第6話 捕食者
生後一年が経過した。知的生命体であることがバレた俺は、旅の魔法使いルフレオから英才教育を受けていた。ルフレオは産婆と一緒に俺を解体して魔法陣を発見した人だ。
「まるでスポンジのように知識を吸収しよるな」
いや、スポンジというかパンなんだけどね。ルフレオは白い髭を生やしたいかにも魔法使いですって顔したジィさんだ。そんな人が俺をスポンジというのだから俺はスポンジかもしれない。ならば俺は名前をボブに改名せねばならないだろう。
「だが、魔術適性はからっきしじゃな。その体では剣を持つことができぬゆえ、魔術をと思ったが、それも難しいようじゃ」
「ええ、人生バーガーモードですから」
「なんともうした? バ?」
「いえ、独り言です」
女神は俺の体を弱く作った、だからそれくらいは覚悟している。だが、なぜか俺の魂には手を出さなかった。あの黄金の肉体を作ったのは他ならぬ俺のこの魂だというのに。貧弱な魂で15年という月日をこもりきれるわけがないだろう。
「魔力を作る細胞がないのかもしれぬ、もとより、その肉体は食物、食物が新たに魔力を作り出すことなど不可能ということじゃな」
「では、俺は自己鍛錬の時間ですので」
「うむ、その姿勢まさに勇者、励みなされ」
俺は家の周り程度なら這って動き回れるようになった。この一年でハンバーガーの体も実に馴染んできた。さて家を一周して、セニャンに薬草を取り替えてもらおう。動き回ると薬草が萎びるのが早まるのだ。
「あうー」
え? 何あれ、やだ、赤ちゃん? 隣りの家から現れた赤ちゃんがこちらに向かって歩いてきた。問題は赤ちゃんが1人だということだ、あの家ではまだ1人で行動させていないはずだが。
となると脱走か。歩くことを覚え、好奇心の化身となったか。どうする、こっちに来るぞ。俺の声では人を呼ぶには心細いが。
「まんまー」
「まんま? 俺はママじゃないよ、ほらお家帰りなさい」
赤ちゃんは、おぼつかない足取りで、俺の前にたどり着いた。こちらをじっと見つめている。デカい。二足歩行の生物は頭の位置が高いなぁ、見上げるのが疲れる。などと呑気にしていた俺は、この直後、激しく後悔することになる。
「まんまー、あむっ」
「え? ちょっ、持たないで、やだっ! やめて!」
俺は赤ちゃんに持ち上げられ齧られた。激痛が体を駆け抜ける。あ、ハンバーガーにも痛覚ってあるんだッイテテテッ!!
「だっ誰かーッ!! 男の人呼んでーっ!!」
ハンバーガーが三分の一ほど赤ちゃんの胃袋に収まったところで俺の意識は途絶えた。