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お化粧

「出来るかああああああっ」


 ウィルから協力を頼まれたカイルは拒絶し、踵を返すと全力で逃走に入った。

 だが、ウィルもこうなることは想定しており、準備はしていた。


「クレア姉さん。お願いします」


「はあい」


 ウィルの曖昧な言葉の真意を即座に、かつ正確に理解した。そして一瞬にしてカイルに追いつき羽交い締めにして捕まえた。

 カイルが関わるとクレアの動きは素早い。あっという間にカイルを捕まえ色欲の輝きを目に宿したクレアはスキップしそうな勢いでウィルの元に戻ってくる。

 捕まったカイルは身の危険を感じて逃げようとする。


「ね、姉さん。今夜一晩抱き枕になって差し上げますから。逃がして下さい」


「結婚すれば毎晩抱きつけるからいいわ。こんなこと出来る機会なんてもう滅多に無いし」


 普段カイルの言葉には絶対的に従うクレアだが、今回の事は別だ。

 カイルは説得が絶望的だと悟った。カイルは全力で逃げだそうともがくが、クレアの腕が蠢いてカイルの手足を絡め取り、身動き一つ取れないようにした。


「ウィルマ助けてくれ!」


 カイルの言葉に腹心とも言える部下のウィルマに助けを求める。彼女も助けようとクレアに近づく。

 ところが近づいて来たウィルマにクレアが小さな声で彼女に囁くと、瞳の輝きを増して直立不動で答えた。


「申し訳ありませんミスタ・クロフォード。クレア様の従属魔法に掛かってしまい絶対服従するしかありません」


「掛かっていないよね! 魔法も何も使っていないのに従属魔法に掛かる訳ないよね! 裏切っているよね!」


 カイルは抗議するがウィルマも聞いてくれない。それどころかクレアに積極的に協力して準備を始めている。


「ウィル! これが友人に対する仕打ちか! 絶交するぞ!」


「カイル……僕はアルビオン帝国の皇太子なんだ。帝国の為に必要と考える事はどれほど非情であろうとも実行する覚悟だ」


 悲しそうにウィルは言い切った。

 ウィルは普段は頼りないが、こういう事態においては非情な決断を下し実行する責任感の強い人間だ。

 だからこそカイルとウィルは長年友人をしているが、それだけに一度決断したウィルが翻意しないことをカイルは知っている。

 つまりカイルはチェックメイトの状態に陥った。


「ウィル、準備は出来ている?」


「はい、入浴の準備は整っています」


「後処理の準備は?」


「アロマオイル、化粧水の準備は整っております」


「ドレスは?」


「支那の絹を使用してガリアのデザイナーが仕立て上げた物があります」


「パーフェクトよウィル」


「光栄の極み」


 クレアの言葉に執事のように慇懃に答えるウィル。昔皇太子になる前、カイルの家で紳士になるための修行、慣習として他家での執事をしていた事があり、準備や用意などに関しては手際が良い。

 そしてカイルの家の事も良く知っており、クレアの逆らうことなど絶対にしない。執事として仕えていたとき、クロフォード一家は優しく丁寧に接していたが彼らの日常を見ていて逆らったらどんなことになるか想像して恐怖していた。

 特にカイルに関わったクレアが何をしでかすかは予想がつく。


「では始めましょう」


 そう言うなりクレアは手を動かし始め、カイルの服を全て一瞬にして剥ぎ取り、カイルを一糸まとわぬ姿にした。


「ッッッッッッッッッ!」


 カイルは声にならない悲鳴を上げる。これを何度もクレアに喰らっているがカイルに防ぐ手段は無かった。魔法を使っているかと思いレジストの魔道具を全身に身につけたことがあったが、すべて効かなかった。ただ単に手を高速で動かして脱がしてるだけのようだ。あまりの速さに手が見えない程が、そうとしか言いようが無い。

 ただ、魔法であろうと手作業であろうと、カイルは全て剥ぎ取られ、大事なところを隠すために両手は塞がれ逃げようがない。


「さあ、キレイキレイしましょう」


 そしてクレアはそのままカイルを風呂の中に入れると両手を動かしてカイルを洗い始めた。

 その動きは迷い無く的確でカイルの肌に付いている垢はそぎ落とされ毛穴の中まで綺麗にされる。


「ちょ、やめ」


 全身くまなく洗うクレアの魔手から逃れようとするが


「うん、カイルの成長を確認」


「っっっっっっ」


 クレアの言葉にカイルは黙り込み両脚の間に入れた両手の力を強める。


「な、なにを」


 カイルの代わりに顔を真っ赤にしたレナが尋ねる。本来ならこの痴態を止めるべきだが、クレアの勢いが強すぎて止められない。


「成長期なのかしらね。あちこちの筋肉が発達しているわ。逞しくなったのね」


 カイルの耳元へクレアは妖艶に話しかけてカイルに悪寒を走らせ、更に洗って行く。


「お風呂終わり」


 クレアが宣言するとカイルを抱き上げて隣の台に乗せる。

 そして布でさっと水気を抜くと香水と化粧水でカイルの肌を磨いて行く。

 香水の香りでほんのりと良い匂いが漂い始めると衣装を持ってきた。


「さあ、初めはこれよ」


 そう言ってコルセットを取り出してカイルに装着する。


「や、止めて」


「時間が無いから一気に行くわよ」


 そう言ってカイルの腰辺りに付けるとクレアは背中付近に片足を当てて両手に握った紐を一気に引っ張りコルセットを縮め身体を引き締める。


「!!!!!!!!!」


 コルセットが狭まり腰と腹の辺りが圧迫され内臓が潰れ、骨が砕けるような痛みにカイルは悲鳴を上げようとするが肺も潰されて声が出ない。

 それでもクレアは更に力を入れてカイルの身体を引き絞る。


「よし。カイルは相変わらず細身ね。でも普段からコルセットをしていれば、あと一インチ……いえ二インチは確実に細くなるわ」


「……だ……だれ……が……する……か……」


 肺の辺りも締め付けられて浅い呼吸しか出来ず、カイルは息も絶え絶えに抗議の声を上げるが小さすぎて誰にもきこえない。

 しかし、カイルの受難はまだまだ続く。


「さあ、次は衣装合わせよ」


 そう言って様々なドレスを持ってくる。


「胸は胸筋のお陰でで少しあるけど、革袋に水を入れて増量してもっと強調。身体にメリハリを付けましょう。胸元を広げたいけど上げ底がバレるから、フリルが多い方が良いかな。腰の辺りをもっとくびれた奴にして。あ、背中を大胆に出した方が良いわね」


 様々なドレスをとっかえひっかえカイルに着せて選んで行く。ようやくドレスが終わると次は髪だ。


「さて次は髪ね。二人の髪色は同じだけどカイルは短髪だからカツラを付けるわね。普段から長髪で良いのに」


「船上生活だと不潔だよ」


 シラミが発生しないようにカイルは髪を短めにしている。一方のエリザベスは長髪だ。

 なのでカツラとなる。クレアはカイルの髪をカツラに絡めて脱げないようにする。


「カイルは耳が綺麗なんだけど出ていると不味いからカツラの中に隠して」


 カイルの笹のように長い耳をカツラの内側の髪で絡めて隠し、外側の髪で覆って見えなくする。


「髪型はこんな感じかな。さて次は化粧ね。カイルの肌は白いからおしろいの必要は無いけど唇とか明るくしないと」


「や、やめ」


 なおも逃げ出そうとするカイルの顔を片手で押さえ、クレア息がかかる程の至近距離に固定。もう一方の手で口紅を施し、まつげを整え、眉を切りそろえる。

 最後にネックレスやティアラなどのアクセサリーを付ける。


「完成!」


 クレアが叫ぶとそこには、エリザベスいやそれ以上の美しさを持つ深窓の令嬢が現れた。


「ううっ」


 今にも泣き出しそうな声を出す女装されたカイルだった。


「久しぶりだったけど、腕は落ちていないわ」


 かつて家族ぐるみで遊んでいたとき、クレアはカイル達を人形代わりにして、様々な衣装を着せて遊んだ。特にカイルとエリザベスは容姿が似ていたために、双子コーデを施し同じ姿にしていた。そのためカイルをエリザベスに似せるなどクレアには容易いことだった。


「流石私! 完璧! 唯一の欠点は美しくなったカイルが眩しすぎて直視できない事ね。正に女神の降誕。画家がいればこの姿を永久保存できるのに」


「うう、酷い」


 カイルは自分の姿を鏡で見て呟く。

 長い髪は後ろに梳かれ纏められている。エルフという事もあり肌は白いが、クレアによって磨き上げられて真珠のような光沢を放っている。胸元はドレスで覆われているが水を入れた革袋とフリルが幾重にも重なり胸にボーリュームがあるように見える。

 身体のラインはコルセットのお陰でくびれており、ふんわりと広がるスカートもあってメリハリのあるものに。

 手は絹の長手袋で覆われ、スラリと長い。

 顔立ちは元々整っていたが、クレアのメイクにより更に各パーツの輪郭が強調され、ハッキリとした綺麗な顔に成っている。

 何より恥ずかしさで頬が少し紅潮し、目には涙を浮かべている。

 それがなんとも言えない魅力を醸し出しており、その場に居た全員がカイルを注視している。

 カイルは全員の視線に気が付いて顔を背ける。が、その仕草が余計に可愛らしく、さらに注視される。


「……カイル……君にプロポーズしても良いか?」


「冗談は止めてくれよ」


 ウィルの半ば本気の言葉をカイルは撥ね除ける。

 助けを求めるようにレナに顔を向けたが、レナは顔を背ける。

 最後の希望まで失われ、カイルは顔を俯けるが、お淑やかな令嬢のように見えてしまい、より綺麗に見えてしまった。


(顔を背けてごめんなさいカイル。でもこれ以上貴方を見ていると確実に襲いかかってしまうわ)


「時間です」


 心の中でレナが謝っている間に、カイルは侍従達に連れられて式典場へ行ってしまった。

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