第10話 ジジイが語るババアの話
俺の生存が村に知れ渡るころ、ルフレオがタスレ村を旅立つことになった。人と話すのに慣れたのもルフレオのお陰だ。15年のブランクは抜けきっていないが、このくらい話せれば十分だろう。彼からは、この1年色々なことを教わった。
とは言っても、俺は魔法が使えないので、ただの勉強会だったり、世間話なんかをした。
こんなことを思っていると、次に女神とあった時に、またつまらないと言われるかもしれないが······、それでもいい、ジジイを語らせてくれ。
この世界の大まかな歴史も教えてもらった。とても簡単な話だ。王国と魔王の話だ。ただの1度も決着が付いておらず、大戦から小競り合いまで、いまだに戦を繰り返しているそうだ。
世界の歴史とは戦争の歴史だ。
そこに希望をもたらしたのが、的中率120%を誇る(5回に1回、2回当たる)、伝説の占い婆さんだ。彼女の放った言葉が王国全土に瞬く間に広まった。内容はこうだ。
『マジでスッゲェ勇者的な? 奴が爆誕すっから覚悟よろ』
神の言葉を授かり極度の興奮状態に陥っていたのだろう。その後、シラフに戻った占い婆さんは占いの詳細を紙に記した。そしてさらに数ヵ月後、ラップバトルに負けた占い婆さんはこの世を去った。
何を隠そうルフレオはその占い婆さんの夫で、勇者を一目見たがっていた婆さんに代わって、王国から旅をしてきたそうだ。
「ワシにはラップのことは分からぬ、できるのは詠唱のみよ。ただ、今思えばジャンクフードをこよなく愛するポップなバーさんじゃったわい」
「俺、立派なジャンクフードになります」
「うむ、その熱いハート忘れるでないぞ」
俺は魔法使いルフレオを見送り帰路についた。俺は勇者、ジャンクフードの王道として恥じのないように生きなければ! とりあえず道の真ん中を這って帰った。
魔王がいるんだよな、あの女神のことだ、どうせトラックみたいに魔王もぶつけてくるに決まってる。このままではダメだ、鍛錬以外にもやらねば。
気になることは、バンズに挟んだものの力を使えるかどうかだな。自分の意思で使えるなら、擬似的な魔法を使えるようになるかもしれない。俺の武器は具材。食材の分だけ俺は強くなる。
「え、なんて? ちぎって欲しい? バーガーを?」
俺からの突拍子のない頼みにセニャンは困惑している。挟んだ薬草を試すには、傷を負わないといけない。
「ちょっとだけ、ちねってほしいんです。大丈夫です、バンズ裏の魔法陣を傷つけないように表面を軽くでいいんで」
「そっか、分かったで、ドMなんやな。あたしのムチとロウソクもってくるわ、待っとれ」
いつもどんなプレイをされているんですか?
「いや、違うんです、試したいことがあるだけなんで、多分上手くいくと思うので」
「なんや、じゃあ、ちょっとだけやで······」
セニャンは恐る恐る俺をちねる、ぶりんと上のバンズ(クラウンという)の一部が千切られる。痛がるとセニャンが気の毒なので、表情には一切出さないが、人間で言うと肉を1センチ程度ペンチで千切られたような痛みだ。なにトラックに轢かれるよりは痛くない。
よし、小指の先くらい欠けたな、じゃあ、第二段階だ。俺は挟んでいる薬草に意識を向けてみる。パンよ生えろ! むむ、なんだこれ。
俺の脳内に『薬草より治癒を検出、1回使用可能』という声が流れる。
なんだこれ、こんなこと薬草挟んで1年経つが一度も無かったぞ、というか、このアナウンスの声、女神っぽいな。まぁ、いいや、口調も違うし、他人の空似だろう。俺は『使う』と念じてみた。
「『治癒』」
俺のパンでできた声帯を使って女神声が詠唱する。痛みがひいていく。
「うっわ! 治ったで! なんやこれ、どうなってるんや!」
「せ、成功しひゃ······」
俺は脱力感に襲われた、薬草を吐き出す、萎びている。そういえば1回使用可能と言っていたな······。
「お願いします······どうか······薬草を······挟んでください」
「唐突に弱気になんなやー、ちょっと待っとれ!」
セニャンは手慣れた手つきで俺に薬草を挟んでくれた。力が湧いてくる。なるほど、これはアイナに齧られた時に薬草が萎びるのが早くなるわけだ。というか、気を失っている時にはオートで使ってくれるのか、これは治癒に限った話なのか? もし違うものを挟んで気を失ったら、勝手に使ってしまうのでは? くぅ、楽しくなってきやがった。試すことが一気に増えた。
「さっきえらい綺麗な声で、治癒って言いよったな? なんや、声帯に女の子飼ってるんか?」
「いえ、気になるなら開いて見てくださいよ······中に誰もいませんよ」
実験を開始する、まずは草だ。




