二十四話 再会
勇者。南の大陸において、その言葉や称号に含まれる意味を紐解けば様々な事柄が姿を露にする。
遥か昔に遡ればまだ国もない時代、勢力を広げる大きな村や町からの侵略に対して抗い退けた者。あるいは国としての戦争の時代、数多くの敵兵や将を討ち取った者。平穏な時には兵士も手を焼く強大な害獣を退治した者。はたまた市民運動の最前線に立ち偉業を成した者。現われた世界の脅威、魔王を倒す者。
多岐に渡るものの一様にして共通点があり、それは勇敢に戦う者というところだ。
そしてエルナ・フェッセルもまた簡易的に称号を賜ったとはいえ、勇者である事には違いない。別の道を模索する心の余裕こそ持ってはいるが、打倒魔王の意志が潰える事はないのだ。
明確な殺意でもって行動を起こしたエルナ。しかしそれは失敗に終わり、再度試みれるぐらいに回復する頃には、クレインも抗える程度の回復をしており、諦めざるを得ない状況となってしまった。
行動の内容が内容だけに、クレインから何をされても文句など言えず、その晩は裁きを待つ囚人の心境でエルナは刻一刻を過ごす。
だが、クレインからは特別な対応もなく、針の筵に座り続ける事こそが罰なのだろうか、と思わずにはいられなかった。そうして遂に痺れを切らしたエルナが訊ねてみれば
「エルナが私の命を狙っているなど、事情を知っていれば誰も疑わん事だろう。ああは言ったが、千載一遇の好機であったのは間違いない。同じ立場なら私もそうするだろう。そうされる事も理解した上でのこの旅だ。目くじら立てる理由などない」
とお咎めなし。
今まで言動に振り回されてきてはその真意を確かめる事を諦める。こうした納得の仕方を幾度となくしてきた。だが今回の事で、エルナの当初の半ば諦めた疑問が再び姿を現すのだった。
魔王の目的は一体なんだ?
エルナの存在をアピールするどころか匿い、起こりうる騒動を回避しようとする。そもそも、エルナが同行者である必要もなく、『勇者』という大義名分を欲しているだけ。
いくつかは彼の口から理由を言い渡されたものの、鵜呑みにするには馬鹿げた話である。目的らしい目的と言えば、初めてクレインが望んだ『立ち寄りたい場所』ぐらいなものだ。
だが、真意を推し量るに到らず、尋ねたところで有耶無耶にされる。エルナは北の大陸から旅立った当初の様な、払拭できないモヤモヤとしたものを抱える日々が続くのであった。
それから二週間程が経つ。依然として襲い掛かってくる魔物を相手に、エルナは晴れないストレスを発散しつつ、泉の国の首都に向けて歩を進める。
大きな湖を持つこの国の城下町と城には大きな泉が造られており、見る人々の心を奪う名所となっているのだ。
山を越えてその景色が遠景として広がっているのを見ると、二人はやや興奮した様子で喜びと感動を分かち合った。
「聞いた時はどのようなものかと思ったが、中々素晴らしいではないか」
「近くには展望台があるからな。もっと間近でいい景色が見えるぞ」
「ふむ……」
「なんだよ、不満でもあるのか?」
「他の町でもそうであったが、やたらと人間同士で争っている割には、こうした他所に向けた観光地や名所があるのだな、と思ってな」
「そりゃあ常に戦争している訳じゃないし、総当り戦やっているんじゃないしな」
非武装で兵士もろくにいかっただろう町にまで戦火が降りかかり、事実滅んだ場所も見てきた。クレインが疑問を抱くのも自然である。だが、この南の地全てが血で血を洗う世界というわけではないのだ。
「同盟か……」
「まあ、それも利害の一致しただけっていうのかな。結構怪しいところがあるらしいけどね」
「それが魔王という敵がいて、初めて表面上だけだとしても全ての国が手を取り合う……か」
「またそれ……」
いつものクレインの言葉に、口を尖らせたエルナだが言葉が途中で途切れると押し黙ってしまった。
そんな様子が珍しい事もあり、クレインは不思議そうにエルナの顔を覗き込む。
「どうしたのだ?」
「いや、行こうか。流石に今日中は無理でも明日の午前中には着く。午後はゆっくり休むぞ」
過ぎった一抹の不安を振り払うように、勢いよいのある一歩を踏み出し、山を下り始めた。
(なんで今まで考えもしなかったんだ。まるで人間同士の争いを止めるシステム……だとしたら、今までのあたし達がしてきた事や過去の勇者達の意味は? そんなはずない。そんな事、あってたまるか……)
「分かってはいたが、町の方まで来てしまうと泉も見えはしないな」
「そりゃそうだろ」
山にいた翌日、昼を取るには随分と早いという時間に二人は泉の国の首都へと辿り着いた。
湖や河川が天然の防壁となっている事もあり、周囲に聳える高い壁も少なく開放的である。だが、城下町の中に入ってしまえば建物で湖も見えず、泉もそこまで行かなければ視界に入る事もない。外から見た時と中に入った時のギャップが大きく、その分ガッカリしやすい名所でもあるのだった。
「とっとと宿を取って休もう」
「昨日も言っていたな。疲れているのか?」
「……そーね」
主にクレインに関係する事が原因による疲れであるが、相も変わらず本人は全く理解していない。だが、流石のクレインもそんなエルナの態度を見て、僅かながらに顔を曇らせておずおずと尋ねるのだった。
「私が原因、か……?」
「……進歩と言えば進歩か」
溜息交じりに呟いたエルナの言葉にクレインは顔をしかめる。ただ、詳細も分からず、更に追及すべきなのかと間誤付いていた。
「その、だな……」
「!!」
恐る恐る口を開いたクレインに、エルナは鎧を掴んで自らに引き寄せる。その顔は青白く恐怖すら浮かんでいるのだった。
尋常ならない様子に、クレインはすぐに周囲を窺いながらエルナにそっと耳打ちをする。
「何があったのだ」
「やばい、どうしてここに」
大きくゴクリと喉を鳴らし、声を絞り出す。
「二人だ……あたしの仲間」
その言葉の意味に気づいたクレインもまた、顔を青ざめさせた。だが、一つ大きく深呼吸をすると平静さを取り戻す。
「どこだ?」
「正面……向こうも、こちらに気づいている」
鎧姿の男と神官のような服装の女がこちらへと真っ直ぐ向かってくる。過去にも同じ体験をしたものだが、今度はエルナにとって旧知の仲であり、最も接触を恐れていた相手。その緊張感は比較にはならないほどである。
「逃げられんか……。止むを得まい。私が奴隷の飼い主の立場になる」
「アドリブで凌げるのかよ……それこそ、通報されて取り押さえられるだろ」
「……北に渡るまで共にいたのだろうし頭が切れるのだろう? それなりの猛者ならば不用意に手は出してはこない。と、いいなぁ……」
「こんな時にまで……ああもういい。頼む、任せる」
もし捕まるような事態になったらクレインはどう出るのか? もしも、もうどうとなれ、と暴れでもしたら……。エルナはそればかりが頭の中に渦巻いており、打開の策など練れない状態にあった。
そうこうしている内に、遂に目の前までやって来た。
一人はレオン・ヘッザ。エルナと共に剣の稽古をしてきた者。
一人はルーテ・クーナイツ。治癒魔法を得意とするシスターをしていた者。
「よく逃げ出さなかった」
レオンは憎しみと敵意を隠すことなく、クレインに対して刺々しさが剥きだしの言葉を投げかけてきた。まるで見知った仇敵のようである。
「エルナ……良かった、無事だったのですね」
ルーテは安堵と喜びをエルナに向ける。クレインの存在などまるで目に映っていないかのように。
「お前は何者だ?」
「……この女の主だ」
「あ、主……? エルナ、一体はこれはどういう……」
「賊に捕らえられて奴隷として売られた。それを俺が買った。ただそれだけの話だ」
「ほー……?」
意外にもレオンは怒りを露にする事もなく、むしろ疑いの眼差しでクレインの様子を探る。達人、とまで言えずともエルナの確かな剣の腕を知っているからこその態度なのだろう。
「しかし、今時そんな外道が横行できるもんじゃない。お前、本当に何者なんだ?」
「自己紹介をしてやる義理はないな。お前達がなんと言おうと、これは対価を払って得た私物だ」
「な……」
ルーテはわなわなと震えると目を見開いてクレインを睨みつけると、すぐさまエルナに視線を移した。
「エルナ! 何故、そんな男に従っているのです! 今の貴女には……」
「よせ。それ以上は止めろ」
激昂するルーテをレオンが制止する。
クレインは緊迫した場でありながら、目を丸くしてその光景を見ていた。二人の様子からすれば、ルーテの方が抑え役に思えただけに予想外であるのだ。
だが、暢気に眺めているわけにもいかず、すぐさま気持ちを切り替えて話を進める。
「どうする? 俺は俺なりの正当性を持っているぞ? まあ、確かに法の下では薄いかもしれないな。ならばお前達は、お前達の信じる正義を掲げて剣を取り、俺の手から奪ってみせるか?」
「……」
言わば挑発。この場において逆効果にもみえるそれに、エルナはただハラハラと行く末を見守るしかなかった。
「エルナ。お前はそれでいいんだな」
「……! あ、あたしは……」
レオンの問いにエルナは答えられずにいた。彼らからしたら仲間として正義として立ち向かおうとしているのだ。しかしエルナにとっては、この現状が正しく明るみにでれば大事になる。しかもそれは、魔王クレイン・エンダーによって無闇に犠牲者を生み出しかねないという事態を引き起こしうるのだ。
「どうした? なにも言えないのか?」
「……ごめん」
誰に対してなのか。なにに対してなのか。ようやくエルナが搾り出せたのはその一言だった。
レオンはその答えに驚く様子もなく、一呼吸ほどの間を目を伏せると踵を返して歩き始めた。
「行くぞ、ルーテ」
「え? レ、レオン? ちょ、ちょっと待って下さい」
ルーテは何度か離れていくルーテの背中とエルナとを交互に見比べると、一人でクレインに対抗する術もなく、悲しげに彼の背中を追いかけていった。
難を逃れた、と判断していいものか、エルナはその場に立ち尽くしている。しばしの間、そのまま呆然としていたがゆっくりとエルナが口を開く。
「助、かった。よね?」
「いや、これはちょっと危険やもしれない」
「え? なんで? 多分、あたしが呆れられたんだと思うよ?」
「レオン、だったか? 彼は常にこちらの動きを探っていたが、早い段階で殺気が消えた。敵わないとみて、ひたすらこちらを探る事にしたのだろう」
しかし退いた。それも呆気なく。
「エルナと共に戦っても勝てないと踏んだか」
「……考えすぎじゃない?」
「確かに彼はよく頭が切れるな。あの時、あのルーテという女性が言いかけた事は恐らく、エルナに対して魔法的な束縛がない。だからこちらに逃げろ、といったものだったのだろう」
「……ええと、それが?」
「お互いが未知と未知。より状況を明確化するという事は、彼らがこちらの事情をそこまで把握しているという意思表示にも繋がる。それを止めたのだ」
「もう少し分かりやすくして……」
先の緊張から一転、今度は色々と説明をされたところで、エルナの頭が追いつかないのである。クレインはふむ、と顎に手を当てて少し考えると、説明を再開した。
「もしも、私がもっと様々な良からぬ悪巧みを考えていたとしよう。下手に踏み込んで、もし私が触れられたくない部分まで到達されたとしたらどうする?」
「……控えめに言っても生きては帰さない?」
「そうだな。その悪巧みが頓挫する可能性があるのだから当然だ。しかし彼らはそれがなんなのかはさっぱり知らない。どこまで踏み込んでいいのか、その境界線も分からない。さあどうする?」
「……問答無用で背後を狙うか、どんな状況にも対応できる準備をするか……真っ向勝負でも勝てる環境に引っ張ったり? あとなんだろ……」
うんうん唸りながらも案が上がっていく。クレインはそれに首肯しながら続ける。
「あの時点で退いたという事は、単に今のままでは太刀打ちできない。あるいは『踏み込んで』しまうかもしれない、という判断をした可能性が高い。エルナの言うとおり、呆れられたというのもありえるが、最後の最後までこちらを射抜くような目。あれに諦めは感じられないな」
「じゃあ次があるって事か……」
「むしろ勝負を仕掛けてくる、ぐらいに考えた方がいい。運が悪い事にここは首都だ。もしも協力が得られたとしたら、相当な戦力を連れて来るだろうな」
エルナの顔が再び青ざめていく。そんな大立ち回りをしなくてはならない状況下で、果たしてクレインが無難にやり過ごす選択をしてくれるのだろうか。それだけの騒動を起こせばもう、町巡りどころではない。だとしたら、穏便に済ませる理由もないのではないだろうか。
「とにかく宿を取るぞ。こちらが宿泊をするという情報が渡れば、明日までは時間的余裕が生まれる。鵜呑みにはしないにしても、慌てて真っ向から襲うより奇襲を狙うはずだ」
「でも、既に準備が出来ていて、宿に入って気が緩んだところを狙われたら……?」
「それならばどうしようと対峙する事は避けられん。無駄なものに心配して心をすり減らすのならば、もっと有意義にすり減らす」
「有意義にすり減らすってなんだよ……あー、お前も割りと焦ってはいるんだな」
自分一人が慌てているのではないと知ると、僅かながらも心が落ち着く。そんな安堵の様子に呆れているかのように、額に手をやってクレインは大きな溜息をつく。
「暢気なものだな……。街中で数と戦力をぶつけられたら、私とて相手に血を流させる事になるし、命を奪いかねない。不本意であり望んでもいないのだから回避したいのだぞ」
「……悪い。軽口を叩いた」
クレインの言葉にエルナの中に、新たな緊張感が生まれた。だが、それと同時に嬉しく思う心も生じている。
魔王でありながら動機がどうであれ、この場においてもまだ不殺生を望んでいてくれているのだ。
「レオン! 待って下さい! きゃあ!」
いくつかの通りを抜けて、かつての仲間も敵と思しき存在も追いかけて来ないのを確認すると、ようやく立ち止まるのだった。
しかし、急に止まったものだから、後ろから小走りで追いかけていたルーテはその背中にぶつかる事となる。レオンは鎧姿、中々痛そうな音が辺りに響いた。
「ぶつかるなよ」
「貴方が急に止まるからです……それより! 何故、エルナを見捨てる真似をしたのですか!」
「見捨てる……馬鹿を言え。どうにかできると思っているのか?」
「報告義務はありませんが、エルナはあの男を同行者として報告を行っていません。あの者に脅されるなどをされていると容易に想像できるでしょう!」
「そういう事を言っているんじゃない」
苦虫を噛み潰したかのような顔で苛立ちを募らせるレオン。頭痛があるかのように、額に手をやって大きな溜息をつく。
「まずだな。あの男の意図が分からない。下手に追い詰めて、容赦できない範囲にまで行き着いたら、俺達を殺すほかなくなる。それにエルナに動きはなかった。あいつがなに考えているのかは分からないが、俺達が力を合わせてもあいつには勝てないって判断か、そもそも戦ってはいけない相手なのかもしれない」
「しかし……」
「まだ終わりじゃない。俺は向こうが気づく前に見つけていたが、あいつは完全に気の抜けた顔をしていたぞ。少なくとも、脅されたのなんだのの強制力があるわけじゃないだろうな」
「……ではなにもしないで、エルナに会った事さえも忘れろと言うのですか?」
「……」
その問いに口を閉ざす。だが、その沈黙は肯定ではなく思考。把握と予想で構築された現状に対してどうすべきか。しかしそれとて、判断材料があまりにも乏しくどこまでいっても、賭けに近いものでしかない。
「もしも、あの男が悪人でなかったとしたらなんだと思う?」
「え? ……すみません、全く思いつきません」
「海を出てどうなったかは分からないが、ああしてエルナの意志で同行して大っぴらにもしないのなら、あの男に助けられてその見返りに行動を共にしている。ボロ船が沈んで金銭的援助を受けたか? それでこそこそする……下手したらどこかの王子とかか……?」
段々とルーテに対する説明から、自身の考察そのものが口を出るようになってくる。彼にとってもまだ考えが完全にまとまっているわけではないのだ。
思案する端から口にするなど一見すれば危うげな様子だが、ルーテはただ黙ってその様子を見守っている。この幼馴染の癖であり、エルナとルーテの前でのみの話なのだ。それが二人に対する信頼の現われでもある、といつものようにルーテは僅かに口角を上げて嬉しそうに待つ。
「賭け、か。賭けだな……おまけに分が悪いしどう転んでも殆ど痛い」
一頻りぶつぶつと呟いた後、レオンはようやくルーテの目をしっかりと見つめる。彼なりの考えがまとまったようだ。
「ルーテ、この国に恩、というか王族までエルナの名前がとおっているだろう話は覚えているな?」
「褒賞を貰ってしまっているので、恩があるというのは御幣だと思いますが、大型の魔物討伐の事ですよね?」
「ああ、あれを理由に力を借りる。この国の兵力を引っ張るぞ」
「……さ、流石にそれはやり過ぎでないないでしょうか? 間違いなく大事になりますよ」
「正直に言ってな、あの場で戦うような事態にならなくてほっとしている。さっきはエルナの行動を理由にしたが……俺にはどうやってもあれを倒すイメージが湧かない。まるで水底が見えない池を覗いた気分だ。落ちたら最後、どこまでも沈んでいってしまいそうな……」
レオンの顔色が僅かに陰る。剣の腕こそエルナに劣るが故に、踏破した敵の中にはレオンでは到底倒す事が叶わない強者も多かった。だからこそ、挑めば死ぬという気配には敏感になっていったのだ。
「兵隊連れて多対一で戦っても勝てるかすら分からないが、短時間で戦力を上げるにはこれしかない。勿論、一番はその戦力を見せる事で相手が降伏するという流れだが……」
「それが賭けですか」
「……外れた後も凶悪な奴が待っているけどな」
「え?」
「悪人であり、エルナが力関係で束縛されていたとしよう。形振りを構わず暴れられたらエルナは殺されるだろうし、もしあまりにも強かったら相当な数が死ぬ。じゃあ相手が善人で王族などの理由あってのお忍びだとしたら、下手すりゃ国際問題だ」
「王族に関しては泉の国から助力を得て、突入する時点で引っかかるのでは?」
「泉の国との交渉次第だな。飽くまで戦力としての助力であれば、その男の処遇はこちらにある。事情に踏み込まず、落ち着いた場でエルナの意志と俺達が取るべき行動の確認ができる。ある意味、一番穏やかな解決になるだろうな」
逆に国として、この事態に収束を図ろうと動かれたら、国際問題は免れない。国への説得、そもそも支援がえら得るのか。謎の男であるクレイン・エンダーの立ち位置、そしてその思惑。なにからなにまで全てが賭けなのだ。
「国際問題は当然だが、盛大に人死にを出したらそれを招いたとして俺もお前も、最悪エルナも大罪を犯した者として逃亡生活になるかもしれない。お前はその覚悟があるんだな?」
「……このままなにも分からず、エルナの気持ちも知らぬまま後悔するのに比べたら躊躇する理由などありません」
「よし。まあエルナに関しては、どうせ俺達を巻き込まないように、とか勝手な考えでこちらへの接触を避けてたんだろう。自業自得だ」
一瞬、レオンの脳裏には走馬灯のように今までのエルナの姿を通り過ぎていく。だがそれは不吉さもなく、やっぱりあいつはそういう奴だ、という認識が改めて強くなるだけであった。
「例の一件で城の多くの奴がエルナの事を応援してくれるようになった。謁見だけならスムーズに運ぶだろう。だが、そこから先は分からないし、時間との勝負であるのは違いない。先に誰かにあいつらの監視を頼んでしまおう」
ルーテは強く頷き、二人は城を目指して走りだす。
エルナの思いとは裏腹に、確実に成し遂げるという強い決意が二人を突き動かすのだった。




