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オパールの杯に乾杯を  作者: 一矢
二章 誓う者
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五十一話 共存派

 農商国家、魔王城。


 ここが特別、という事ではないが城内に大きな書庫が設けられている。


 自国の歴史に留まらず各国を記したものや、魔王の規範や規律、在り方を記したもの。果てには様々な学術書なども揃えられており、調べ物があるならばまずはここから、とされているほどであった。


 そして今、クレインが足しげくそこへ通う日々が続いている。


 中庭を耕してから数ヶ月が経っており、既に秋に実る作物の収穫も進んでいた。


 勿論、市場に出せるほどのものはできていない。だが、味に多少の難があるものの食べられないわけでもなく、日々城内で消費されている。


 着込まなくては肌寒い日も多くなってきており、クレインは農作業の合間に山のような本を持ってきては、自室で読み耽っていた。


「こうして見ると、明日には世界が滅ぶのではないかと思います」


 そんな姿にカインは戦慄さえも覚えていそうな表情で呟く。


 散々クレインに学べと言った挙句、実際に行動してみたらこれである。さしものクレインも文句の一つも言いたくなるだろうが、当の本人は目を逸らしながら苦笑をするばかりであった。


 それもそのはず、ここまでまともに学ぶ姿勢を見せたのはつい最近の事である。謹慎中とて手に取る本は自分の趣味や興味のあるものが多く、こうした本を読んだのははて何冊であっただろうか。


 農商国家の魔王となって半年以上。とうにカインも諦めていたのだ。


「いやあ、農業を学んでいる内に興味が湧いたというか」

「順序は逆であって欲しかったです」


 心底に、と言いたげな様子のカインの眼差しも、見て見ぬ振りをして本を読むクレイン。


 そこに書かれているのは人間という種族について。つまりは誰でも知る南の大陸の渡来禁止にも関わる内容だ。


 あまりにも常識的な学術が欠落しているクレインにとっては、有り難い事この上ない本である。


(これが当たり前過ぎて理由まで知れなかったが、過去に王家を絡んで人間といざこざがあったから、か。そこを明確にしてないって事はよほどの騒動だったんだろうな)


 ペラリとページをめくり更に読み進める。


 その当時では全ての国が征服派か南の大陸からの一切の干渉を拒否する、拒絶派かに分かれていたようだ。


 つまるところ、北の大陸全土が南の大陸の、人間という種に恨みや怒りがあったと考えられる。


 果たして拒絶派は得てしてそれを選択したのか。最後の温情としてなのか、あるいは到底許せまいが南の大陸のみに責任の所在があるのでない、という主張なのか。


 どちらであるかによっては、この事態の全貌は随分と違うものになる。


(ま、今のところ知るべきはそこじゃあないな)


 クレインが本から顔を上げると、カインは既にこちらを見もせず黙々と書類と格闘していた。


 何時もながら、机の上に詰まれた紙の束。よくあれに手がつけられるとクレインは感心する。


 自分なら一枚二枚と手にとって読んでいる内に、外に逃げ出しているだろう。


「一つ聞きたいんだが、やっぱり先代は征服派を語っていたんだろ?」

「……正確に言うとそんな事はありませんでした」

「え? ……いや待て、あれが共存を謳うとかあり得なくないか?」


 クレインが目を見開いて驚く。


 平和からもっとも対極にあるであろう存在だったのだ。無理もない。


「ええ、そうですね。正しくはなにも明言されていません」

「それはつまり、眼中になかった?」

「はい。ですがまあ、他の国々はおろか城内でも征服派であると考えていましたが」

「……そうなるよな」


 むしろそう思わない人物がいるのだろうか。


 探し出せたら金銀財宝を渡してもいい。むしろそんな事を思っていた人物にこそ進呈すべきかもしれない。


「実質、立場なだけでなにかをする事は殆どありませんが、魔王様が南の大陸に対する姿勢をどのようにするか。少しでも考えていらっしゃいますか?」

「共存派」

「……夕食のメニューを聞いているのではないのですが」

「真面目に答えたはずだったんだけどなあ……」

「まあいいでしょう。公言するにしても今すぐにする必要もありません。追々話し合う時間を設けます」


 クレインの言葉に果たしてどうだか、といった様子のカイン。


 だがクレインは軽くあしらわれた事よりも、別の言葉に引っかかる。


「そんなに黙っていられるものなのか?」


 ただでさえ半年、外交らしい外交はなにもしていないのだ。少なくともクレインは。


「一部の国では数カ国で集まり協議などを行っています。共存派の集まりですね」

「あ、そういうのあるにはあるのか」


 実際は派閥関係なく行う事を前提としている。


 が、わざわざそれに応じる征服派もおらず、彼らからは最低限の接触に留まり、結果その協議の殆どは仲間内での集まりになってしまっているのだ。


「その協議も年に数回あるかないか。更には基本的に出席国も固まっていますので、いくら共存派に舵を切るといったところで、慌てて出席する必要もありません」

「へー……。因みに今のところ共存派のメリットは?」

「……」


 珍しくもカインが押し黙る。


 実質立場なだけ。つまりはメリットもデメリットもないのだろう。


 だが、はっとカインがなにかに気づいたようで、目を輝かせてクレインに向き直った。


「貿易がし易くなります!」

「そういう角度からきたか。共存派と征服派ってそこまで険悪なのか?」

「いえ、ビジネスライクな繋がりはあります。例えば西の鉄の国はその名の通り、鉄が多く採れる上に上質な為、輸入している共存派の国は少なくありません」


 が、と咳払いをして付け加えられる。


「この国は……先代の事がありますので、侵略行動こそありませんでしたが各国警戒しておりまして。商人達も怖がって近づきませんし、だからこそ国で商人を抱えているわけでして」

「あー。俺が平和アピールすれば多少は改善されていくって話か」

「そんなところです」

「でも結局それだってまだの方がいいんだろう?」


 暴君を演じた理由は、外部からの干渉がなかった先代の環境を維持したかったが為である。


 半年経ったとは言え、まだまだ問題は山積したままなのだ。


「そうですね。派閥も含めて、長くても二年の内に声明を出せばいいでしょうか」

「思った以上にルーズだな」

「魔王様がどのような時間感覚をお持ちかは分かりませんが、一年二年なんてあっという間ですし、僅かな時間なものですよ」

「……それもそうか」


 カインの言葉にクレインが神妙な顔で頷く。


 島で暮らしていた時は、余暇こそあれど食糧確保であったり一日の時間の使い方は非常に重要であった。


 季節ごとに行動はパターン化していたが、考えなしに過ごし続けて問題ないという事もない。


 更に一日一日が満ち足りていたからこそ、あっという間であったが濃厚であり、思い返せばとても長い年月であったように思える。


 だが大陸に来てからそれも一変、本当に過ぎ去るような日々であった。


 クレインの心境も相まって無味乾燥の時間は振り返っても重みがなく、それこそ島での時間ほども経っていないのでは、とさえ感じさせる。


「とは言え、水の都市から使者が来る可能性もありますし、せめて一般常識の一つや二つは身につけておいて頂かないといけませんね」

「……うん? なんで来るんだ? 友好的だったのか?」

「水の都市は全ての国に接触を行っています。一つにまとめたい、とまではいかないでしょうが、手を取り合いたいとお考えのようです」

「あーツートップの国だしそういう使命感もあるって事か」

「そんな訳でして」


 本棚の前でつー、と指を滑らせていき、一冊の本の前で止まると手早く抜き出してクレインの前に差し出した。


 今すぐ読め、という無言の圧力の下、クレインは手に取り表紙をめくる。


 細密に描かれた地図が飾る1ページ目。


「簡単にではありますが、各国の説明をしていきますね。まず前提としまして、魔王様のように姿を変えられる種族は珍しくありませんが、魔王様のようなタイプは稀です。というかそういう種族がまだ存在したんですね、というほどですね」

「……どういう意味だ?」

「言わば本当の姿を持つ。人型が仮初という種族は強大な力にして巨大な魔物種なんです。一種族だけ例外がいますが。まあ、人の姿を維持しているほど力があるので、総じて『元』がつき魔族の扱いなんですけども」

「つまり……例えばドラゴンが人の姿で生活している、とか?」

「その通りです」

「……じゃあ今まで出会った人々ももしかしたら。いや待て、あれだけ戦ってきたがそんな奴はいなかったぞ?」


 真なる姿というのであれば、当然力もそちらの時の方が上なのだろう。


 だが賊狩りとして長く命を賭けた戦いの中を過ごしてきたがそうした者達はいなかった。


 いくら、一対多の不利な状況であるからと隠密と奇襲を主軸にした戦い方を続けてきたとて、対峙する事がなかったわけではない。


 その時だけたまたま彼らではなかった、というのはあまりにも都合が良すぎる。


「確かに数が多いわけではありませんが、それだけの力を持っていて賊に成り下がる人は相当珍しいでしょうね」

「……そりゃそうか」

「彼らは種族として強力な力を有しており、現状において各国の魔王様方は皆、そうした方々で構成されています。王家としてであったり状況は様々ですが」

「あれ? ゴートは違ったよな?」

「ゴート様は『現状』ではないですからね」


 逆に言えばそうした種族でもないのにも関わらず、あれだけの強さであったというのだ。


 正しく比類なき強さ持っていたと言える。


 もしも、どこかの国の王族。『単純に強い種族』として生まれていようものなら、本当に大陸の統一を果たしていたかもしれない。


 討ち取った身とは言え、僅かなズレで間違いなく敗れていた相手。


 それがなかった事に、クレインは心から神に感謝し、同時に身の毛もよだつほどの戦慄が走る。


「さて、それでは国の説明をしていきましょうか」


 そんな様子に気づかず、本題にあたるお勉強会は始まる。



 水の都市。


 大陸中央やや東側に位置し、最古の国の一つであり共存派の中核。


 広大な土地を持っており水資源に囲まれた国だ。


 沿岸部の方面は潮風の国と隣接しており、良好な関係を築いている。


 詳細は定かでないが水の都市より独立だか独り立ちだか、領地を間借りしてるのだか、となんとも謎の生い立ちの国と生きてきた。


 魔王は世襲制であり水を操る飛龍。



 剣の国。


 大陸中央北側を占める、水の都市と並ぶ最古の国の一つ。


 金属資源が豊富であり、国全体で剣術の会得を推奨しており武具の消費がもっとも多い。


 征服派の最大勢力だが征服派自体は一切の団結がない。


 それもあってか、この国を隠れ蓑にするように、西の小国が悪さをしている側面がある。


 他国を意に介さず、正にビジネスライクな国と言えるだろう。


 魔王は世襲制であり鎧をまとった巨人の鎧大将軍。



 火の国。


 大陸中央やや西寄り。水の都市と隣接し、大きな火山を有する国。


 比較的に若い国ではあるものの、水の都市とは縁が深く様々な支援を受けて大国の一つとなった。


 共存派であるものの周囲の殆どが非共存派に囲われている。


 不遇な立地であるもののそうした者達を進入を許す事もなく、今では西の征服派と東の共存派という壁役を担う立場となった。


 魔王選定は選挙制を用いており、現魔王は巨大なサラマンダー。



 山岳都市。


 東の山に位置する国。


 その名の通り国土の殆どが山岳地帯となっている。


 姉妹国として山の奥地には高山都市というのもあり、強い協力関係を持つ。


 陸路で行くにはやや険しい場所である為に、交易が盛んではないものの山の幸を特産とした数々の品は各国でも人気がある。


 それ故に規模は小さいものの、有翼種の行商達の独壇場となっている。


 魔王は人民による指名という半選挙制となっており、ゴーレム種が多い所為か代々魔王はゴーレム種が担っている。



 樹海の国。


 大陸南西部にある巨大な森の中にある国。


 あまりにも森が深く、古くは迷いの森とまで言われたそこの殆どを国土とする。


 今でこそ多くの移住者があった為に環境は変わったものの、当初はある一種族のみで構成されていた。


 様々な菌糸類を特産とし、なによりもこの森に住むある生物が非常に高値で各国と取引される事で有名である。


 世襲制であるものの血筋を変える事もあり、『問題がなければ世襲』といういい加減とも臨機応変が取れるともいえる体制を敷く。


 魔王は元々国を治めていた種族だがあまり公言する事が憚られている。敢えて口にするならばただ一言、菌糸類である、と。



「とまあそのようなところです」

「え? いやいやまだまだあるだろ」

「共存派、となるならば最低限はこの程度は知っておくべき、という話です」

「……全体の国の数からして共存派ですらこの程度、に思うが」

「共存派となっても接点が多いのはその辺りです。征服派であるならば……特に気にしなくて構いません。基本的に接触があっても事務的なものですので、わざわざ魔王様が出られてもただ面倒です」

「協調とか協力とかそういう言葉がごっそり抜け落ちた集団なんだな。征服派って」

「そういう国が多い所為で忌避されているとも言えますがね」


 その第一人者であったのがかの先代魔王なのだからこそ、カインも苦笑せずにはいられなかった。


「で、いくつか質問していいか?」

「なんなりと」

「まず、ずっと疑問だったんだが国と都市ってどう違うんだ。というか国名が都市ってどういう事だ?」

「やはりその質問が来ましたか。魔王様ならきっと存じてないでしょうから聞かれると思っていましたよ」

「いやそうなんだけどナチュラルにバカにするのやめてくれないか?」


 クレインの非難も気にかける値なしとばかりに、カインは華麗に無視して言葉を続ける。


「答えは簡単です。建国された初代魔王に聞けっ、です」

「……」


 なんと言われたのか、それが理解できない様子でクレインはたっぷり数秒、沈黙して思考する。


 そしてようやくその答えに至ったのだろう。


「え? 意味ないの?」

「正確には分かりません。他国ですし、その当時となると相当古い資料を探す必要がありますからね。もしかしたらその国の魔王様に聞けばお答え頂けるかもしれませんが……」

「……なんか微妙に聞きづらいな」

「でしょう?」


 そこですらすらと答えてもらえるならいいものの、もしも何かしらの理由があるにせよ相手も知らなかったら随分と気まずい。


 なるほど、確かに他国にとって中々与り知れぬ内容である。


 そもそもクレインとて、ただ唯一『国家』と自国が称する理由を知らないのだ。


 先代とて別に知っていなさそうだ。存外そんなものなのだろう。


「あー、次の質問。ゴーレムって魔法による動く人形みたいなものじゃないのか? 魔族なの?」

「え?!」


 新たな問いに、それはそれはまるで恐ろしくもおぞましきものでも見たかのように、カインの両の目を見開いて立ち上がった。


「そ、そうですか……。いえ、まさか……そうですね、死の島で生きてきた、という事でしたら貨幣の概念があるだけでも奇跡だと思うべきだったんですよね。私が浅はかでした」

「……お前、魔王が俺でほんっとうに良かったな」


 暴君ゴートでなくても、湯も沸き立つ暴言である。


 半眼のクレインに、自身の失言に気づいたのかカインはゴホンとわざとらしい咳払いを一つ。


「確かにそうしたゴーレムもいます。いえいましたが正しいですね。随分と昔に廃れたと聞いております。今やゴーレムは魔族を指す言葉ですよ。彼らは……どちらかと言えば精霊に類する存在です」

「せ、精霊……?」

「大地や岩石の精霊といったところでしょうか。鉱山の奥深くにはそこで採れる金属のゴーレムも生まれると聞きます」

「……純粋に聞くが繁殖とかってどうなっているんだ?」

「私も専門家ではないので……。ただ魔族化しているゴーレムの方々は、普通に人の姿の時に子供を生むそうですよ」

「精霊ってなんだっけかなぁ」


 そもそも精霊は生物なのだろうか? 有性生殖なのか?


 そんな疑問も生まれはしたが、果たしてここに答えられる者もおらず、一旦その追求は保留とする。


「にしても人形のゴーレムが廃れたってなにかあったのか? 便利そうに思えるんだが」

「作る為の労力に見合わないものらしいです。高度な命令をこなさせるには、作り手の技量が問われるそうですし、それよりも魔法の上達を目指す方が現実的なんだとか」

「夢のない話だ……」


 廃れるほど、という事はゴーレムそのものを作る時点で第一の難関であったのだろう。


 更には役立つ、というレベルともなると眩暈もする難易度というわけだ。


「えーとあとは……これ聞いていいのかな。樹海の国の魔王というか種族って」

「……菌糸類です」


 頑なに明言を避ける答え。


 さて菌糸類が正体とは如何なるものか。


 菌糸からなるもの達。つまりはキノコなどという事だ。


 とは言えその存在は多岐に渡る。


 例えばドラゴンさえも殺す猛毒。例えば不治とされた病さえも治す薬。倒す力であり守る力とも言える。


 決してその正体を恥ずべきものではない。のだがしかし、公言憚るというのであれば彼らにとってはなんのフォローにもなっていないのだろう。


 ならば、それはもしやキノコでないのなら。キノコですらないとしたら。


「カ……のほうか?」

「……。カ……です」


 余白もたっぷり使った会話で、かくも真実は暴かれる。


 そうかー。……ビかぁ。そりゃあ暗黙の了解だよなぁ。当人も周りも口にし辛いし。


 胸中で納得するクレインの脳裏にふっと過ぎるものがあった。


「まあなんだ、白癬菌とかよりかはいいんじゃない、かな?」

「それ絶対に、ぜったいに言わないで下さいよ?」


 今までの叱責が冗談であったかというほどに、いや今までも十分にキレていたのだが、それを遥かに上回る鬼気迫る勢いで釘を刺される。


 それもそのはず。比較対象が水虫。確かにお仲間だ。だからこそである。


 どう考えても、どう解釈しても言われた種族は天をも穿つ怒りに燃える事間違いなし。


 その喧嘩(せんせんふこく)、確かに買った。


 と。


 そしてなにが恐ろしいかと言えば、それこそその正体である。


 体長十数m、あるいは数十mのドラゴン? それすらも生ぬるい。


 確かにそれとて脅威だが、存在している事そのものが恐怖ではないのだ。


 その強靭な体から繰り出される圧倒的暴力、あらゆる物を消し炭にする息吹。それらが真の脅威であり、行動を起こさないのであれば危機こそあれど、被害は発生し得ない。


 では当の種族はどうだろうか。


 人の姿を保てる。魔族へと昇格したほどの力を持っている。


 そんな彼らが真なる姿になったらどうなるというのか。


 具体的には言えばどれ程の量になるというのか! カ○が! 魔力を大量に有する○ビが!


 春を彩る花吹雪か、つむじ風に舞う野に咲く花の綿の嵐か。それらが如く怒涛の勢いで迫って来ようものならば!


 それはもはや存在そのものが脅威であり、魂さえも刈り取る精神攻撃となるであろう。


「……そうだな。誓って今の発言は二度としない」

「くれぐれもよろしく頼みます」


 しかも樹海の国はここ農商国家の隣国。東北東に位置する国。


 共存派として歩むのであれば、接点も多くなりえる。


 軽口一つで滅亡さえも前提とした国際問題など、それこそ後世にまで最悪な形で名を残す事になる。


「……とりあえず目下の目標は国の安定と」


 と区切り、クレインは力強く、


「絶対にやらかしたらいけない一線学んで他国との接触に備える、だな」

「そう多くないとは言え、心からよろしくお願いします」


 絶対に争いは起こさせない。過去の過ちを繰り返してはならない。


 という建前の下。


 凶悪なカ○に恨まれるのは御免こうむる、という決心を胸に刻むのだった。

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