閑話 それぞれの魔王
「いやーしかし凄い熱い視線だったねぇ」
とニヤニヤしながらクレインを見つめる深緑の魔王。
一応の協議が終わり半ば雑談の場となった今、先ほどの光景を振り返っていた。
他の魔王達にとっても、這い寄る魔王のインパクトは中々強烈のようだ。
それもクレインに対する熱烈なアプローチである。弄れる相手が標的となれば、面白がる者も多い。
「ぷ、くくく、もう、合併しちゃいなよ、ぷふぅー」
「どんだけウケているんだよ……」
「クレイン。分かっていると思うと、そういうのがあったら落とすよ?」
瞳から光が消え、感情もついで消えたエルナからそんな言葉が吐き出された。
冗談など欠片ほどにも感じられないそれには、他の魔王達でさえぞっとさせるものがあった。
「そんな気はないから落ち着け。というかなにを落とすつもりなんだ」
「ああごめん。切り落とすよ?」
「どこをっ!?」
思わず聞き返しはしたが不貞の話だ。どこをなど分かりきった事である。
「荒ぶる魔王のところの夫婦漫才はおいといて。真面目な話、気をつけるに越した事はないな」
「え? なに? 火の魔王も見つめられてた?」
未だ小馬鹿にするような深緑の魔王に、哀れみの視線が集まる。それも一部からは溜息混じりだ。
ようやく人事ではないらしい事に気づいた深緑の魔王が、視線を泳がせながら周囲を窺った。
「あの? 待って、あたしも?」
「楽しい話をしてやろう。あの魔王、一人一人をしっかりと見つめた上で、舌なめずりをしていたぞ」
「うえええ!?」
山の魔王の報告に、深緑の魔王が自分の肩を抱いて身を震わせた。普段さばさばとしている彼女にしては非常に珍しく、分かりやすい嫌悪感を示す。
「一つ確認しておきたいのだが。水の魔王、這い寄る魔王と初めて接触した際はどうであったのだ?」
「……そうですね。あれも口説かれた、と言っていいのでしょうかね……」
思い出したくない記憶を無心で掘り起こしたかのごとく。
遠くを見やる目でそう淡々と呟いた。
恐らくは枯渇の魔王との同席、三人での接触だろう。
今日はこれだけの人数がいたが、たった二人となるとどんな集中攻撃を受けたのか。
「いきなりそんな強行に走るとは思えないが、とりあえず各自で糸には気をつけようか」
「……糸? どういう事?」
「這い寄る魔王は知らなくても仕方がないが、各国の魔王の本来の姿については知っているのか?」
「え? いやー……」
「カイン」
そ知らぬ顔をして座る、現魔王をジロリと横目に睨みつける。
「確かに私が魔王を継ぐ方向で準備はしていましたが、エルナさんが農商国家に残りたい、と仰られたのは魔王様の没後でしたので。まあ私としては結果的に助かりましたが、そういった細かい部分というのは中々手が届かなかったんです」
「だとしても魔王の側に控える者がそういうのをろくに知らないのはまずいだろ。俺でさえ知っているぞ」
「お前は魔王だっただろ」
非常に珍しいクレインによるお説教の中、引き合いに出す立場が違うだろ、と外野から指摘が入る。
「そもそも、臥せっていたとはいえ時間もあっただろう。何故、その辺りを詰めてやらなかったのだ。四六時中、看病されていたのではないのか?」
「確かになぁ。これ、お前が配慮してやるべきだろ」
「ていうか自分がいなくなるの確定していたのになにも考えなかったの?」
「そ、それは……」
集中的に責められる中、クレインが狼狽して言葉を濁す。
忘れていた、というよりはあまり話したくない様子だ。
一応の事情はあるらしく、エルナが恥ずかしそうに代弁をし始める。
「その、自分からのお願いでして」
「へ? どういう事?」
「あたし自身はもしかしたら、をどうしても捨て切れなかったので、クレインがいなくなる事を前提とした話は聞きたくない、と言ってしまったんです。勿論、こちらを案じて色々と打診はしてくれていたのですが……」
エルナの証言で一転、クレインを攻め立てる空気がガラリと変わる。
「そうもなるか……」
「まあ、彼女の立場で考えたらそれは普通だよな」
「エルナちゃん、気づいてあげられなくてごめんね」
「この扱いの違いよ」
一斉に手の平を返され、謝罪もなくエルナの擁護に入る面々。
だが憎々しそうなクレインはすぐに顔を緩めた。
今、この場で見えるエルナと魔王達との関係に、自分のいなかった時間を思い安心をしているのだろう。
「けれども、各魔王については知っておいたほうが良さそうですね」
「そうだな。いい機会ではあるし、この場を借りるとするか」
そう言うが早く断ち切る魔王がなにやら紙に書き始める。
周囲がその行動を見守っていると、やがて完成したようでエルナに渡した。
農商国家 荒ぶる魔王 角と翼
山岳都市 山の魔王 ゴーレム
高山都市 狩る魔王 ロック鳥
剣の国 断ち切る魔王 鎧大将軍
潮風の国 波紋の魔王 竜巻を纏った水龍
砂炎の国 枯渇の魔王 サンドワーム
連合都市 束ねる魔王 ドラゴン
水の都市 水の魔王 水龍
闇の国 這い寄る魔王 大蜘蛛
樹海の国 深緑の魔王 菌糸類
それは表として描かれており、各国の魔王と真の姿が記されていた。
わざわざ他国のそれも魔王の付き人の為に書いたのだから、随分と優しいものである。
「これがおおまかなものだな。見て分かるとおり左から国名、魔王の二つ名、現魔王の本来の姿となっている。下の三人が女性の魔王だ」
「えっと……わざわざありがとうな、断ち切る魔王」
「なに、気にするな」
「だけど俺の角と翼って雑過ぎないか?」
「巨大化しない上に、お前の姿は知っているのだろう? ならばこれで十分だ」
「いや、うーん……そうだな」
断ち切る魔王の弁にクレインが言いくるめられている。
彼の物腰や言い方はどうにも妙な説得力があるのだ。
そしてその光景に深緑の魔王と火の魔王が目を光らせる。またぞろクレインに対し、しょうもない事の企てを考えているのだろう。
「次に山岳都市。そこにいる山の魔王はゴーレム種だ。一応は精霊の一種とされている」
「……はい? 精霊?」
「あー分かる分かる。俺もそんな感じだった」
目を見開いて驚くエルナに、クレインがうんうんと頷いて懐かしがる。
そしてその光景を知るカインは複雑そうな顔をし、他の魔王は何故驚くのか、と不思議そうな様子で顔を見合わせた。
「俺達みたいに魔物・魔族の知識が中途半端で、お話を元に構築されているとそうなる話題なんだよなぁ」
「え、魔王様がそんな学ばれ方をしたの初めて知ったんですが。死の島にはそれほど創作物が残されていたんですか?」
「なに言ってんだ。大陸に上陸して本格的に賊狩りと呼ばれるまでの間の話だ。種族の知識なんてろくになかったんだよ」
「……荒ぶる魔王の所為でだいぶ逸れたが、ゴーレム種は周囲の鉱物から生まれる精霊とされてきたのだ。雄も雌もない。だが一部のゴーレムが周りにつられて人の姿を取るようになってからは、その姿による有性生殖と変わっていったのだ」
「まるで流されて変容したみたいに言ってもらいたくはないのだが?」
断ち切る魔王の解説に山の魔王が眉をひそめる。
しかし客観的に見ればそのとおりであった。それも生殖して増えてすらいなかったのだから、とてつもない劇的な変化である。
「高山都市の狩る魔王は私も会った事はないがロック鳥、言ってしまえば巨大な鳥だな」
「巨大な鳥……そういえば山の魔王様が協議に出る時に送ってもらっている、という話でしたっけ」
「ああ、その通りだ」
「えっ!?」
「はぁ!?」
山の魔王の肯定に深緑の魔王と火の魔王が声を上げる。
「待て、あいつ距離があるからとかなんだかんだ理由をつけて、山の魔王だけ協議に来させていたんじゃなかったっけか?!」
「ぶっちゃけロック鳥だしむしろあんたのが来るの楽だろ、とか思っていたけどもなんじゃそりゃ!」
「あー……クレインとカインさんが話していたの、こういう事だったんですか」
明らかな反感を示す二人の姿に馬車で見た光景を思い出す。
なるほど、これで本人は近くまで来ていたとなったら、当然こんな反応も出るだろう。
「ていうか、今までなんで気づかなかったんだろ……あたし」
「当然、深緑の魔王の動向を窺って隙を見て飛んでいたからな」
「しれっと共犯を宣言したぞこいつ」
「あの二人はおいておくとして次は私自身だな。鎧大将軍と呼ばれる種族で、大鎧とも言われている。全身が金属製の外郭に包まれた巨人だと思ってほしい」
「巨人……」
「そうそう。おまけに本来の姿になると巨大な剣も生み出される。大陸一と言っていい化け物だな」
「それはどうかなー」
十二分に大陸一の化け物を呼称できるクレインに冷たい眼差しが刺さる。
「大きさに個体差が出る、とは噂に聞くが断ち切る魔王はどのぐらいの大きさになるのだ?」
「正確に計測した事はないが10mはあるだろうな」
「10mは、か。その言い方がまた怖いところだな」
「ええ……しかもこれ、ちゃんと計測できない系よね」
「正しく巨人だな。鎧大将軍は殆ど剣の国にいるんだろ。怖すぎる」
「とは言え、3~5mが一般的とも聞きますよ」
流石、広く知識があるというべきか。水の魔王が補足する。
しかし断ち切る魔王が別格過ぎるとはいえ、5mも十分に怖いものだ。
「いや、最近だと6、7mぐらいが平均であるな」
すかさず更に怖い訂正が入った。
「というか測っているのか……」
「国民の健康管理として年に一度、諸々の測定が行っていてな。病気の早期発見を目的としている」
思いがけず真面目な話になっただけに、なんとも言えない表情をするのが数名。
しかし断ち切る魔王は気にする様子もなく、尚も説明を続ける。
「潮風の国は……風水龍、でいいのだったか? 少し曖昧だった為に特徴で記させてもらった」
「ええ、それで間違いありません」
「あ、ちゃんと名前があるんですね」
「争い事とは無縁の種族だ。基本的に海上や湖面でぼーとし、巻き上げた魚を捕食して過ごす魔物だったとか」
「凄い反応に困る話をされた……」
かつては魔物で今は魔族の人である。
エルナからしてみればなんとも不思議な話。
それもさることながら、人とはかけ離れたかつての姿の生態を聞かされたのだ。なんて返すのが正しいのやら。
「魔物であった祖先の頃では、私達の上位種に値する存在なんですよ」
「……現在ではそういったところの立場、みたいなのってあるんですか?」
「誰も気にしていないと思いますね。そもそも本来の姿になる事自体が稀なものですので。特に私達みたいに大型の種族ですと」
「おまけに風水龍は断ち切る魔王が話したとおりの生態だ。存在するだけで周囲を巻き込む。故に潮風の国ができた当初は天災の魔王と呼ばれたそうだ」
「納得だ……でも代々魔王は漁業を営んでいるんだよね?」
「ああ。正確にはあそこの種族の殆どがその関係者、が正しいんだがな」
「……魚介類をとても好みますからね」
(魔物の時の生態を色濃く残しているエピソード、何気に初めて聞いたかも)
果たしてその感想は口にしてもいいものやら。
エルナは判断がつかず、そっと胸中で呟いた。
「次は先ほどまでいた枯渇の魔王だな。サンドワームなのだが……分かるだろうか?」
「えっと……飽くまで南の大陸のお話に出てくるものですが、砂漠に生息する鋭利な歯のついた巨大ミミズ、でしょうか」
「南の大陸じゃそんな扱いなのか……」
「彼らの種族が聞いたら泣きそうだな……」
あまりの象られかたなのか、クレインと断ち切る魔王が悲しげな様子。
見れば他の魔王達も、微妙な表情を浮かべていた。
「い、いやあの、お話の中でのものですからね?!」
「あ、ああそうだったな。ワームという名前から分かるとおり確かにミミズのような形状ではある。だが、体は砂が渦巻いてできているのだ。体の内部には核があって、それを破壊されると死ぬと言われている」
「……生物?」
「ああして魔族として生きているのだからそうなのだろう」
「ぶっちゃけ、ここにいる誰もサンドワームとしての姿そのものは見た事ないけどもねぇ」
「見てみたい気はするが……流石にそんなの頼めねえしな」
本来の姿を恥じる者はこの場にも一名いるにはいるが、基本的にはあまりいないものである。
しかし、それでもやはり今は人として生きている以上、デリケートな話題であるのだ。
人から離れた姿であり、それが異形であるほどに話題にし辛い。というのが北の大陸での一般的な考えである。
「さて連合都市だが……荒ぶる魔王も初めて聞くだろう」
「これが西の国の集まりか」
「そのとおりだ。このドラゴン種は翼を持たぬ四速歩行の……まあもっともポピュラーと呼んでいい種だな」
「おぉ。ドラゴンそのものだ」
色々と知識や期待が裏切られる中、南の大陸とも合致するものだったらしく、エルナが僅かに目を輝かせる。
一方でクレインは僅かに顔を曇らせた。
(死の島の古代種は二足歩行がポピュラーだったけどなぁ……)
幼少の頃は散々追い回されて何度命の危険があったか。
四速歩行なのはむしろ小型のものばかりである。
もっとも、逆なら逆でより機敏に、閉所に対応する二足歩行の種に追いかけられていたのだ。むしろ死の危険が増していたかもしれない。
「さて次は……水の魔王の水龍は水辺に生息する飛龍だ。炎などを吐く事はないが、非常に魔力に優れた種である。這い寄る魔王も……まあただの大蜘蛛だな」
一気に説明が雑になって駆け足で進む。
ともなればトリの深緑の魔王にお鉢が回るわけだが。
ブルブルと震えているのであった。
(一番触れ難いところだなぁ)
エルナが改めて紙に目を落とす。
深緑の魔王のその本来の姿は菌糸類と書かれている。
明らかに直接的な表現を避けているだけに、果たして聞いていいのかとすら戸惑う。
「あーくそ! あんたもあんただ! もっとソフトに書け! 断ち切る魔王!」
「そうは言うが十分に配慮していると思うのだが」
「ああ、全くだな。なにせ本来の姿はカ……」
「やめろーーーーー!!」
深緑の魔王は立ち上がって叫ぶ。
どう足掻いたところで知られる事だが、よほど目の前で言われるのは嫌な様子である。
叫びも終えると、その場に崩れ落ちて椅子と床に手をつく。さめざめと泣く、ほどではないが落ち込んでいるようだ。
「もうヤダ……堂々と言われるとか……お嫁にいけない……」
「王家でないにせよ魔王なのだから婿が来るのでは?」
「親子二代で、だしな」
「……えーと」
完全に話に入れず困惑するエルナにクレインが向き直る。
「本人がいる手前、言い辛いがカビだな」
「さっき普通に言おうとしたよね?」
「ただし、普通のカビではない。それはもう凄まじい生命力を持つカビであり、繁殖力も優れも全てを統べるカビであると言って……」
「連呼するなーーーーー!」
遠慮のないクレインの言葉に、深緑の魔王が再度吼える。
流石に言い過ぎたか、と咳払いをして周囲を見回した。
「で、紙に書かれたのは全て説明したわけだが、もっとも酷い扱いを受けた存在がいるが、さて誰か分かるやつっ」
クレインの掛け声に無数の手が上がる。
水の魔王、火の魔王、断ち切る魔王、そしてカインであった。
しかし答えを求めていたわけではないようで、クレインは一呼吸空けて言葉を続けていく。
「そう、火の魔王がまるっと抜け、て断ち切る魔王は分かっててそう書いたのか?」
「水の都市あたりで抜けているのに気づいたのだがまあよいか、と」
「よかーねえよ」
火の魔王が苦虫を噛み潰したような顔で恨めしそうにそう呟く。
「あー俺の種族はサラマンダーだ。といっても結構大型のだな」
「大型……どのぐらいですか?」
「それは俺から説明する。南の大陸でいくつかお話に目を通したが、ああいったもののドラゴンぐらいのサイズだな」
「でか!」
「吐く炎も凄くて山をも炭にするほどと言われている」
「……」
規格外の話にエルナが慄いた視線を火の魔王に向けた。
「いやいや、そんだけ強い種族なら遥か昔の剣の国の侵略も退けていたさ。ま、頑張れば鉄を少しは溶かせるかもぐらいだな」
「それでも十分凄いのでは……」
「俺自身は試した事ないし、本当かは分からない記録上の話だからな」
「といったところで、現在の魔王達の説明は終わりだな」
クレインがそう締め括ると、エルナがはー、と納得したのかよく分からない声を上げた。
「……ちょっと気になったんだけど、強さの序列、みたいなものとかはあるのか?」
「特にないな」
「そもそも本気で試そうものなら、この大陸が沈むだろうし」
火の魔王がそう苦笑する。
それもそうだ。断ち切る魔王とで比較するだけでどれほどの被害を生み出すというのか。
「だが誰が最強か、についてははっきりしているな」
「え、本当ですか? ちなみに……それは一体」
明らかにわくわくとした目つきでエルナが訊ねると、魔王達の視線が一箇所に集まっていく。
エルナもそれを追っていくと、おずおずと手を挙げる深緑の魔王へと辿り着いた。
「……え? ええ? あ、もしかしてからかわれてる?」
「いや、これが本当なんだ。さっきも言っただろう規格外だと。古い記録にも世界を滅ぼしうる存在として残されているほどだ」
「滅ぼす……」
「深緑の魔王の一族、そのカビは通常のカビのように胞子を放出する。有機物に付着すればすぐさま発芽し、瞬く間に広がっていく。それも付着された存在の生命力を吸収して」
断ち切る魔王にしては珍しく、顔を曇らせて語っている。
その光景を想像しているのか、畏怖しているのかは分からない。
「無論、無機物の上でも成長するが多少は時間がかかる。まあ、普通のカビより早いそうだが」
「けれどもカビであるのなら焼き払ったり、魔法で吹き飛ばす事も……」
「そうだなぁ。中心に向けて周囲から燃やしていけばできるだろう。もっとも包囲するより早く、カビの拡散も胞子の飛散もするだろうが。爆発にいたっては被害を拡大させるだけだろうな」
「ああ、私も同意見だ」
「じゃあなんで今、世界が存在するんだろう」
「エルナちゃん、その言い方めっちゃ刺さる……」
「あ、ご、ごめんなさい」
ただの説明であるはずだが、一言一言に殴られ蹴られぶった切られ。もはや瀕死の深緑の魔王が、完全にブルーな様子で言葉を漏らした。
「元々は樹海の国の奥深く、風もろくに抜けないような場所に生息していたそうだ」
「ああ、なんとなく分かりました……」
「ぅぅ……こんな醜い種族に生まれたくなかった……」
「それでいて最強だからなぁ。エルナ、樹海の国に行った時、深緑の魔王は西の国々の動きに警戒していただろう。だが実際は全ての者にとって敵意をかざしてはいけないのは彼女の種族、つまりは樹海の国に他ならないわけだ」
「まー最強とは言っても、その力をフルに使うと無差別に命を奪うからなぁ。完全に禁忌の類だ。そんな事態はまずないよな」
「なるほど……全てを失うという天秤にかけて初めて、その選択肢が生まれる最強、なんですね」
「そういう事だな」
諸々の事情を理解した。
理解はしたが……十分化け物の力を見せ付けられたクレイン。
情報だけでも十分化け物の各魔王。
そんな彼らをもきっと、有効的な行動を取らせずその命を奪える力を持つ深緑の魔王。
「……」
頭で分かっていても恐怖が生まれる。
座席は机を挟んでいるとはいえ、エルナが僅かに身を逸らしてひいた。
「ああ、待って! 距離を取らないで!」
「そうです。大丈夫ですよエルナさん。そういった力を有しているだけで、彼女自身恐れを持っています。決して悪意によって力に触れる事はありません。確かに荒ぶる魔王のように、時折いたずらが過ぎる事はありますが、私は心から信頼しています」
「……。申し訳、ありませんでした」
水の魔王の真摯な訴えに、エルナは己を恥じ入るように謝罪の言葉と共に頭を下げた。
だが一方で、フォローされた深緑の魔王は未だかつてない、絶望とも燃え尽きてるともつかない表情をしていた。
「今のフォローじゃあなぁ」
溺愛している水の魔王に、いたずらが過ぎるなどと思われていたからか。
はたまたクレインと同列に語られていたからか。
その胸中は分からないが、深緑の魔王はまるで世界の終焉にいるかのようである。
(まあ……どっちもなんだろうな)
クレインを含めて何人かは、それを察して優しく彼女を放置してやるのであった。




