閑話 悪魔
アニカが着々と目的地へと向かっている頃、農商国家は変わらぬ日常を送っていた。
少し前、坑道の封鎖されていた区画にクレインが向かい、鉱石の精霊であるゴーレムに返り討ちにあってズダボロとなった。という珍事もあったものだが、今は至って変わらぬ日々である。
「一応は病み上がりなんだからな?」
「飽くまで怪我。慈しむ魔王のあの呪いじみたものとは違って、魔法で癒せるからな」
「いえ、あれだけの重傷ですと、治癒魔法であっても一時的な後遺症が残ったりしますからね?」
一般的な治癒魔法の範囲となると、どうしても限界は出てきてしまう。例え、それが致命傷に達していなくてもだ。
だというのに、今回クレインが負ったのは十分にその範疇。傷そのものは、完治するほどの魔法を施されたとはいえ、しばらくは絶対安静でもおかしくない。
もっとも、それは当人も自覚しているようで、あまり体を動かさないように、と労わっているようである。事実、今している事はエルナと一緒にちょっとした書類仕事の手伝いだ。
しかしクレインほどの人物がここまで追い込まれるとは。しばしの間は、城内も城下も大騒ぎのニュースとなったものである。
魔力さえも物理に変えて戦う。ある意味で究極のパワーファイターであるクレイン。
そうそう負ける事はないだろう。と、言いたいところだが戦った場所は坑道だ。下手な力加減でいけば崩落を招きかねない、というより引き起こす。
その為に全力ではなかった。この敗北は仕方がない事だった。
と、納得したいが、流石のクレインであれば、戦闘を回避して切り抜ける手段はあったはず。それすら叶わなかったのだから、恐ろしい世界が存在したものである。
「そういえば、ゴートを討った時も数日は腕に違和感があったか」
先先代魔王。その戦いの中で、クレインの片腕は切り飛ばされたのだ。
その断面は綺麗なもので、魔法による癒着はなんら問題はなかったが、やはり後遺症はあった様子。それでも数日の違和感程度で済んだのは、損傷そのものは少ないからだろう。
「ま、今回は流石に俺も懲りたよ。しばらく体を休めるし、坑道の一番奥は今までどおり封鎖だ」
「宣言しなくても誰も寄りたがりませんよ」
コボルト達でさえその手前の、まだ安全と呼べる地帯ですら難色を示したほどだ。
既に城内では禁断の領域や煉獄、地獄、処刑場などなど。物騒な呼称で呼ばれている。
「出て行った人達も飽くまで修行としてで、また戻ってきてくれると言っていましたし、一応の解決にはなりましたけども……新しい問題ではありますよね?」
「ええ、魔王様でさえこれですから。崩落の危険性を考えると……魔法による制圧。水の魔王様や深緑の魔王様の助力が不可欠でしょうし」
「本来は危険だから決して頼れない、という話ですよね」
「もっとも封鎖できているわけですから、無理にでも制圧するならば、という前提がつきます。私はあそこはもう放棄でいいと思っていますが」
「俺もそれでいいと思う。というか封鎖と言えども、実際彼らが外に向かう事は殆どないからな」
彼らにとって生まれた奥地がよほど心地いいのか。坑道内を少し移動する事はあっても、外に出ようとしたという記録は一切ないと言われている。
その為に、どれほど強い個体が現れても、その区画などを諦めてしまうケースが殆どだ。
「中層の精霊を狩ってるだけでも、相当な量の鉱石が手に入るだろうからな。言うほど問題ではないさ」
「実質無限の資源かぁ。南の大陸の権力者が知ったら目の色変えそうだ……」
だからといって向こうの状況のように奪う、という選択肢は生じないだろう。それでもあまり聞いていて楽しい話ではない。
しかし、エルナに一つの閃きを与えるのだった。
「逆にこれを餌に和平とか組めないか?」
「いや、長い目で見れば無限というだけで、消費に追いつかなければ普通に鉱石も掘る事になるだろう。鉱石が減れば精霊も現れにくくなる。売り文句としては微妙なものだ」
「そう美味い話はない、か」
現状でさえ採掘のペースをぐっと抑えられる、に留まる話。余裕などないのだ。
だが逆に彼らの利用を目的にすれば、といえば夢がある。夢はあるが、彼らの管理や調整など、魔王達でさえ手にあまるらしく、そうした施設は実在していない。
というよりも、実際に試験的に行われた過去があるのだ。結果、生まれてくる精霊の強さの制御など程遠いもので、今回クレインを張り倒した様な個体が生まれて放棄される、という歴史を繰り返していた。
夢は所詮夢である。現実は無情であった。
そんなわけで細々とした環境であっても、彼らが生じるようなら可能な限りそれを壊さない、というのが一般的な流れである。
思いつきも妙案には程遠く、会話が途切れると、三人は黙々と仕事に勤しんだ。約一名だけ非常にレアな姿である。
それがどれほど続いたか、変化を起こしたのはクレインであった。
「……? カイン。樹海の国よりアレはまだ届いていないのか?」
「え? ……そういえば」
訊ねられたカインが席を立ち、棚にある資料を手にする。
それは紙の束であったり、本であったりとそれぞれの形ではあるが、ちゃんとまとまっているのだろう。一つの棚を調べると、カインが顔色を悪くして振り向いた。
「来て、いないようです」
「最重要案件だろ。なんで確認を怠ったんだ」
「クレイン……頭を強打していたのか?」
思わずエルナが茶々を入れるも、よほど真面目な話なのか二人の耳には届いていない様子で会話は続く。
「毎年恒例で一度たりとも遅れた事がなかったもので……いえ、言い訳ですね。本当に申しわけありません」
「……最悪、俺が飛んで確認しにいくか。まだ送っていないだけなら、俺が運べばいいし」
「結構な重量ですよ。健常であっても無理をするものでは」
「まだ届いていないという事態のほうが問題だ。それに無理をしたからといって、傷が開いて死ぬとかじゃない」
「……」
全く事情が飲み込めていないエルナは、二人の会話から察する事しかできない。
どうやら、天秤に乗せられているのは、クレインの体よりも優先される、よほど重たい物らしい。
あまりにも想像ができないものである。
「時期が時期だ。一分一秒を争う事態だと……」
緊迫した様子で、出発の準備をしようとするクレインだったが、その動きは不意に止められた。
城内を鐘の音が鳴り響く。
例えば時計塔。例えばチャペル。そういった音であればどれほどいいか。
だがそれは、もっと小さい鐘を叩くように鳴らしたもの、警鐘であった。
「既に手遅れか! 緊急配備急げ! 迎え撃つぞ!」
「ま、待ってくれ! なにが起こっているんだ?!」
非常事態を宣言するクレインにエルナはただただ困惑する。
北の大陸で敵襲がない。とは言い切れないにしても、いきなり城内の警鐘を鳴らす事態となるだろうか?
少なくともエルナには、そこまで平和ボケした国には見えなかった。
「これは俺のエゴだな……エルナは逃げろ。あの脅威に晒したくない」
「頼むからちゃんと説明をしてくれ。クレインにとってそこまで私は頼りない存在なのか?」
「……南の大陸ではいないのかもしれないが、この大陸において最悪の敵が発生した」
「彼らによって、二度と職務に復帰できなくされた者も決して少なくありません」
「そ、そんな明確な敵が存在していたのか」
「ああ。名前を呼ぶのも憚られ、黒き悪魔と称される。これは他国でも通じる名前だ」
「他国でも?! それほど広い勢力を持っているのか」
あまりの話にエルナが唾を飲み込む。
少なくとも北の大陸に来てからは、多少の戦闘こそあれど鬼気迫る状況はなかったのだ。
それが今、目の前まで接近している。
なるほど。クレインがエルナを遠ざけたいと思うのも無理はない。
「その暴挙には血も涙もない……俺も口にはしたくないが、エルナに教える為にもその名を言おう。彼らの名は……ゴキブリだ!!」
「……はい?」
親の仇か。親友のか。はたまた愛する者のか。
とにかく憎しみと怒り、そして恐怖を込めてクレインが吼えるように叫んだ。
「しかも今の警鐘は既に城内に現れている……決死の覚悟で当たらなければ、大量の被害者が……て、なんだその顔は」
「いや。いやー? えぇ……。ゴキブリ……そうかぁ。ゴキか」
エルナがガクンと熱量を落とした。
どれほどの脅威かと思えば、飽くまで害虫である。
「南の大陸にもいる上に同じ名前なのか。だがその落ち着きようはなんだ」
「え? んー。それはまあ、あたしだって嫌いだけども、いくらなんでも大袈裟すぎるだろ」
「え、エルナさん。本気で言って……いえ、貴女は冗談でそういう事を言う人ではありませんでしたね」
「馬鹿な。凄まじい速度で移動し、飛びもするんだぞ?」
「南の大陸のも同じだ」
「……」
「……」
あっさりと肯定するエルナに、クレインとカインが顔を見合わせる。
考えもしなかったが、南の大陸に一日の長があるというのか。
だがそれならば。いやしかし、押し付けるような真似を。
と二人が目で会話をする。
「気持ちは分かるけどもアレ相手に……。いいよいいよ、あたしが返り討ちにしてさしあげよう」
「ど、どうやってだ?」
「あたしのところに追い込む、とかしてくれるのなら凍土かな。威力も範囲も調節して一撃で仕留める」
「凍土、あの魔法を屋内でか」
「少し壁とか傷つくかもしれないけど、天井を突き破るとかないから安心してくれ」
「魔王様。標的は三分以内に魔王の間の通路を通ります。侍女達の避難は六割完了、四割はまだ城内ですが、襲われる、巻き込む可能性は低いです」
「エルナ、恥を忍んで頼らせてほしい」
「ああ、任せてくれ」
エルナが胸を張って答える。
二人にとってこれほど頼もしいものはないだろう。なんなら後光が差して見えていそうだ。
だが時間も限られている。感動の余韻に浸る暇などなく、三人はすぐさま迎撃の態勢を整えていく。
謁見用の部屋である魔王の間。その大きな扉を見据える形で、エルナが陣取り魔法の詠唱を始めた。
扉の前を通過する左右の通路があり、城を騒がせているお尋ね者は左から来るという。普通の通路ならば、真っ直ぐに進まれたら取り逃がしそうなものだが、そこは魔王の間に向かう大きな通路。見逃すという事はまずありえないだろう。
エルナの後方ではクレインが角と翼を生やし、更には魔力の剣を構えており、カインも魔法の詠唱を始めていて、いざという時のバックアップに備えていた。
二人とも全力全開の戦闘態勢である。
(それはそれで怖いのだけど……)
余波などで巻き添えになるのでは、と一抹の不安を感じずにはいられない。
だが、もはや無駄口どころか、余計な事を考える余裕はないのだ。
集中を欠けば魔法は失敗する。それもエルナが行使する魔法は、元々威力も規模も大きいもの。所謂ところの大魔法と呼んでも差し支えないほどだ。一瞬の気の緩みが、不発に繋がるというのは珍しくない話である。
残り僅かな詠唱を残し、エルナは魔法を止めてその瞬間を待つ。
姿を見せたら間髪入れずに魔法を放って終わらせる。ただそれだけを忠実にこなす。
だけだったが、不意にエルナの心が揺らいだ。
張り詰めた空気に静寂な通路。そこに似つかわしくない異音が近づいてくる。
カサカサとなにかが摩れるような音。それも滑る様に近づいてきていた。
底知れぬ恐怖に抗い、魔法を維持し続けるエルナ。
遂に音の正体が視界に入る、という瞬間であった。
ザザーと黒い液体が壁や床を走るように広がっていく。否、それこそ黒き悪魔。恐ろしいほどの数が集団で蠢いていた。
一瞬、怯みかけたエルナだが、かつての死線や死闘を潜り抜けた胆力は流石である。なんとか踏み止まり、まとめてこの一撃で、と気合を込め、
一斉に彼らが進行方向をこちらに変えたのを見て、意識を一瞬手放してしまった。
胆力があっても、どうにもならないものはどうにもならない。
おまけにこちらに近づいた事で気づいたのだ。その一匹一匹は手の平ほどの大きさであると。南の大陸の倍では効かないサイズだ。恐怖でしかない。
「無理ぃぃぃぃ!」
踵を返して脱兎の如く逃げ出すエルナ。
その素早さたるや、クレインもカインも反応できず、横切られる瞬間に逃走したと知覚させるほどであった。
「なーーー!?」
体裁もなにもない。純粋に驚きの叫びを上げるクレイン。
思わず振り返って、エルナの姿を視界に納めそうになったが、今はそんな場合ではないのだ。
迫る黒い濁流に向けて剣を振るい、カインが魔法を打ち出す。双方ともに加減はされているものの、床や壁に爪跡を残しつつ敵に食らいついていく。
消し炭になるもの。木っ端微塵になるもの。生物として頑強という事はなく、瞬時に散っていく。
だが止まらない。圧倒的物量の波が押し寄せ続けているのだ。川の水を一時的に消滅できたところで、その水源がある限り流れてくるように。
無限と錯覚しそうな量が、おびただしい数が迫り続けていた。
「俺が食い止める! カイン、逃げろ!」
「っ! 申しわけありません!」
一瞬の躊躇。打開策の模索も意味はなく、カインがその場を離脱する。
魔法に比べれば、ごく僅かなインターバルで次が放てる剣のクレインは、尚も抗戦を続けていく。しかし一太刀ごとにぐっと迫られている状況。少しの足止めが精一杯であった。
「限界か……」
クレインの周りに魔力が渦巻く。剣や鎧の要領で高密度な魔力をまとう。
完全に物質化はしていないものの、物理的に存在するかのような壁を形成された。
クレインを覆うドーム状の防壁。身動きこそ取れなくなるものの、そう簡単に破られる事はない強度を誇るだろう。
その魔力の塊がよほど美味そうに見えるのか。悪魔達はあっという間にクレインに取り付き、蠢く黒い球体が出来上がる。見た者を発狂させそうな光景だ。
(ここまで一気に魔力を放出したのは久しぶりだが……これで入り込まれる事はないな。あとはカイン達が一網打尽の攻撃をしかけて救出されるのを待つばかりか)
ガサガサという異音はすぐ傍で、360度とまではいかずとも、下を除いた全ての方角から聞こえてくる。
おまけに物質化していない。透明が故に彼らの『腹』がよく見える。
物理的な接触を一切防ぎ、あとは外部から攻撃するのみ。とっさにしては究極の対処法に思えたが、
(気が狂いそう……)
あまりの環境に耐え切れず、クレインは耳を塞いで目を閉じて、膝をついてうずくまってしまった。
予想を遥かに超える精神的ダメージに、思わず泣き出したくなるほどだ。
一分一秒が何十倍にも感じられる。正に地獄。
しかし、そんな永遠の責め苦とも思える時間も、そう長くはかからずに終わりの時を迎えたのだった。
突如、高い魔力を知覚したクレインが顔を上げた瞬間である。
絶対防御、は言い過ぎにしても、高硬度の防壁をも貫く熱波がクレインを飲み込んだのだった。
「範囲よし、距離よし、威力よし。うん、建物は傷つけずに焼き払えたはずよ」
深緑の魔王が城の入り口に立っている。
ゴーレム対策で名前が挙がったとおり、彼女もまた水の魔王のように、魔法に秀でた一面を持っていた。普段の言動や弓の名手であり、意欲的に体を動かす事で忘れられがちではあるが。
努力と天賦の才。それらが合わさり、現状の北の大陸において屈指の魔法の使い手の一人である。
「深緑の魔王、本当に助かりました」
「いやいやいや。元々はあたしのところが悪かったんだし。むしろ尻拭いができてよかったよ」
「く、クレインは大丈夫なんだろうか……」
今回の事態で考えれば被害は恐ろしく軽微。だが初動で彼らに襲われた者はいる。
クレインを含めそうした者達の為に、中へと入っていく捜索隊と救護隊。エルナはその背中を眺めながら、不安を吐露する。
「言ってもあの馬鹿高い魔力があるから、どうにか凌いでいると思うわよ」
「そうであるといいのですが……」
「お、珍しく慈しむ魔王が荒ぶる魔王の心配かー?」
「私は……全てを押し付けて逃げてしまいました。これほど己が無力だとは……」
不甲斐なさでいっぱいのカインが項垂れる。止むを得ない状況とはいえ、打ちひしがれているようだ。
「あの、本当に助かりましたが……何故こちらにいらっしゃるんですか?」
あまりにも居た堪れない光景を前に、エルナが別の話題を深緑の魔王に振る。
クレインならばいざ知れず、事前連絡なしに他国の魔王がいるという状況は、エルナにとって初めてだ。
当然の質問なのだが、あまり触れて欲しくないのか、深緑の魔王はばつが悪そうに顔を歪める。
「いやー今回の原因もあってさ。蜘蛛を送るの漏れていたから、侘びも兼ねて急いで来たのよ」
「へ? 蜘蛛?」
「あれ? 知らされていないか。あいつらの捕食者である蜘蛛がうちの森に生息してるのよ。まあ解き放って他の生態系を壊してもまずいから、魔法で探知できるようちょっと細工した奴らを毎年貸し出しては回収、ていうのをしてるの。ある意味、主要産業ね」
「……ああ!?」
殆ど忘れていた記憶が一本の糸として繋がった。
かつてクレインも話していた事である。まるで神を崇めるかのような振る舞いだっただけに、深くは聞かなかったそれの正体に行き着いた。
その捕食者がどれほど有能かは分からないが、クレインの口ぶりからすると、彼らがいるだけで、こうした騒動は起こらなくなるのだろうか。確かに崇める気持ちは分かる。
「けど漏れていたって……」
「いやほんとごめんね。農商国家だけ送られていなかったのよ。こっちも大慌てよ」
しかし魔王がわざわざ出向くほどとは。それだけ重い事態と受け止めてくれた証でもある。農商国家との間では、兵士の協力もあって無償提供を受ける間柄なのも、一因しているのだろうが。
「なんにせよ助かった事は事実です。深緑の魔王がいなければ、駆除も手こずっていた事でしょうし」
「まー進行が止まった、て事はどっかで釘付けになっているんだし、どうにかできたとは思うけどもね」
「お話中失礼致します。カイン様、ご報告があります」
一人の兵士が敬礼と共に、話に割って入ってくる。
他国の魔王もいる場だ。緊急の報告なのだろう、とカインは咎める事もなく、続きを促した。
「現状、行方不明とされていた者は全て城内で確認。数名は重傷であるものの、極度のショック状態の者はおりません。ただ……クレイン様が重体で発見されました。既に処置に入っておりますので、命の危険性はありませんがしばらくの間は絶対安静は必須となるだろう、との事です」
三人の間でなんとも言えぬ空気が流れていく。
クレインほどであれば、あの魔法とて耐えられるはず。
だが話の限りで考えると、どうやら耐物理を意識し過ぎて、耐魔法の強度が疎かになったきらいがあるようだ。
「……日を改めてお詫びとお見舞いに来ます」
「えっと……はい。よろしくお願いします」
気まずい空気の中、二人の魔王が他人行儀な対応をする。
なにはともあれ、難は去ったのだ。ある意味、農商国家を危機的状況に陥れるほどのものが。
かつて、多くの者の精神を破壊させしめた事態は避けられたのだ。
喜ぶべきである。
ただクレインは療養おかわりといったところ。それも誰よりも一番酷く。
それだけは不幸であったと言わざるを得ない結末であった。




