戦前
エミリーの試合が終わり、ドーム内はさらに沸き上がった。
「ねっねえ!今エミリー選手が剣抜いたの見た!?」
少しピリピリとしていた空気はどこへ行ったのか、ドームの沸き上がりと一緒にシャーロットまでつられて盛り上がっていた。
「ちょっと聖也、聞いてるの?」
「・・・・」
「ねぇ?」
「・・・・」
「ねぇってば」
「・・・・」
「無視するな!」
「・・・・・・・・・・なんだよ」
耳がキーンとするのを感じて、聖也はいやいや反応した。
「だーかーらー、エミリー選手が剣抜いたとこ、見えたかって聞いてんの!」
「・・・見えたぞ」
嘘をついても良かったのだが、『見えなかった』なんて言ったら、多分、いや確実にバカにされると、聖也は確信していた。
「ふ~ん、あんたも見えたんだ」
「何だよいきなり、てかお前さっきまで、もの凄く不機嫌だったじゃねぇか」
「何言ってんのよ、不機嫌なのはあんたのせいでしょうが!」
「逆切れもいいとこだな、俺は本当のことを言ったまでだ、それに今までわざわざ気を使って、避けてやったのに、あーあ無駄だったな」
「無駄って何よ、無駄って!私だってずっと不機嫌なままじゃないの、それぐらいわかるわよ、それに比べて、あんたは・・・・・・」
またシャーロットが、何か言いだそうとしているのを、すぐに察知して、面倒なことになる前に聖也は行動した。
「試合数も少ないし、俺はもう控室に行くから」
膝に乗っている幸雨を下ろして、席を立った。
「はっ!?ちょっとまだ私の話が・・・・」
「パパ、もう行っちゃうの?」
「ああ、今日はこれが最後だから、いい子でいるんだぞ?」
「うん!いっぱいおうえんする!」
「ちょっ、聞いてんの?」
「じゃあ、行くが幸雨トイレとか大丈夫か?」
「ねえ!」
「トイレ行きたい」
「ねえてっば!」
「そうか、トイレは控室とは正反対だからな、おいシャーロット」
「ひゃい!」
突然声をかけられて、思わず変な声を上げてしまって、顔が熱くなるのを、幸雨は感じた。
「んっんん、何よいきなり」
「幸雨がトイレに行きたいらしいから、よろしく頼む」
「はぁ?あんたが連れて行けばいいでしょ!」
「じゃあ幸雨、パパは行くから、このお姉ちゃんにトイレ連れてってもらえよ」
「何勝手に、話を進めて・・・って待て!」
シャーロットが反論する前に聖也は言ってしまった。
そして聖也がいた場所には、もじもじとしながら、こちらを下から見て来る幸雨がいた。
「お姉ちゃん、早く行こう」
「・・・はいはい」
さすがに子供をいじめることはせず、シャーロットは幸雨の手を取ってトイレに向かった。
「しっかり、手を洗ってね」
「はーい」
「まったく、聖也ったら、自分勝手なんだから・・・・」
「ん?お姉ちゃんはパパのこと、好きなの?」
「えっ・・・・」
不意に幸雨が言ったことに、シャーロットの脳が動くのをストップした。
「・・・・えっと、あははは、ごめんごめん、聞き逃したからもう一回言ってくれる?」
「うん!お姉ちゃんはパパのことがすき・・・・」
「わぁ~!そろそろ試合が始まる時間だ!行くよ幸雨ちゃん!」
「えっ、お姉ちゃん・・・・」
シャーロットは強引に幸雨の手を引いた、まさかの幸雨から放たれた不意の一言、シャーロットは顔が熱くなるのを感じた。
(なんであたし、こんなに動揺してるのよ!別にあいつのことは・・・、ああぁぁ~~~!)
表には出していないが内心では大パニックになっていた。
そしてパニックになっていると前から人混みが向かってくるので、シャロットは今顔を見られるのは恥ずかし思い、下を向いたままシャーロット、幸雨という順番で縦になり、人混みの端を通った。
「?」
ふと幸雨が、何かに腕を触れられたような気がしたが、特に気にせずにシャーロットについて行った。
人混みの中では一人不気味に笑う男がいた。
「ククク、これでお前はおしまいだ、底辺種族」
「皆さん、生徒会戦初日ももう少しで、終わってしまいます。残りの二試合もこのままの熱気で見ていきましょう!」
「「「わああぁぁ~~!」」」
「それでは、これから第三回戦準々決勝、第三試合を始めます!選手の入場です!
まず右側から入場してくるのは、なんとなんと誰も予想しなかった、一年ヒューマンの黒鉄聖也選手です!この男私たちの知っているヒューマンとは全く別次元!いったいどこまで行くというのか!」
聖也が入場するとともに、ドームの中は歓声以外の声で埋まった。
「いい加減引っ込みやがれ、この卑怯者が!」
「ここは、あなたみたいな底辺種族が来る場所じゃないのよ!」
「そうだそうだ、引っ込めー!」
「お前なんか重傷でも負って、もう学園に来るなー!」
「そうよそうよ、私たちまで落ちちゃうじゃない」
ドームの中で響く、生徒たちの罵声、しかし今の聖也にはその一切の罵声も耳には届いていなかった。
目の前から出て来る、不気味な相手に集中していた。
「そして、反対の左側から入場してくるのは、不気味に笑いながら、今回の試合も死刑が執行されるのか!二年竜人『笑う死神』レイド・カストレイド選手!」
目の前の入場口から出て聞いた死神、レイドは聖也を見るとさらに不気味いや、とてもおぞましく笑った。
「相変わらず、気持ち悪いな」
「いえいえ、ありがとうございまいます、この代償としてあなたの命をちょうだいするぞ、底辺種族」
「悪い悪い、俺そんな代償払えないからさ、お前の命で勘弁してくれ」
試合はまだ始まっていないというのに、二人の間には禍々しい、殺意が漂っていた。
「おおっと、両選手、どちらも気迫です。これは凄い試合の予感です!
ええ~、おほんっ!これより第三回戦準々決勝、第三試合、一年ヒューマン黒鉄聖也選手と二年竜人レイド・カストレイド選手の試合を始めます。それでは・・・・始め!」




