五十九話 災いなくして影落つる
「ふー」
コップを片手に、クレインがのんびりと眼前に広がる景観を眺めている。
その姿は珍しくも金属製の装備が一切なく、木綿の服を身にまとっていた。
足首まで丈のあるそれは、ゆったりと余裕のあるもので、帯で留める類の衣服のようだ。
少なくとも農商国家にはなく、クレインにしても初めて見る代物である。
なにより、鎧も剣も身につけていないなど一体どれほどぶりの事だろうか。思わずそれこそが初めてであると錯覚しそうだ。
死の島で鉄屑から装備を作って以降、どちらかは身につけるなりして必ず手元にある生活のはず。
であれば、クレインとしても中々落ち着かないものだろう。長年、常日頃それらが傍にあったのだ。今や体の一部、延長線にある存在と言っても過言ではない。
最初こそ違和感にしっくり来ない様子のクレイン。だがそれさえも慣れてしまい、赤みが差した頬に緩んだ顔で雄大な山の眺めを楽しんでいた。
「話には聞いていたが本当にいい所だなぁ」
巨大な火山を有する国。火の国。
その山だけが注目されがちではあるが、国土の多くはその他と分類されてしまっている山脈で占めている。
火の国が西の征服派や招かれざる者達の壁役となっているのは、なにも国の位置だけの話ではない。それらが文字通りの壁となっているからだ。
更には遥か昔からこの地で暮らしてきた人々が多いのも大きな理由となっている。
悪さを企む輩が山に潜んだところで、この山々をまるで庭のように歩き回る彼らの前ではやり過ごす事すら困難である。それこそが火の国という壁の強固さを磐石のものとしている、と言っても御幣ではない。
して、そんな他国にクレインがいる訳だが、またぞろ無断によるものかと言えば、後ろに控える人物がいる。それも三人。
しかしその中にカインの姿はなく、一人はアニカ・ゲフォルゲという城内ならまだしも、外ではあまりにも珍しい組み合わせ。
そして従者であるはずの彼女は、三人の中でただ一人クレインと同じ服を纏って満喫している様子であった。
「……いや、というかお前らも羽を伸ばせよ。そんな肩肘張っていたところで、なにも分かりはしないだろ」
赤みが差した頬に髪を後ろで結わえたアニカの背後。他二名の付き人がビクリとする。
彼らの高そうな衣服からして相応の役職についているようだが、如何せん相手がクレイン。
そう、側近のカイン・エアーヴンに丸投げをし、制御どころか交流さえも放棄している己らの主君、クレイン・エンダーなのだ。
平時ならば二人とも多くの部下を束ね、矜持とその地位に対する誇りを胸に日々の勤めを励むところ。
だが今は顔を引きつらせて、クレインの一挙手一投足に気を揉み、口が開かれればビクリと震える。
「全くです。こんな好機を無為に過ごすなど、私には到底理解できませんね」
腰に手を当ててグビリ、とアニカは手にしたコップを大きく仰ぐ。
「自分で言っておいてアレだが、本当にいい性格しているよな。そのくせ、周りからは清廉潔白気品上品女神様。どうしたらそう思われるんだ?」
「そう言われましてもそこを目指したわけでもなく、特別意識もしていませんので……強いて挙げるなら日頃の行いでしょうか」
「アドバイスを貰ったところで、壊滅的に自分の足りない部分だったかー……」
直前の彼女の行動。
普通ならばあけすけで豪快さを印象付けるところだが、彼女からはそれを感じられる事はない。その妙な姿勢の良さの所為だろうか、と問えばそれが答えにしては違和感が残る。
恐らくは彼女本来が持つイメージというのものが、目前の光景に抱く印象を上方修正しているのだろう。しかしそれはただの伝聞だけのイメージ像であれば崩れるだけの話だ。
つまりは助言どおり日頃の行い。その姿がどうであるかが問題なのだ。
「ここまで人の目を気にするな、とは言わないがお前らもちゃんと楽しんで意見を出してくれよ。宣誓したとおり、買い物は貨幣を使う。交渉はしない。一人で勝手に行動を取らない……のを遵守するからさ」
そもそもそんな事を誓約しなくてはならないのが大問題である。
が、当然ながら二人にはそれを指摘する勇気もなく。
「お目付け役の自負とかもあるんだろうが、本来の目的はそうじゃないだろ?」
そう。まずなんで火の国にこうしてぞろぞろと来ているか。
しかも満喫する二人の様子の通り温泉施設にだ。
しかしこの手の大抵の疑問はただ一つの答えしかなかったりするものである。そう何時もどおりにクレインが発端となっているわけで。
「なあカイン。ここって保養施設、みたいなものってないのか?」
「藪から棒になんなんですか」
「いやだって、そりゃ俺が原因なのは分かるが、さ」
クレインの部屋の窓から見える城で働く人々の姿。
特に机仕事をしている者のやつれっぷりには末恐ろしささえある。
クレインの中での彼らの印象は、常に頬は痩せこけどこか目が虚ろなもの。
いや、実際にはそんな酷い事はないのだが、クレインが農商国家に来た当初はそうした人物が多かった所為でそのイメージが定着してしまったのだ。
今では疲労感たっぷり程度に健康的で、しかし上質な滋養薬を片手に職務に当たる者も少なくない、程度には良くなっている。
もっともその不完全過ぎる改善が、イメージを払拭できない理由でもあるのだが。
して、とどのつまり早い話をすればこいつら休もうとかないの? というわけである。
「……そうですね、いつ殺されるか分からない、という事実に即した心労と引き換えに、暴君故にあまり仕事がなかった一部の者には、正常に仕事が回るようになったあまりそのツケを払っていたり、魔王様の暴走の尻拭いがあったり、今までも多忙だった者が更に忙殺されたりしていますが……総合的に見れば環境はだいぶ改善されていますよ」
命までは取られない、が確約されたのだから大きな変化とも言える。
クローズアップすれば良かったのだろう。
が、クレインにはあまり幸せそうには見えようもないわけで。
「俺ならあんなんになるまで働くとか絶対無理だな……」
「既に現状でしょっちゅう逃げている人がなにを言っているんですか」
馬に逃げたり、食材調達に逃げたり。逃げる先には魔王のまの字もつきはしない。
もはや、クレインが角と翼を生やした姿で各地の巡回を目的とせずに空を飛ぶのも、農商国家の風物詩となりつつある。少なくともこの城下町では、それを目撃して驚いたりする者はもういない。
「そろそろ順番にゆっくり休ませる、とかできないものなのか?」
「できはしますが……まあ、自分の仕事が気になって満足に休息できないと思いますよ?」
「国の為に粉骨砕身。有り難い事だがここまで行くと病気だな……」
「なにを今更。勿論、自分の利益の為に動いている者もいますが、あのゴート様の下でも逃げなかった面々ですよ」
「……なるほど、とっくに濾した後の選りすぐりの重篤者の集まりだったか」
仮にも甘い汁がすすれたとして、気分一つで手にかけていた荒ぶる魔王ゴート・ヴァダーベンの時代を文字通りに生き残った家臣達。
それも大半が苦渋をすすっていたのであったのだから、その意志だけならば水の都市のような大国にさえ並ぶのではないだろうか。
「じゃあそれこそだ。例えば日帰りで行けてリフレッシュできる、なんて場所とかないのか?」
「城内にリラクゼーションを目的とした施設なら……」
「なにそれ初耳。そんなのあったのか」
「ありましたがいい加減、再開できるように計画を進めるのも有りですね」
「完全に過去形……ああ、理由は分かった」
岩の様な大男の姿が脳裏を過ぎる。
恐らくなにも言及はしなかったのだろう。が、周りが身の危険を感じて取りやめた。概ねそんなあたりが正解か。
「なら郊外とかどうだ。一泊二日とかでちょっと行けるところとか」
「うーん……私自身、そういったものにあまり詳しくないので特に記憶していませんね」
カインとて生まれはゴート時代。そんな事柄よりも優先すべきものがあまりにも多かったのだ。
むしろ休養する場所についてを考えた事さえないほどである。
「森林浴ならそこらの山でもできますし、本格的なものなら樹海の国があります。温泉の類は火の国の専売特許ですし……こうして考えると国内にはそうした施設ってありませんね」
「隣国とは言え、そうほいほい行けるもんでもないだろ。誰も作ろうとか思わなかったのか……」
「この一帯は元々、平凡でなにもない土地だったそうですからね」
「……よし。ならば火の国への旅行を企画しよう」
「多忙を労わり、更に上乗せするのですか……そうですね、恥を忍んで他国の魔王様にご協力を乞い、貴方を火口に落とすとしましょうか」
さっとメモを取り出すとなにかを走り書きをし始める。
振りによる冗談と思いたいが、今のカインの瞳は酷く濁っているようで。
本気で書簡を作るつもりにしか見えない。
「待て待て待て! 今回は俺が主体となるから! ちゃんと真面目に働くから!」
「いえ、それでしたらちゃんとした仕事に向いてほしいのですが……それはそれで二度手間になって苦労もしそうですけども」
「時折思うんだが、俺の魔王としての仕事の処理能力が分かっているのに、敢えてそれをやらせようという考えはなんだ? 適所不適材にも程があるだろ」
「不適材を脱却するぐらいには成長して下さい、という意味を一体何度申し上げたと……?」
冷え冷えとした視線がクレインを突き刺す。
日頃言われている事だが、全く伝わっていないのが露呈した瞬間であった。
完全に墓穴である。
「……でだな。俺と何名かを連れて火の国に行って温泉施設を視察してくる。良さそうなところを見つけたら、少数のグループで順次行かせる。どうだ?」
「誰もが行きたいとは限らないと思いますが?」
ただでさえ仕事中毒者達。
それも個人の好みが介在する事柄だけに、間違いなく発生する問題だ。
「日程分の休暇か……趣旨からずれるが臨時報酬かなんかの名目で給金。この辺りで選ばせるのはどうだ? なんならどんなのがいいかアンケートを取るのもいいが……流石にそれは手間か?」
「全体にアンケートは難しいでしょうね。大体、その旅費はどうするんです」
「別に俺がある程度負担すればいいだろ。そこそこの場所なら、結構な人数を連れて行けるだろ」
「相変わらず自分の富に執着しませんね……」
曲がりなりにも魔王であるクレイン。その懐に入るものも相応のものであるのだ。
だが舌が肥えているわけでもなく、ブランド志向もない。
贅沢らしい贅沢の考えがなく、食事を大盛りにしたり単品を追加したり。その程度で買える贅沢なのだ。実に安いものである。
それが今や肩書き魔王。一月分として手にする金額で一年を過ごすなど容易いもの。
もっとも実践するとなれば、ただでさえ無頓着な外面が更に悪くなり、間違いなくカインに止められるのだが。
「どうだろうか?」
「連れて行く人員の穴埋めはどうするんですか……」
「温泉好きな奴を知らないか? まずは同行者が楽しめなくちゃなあ。それで比較的手の開いてるところで」
「少し聞いてみない事には分かりませんが……やるだけやってみましょうか。内容自体は悪いものでもないですし。ご自身でされるという事は、アンケートによせ褒美の選択にせよ、その集計もなさるのでしょう? 例え徹夜になろうとも」
「……え、あ、はい……そうか、そうなるのか」
そんなこんなでこうして視察までは実現されたというわけである。
「……そ、それでは我々も入らせて頂きます」
「おー行って来い行って来い」
そもそも連れてきた二人とて、温泉が好きか、という話題を振られての選抜であるのだ。入りたくないわけがない。
しかし自国の魔王の前で……という考えも働いていたのだろう。
「全く、ここまで言ってようやっとか。仕事熱心もここまで来ると考えものだな」
「ですがこれで良かったのでは? どうせ入るのであれば、主君の目から離れたところで入りたいでしょうし」
「……あー。駄目だな、まだまだ自分の立場と影響力に配慮が行き届いていない」
「カイン殿から聞きましたが、そもそも上司、というものがある環境すらご経験がないのでしょう? それはそれで常軌を逸した過去であるとは思いますが、ゆっくり学んでいかれるので問題ないかと思いますよ」
悔しそうにガリガリと後頭部を掻くクレインに、アニカが優しく微笑みかける。
なるほど、と彼女に対する周囲の評価を改めて実感した。
相手を理解し心中を汲み取って寄り添える。こうした他者との繋がり方が、彼女を高潔さだけに留めていないのだろう。
「本当にいい理解者だよアニカは……。ところで貶されている気がするのは気のせいかな?」
「クレイン様は可能な限り対等な関係を求められてる、と判断した上での事です。それとも歯に衣着せておべっかを使いましょうか?」
「是非とも今のままで。でもちょっとだけアニカに常軌を逸している、と思われたのはショックだなぁ」
「そう仰られましても……私も大概なのは自覚していますが、根本的にクレイン様を超えられる人はそうそういないと思いますよ……?」
「……いや、そりゃそうなんだけどさ」
率直に言われると僅かばかし傷つきもする。
「そんなに変かぁ。分かってはいたが、他にいないほどかー……。水の魔王よりも?」
「既に激動の人生ではあるでしょうが、それでもまだ王族としてその範疇にあると言えます。ですが……幼少から一人で旅をして、賊狩りという一方は英雄、一方は死神という存在になり、果ては魔王になる。正直言って、別の次元のなにかかと」
「そ、そこまで? そうか、そうなのか……」
「そりゃそうだ」
「うーん、自分の事、過小評価していたな」
「ある意味で頭打ちですので、どんなに自己評価を高めても過大評価にはならないと思いますよ」
「まあ、評価項目そのものがマイナスだけどな」
「……一人増えてないか?」
途中から明らかに違う声が加わっている事に気づき、怪訝そうに振り返るクレイン。
見れば爽快感のある笑顔で火の魔王クロム・ファクトが立っていた。
ここは農商国家から最寄の温泉地。当然ながら火の国の魔王城からはだいぶ離れている。
「他国の温泉へ視察に来る魔王。未来永劫、荒ぶる魔王だけだな」
「火の魔王様、お久しぶりでございます」
「ようゲフォルゲ。ようやく悪魔の様な巡回業務が終わったようでなによりだ」
「色々と言いたい事があるが……面識あるの?」
恭しく礼をするアニカに驚いた様子のクレインが問いかける。
他国の魔王に名前を覚えられているとは一体何事があったのか。
王政でないとは言え、そうあるものではないだろう。
「各地の巡回時にどうしても物資の補給が必要となり、火の国に立ち寄らせて頂いた事がありまして。その時、たまたま火の魔王様とお会いしたのです」
「今日もたまたま、なわけないか」
「他国の魔王が自分のところの施設を見学したい、て言われて放置する魔王は……まあいないよな」
「あ、ちゃんと連絡していたのですね」
「お前……流石の俺でも無断でやったら、国際問題に成りかねないのは分かるわ」
そう農商国家として、魔王として。
だが、飽くまで個人として動いた場合は、樹海の国と水の都市でのあの様であったわけである。果たしてそれを理解しているのやら。
「なんにせよ、こっちとしては話したい事があったから手間が省けて助かるよ」
「私は席を外しましょうか?」
「いや、ゲフォルゲも一緒に聞いておいて欲しい。表面化したら君も関わる事になるだろうしな。ついて来てくれ」
「……?」
クレインとアニカは二人して首を傾げつつ、クロムの後を追いかけるのであった。
初めて訪れる者にはこの温泉街の規模の大きさに感嘆の息も漏らすだろう。
だが、火の国においてこの場所は無数にある温泉街の一つであり、さほど大きいところでもないのだ。
そんな場所であるとなると、魔王二人と従者一人が連れ立ったところで、そうご大層な場所もなく、クレイン達がいた施設からさほど遠くない店へ進む。
店内に足を踏み入れた途端、漂うコーヒーの香りが鼻孔をくすぐった。
こんな場所であっても、喫茶店の様な店もあるのだ。火の国の外ならば温泉街というものも珍しく、見るもの全てが新鮮、という人達にしてみれば、不釣合いのようにも映るだろう。
しかし、なにも客は他所の者ばかりではない。
当然この一帯で働く人々。温泉街としての町が当たり前の彼らには、ごく一般的な店も必要となるのだ。
そう考えれば当然の事であるものの、クレインはどうしても飲み込めないようで、ポカンと口を開けているのであった。
「農商国家にだって喫茶店ぐらいあるだろう? そんな顔してないでとっととこっちに座れって」
「そういうわけじゃ……いや、俺が世間知らずなだけだ。気にしないでくれ」
「火の魔王様、本当にこちらでいいのですか? 先ほどの話を聞く限り、あまり大っぴらに話せる内容にも思えないのですが」
「大丈夫だ。小声で話せば、な」
三人にとっては都合の良い時間のようで、店内には他に客がいない状態である。
それはそれで店員の耳に入りやすくもなるが、周囲の席を気にしなくていいのは随分と楽なものだ。
「単刀直入に言うと西の動きに関してだ」
「こっちは穏やかなものなんだが気になる事でもあったのか?」
「水面下で、という状況だな。まだ目的もはっきりしていない」
「一応確認するが賊? 国?」
「前者だな。というか後者ならそれこそ各国魔王を緊急召集する事態だ」
当然である。
そうとならば、いよいよ共存派対征服派の争いが始まるという意味だ。
無論、相手側が団結してくるとも到底思えない。が、それ故に謀略を仕込まれる危険性が高まるわけで、どの道厳重警戒の呼びかけや対策について話し合う場は必要になる。
「だが、敢えてそんな話をするんだ。そこまで悠長に構えていていいってものじゃないんだろ?」
「ああ。賊は荒ぶる魔王も知ってのとおりグループで見れば規模は小さい。だが、どうにも結託しているというか……組織だって動いている節がある。とにかく西側の警備を厚くした方がいい。ゲフォルゲには悪いが、以前の巡回をその地点周辺に絞って再開させるべきだ」
「クレイン様、有事とあらば私は今すぐにででも構いません」
「いや、新しい運用がかなり進んでいる。戻ったら早急に各地へ派遣させるようにしよう」
未だ実施には至っていなかったものの、アニカ達が城に戻ってから行われていた計画。新たに部隊を編成し、各個の負担を減らした方法での巡回。それもいよいよ大詰めを迎えていたのだ。
この凶報がもっと前に出たものだったら頭を悩ますところであったが、むしろ都合いいとまで言える。
「それにしても、いい加減向こうの国はこれを問題として取り組まないものなのか? 下手すりゃ連中の国の責任として、追求されてもおかしくないだろ?」
「向こうは飽くまで自分達も手を焼いているアピールで被害者面だからな。だいぶ昔、問題視した共存派から、取り締まるようにと色々支援したりもしたそうだが……効果がない、というより物資や支援金を着服されて終わったそうだ」
「……鉄の国は軍も賄賂どころか強盗もするっていうしなぁ。賊と国が繋がっているとか……あったらとっくに動いているか」
「ちょっと待ってくれ。なんだその話、俺でも知らないぞ……? もしかして、賊狩りやっていた時か?」
クロムにとって思いがけない情報に、食い入る勢いで話に飛びついた。
共存派の中では国の位置もあって、征服派の国について一番の情報通のはずだが、内部事情までは見えていないのだろう。
「行った事はないが中央は腐敗が酷いそうだ。権力をひけらかしてやりたい放題やっているってところか?」
「そんな状態だったのか……国としての交流も持てなくて、その辺りの情報は全く窺えないんだよな」
「向こうの国内じゃ割りと一般的な話のようだが。火の国には伝わらないとすると、商人達とかには緘口令のようなものでもあるのかな」
「かも、しれないな。ただでさえ、過去に支援を食い物にしているんだ。そんな話を探られたくはないだろう」
それ以前に征服派であるのだ。なにを考えてこそこそとしているかも分かったものではない。
干渉されるのは酷く嫌うに決まっている。
「他の征服派はどうだ? お互い出し抜こうとしているんだろ? 族とはいえ、他所の連中に引っ掻き回されるのは快く思いはしないだろ。それに剣の国とかはどうなんだ?」
「そもそも征服派自体、こちらのようにコミュニティ性がないからな。どこもそれらしい動きはない。存外……事が起こればそれに乗じて本当の衝突を起こすつもりかもしれないな」
「国力なんかの差を考えたらむしろ好機、か。俺には理解できないが、戦争になったとしたらどうなるんだ?」
「荒ぶる魔王を除けば共存派と征服派の魔王は全員、巨大な本体をもつ種族だ。短期決戦で収束できなければ、広範囲に渡って戦火に焼き尽くされるだろうな」
遥か過去。北の大陸における戦争時代は血で血を洗う惨状だったという。
だが今に比べたら種族ごとの力も弱く、例え水の魔王であるスフェスター家でさえ、単体で広範囲に影響を与える巨大な水龍とはなり得なかったのだ。
故に現代において、当時の再現となったら及ぶであろう被害は、過去の比にならないのは明白であった。
「想像はしていたがやっぱそうか……。それにしても、俺の事も調査済みか」
「なにを言っているんだ。荒ぶる魔王が巨大化する種族だったら、とっくに農商国家の魔王城崩壊の話が流れているだろ。もっとも……崩壊させずに先代荒ぶる魔王を下した、ていうのも信じがたいけどな」
「それに関しては私が保証します。クレイン様ならば可能であると断じる事ができます」
「俺も瀕死だったし記憶がないから保証しないでほしいなぁ」
まずもって未だに本人が信じられないのだ。
もう一度ゴート・ヴァダーベンを討て、と言われたら絶対にやりたくない、とクレインは言うだろう。
動機はどうであれ、少なくともあの時の熱は今の彼にはないのだ。
「とにかく、伝えてくれてありがとう。こっちも気をつけておく」
「ああ、努々足元を掬われないようにな」
思いがけない話に、クレインとアニカは一度顔を見合わせる。
しかし、一切の予想がなかったわけではない。
ゴート・ヴァダーベンからクレイン・エンダーへ。一つの国の魔王が、それも世襲ではなく変わったのだ。
その影響は他国にも及んで当然の事である。
不穏な影がクレインによって引き起こされたかは定かではないが、この時代の変化のうねりは、今も尚大きく揺らいでいるのであった。




