです。学園にもう一度生徒としてやり直しをさせるのであればその手続きは全て黒鉄君たちでやってください」
聖也は少しの間自分の頭の中でそんな大仕事をやった時の未来を想像して、その結果すぐに断ろうという結論に至った。自分が使える時間を使い作業を終わらせていくと予想では聖也が卒業するときにようやく終わる。そんなことになれば今までの訓練ができなくなり強くはなれない、それは聖也にとって命をなくすよりも辛いことだ。
聖也は断る決意を固めた。
「・・・・そんなことをするなら、俺一人では到底できないことだ。だからこの話はなかったことに・・・」
「だから別に黒鉄君一人でやれとは言ってないではありませんか」
「はあ?」
聖也の決意は一瞬で砕かれた。
「いいですか私は黒鉄君たちと言ったんですよ。黒鉄君は今は我が学園の生徒会長なんですよ、生徒会長と言えば生徒会があるではありませんか、だからあなたが好きに選んでいいのであなた以外の生徒会のみんなとこの件は任せましたよ」
「・・・・だが俺に選べというなら俺が信用できて選ぶことができるのは二人だけだ、確かに人数は増えたがさすがに三人だとまだきつい、せめてもう一人欲しい」
「そうですか、あなたが信用しているその二人というのは最近奥さんになったというシャーロット君とサテラ君の事ですか?」
「ゲホっ!ゲホっ!」
死角から放たれた矢が聖也にクリーンヒットした。
「おっおい、なんであいつらが俺の奥さんになったことをしてんだよ」
シャーロットたちが聖也の奥さんになったことは誰にも話さなければ話したこともなかった。
「私はこの学園の校長ですよ、生徒のことで知らないことは一切ありません」
「いやそういう事じゃねえーよ!なに生徒の個人情報を勝手に知ってんだって言ってんだよ!」
「この校長に向かってそんなこと言っていいんですか?私はこの情報をいつでも学園全体にばらまくことができるんですからね」
なんとも人が悪そうな笑顔を作って聖也に向けた。
聖也にとってシャーロットたちが奥さんだということは別にどうでもいいと思っている、ただこうした形の方が幸雨も喜ぶし自分の利益になると考えていただけで他人に知られるのは別にいい。しかしこの学園にはシャーロットとサテラのファンクラブが存在する、もしもこんな情報がファンクラブの奴らにばれたら・・・・・・。
聖也は考えただけでも頭痛がしてきた。
「それではさっき言った黒鉄君がもう一人欲しいという願いを私が叶えてあげましょう、ちょうどいい人物がいますので紹介しましょう入ってきてください」
校長の命令と同時に校長室のドアが開き、そこからは聖也がよく知る人物が現れた。
長い髪を一本にまとめて身長は平均の女子と同じくらい、女の二つの武器はどちらかというと小さい部類に入るが体のラインはとても綺麗で他者の目線を集める、そして一番の特徴はその身長よりも大きな大剣だった
「紹介しましょう元二年ドワーフのエミリー・レオベルトです」
「・・・・どうも」
「どうかな黒鉄君?」
「ハハハハハ!」
聖也は校長が呼んだ人物、エミリーを見て大きく笑った。
「そんなに喜ぶとは予想外ですね」
「いやいや、喜ぶも何も俺がこの奴隷制度をなくしたのはこいつを手に入れるためだったんだから、俺が面倒を賭けなくても手に入れられて、喜ばないわけがないだろ」
「・・・・そうでしたか、黒鉄君の力にも負けずに戦えて学力も優秀な人を選んだだけですが、黒鉄君が喜んでくれるならいいです」
「・・・・」
「ん?おいエミリー何黙ってるんだ」
聖也は一通り笑い終わり、エミリーの方を見るとその顔はなんだか何か言いたいことがあると言うような顔をしていて、聖也は気になって話かけた。
「俺はお前を訓練の相手にするって決めたんだ、嫌だと言っても絶対になってもらうからな」
「嫌じゃない・・・・」
ポツリとエミリーは答えた。
「嫌じゃないならなんでそんな顔をするんだ言いたいことがあるなら言え、お前は表彰式にいなかったから聞いてなかったかもしれないが、言いたいことがあるなら直接言え!気に食わなければ俺を倒せ!それができなかったら黙って俺について来い!」
心の中になぜか響いていく、エミリーが言い出せなかったこと。『言いたいことがあるなら言え!』頭の中で何回も再生されて不思議と勇気が出て来る。
エミリーは一つ深呼吸して自分の言いたいことを言った、その時の顔にはもうさっきまでの迷いはなかった。
「まずはこの前の戦い私を助けてくれてありがとう」
「そんなの気にするな」
「そしてその感謝の気持ちとしてはなんだがその・・・・・・私はお前の・・・・主人の隣で一生を過ごすというのはいいだろうか・・・・」
「もちろんだ」
「っ!」
聖也の即答にエミリーは驚く。
「私は一度主人を殺そうとしたのに・・・・・」
「何が殺そうとしただ。いいか、俺は復讐を終わらせるまで死ぬ気はない。だからお前に言ってやる殺せるものなら殺してみやがれ。底辺から上がってきた底辺種族をなめるなよ」
自然と頬に何か熱いものが流れている感覚がエミリーにはあった、試合の時エミリーは魔剣の制御に失敗して体を乗っ取られてしまった。エミリーは家族からもっと褒められたかった、ただそれだけのために魔剣に手を出したそしてその魔剣を使った結果がこのざまだ。暗かった、魔剣に支配されたとき周りには何も見えなかった、大好きな家族も友人も誰一人も、自分が消えていく感覚があったそれがエミリーにはたまらなく怖かった。
『助けて・・・』
うずくまりながらずっとそう願いながら泣いていた。感覚がなくなっていきつま先からどんどんと消えていく、そして頭以外の感覚が全てなくなりもう自分の死を受け入れていたエミリーだった。だが今まで一切の光もなかった暗闇の奥で微かに何かが光った。エミリーは自分の幻覚だと思ったが光はどんどんとエミリーの方に大きくなりながら近づいてきた。
その光は近づくにつれて人の形になっていき、エミリーの前についた時には形はもう完成していた。その人物を見てエミリーは驚いた、見たのは自分の友人でもなければ家族でもない、たった数回しかあったことのない赤の他人、しかもさっきまで殺そうと思っていた人物黒鉄聖也だ。エミリーは伸ばされた聖也の手を恐る恐る握って暗闇を抜けた。
闇を抜けるとエミリーは会場に立った状態だった、しかしその数秒後には体に痛み、疲労感その他いろいろな感覚が体を支配して意識を失った。だがしっかりと数秒だがエミリーは見た、目の前には砕け散った魔剣がありその前に自分を暗闇の中から救ってくれた、自分にとってのヒーローが。
「言いたいことはそれだけか?」
「・・・はい」
「なら、これからよろしくなエミリー」
「はい、よろしくお願いします、主人。これからは何でも命令してください」
「そうかなら、最初の命令だ」
「はい、主人」
「その主人って言うのやめてくれ」
「嫌です、主人」
こうして聖也の家族にまた一人加わった。
その後は比較的早かった。校長室をエミリーと出た聖也はすぐにシャーロット、サテラ、幸雨が待っている場所へ向かい、強制的に生徒会役員に任命して、軽くエミリーの話をして今に至る。
まあエミリーの話を軽くしたというのは嘘でシャーロットとサテラのもの凄い重圧に聖也が耐えきれず、二人が満足いくまでずっと質問をされていたのだ。
「だからエミリー!聖也の分をやるな!」
「そうですよエミリー先輩、黒鉄君のは私がやるんですから!」
「いやいや、サテラあんたまで何を言ってるの!」
「ならば、二人で分けて主人の分をやる」
「それはいい考えです!」
「だから~二人とも無視しないで‼」
「パパ~おなかすいたー、きょうのごはんなに?」
とてもうるさくて、鬱陶しくて、めんどくさくて、大変で、とても苦労するがその分今後は聖也の人生で初めてとなることが多いだろう。
黒鉄聖也は新しい人生の一歩を踏み出した。
そんな聖也達を遠くの窓から観察している人影があった。
その目の奥は全てを飲み込むかのように黒く染まっていた。




