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オパールの杯に乾杯を  作者: 一矢
一章 出会う者
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四話 船

 日が昇るよりも早く野営地を後にした一行は、明るい内に目的の港へと到着した。


 港にいる者達で出航の準備が行われており、残すところは一行が城から持ち出した物だけとなっている。そんな事もあって、港ですべき仕事というのはさほど残っていなかった。


 残りの事は兵士達が率先して行っているが為、手隙となったクレインとエルナ。暇ができてしまった二人は、連れて来ていた馬に乗って、草原を駆けていた。


 ところどころに木々や川や水辺があり、何処までも草地が続く。撫でる風は心地よく、思わずその辺りで転寝でもしたくなる陽気である。


「うわああ! 凄いっ!」


 初めは渋っていたエルナも、いざ乗ってみると興奮を隠すことなく、クレインの背にしがみついたまま、大はしゃぎをしている。


「うわー気持ちいい! お前、馬に乗れるんだな!」

「昔、練習したからな」

「なあ! もっと早く走らせないか?」

「鎧を着た二人が乗っているのだぞ……勘弁をしてやれ」


 可哀想だ、と言わんばかりの雰囲気でクレインはエルナをたしなめた。


「そうかー……あたしも乗馬、練習してみようかなぁ。いいなぁ馬」


 そんなクレインの様子にも気づかず、エルナは興奮を隠す事なく楽しそうにしている。喜んでいるのなら何よりか、とクレインはエルナの呟きに答えた。


「飼う事はあまりお勧めできないのだがな」


 僅かに顔を横に向けて、後方を見るように促した。エルナは何事かとバランスを取りながら後方を見れば、点々と黒い何かが落ちているのがはっきりと分かった。


「……何だあれ?」

「ボロと呼ばれるものだ。まあ馬糞だな」

「え、走りながらしてるのかこいつ」

「馬の性格次第ではあるが、基本的には割と気にせず垂れ流すものだ」

「それは……嫌だな」


 馬は飼わずに借りるもの。もしも機会があったとしても判断を誤らないように、とエルナは固く心に誓った。そんな事を考えていると、エルナにとって見覚えのある景色が見えてきた。


「あ、ここ……船の近くだ」

「そういえば、この辺りで不審船の報告があったのだったな。まだ停泊したままだというし、見てみるとするか」


 進路を変えて浜の近くを通るルートを走らせると、果たして見えてきたのは正に小さな船である。予想以上に実物が小さかった為に、クレインが一瞬呻いた。


「本当にあれで渡って来たというのか。信じられん……」

「別にちゃんと動いたぞ」


 事もなげに言うエルナ。問題はそこではないのだが、それには気づいていないようだった。


 クレインは、南の大陸の人間達は実のところ、彼女を謀殺したかったのではないだろうか、と邪推してしまう。もっとも、その気であるのならば、船の大小に関わらず大海原へ旅立たせるだけで、成果が見込まれるわけではあるが。


「これでは確かに、流された漁船ではないかと軽視もされるな」

「あ、そんな扱いだったんだ、これ……」


 決死の覚悟で航海してきた船に対する評価に、無理をした自覚があるとはいえ、自分がとんでもない判断をした事を悟る。運が良かったというのも理解しているのだが、ほんの僅かでもそれが足りなかったならば、と背筋が冷えていく。


 そんなエルナの様子を尻目に、クレインは懐中時計を取り出して頷いた。


「いい時間だな。そろそろ戻るとするか」



 港に戻ると、そこには既に野営地が広がっており、エルナを驚かせた。


「なんでまた野宿なんだ」

「これだけの人数なのだぞ。泊まれる場所があると思っているのか」

「あー……え、港なんだよな?」

「ここに着いた時に港も見たであろう。施設が充実しているように見えたか?」


 言われて初めてその事実に気づかされるエルナ。逃避したい現実に、ろくに周囲を見ていなかったのが窺える。


「海軍があるわけではないのでな。だいたい、我々からしてみれば、海上では行動が制限される割に、陸からは攻撃手段が多い。メリットが少なすぎる」

「うん?」

「だから船も戦う仕様ではないのだ。正直なところ、ただの大きい漁船だな」

「大きな客船とかもないのか?」


 エルナは引っかかるものを感じるも、それに気づかないクレインが話を続けた為に気が逸れていく。クレインはと言えば、エルナの言葉に少し驚いた様子を見せた。


「客船か……考えた事もなかったな。先代は恐ろしく武道派であり、海軍を不必要としていたからなぁ。正直、私も船というもの自体、あまり考えてこなかったからこの現状であるわけだ。だが、今後は少し考えてみてもいいな」

(先代か……)


 どういった魔王なのか、までは調べていない事にエルナは悔やんだ。もっとも、こうして現魔王と話す機会があるなんて、エルナは愚か誰一人考えもしない事だ。とはいえ、エルナは何かしらの弱点などの発見があったのかもしれない、と諦め切れずにいた。


 不意に並んで歩いていたクレインが、立ち止まってエルナに向き直った。眉間に皺を寄せて、煮え切らない様子を見せるエルナに、何を考えているのやらと軽く溜息をつく。


「明日の出航は早い。今日のところは早めに休め。二度目とは言え、大きな船での旅は勝手が違うだろう」


 そう言うが早く、流石に遊びすぎたな、と呟きながら魔王は兵士達の方へ向かっていってしまった。野営の準備すら手伝わなかった事に負い目があるのだろう。


 その後姿を見送ってから、エルナはぼそりと呟いた。


「魔王がやる事じゃないだろ」

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