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オパールの杯に乾杯を  作者: 一矢
五章 果たす者
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エピローグ

「親戚の集まり?」


 目を瞬かせて聞いた言葉をオウム返しにしたミシェル。その目の前には、どこか申し訳なさそうなクレストが、ゆっくりと頷いた。


「十年や二十年に一度ぐらいでやっているらしいんだ」

「クレストも初めてなんだ」

「割と最近知ったからなぁ」


 実際には少し前に開催される予定であって、クレストも出るようにというお達しがあったのだ。しかし、その日程は魔王出現の騒動のさなか。うやむやになったと喜んでいたものの、こうして延期しただけで行われる手はずになったわけである。


 億劫に思っていたクレストからしてみれば、魔王討伐に尽力した結果がこれならば、なんて救いがないのだろう、と思わずにはいられなかった。


「そうなるとしばらく留守番かぁ……レインのところにでも行こうかな」


 魔王討伐後、それぞれの生活は大きく変わったものである。


 クレストとミシェルは、クレストが暮らしていた家で生活を始め、ヴィルトは家こそこの故郷である実家にいるものの、足しげくレインのところに通ってはしばらくあちらで暮らしている。


 帰ってくる度にクレストとミシェルが、あちらに居つけばいいものを、とせっつくのも恒例と化してきていた。


「いや、ミシェルも一緒に来てもらえるか?」

「えっ? なんで?!」


 飽くまでクレストの親族の集まり。ミシェルにしてみれば部外者もいいところ。と言いたいが、今となってはそこまで関わりのない立場とも言えないのが現状だ。


「……交際相手がいる事を伝えたら連れて来いという話になってしまって」

「あー……この間、手紙を片手に頭を抱えていたのって、ちょっと待って!? あたし、クレストのご両親に会うの?!」

「すまない、向こうはその気満々なんだ」

「ちょぉ……! いやほんと待ってよ! 心の準備とかしてなさすぎるんだけど!」


 あからさまに狼狽するミシェルに、思わずクレストが目を丸くする。


「俺はてっきり……そういうのは、記憶として経験があるのだと思っていたが」

「あのねぇ。あの国の中だよ? 相手なんてよっぽど訳ありだったり、立場があったり……というかあの当時は、あたし自体が立場があったから、気持ち的に全然違ったのか!!」

「ああ、ミシェル自身がやんごとなき人物だったか」


 優位な立場であったがゆえに、むしろ向こうから挨拶に伺いに来た図がクレストにも想像がつく。


「えーとさ。あたしちょっと体調悪いみたいだからさぁ」

「多分、今回の事で済ませたほうが楽だと思うぞ」

「いや、だってさ。親族で集まっている場でしょ? 絶対におかしいじゃん」

「それはまあ……。うーん、仕方がないか」

「ほっ……」

「遠出になるからなぁ。旅行感覚で回って来れると思っていたが……」

「……」


 その言葉に思わずミシェルがピクリと反応する。


 これまで確かに旅はしてきた。しかしそれは魔王討伐という目的のものだ。それも四人での事。


 純粋な旅行という意味では、今のところしていないのが現状であった。


 それもあって、ミシェルはしばしの間、低くうなりながら葛藤をすると、やがて諦めたかのように、コクリと頭を縦に振った。


(こういうところが、本当に可愛いんだよな)



「うあーー! ついに来ちゃった!」


 泉の国の領内にある町。魔物被害からも免れており、それなりの大きさもあるここは比較的富裕層が集まっているのだろう。明らかに家のサイズが大きいものばかり。その中でも一際大きな屋敷を前でミシェルが頭を抱えている。


「いくらなんでもうちの両親の家にしちゃあでかすぎる……住所、というか町自体違うんじゃないかこれ」


 なにを思ったのか、魔王騒動の一年以上前には移住していたクレストの両親。こうしてその所在地に訪れたのは初めてだっただけに、この敷地に入るのは躊躇する。


「……家を出てから一度も会ってないんだ」

「気軽に行ける距離じゃないし、二人も帰ってきたりしなかったからなぁ」


 意を決して門を通る。金属の檻のようなものではなく、木製の大きな引き戸。雲の国あたりの建築様式、というのは知っているが実際に目にするのはクレストも初めてだ。


 この町においても他になく、より異色さを放っている。


 挨拶として声をかけながら中に進むも誰かが出てくる様子はない。


 やがて、奥のほうから人の声が聞こえてきた。どうやら入ってすぐの建物とは別のところで集まっているようで、クレストとミシェルは一度お互いの顔を見合わせてから、声のほうへと向かっていく。


「なんか……集まりというか……」

「酒盛りとかするらしいし、真っ最中なんだろう」

「ただの宴会じゃんそれ」


 ミシェルの言葉に、そうなんだよ、と返しながら離れの扉を開けると、大人数の大人達が談笑しながら食事をしていた。部屋は座敷となっており、こうした造りも雲の国のものである。


 中には小さい子供もおり、比較的近くにも親族が住んでいるのだろう。


「凄い人数だ……」

「いやぁ、中々見ない数の会食だね」


 その光景に、思わず出入り口で立ち尽くしていると、一人の男が近づいてきた。


 クレストが気づくと、思わず嫌そうな顔をする。


「なんだぁその顔は? 全く、放蕩息子がやっと来たと思えば失礼な奴め」

「放蕩はあんただろ。どうやってこんなところに住んでるんだ」

「ここがいつも集まりをしているところで親戚の家なの。部屋も随分余ってるから住まわせてもらっているわ」

「両親が……親戚の家に居候している……」

「結構いるのよ? ここに暮らしている親戚」


 男の陰からスッと姿を現した女性がクレストの疑問に答える。どうやら二人が両親らしく、思わずミシェルがビクリと体を震わせると固まってしまった。


「あら? あらあら、その娘が?」

「あ、はい、ええと……」

「見てのとおりこの二人が俺の両親。で、彼女が……付き合っているミシェル・ビシュルシュだ」

(あ、照れてる。可愛い)


 顔を真っ赤にしながら両親に自分の彼女を紹介するクレスト。


 言わせてしまった、という気持ちがあるものの、クレストの様子に思わず和むミシェル。だが、それ故に気持ちを落ち着ける事ができた。


「ミシェル・ビシュルシュと申します。クレスト君にはよくして頂いて、こうしてお付き合いさせて頂いております」

「おーおー! なんのなんの、このバカ息子には勿体ない! 綺麗な嫁さんじゃ……」

「えっ!? 嫁だなんてそんな!」


 嬉しそうに否定をするミシェル。その表情はだいぶ解けている。のだが。


「……」


 クレストの母親はじっとミシェルを見据えて一言も発する事はない。


 思わずクレストが眉をひそめて、口を開こうとした瞬間、親戚達も集まり始めてしまった。


「お前んとこのせがれはもう嫁が……」

「ほー! こんな時に来るとはこりゃまた縁起が……」


 酔っぱらったオヤジどもの言。人によっては酷く煩わしいものだろう。だが、その言葉が最後まで続かず、皆途切れていくのだった。


 しかもこのあとに続く数名も同様で、遂にクレストとミシェルが視線を揺らしながら狼狽え始める。


「な、なんだこの空気……」

「え、え、あたし、場違いだった……?」

「お前……なんて、なんて事を」

「お、俺なのか?!」


 バンと父親に両肩を掴まれるクレスト。これには思わず目を白黒させる。


 だが説明などされず、その手を離すと、今度はミシェルに向かって深々と頭を下げるのであった。


「深緑の魔王様、で間違いありませんね……?」

「っーーー!!」


 大きく口を開けて、しかし声にならない叫びを上げるミシェル。思わずクレストも目を見開き驚いた様子でミシェルを見つめてしまう。


「な、な、なんで!? なん! え?! 顔知ってるの!?」


 肯定そのものの反応。一瞬静けさに包まれたかと思うと、親族達全員が慌ただしくなった。


「なにーー!?」

「おいおい! どうなってるんだ!?」

「とにかく椅子だ! 深緑の魔王様に椅子とお飲み物を!」


 賓客のような扱いをされ始め、動けないでいるクレスト達。そんな中、クレストの父親が、跪いて頭を垂れた。


「私めの愚息がとんだご無礼を……」

「ちょ、やめてやめて! 周りもあたしを祀り上げないで!!」

「ミシェル……」

「クレストもそんな目で見るなー!」

「お前も頭を下げろ!! それに深緑の魔王様と呼ばんか!」

「いい! 要らない! いいからそういうの!」

「……あれ? さっきからマオウって……魔王!?」

「ああもう! 余計に面倒な事に!」


 クレスト父子がミシェルが、全くの外野の親族までがぎゃいぎゃいと騒がしく、収集など付きそうにもない。


 この喧噪はいつまで続くのか、と思われたが、突如パンッと手を打つ音が部屋中に響き渡る。一瞬前までの騒がしさが嘘のように静まり返る空間。


 その音の主であるクレストの母親がさっと手を差し出して、ミシェルに発言を促した。


 少しだけ戸惑いを見せるミシェルだったが、一度深く呼吸をすると口を開く。オリジナルである、深緑の魔王がなにをしたのか。そして自分がどんな存在であるか。もはや己は別人であると認識し、その呼称で呼ばれる事を快くは思わない、と。


 その説明にクレストの両親を始め、多くの大人達が驚きや戸惑いの表情を浮かべる様子に、彼らにもそこまでは伝わっていないようだった。


「……そんな、事が」

「親父達も知らなかったんだな」

「ああ。だがこれが意図してか、どこかで途切れてしまったのかは分からん。しかし、お前にはこの集まりについて今日詳しく教えるつもりだったのだが……よもや我々が新たな事を知る日になろうとは」

「一応、聞くがなんの為なんだ?」

「この会は我々の祖先の意思を伝え、そして忘れぬ為のものだ」

「……宴会じゃないか」


 クレストが周囲に一度視線を送るも、その光景はとても言葉とは裏腹であった。


「我が一族の使命。ここ南の大陸に魔物の王たる魔王が現れた時、その終止符を打つ事だ。北の大陸にも一族がいて、あの地に眠る魔王を滅ぼす為の剣を持って、こちらと合流する。そしてもっとも力があるものに剣を託し魔王を討つ」

「……ん? ちょっと待ってくれ。その剣って」

「クレストが使ったやつだね」

「えぇ……? 魔王が現れたからだいぶ経っていたはずだが、ミシェルの案内で取ってきたんだぞ」

「あちらの一族が絶えたわけではないが……長い時間の間に剣が収められている位置が分からなくなってしまったようでな。先日、懺悔の文が届いたそうだ」

「……」


 役に立たない、そんな言葉が聞こえる表情をクレストがしてしまう。


「まあ……お陰で俺はミシェルと出会えたしいいんだが、この集まりの教え通りにやっていたら不味かったんじゃないか?」


 魔剣の力が魔王に効かなかったのは想定外にしろ、本来の役割そのものは魔王を討つ事ではなかったのだ。その場限りの決着をつけることはできても、再び魔王復活という因果は残る。


 魔剣になった者としても、それは望むところではないはずだ。


 無論、この目的を伝え残す事で、真実を魔剣から聞く、という流れを考えてなのかもしれない。だが、果たして魔剣の声が届く保証がどこまであったのだろうか。


「夢の中での対話で軌道修正するにしても、自分の意思がいつまで残っているかなんて分かったもんじゃないのにね。ほんと、詰めが甘いというか見通しが甘いというか」

「深緑の……ミシェル様にはご足労おかけしました」

「さ、様づけ。まあ、魔王呼びよりはいいし、今は甘んじよう」

「というか、ミシェルは王様だったのか……。おまけにうちの一族皆、魔王という呼称を知っているわけだし」


 今更、王と対するように身を正す、という事はしないものの、その視線には敬うような様子が見られる。


 それに気づいたミシェルが、苦笑をしながら手を横に振った。


「オリジナルの時代の樹海の国なんて、大きい村みたいなものだよ。町と呼べるように発展した頃にはとっくに転生の巫女だったしね」

「だとしても長として導いていたんだろ? すごいじゃないか」

「……誰もやりたがらないまとめ役、っていう貧乏くじ押し付けられただけなんだよなぁ」


 遥かな過去、オリジナルと呼ばれた深緑の魔王を思い返すミシェル。時がくればその役目を負わされていたにせよ、その時期を早められて強制的に就かされる、という経緯があったのだ。


 仕事ぶりにしても、住民達が国に対する関心があまり高くなく、提案したものを周囲に周知して着手するという、ほとんど丸投げにされているようなものであった。当然ながらより良くしようとは動いていたものの、あまり胸を張ってその役目にあたれた、とは言い切れない心情である。


「我々のご先祖様も魔王であり、深緑の魔王様が取られるだろう選択には気にされていたのだ」

「情報量が多すぎる……ミシェルについて伝わっていたのは納得したが、親父は俺達は勇者の家系、みたいな事を言っていただろ。なんだ? 古い王家の家系だったとでも?」

「王ではあったが世襲制ではなかったそうだからな。王家というものではない。で、ご先祖様は魔王と勇者であってなにも間違ってはいないぞ」

「す、すごい夫婦だ。……ミシェル、まさかあの魔剣の正体って」

「察しのとおり、あなたのご先祖である魔王よ」

「うっわああぁ……」


 色々と繋がったクレストが深く息を吐きながら呻いた。


「剣を引き抜けたのは血によるものだったのか……。ミシェルの言うオリジナルの魔王様とも魔王として親交があって……。というかご先祖様なら、もっと色々と話をしてみたかったなぁ」


 もっと早くに応じていればのんびりと雑談をする時間ぐらいはあったのだ。しかし、あのようにクレストが様子を窺っていたと言えども、ミシェルを取り戻しに行くあの道中で、もう少し会話はできたはず。


 随分と連れないご先祖様だ、と思わずクレストが胸中で悪態をつく。


 だが、一体何代離れているか分からない子孫相手に、どんな話をすればいいだろうか。相手の身を思えば納得ではあった。


「でもまあ……まさしく子孫って感じよ」

「超がつくほど大昔だろ。似ているところなんてあるのか?」

「料理やら変なスキルが高いところとか」

「……国長とは」


 少なくとも会話の限りの振舞いからは想像もつかない話である。


 とは言え、自身に厳格さなど感じてはいないものの、ヴィルトと比べれば真面目な人物として捉えられている自覚はある。


 案外、こんなものなのかもしれない、と思わず納得をしてしまった。


「うっわあ、賑やかだなぁ」


 背後からする若い女性の声にクレストとミシェルが思わず振り向く。


 そこにいるのは共に魔王城へ攻め込んだ、アリア・リパフトであった。


「あっれぇ!? クレスト君にミシェルちゃん!」

「あ、アリア?!」

「やっぱりねぇ……」

「やっぱり!?」

「凍土……あの魔法自体は難しいというだけなんだけども、あの当時においてもクレストのご先祖、勇者であった女性やその子供以外に覚えられた人は知らなかったのよ」

「アリアはどうやってあの凍土を身につけたんだ?」

「うちの家にあった代々残されてきた魔法の勉強本に載ってたんだぁ」

「べ、勉強本……魔法の才能がずば抜けているのか?」

「んー……あの子も別に魔法に天性の才があったわけじゃなかったからねぇ。適性というかこれも血なのかな」


 ミシェルが懐かしそうな眼差しをアリアに向ける。当然、顔も性格もそっくりとは程遠い。だがアリアからかつての親友の姿を見ているのだろう。


「いやーそれにしてもクレスト君が親戚だったとはなぁ。あれ……? つまり魔王城に突入した私達はダブルヒーローってわけか!」

「それはどうなんだろうなぁ……。アリアは、この集まりについて知っていたのか?」

「教え、みたいなのは知っていたけどこれは初めて知ったかな。うちの両親はあまり好きじゃないみたいで、今回は私一人でって話になったんだ。それにしても……ミシェルちゃんを連れてきたんだぁ、へ~~?」


 その意味を察してか、アリアがにまにまと楽し気な笑みを浮かべた。明確な冷やかしでこそないものの、居心地の悪さに思わずクレストが顔を逸らして空いている席に行く。


「照れ隠しだから気にしないでね」

「なるほどぉ」

「ミシェル」

「いいじゃない、別に」


 良いものが見れた、と言わんばかりにミシェルがアリアに親指を立てて賞賛までし始めた。


 恥を晒した、とクレストが渋そうな表情をするも、気にする様子のないミシェルが隣に座り、更にその隣にアリアも着いた。


「そちらにいらっしゃいましたか。こちらが深緑の魔王様の肖像画です」

「え、別に頼んで……なーー!?」


 高さが1mはあるだろうか。随分と立派なものである。


「なんでそんなの残ってるのーー!?」

「時間で考えたら相当だな……」

「先祖代々お守りしてきましたとも」

「そんな大層なものじゃなくない!!?」

「……え、あれ……み、ミシェルさんって深緑の魔王様!? えーーー!!?」

「ぬあーーー! またややこしい事になった!」


 クレスト達とは逆に、一族としての話を知っているが為に起きた混乱である。


 改めてアリアに説明と自己紹介を済ませると、敬意とも憧れともつかない様子で、感嘆の息を漏らした。


「まさか……遠い時代の偉人と思っていた人がこんな身近に……」

「いやいやいや、今はただの一般人だから」

「転生の巫女の時点でそれは違うと思うけどな」


 おまけに魔王と討伐に大いに貢献したのだ。一般人とはあまりにも程遠い存在である。


「……しかし、これでこの宴会も最後か?」

「いや、続けていく」

「断定なのか……」

「そもそも魔王であったご先祖様が平和の世を望んだんだ。それを忘れぬ為に、杯を鳴らして誓いを立てたという。例え魔物の王が滅んだとしても、その志が消えるわけではない。過去から今へ伝えられたかつての想いと信念を、俺達で未来へと残していく」

「……」

「お、感動したか?」

「いや、うちの乾杯の意味がそこまで重たい意味だとは思わなくて、ちょっと困っていた」

「あいつもしょっちゅう乾杯してたからなぁ。その意味を知ったのだいぶ後で、同じ気持ちだったよ」


 クレストも慣れの所為で欠かす事はなかったとはいえ、ぞんざいな乾杯をした事もあり、罪悪感に似たものを感じる。


「うちの家……乾杯なんてしないし、そんな話は教えてもらっていない……」

「あー……使命に否定的な家も出てくるだろう、って予想は……勇者もしていたね」

「考えてみればそういう親族がいても不思議ではないな」


 家によって序列であったり、差が生じたりもするだろう。その不満が使命に対して、あるいは逆に使命に対する姿勢で周囲からの対応に、と影響を起こしてもなんらおかしな事ではない。


「……だとしたら、アリアの親はアリアが旅に出る事をよく思っていなかったんじゃないか?」

「あー結構止められたね。最終的に家を飛び出すように旅立ったけど」

「お、意外とやんちゃじゃない」

「一人じゃなかったしねー」


 幼い頃から顔見知りのリーヴェル。そして彼女の町に訪れていたというリーハンとブライト、とメンバーに関しては揃ってはいたアリア。だからこその勢いある決断だったのだろう。


「そして魔王討伐の功労者として帰ってきて、さぞビックリされたんじゃないか?」

「そりゃあもう! 開口一番怒られはするかと思っていたけども、既に話も届いていたみたいでねぇ」

「それはそれで大変ね。町は毎日お祭り騒ぎじゃないの?」

「あー……うん。正直、ちょっと居づらくて今後どうしよっかなぁって」

「王都にでも出て働くのもいいんじゃないか? ネームバリューもあるんだろうし、雇ってもらえるだろう」

「いやー肩書的に軍とかになっちゃわない? そりゃあやりたい事があるわけじゃないけどさあ。……クレスト君達はどうするの?」


 何気ない質問。というよりはアリア自身、今後に困っている為に参考としたいのだろう。陽気な雑談に変わりはないのだが、その瞳は真剣なものであった。


「元々、山に入って獣を狩ったり薬草を採取したり、ちょっとした仕事をしていたが、今は仕事量を増やしている。ゆくゆくは大きいところに移住して、調合だの料理だの、獣の世話をする仕事でもいいが……山が遠いのはなぁ」

「そうねぇ……山が近いところ、は外したくないなー」

「はは、二人ともお似合いだね。……ところで獣の世話って?」

「あたしも知らなかったんだけど、仕事としてできるみたい」

「山に関する師匠が猟犬を飼ってて、その人の伝手も合わさり、そうした訓練、鷹匠、簡単な診察や治療なんかも学ばせてもらったんだ」

「わぁ……一生仕事に困らなさそう」


 特殊なものから一般的なものまで、幅広い選択肢をがあるとも言えるし、一部が特化し過ぎていて、情報量ほど多くないとも言える。しかし、これだけの知識や技術を既に持っているというアドバンテージは、絶大と言ってもいいだろう。


「あたし、あたしもなぁ……仕事だとそれこそ山や森で採取とか調合か」

「あれ? 魔法も得意なんだしそっち方面はダメなのか?」

「……あたしの時代の知識を、今持ってくると問題もあったり……」

「「あー……」」


 既にアリアの凍土がほぼ忘れされた魔法の扱いであるのだ。ミシェルがポロッと出すと混乱を招くような内容が、いくつもあってもなんら不思議ではない。


 そんな火薬庫みたいな状態なのに、仕事として従事していたら、いつかやらかしかねない不安があるのは納得である。


 そうするとミシェルはクレストと被る点も多く、段々と三人の会話はお互いのこれからの進路相談会の様相となっていった。



「俺達は明日にでも出発するかな」

「あれだけでいいんだ……」


 本当に顔合わせをした程度。その後のクレストと両親の会話も、数度言葉をかわし、数年に一度ぐらいは帰る、という一切確約のない話をして終わる。


 思わずミシェルも困惑するが、クレスト一家はそういうものなのだろう。


「わたしは何日かのんびりしてから帰るかなー」

「なにか機会があればまたな」

「いつでも連絡してくれていいからね」

「うんっ! そのうち近況報告とかしたり、お互いのところに遊びに行こうね」

「お、いいね! ヴィルトやレインも引っ張っていくよ」

「普通に声をかければ来ると思うけどな」


 大きな屋敷の廊下でアリアと別れると、クレスト達に割り当てられた客室の一室に向かう。元々この集まりを考えて造られた家のようで、この広さは旅館の類を思わせるほどだ。


「帰りはどういうルートがいい?」

「んーそこまでまだ詳しくないからなぁ。クレストのお任せでいいよ」

「どうするかな……。帰りは北のほうを回って……」


 ぶつぶつとスケジュールを考えるクレストに、僅かに歩みを緩めるミシェル。


 その背中にふっと微笑み小さく口を開いた。


「ありがとう、お陰であたしは幸せだよ」

「……? どうかしたか?」

「楽しみだなぁって言ったの」


 振り返るクレストの腕を取り、腕をひくように先導するミシェル。その表情は一切の曇りのない青天のような笑顔であるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様です。楽しませていただきました。
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