第17話 南の森
森の中は静かなものだ。小気味のいい馬の走る音のみが響く。
出会った魔物はあの青猪1頭だけだった
「森に来たことあるのか?」
「いえ、父から話を聞いたくらいです。でも大丈夫です! エルフ属は森で迷わないのが強みですから!」
「森においてエルフの右に出る者なしか」
「そうです、と言いたいところですが、私たち以外にもダークエルフという種族も森に長けているみたいです」
俺はルフレオの言葉を思い出す。ダークエルフは排他的な種族で、特に呪術にも長けているって話だったな。呪いか、おお怖い怖い、俺より呪われてる奴がいるならぜひ見てみたいもんだ。
ふと俺は女神のことを思い出し、木の枝や葉に覆われた空を見る。女神は俺の思考は読めるんだろうか? あのテレビのような監視スタイルならTPS視点でしか俺を監視できないと思うが。
上を見ているとアイナと視線が合う。
「あ、あの、バーガー様、私の顔に何かついてますか?」
「い、いや、空を見てた」
「空を? 何か考え事ですか?」
「ちょっと神のことを」
「神ですか、バーガー様が信仰しているなんて初耳ですね。タスレ村ではそこまで流行ってないんですけど。ちなみにどの宗教ですか?」
「女神になるのかな、下僕みたいなもんだけどさ」
「女神? 聞いたことのない神様ですね。あ、勝利の女神とか、そういう意味ですか?」
あれ? 女神って有名な神じゃないのか? 唯一神とばかり。まぁ、村では信仰心の強いやつなんて王国から来た人が数人いるくらいだしな。
それに女神を信仰するなんて家族を人質に取られたとか、そんなことがない限り無理な話だわな、いるとしたら狂信者くらいなものだろう。それなら一定層はいるのか······やだ怖い。
「まぁ、そんなところだ。む、あれは」
俺が見据えるのは、木々が鬱蒼と生い茂る空間だ。明らかに雰囲気があそこから変わっている。
「はい、あそこからが森の奥になります。馬を放ちましょう、口笛で駆けつけるように躾てあるので、縛り付けるよりかえって安全です」
「わかった、ここからは歩きだ、肩に乗るぞ」
「はい!」
俺はアイナに優しく持ち上げられ肩に乗せてもらう。俺の短剣は使う時以外、アイナが持ってくれている。
「乗り心地はどうですか?」
「うん、いい感じだ。俺、重くない?」
「ふふ、何を女子みたいなことを言ってるんですか、バーガー様くらいなら射撃にも支障は出ませんよ」
今更だが、今の俺は戦うすべをほとんど持っていない。いちおう短剣はあるがどのくらい戦えるか正直不安だ。あの青猪とやりあえと言われたら五分五分くらいだろう。
どちらかというと今の俺はヒーラーだ、大事な薬草を3枚も挟ませてもらった。干し肉も挟んであるので多少動き回った程度で薬草が萎びることもない。それとは別に解毒草も1枚だけ挟んである。
「済まないな、今の俺にはまともに戦うすべがない。回復役が精一杯だ」
「何を言ってるんですか。私、バーガー様が来ると言ってくれた時、すごく嬉しかったんです。正直1人では心細かったので······」
そう、だよな。危険な森の奥に1人で。村一番の弓の名手、先の戦いでも唯一無傷で戦いきったとはいっても、彼女はまだ10歳の女の子なんだ。それなのに俺は何を弱音を、前世の過酷な筋トレの時にだって弱音なんて吐いたことないのに。
「ふっ、俺がアイナを1人では危険なところに行かせるわけがないだろう。それに俺には父からもらった短剣がある。任せておけ」
「バーガー様······、はい! 頼りにしてます!」
俺たちは森の奥に侵入した、魔物が住まう魔の森へ。




