タイトル無し
アンニュイで、脱力してて。だけどなにか生の本質はわかってるみたいな、そんな女の人。
霧のようにふわふわしておぼろげで、フラッと現れてはフラッと消えてしまうような、そんな感じ。
どうしてそんなもんが魅力的なのかはよくわからんのだけどさ、そんなものが今とても魅力的でね?わかるかな?僕にもよくわからなんだけどね。でも君なら少しはわかってくれると思ってさ。
そんな風に俺らは話しながら、夜の道をゆっくりと歩いていたんだ。
そんな時彼は俺にこう尋ねたんだよ。
そんな人がフラッと目の前に現れたらお前はどうする?妖精みたいに消えちゃうようなそんな女の子ずっと捕まえとくなんてぜったい無理だぜ。
まあ確かにそうなんだけどね。そんなことはよくわかってるんだよ俺だって。だけどもね、その一瞬がきっと重要なんじゃないかと思うんだよ。そんなやつと俺はずっと一緒にいられないと思うんだ。だって疲れちゃうだろ?そんなすぐに消えちゃっていなくなっちゃうやつなんてさ笑
でも思うんだ。大事なのはその一瞬の出会いであって、彼女とずっと一緒にいることじゃないんだよ。
そんなもんかな。まあでもお前がいつかその妖精さんと出会えるのを心から願ってるよ。
夜は明けない。月は天高く上っている。今日は満月には足りない。少し欠けている。街灯が等間隔に道を照らす。道は続いて行く。
そろそろ帰ろうか。もう随分遠くまで歩いてきたから、帰り道がわからなくなっちまう。
そうだな、俺も家に帰って酒でも飲みたい気分だ。
おーけーじゃあ戻ろうか。今度は何の話をしながら帰ろうか。
そうだな・・・・・
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その日俺は夢をみた。天女みたいな女がひらひらと降りてきてなにかを俺に言ったんだ。口は動いているのに、声は全く聞こえなかった。いや違うな、俺はあの時海の中にいるみたいだった。何もかもがゆっくりで、上にはゆがんだ月が揺らめいていた。透明な、青色な不思議な空間の大地に俺は足をつけて立っていた。天女は何かをつぶやくが俺にはよくわからなかった。悲しそうな顔をして彼女は上に登って行ってしまった。
そんなことを思い出しながら、俺はベットから出た。ベットの淵に座って少し考え事をした。あの天女が何を言っていたのか、そしてあの夢はなにを意味してるんだろうって。だけどよくわからなかったからおれはそれをやめた。目覚ましい時計は11じをさしていた。おもむろにそいつを手に取るとカラカラ音がなった。こいつは壊れてる。そのせいで俺は今日はこんな時間まで寝ちまったんだ。まあしょうがない。そんな日もあるさ。
とりあえずタバコでも吸おうと思う。
ベランダに出てタバコに火をつける。もうすでにひは高く上っていた。だけどなんだかうまく言葉で表現はできないけどいつもとちがう雰囲気がただよっていた気がするんだ。世界に薄膜が貼られたというか、なんだか世界がよそよそしいというか、ひそひそものたちが俺の方を見ながら話してるみたいな。でも前にもこんな感覚あった気がする。もしかしたら幼稚園の時かもしれない。なんでそう思うかって、おれの一番古い記憶が幼稚園廊下の屋根をささえてるはしらにつかまりながら子供達が遊んでるのを眺めてるのを見ていたからだ。世界の中にいるのに、世界は自分から離れてあるみたいな、世界と自分の間に見えないガラスがあるみたいに。
まあそんなことを考えながらタバコを吸ったんだ。タバコだけはおれに親密だった。なぜかはよくわからない。静けさ。車の音。スリッパと砂利の摩擦音。鳥の鳴き声。意味のわからない音。ベランダの椅子に座りながら隣の家の屋根を眺める。なんの変哲も無い。昔からここにあるし、これからもここにある。人が住んでいる。普通の家。偶然おれの家の隣にあるだけ。でもなんでおれの家の隣にこいつはなくちゃいけないのか、それもよくわからない。こんなこと考えても仕方ないかもしれない。ぐるぐる考え始めるとゆううつになるからおれはそこで考えるのをやめた。
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昼飯を食うために外に出る。少し寒いから上着を羽織る。カーキのドリズラー。前に古着屋で買ったやつ。メガネが汚いからメガネをその裾でふく。世界はいくらおれの方に近づいてきてくれていた。間にあったガラスも気にならない程度になってきた。クルマが隣を通り過ぎて行く。知らないおっさんがのっていた。仕事にでも行くのだろうか。なんだか急に悲しい気持ちになってきた。煙みたいな女の人に会いたくなった。だけどどこにいるかもわからない。そして一瞬しか現れない。そんな人にどうやって会えっていうんだ。だけど俺は会いたかった。そこになにかがあると思ったんだ・・・