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上申書

 開闢歴二五九三年一二月 ポート・インペリアル海軍監獄


「つまり君は帝都に着いてようやく自分が一海尉として着任すると知った訳だ」


「はい」


 帝都に着いてからのことを掻い摘まんでカイルはサクリング提督に話した。


「真っ先に海軍本部に行き確認するべきだったな。寝床の確保が死活問題であったことは考慮するべきだが、数人いたのだから分担して確認するべきだった」


「はい」


 サクリング提督の言葉にカイルは黙って聞くしか無かった。

 全ての否は自分にあるのだから。


「それで君は翌日海軍本部へ確認に行った訳だ」


「はい」


 カイル達は父から話しを聞いた翌日、海軍本部に行くと確かにカイルが海尉艦長ではなく、一士官として参加することが決まっていることを知った。


「誓って言うが、私は本国からの訓令を君に伝えただけだ。決して君を騙してはいない。あの時言ったとおりな」


「分かっています」


 サクリング提督の言葉に偽りは無かった。

 あの時、海軍本部からサクリング海佐に届いた指令は確かにカイルを海尉艦長に任命し観測航海に赴く訓示だった。

 だが、海軍本部では一海尉としての参加だった。

 何故このような事になったかというと簡単なことだ。

 表向きには複数あった人事案の一つ、カイル艦長案が本物と誤認され新大陸へ発送されてしまった。訂正の連絡文を発送したが、直後にカイルが帰国してしまった。

 ということになっているが実際にはサクリングの元からこしゃくなエルフ海尉を引き離そうと海軍本部の一部が画策して、カイルが直ぐに帰国するであろう人事案を出してきた、とカイルは考えている。

 それに疑いも無く飛びついたカイルも非があり、詰めが甘かったと言える。


「それで君は唯々諾々と従ったのかね?」


「いいえ、抗議のために意見書を第一海軍卿――海軍本部のトップに提出しようとしました」


 命令書に瑕疵や異議がある場合、一定条件のもと命令の再考を求める意見書を出すことが出来る。

 一見すると命令不服従に見えるが携帯も無線も無く、遠隔地間の連絡が困難なこの世界で遠い現地の状況把握など不可能。命令を出した直後は正しくても状況が急変して命令達成不可能となることも多い。

 例えば、本部からの命令で現地の軍艦に着任しようとしても当の軍艦が緊急出港でいない場合がある。

 その場合は実行不能と異議申し立てが出来る。

 認められる可能性は少ないが少なくとも拒絶できる。

 カイルもその権限を使おうとしたが、制約の一つに命令者への直接上申がある。

 今回の観測航海は第一海軍卿の名で発令されていたため、直接会って上申書を渡す必要があった。しかしカイルの要望は本部の受付で拒否されてしまった。

 帰宅時を狙おうとしたが、そもそも第一海軍卿は海軍本部に居なかった。

 サクリング海佐(当時)の凱旋帰国の出迎えで留守にしていた。

 急遽、サクリング海佐の上陸地となっているポート・インペリアルへ向かったが、入れ違いになってしまった。

 しかも海佐と第一海軍卿はそのまま帝城に入り叙勲式に臨み、その夜は晩餐会となるため接触できない。

 ところが上申の期限はその夜の深夜だった。


「それでも行くべきだったな。何故やらなかった。丁度、私の叙勲式があり第一海軍卿も一緒にいたのだぞ。祝いの言葉を言うなりなんなり理由を付けてやって来るべきではなかったのか」


「いや、その」


 カイルは提督の言葉にしどろもどろとなった。




 開闢歴二五九二年三月二二日 アルビオン帝国帝都キャメロット


「こうなったら直接会って上申書を受け取って貰う」


 ポート・インペリアルから往復して疲労しきっている上、期限が迫っていて焦ったカイルは目が血走り、妙な迫力を持っていた。


「けど、どうやって会うの?」


 レナが尋ねる。

 先ほど帝城の衛兵に門前払いされた。サクリング海佐へ叙勲の祝いを述べたいと誰に伝えてもダメだった。

 父であるケネスを頼る訳にはいかない。カイルの事を可愛がってくれているが肩入れすることを避ける。息子を依怙贔屓したと言われないため、あるいはカイルが親の七光りで昇進したと言われないために海軍上層部への介入は最小限に抑えていた。

 今回の式典も退役軍人であり関係の無い自分が出席する必要は無いだろうと言って参列を辞退しており父親の供として入る事も出来ない。

 だからカイルは自力で何とかしなければならない。

 そしてカイルが出した結論がこれだ。


「帝城に侵入して大臣に直接渡す」


 カイルの言葉にレナとエドモントが凍り付いた。

 帝城アヴァロンはアルビオン帝国最大最強の城であり、侵入不可能と言われている。

 近衛師団が常時防備を固め、警戒厳重であり許可の無い侵入者は射殺も許可されている。

 そんな場所にこっそり入るというのだ。


「出来るの?」


「方法はある。みんなは口が堅いよね」


 そう言ってエドモント、レナ、ウィルマ、クレアを見回した。

 一応、この一年共に戦ってきた戦友同士でありカイルは信頼している。


「勿論です」


「話しはしないわ」


「話したら危険そうだしな」


「大丈夫よ」


 四人四色に同意するとカイルは帝城近くの人気のない裏通り入るとある建物の中に入り地下室に入った。そして奥の扉を開けて更に進んで行く。


「何なのここ」


「地下迷宮だよ」


 キャメロットの地下には網の目のように張り巡らされた地下道がある。

 元は物資輸送や下水に使われていたようだが、何代か前の皇帝が無意味と言えるほど拡張、延長した上、隠し扉、隠し部屋を増設したので大迷宮となっている。


「ここから帝城へ入る事が出来る」


「うそ……」


 流石のレナも絶句しているが時間が無いのでカイルは事を進める。


「エドモント、ここで待っていてくれ誰かに見られると不味い。帰ってきたら扉を二回、間を空けて一回ノックするから異常なければ開けてくれ。誰かが居たりしたらそのまま閉じておいてくれ」


「わかったよ」


「よし、じゃあ行こうか」


 そう言ってカイルは残り三人を引き連れて地下迷宮に入って行く。あちこちに分岐があるが、カイルは迷い無く歩いて行く。


「本当にここから帝城に入れるの?」


「ああ、帝城の地下倉庫に通じる隠し扉がある。そこから入れば見つからずに侵入できる」


「どうしてそんなこと知っているの?」


「……色々事情があるんだよ」


 レナの追求をカイルは誤魔化した。

 本当の事を言うと色々と面倒だ。エドモントと一緒において行くことも考えたが、カイルの目の無いところで何をするか分からない。手元に置いておいて見張り役をやらせた方がマシだという判断だ。

 だが、執拗に尋ねてくる。


「ねえ」


「しっ! 着いたよ」


 そう言ってカイルはレンガ壁の一角を強く押し込めるとレンガ一個が引っ込む。そして目の前の壁が回転して扉が開いた。


「さあ、入って」


 中は様々な袋が備品が置かれており、倉庫である事は間違いなかった。


「それじゃあ、上に行こうか」


 カイルは慣れた手つきで反対側の扉を開けて奥の通路を進んで行く。通路は段々と明るくなって行き、装飾も豪華になって行く。

 最後には赤絨毯が敷かれ、高貴な人々の区画だという事は分かる。

 カイル達は密かに通路を進む。


「……本当に帝城の中なの?」


「本当だよ」


 レナは相変わらず疑念を抱いているが、本当なんだから仕方ない。


「でも人が全然いないじゃない」


「奥の方は比較的人が少ないんだよ」


 帝城の奥は皇族のプライベート空間になっているのだが、現皇帝が質素な生活を望んでいることもあり、使用人の数が少ない。大勢の目に見られるのは好ましくない、と言うか気になって仕方ない、とのことで皇帝一家の私的な空間は人が少ない。

 侍童として仕えていたカイルにはその辺の事情をよく知っている。


「何でそんなこと知っているの」


「それは」


「おい! 誰だ!」


 レナに尋ねられた時、カイル達は後ろから怒鳴られた。

 近衛軍の制服を着た兵士が二人こちらを見ていた。人が少ないと言っても流石に警備の巡回はいる。

 カイルも注意していたが、レナの話に気を取られていたため、衛兵に気が付かなかった。

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