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艦上軍法会議

 開闢歴二五九三年一月二四日 ブライアン・フォード島東方近海 ディスカバリー艦上


 反乱の証拠となる計画書とリストがスペンサーのポケットから出てきたことで、カイル達は迅速に動いた。

 まず、ウィリアムとカークに武装するように命じた上、マイルズには信頼できる水兵に武装させるよう命じた。

 そして当直交代中の海兵隊を急襲してその場で武装解除した。

 反乱の主要メンバーである海兵隊長と主計長、掌帆長を拘束し、艦尾の禁固室へ鍵を掛けて閉じ込める。

 これらの措置を終えてから、カイルは直ぐさま乗員全員に集合を命じた。

 士官達が慌ただしく動いた上に、海兵隊が拘束されたのを見て乗員達は怪しく不安に思った。そこへ、いきなり下甲板――上から二番目の甲板で艦内では広い部類の甲板に集合を掛けられ、戸惑いは更に大きくなった。

 武装したマイルズ以下の水兵に囲まれれば余計である。


「気を付け!」


 マイルズが号令を掛けると、反射的に全員が気をつけをする。そこへ正装をした艦長、カイルが現れた。


「休め!」


 いつも以上に強い語気で言葉を放つ。だがその後の説明は更に衝撃的だった。


「この艦で反乱が進行しており、君らの多くも殺害される予定だった」


 カイルの説明に全員が驚いて聞き入った。

 反乱計画のあらましと、主要メンバーを逮捕したことを伝える。


「諸君らが無事に任務を全うし、祖国の土を踏めることを切に願う。軽挙妄動は慎むように」


 カイルはそう締めると、全ての士官に艦長室に来るよう命じた。

 その時、カイルの頭は海軍刑法第一三条が占めていた。




「艦長として君らに命令する」


 艦長室に集めたエドモント、レナ、ウィリアム、カークの四人に対してカイルは命じた。


「今回スペンサー海尉達の反乱計画が明らかとなり、彼らを拘禁した。だが、この件は終わっていない。彼らに対する処分がまだ行われていない。諸君らは今のメンバーで直ちに軍法会議を開催し、この件に対して適切であると思われる処置を検討し報告して欲しい」


「艦長が処罰を決めるんじゃないの?」


 疑問に思ったレナが尋ねてきた。


「軍法会議に艦長は参加できないんだ。中立性が犯されるからね。特に死刑を適用する犯罪に関しては。今回は海軍刑法第一三条が適用される」


「何だっけ?」


「……アルビオン帝国海軍刑法第一三条。アルビオン帝国海軍の誰かが反乱の徒党を結成し、または結成しようとした場合には、この者は軍法会議の決定により死刑に処せられる。今回君たちにはこの条文の適用が妥当か否か、軍法会議を開いて見解を聞きたい」


「それは、私たちに乗員を、仲間を死刑、殺すかどうか判断しろというの?」


「端的に言うとね」


 レナの言葉をカイルは肯定した。


「でも、死刑はやり過ぎじゃ」


 確かにスペンサー海尉はいけ好かない海尉だったが、共に船内を過ごしてきた仲間だ。それを殺すか否か決める責任は重い。


「ミス・タウンゼント。これは士官に課せられた義務だ」


 しかしカイルはそんなレナの態度を正す。


「でも……」


「最初に僕らを殺そうと考えたのは彼らだ。その証拠も揃っている。僕は彼らが刑法第一三条に当てはまると考え、妥当かどうかを君らが判断せよと命じている。必要ならば証人を喚問してよし」


「でも……」


「これ以上命令を拒否するなら命令不服従、あるいはスペンサーの一味で彼らを庇うために命令拒否をしていると考え拘束せざるを得ない。命令に従え」


「……分かったわ」


 依然わだかまりが残っていたが、レナは承諾し命令に服した。




「さて、本件を確認しよう」


 艦長室を辞した後、最先任のエドモントが議長となって他の三人と話を始めた。

 今回はスペンサーが反乱を計画。それにワッデル主計長と掌帆長、海兵隊長が賛同し、次の当直交代時を狙って海兵隊の呼集訓練を行い、海兵隊員を武装させる。その後艦長と主要メンバーを拘束ないし殺害。スペンサーが艦長となって艦全体を掌握するというものだ。


「証拠であるリストと計画書はここにある。そして証人もいる」


「ウィルマね」


 彼らの計画はウィルマが立ち聞きしていたことから判明し、実行直前に阻止することが出来た。


「彼女の話は既に艦長から聞いている。聞き出す必要は無いだろうな」


「そうね。あの子がカイルに嘘を吐くこともないし、カイルが尾ひれを付ける訳がないし」


 影のように付き従う彼女の事を士官全員が知っており、残りの二人は身震いしながら認める。

 それでも念の為にこの場でウィルマに証言を行わせ、カイルの説明と矛盾が無い事を確認した。


「さて、次に被告人達の供述を聞く必要があるな」


 ウィルマの正確だが淡々とした証言に、階級も年齢も上のエドモントであるが変な汗を掻いてしまい、それを拭いながら皆に尋ねた。


「聞く必要があるの?」


「被告人側の言葉を聞いておかないと正しい判断は出来ないよ」


 そう言ってエドモントは、スペンサー海尉を呼び出した。手かせを嵌められ、士官の証である長剣を没収された姿だったが、背筋を伸ばし胸を張ってエドモント達の前に立った。


「スペンサー海尉。貴方が反乱を計画したのは間違いありませんか」


「反乱は計画していない」


「ではこれは何ですか?」


「不法状況を正すための行動計画だ!」


 計画書とリストを見せられてもスペンサーは自分が正しいと堂々と主張した。


「先の会議は無効であり、エルフに艦長資格が無いのは明白だ」


「考え違いをしていますね。私たちはアルビオン帝国海軍によって正式に認められた士官です。その決定に関しては誰も異議を出せません。疑義があるなら本国の軍法会議へ提訴すべきでしょう」


「そのような猶予は無い!」


 スペンサーは強く反論した。


「今艦は危機に瀕している。南緯五〇度などという危険海域を航行するなど狂気の沙汰としか言いようが無い。先の上陸のように艦を更なる危険に陥れるのは明白だ。全てはエルフの指揮能力の不足であり、迅速に回復しなければ艦を失う」


「しかし、艦長解任は決議されていません」


「それはお前達取り巻きが反対しているからだろう。今回の計画もお前達が解任を阻止する為にワザと否決するに違いない。だから実力行使により正そうとしたのだ。私は悪くない」


「そのために我々を拘束し、場合によっては殺害する計画を」


「そうだ!」


 詭弁には聞こえなかった。自分が正義である、とスペンサー海尉は信じ切っている。

 これ以上の証言は必要ないと判断し、エドモントはスペンサーを下げた。

 掌帆長と海兵隊長も似たような証言を行っており、彼らが計画を立案したのは事実だった。

 ただワッデルだけは違った。


「私は呼び出されて協力を強要されただけです!」


「そうかな? 他の証人の証言ではスペンサー海尉の説得で積極的に協力すると」


「協力しなければ殺されておりました」


「そうかな。謀反の心が無ければ直ぐさま艦長と会談してその時に反乱計画を伝えるはずだ。なのに計画に従い八点鐘に会談したいと申し込んできたのはどうしてだ」


「ああしなければ、副長達に殺されておりました!」


「彼らはワッデルを脅してはいない。説得に心良く従ったと聞いているぞ」


「そんなのでまかせです」


「しかし、主計長の行動は反乱に加わっているようにしか見えない。八点鐘前でも時間を引き延ばせると言って騙せたはずだぞ」


「そこまで考えられる程時間の余裕はありませんでした」


「拘束された後もどうして黙っていた」


「そ、それは……」


 ワッデルは言葉を一瞬失った後、懇願した。


「頼みます。無事に帰国すれば十分な御礼を致します。どうか」


「今の行為は買収と見なします。これ以上必要ないでしょう。下がって下さい」


「ま、待って下さい。十分なお礼を……」


 マイルズに引き立てられてそのまま連れ去られていった。

 主計長程度の給料では大金は持っていないだろう。余程高額の横領でもしていない限りは。

 それ以前に軍法に反する行動をとるような士官はエドモント以下三人の中には居なかった。

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