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大虎高龍球部のカナタ  作者: 紫空一
8.大虎高龍球部のカナタ
227/229

すべてはそこに(3)

 例えば、レインに倣って身近な戦友であるショウやレインの名を挙げたとする。

 英田兄妹にとって、彼女等が半年間に亘る激戦を戦い抜いた大切な仲間である事は言うまでも無いが、レインが自分達を指して言った言葉とはまるで重みが違って聞こえる。

 レインにとって英田兄妹とは、彼女の生き方を左右し、命さえも救ってくれた大恩人なのだ。

 兄妹がレインの為に高校生活の色々を優先しているとはいえ、それでも彼等兄妹にとってのレインという存在は、ドラゴンが言うところの”宝珠”には遠く及ばないだろう。


 ふと、こうも思った。

 今こうして横に立っている無二の戦友であり、家族である妹や兄はどうかと。

 今までの人生で色々な事を二人で体験し、乗り越えてきた仲のこの者ならどうか。

 良明も、陽も、心の中で首を横に振り、こう思った。同時にだ。

 ”こいつはそんな御大層な存在じゃあない”

 確かに、もしも今この瞬間失えば半身を無くした様な苦痛を感じはするだろう。三日三晩寝込んでも晴れない心は想像に難しくは無いし、この相棒が居なければ成せなかった事など挙げていけばキリが無い。

 居て当たり前の、自分の一部の様な存在。

 宝だとかなんだとか。決して、そんな仰々しいヤツでは無いのだ。


 沈黙する二人を見下ろし、語り部の愛竜テレノスはその重々しく心に直接響き渡る様な唸り声で再び言葉を成した。

『沈黙。それが……貴様達の答えか』


 外には敵の軍勢が犇めき、味方の安否と異世界人達への攻撃の機会を窺っている。リミットは幾許も無かった。

 そう、時間が無いのだ。

 あちらの世界から迎えが来るまで、あと数分。場所はこのコロニーの近辺。そう取り決めてある。

 言い換えればこういう事である。

 なにも、こんな得体の知れない者達の相手をすることは無い。定めた時刻まで時間を稼げばそれでいいのである。

 そもそも、このレオンとテレノスが正真正銘の”語り部”とでも呼称するべき存在であるのかどうか。そこからして――


 爆発音が、雷のドームの頂上付近から鳴り響いた。


 唐突な爆発に対して兄妹とレイン、ショウは身を屈ませる様にして上を見た。

 それが”威嚇”である事は火を見るよりも明らかと思われ、つまるところ、身の危険を感じたのである。

 爆発自体に反射的に反応したという事もあるが、兎に角、この状況は一刻を争うのだという事を彼等は思い知らされた。


 双子が紡ぐべき言葉を考えあぐねた事に対し、テレノスがとったこの魔法の発動という行動。それが意味するところを正確に理解していたのは、実のところその場でただの一頭と一人だった。

『レオン。解っているな? ”約定”は』

「無論だ。それこそが我等の絆。それこそが我らの戒め」

 唐突な爆発に続いて、唐突に成されたドラゴンと男の会話。

 その意味を、双子は知る由も無い。


「……どういう」

「事です、か?」

 問うた二人を直視した、レオンとテレノス。

 そして、彼等はお互いの相棒へと視線を向けた。

『幼い日から、我はこの男と行動を共にしてきた……』

「!?」

「!?」


『時に戦いの術を与え、時に理不尽な使命の事を互いに語った』

 レオンは、ドラゴンが放ったその語りに偽りが無い事を示す言葉を並べる。

「俺は誰よりも、”語り部の傍のドラゴン”としてのこの者を理解している。逆もそうだ。テレノスは、代々語り部に寄り添ってきたドラゴンの末裔であり、語り部の家系の全てを知っている」

 そして、一頭と一人は声を揃える。

『故に』

「故に」


 すると二者はお互いに距離を取り、向かい合ったまま構えた。わけも解らず硬直する双子。

 否。

 レオンが何をしようとして剣を具現し、テレノスが何をしようとして爪を正面へと向けているのか。その答えなど一つしかなかった。

『我は……我等”語り部に寄り添うドラゴン”は。かつてこの男の家系と賭けをした!』

 レオンが、眼前の相手(・・)を前に説明を引き継ぐ。

「すなわち。”異世界の住人はこの世界を脅かすか否か”ッ! 極めて、明快だ」


 ショウは、それらの言葉が意味する所に対して息を呑んだ。

 数千年。

 数千年である。

 語り継ぎ、寄り添い、世代をいくつも越えて信念を貫き通す。それがどれ程の想いを犠牲にし、どれ程の覚悟を以て今日まで続いてきたのか。

 想像など出来る筈が無かった。

 まして、親から子へと受け継がれたが故にその情報は確たる真実の伝播である事を意味しており、この伝承を伝統と使命の名の元に未だ神々しいまでの誇りで以て輝かせている。


 レオンは、テレノスは、続ける。

「我が祖先の人は言った。世を作り、紡いでいく人間を信じよと」

『我が祖先の竜は言った。誇り無き者に、この地を踏ませるなと』

「賭けた物はこの世界の命運! 故に賭けを放棄し眼前の()に立ち向かう!!」

『賭けし物はこの世界の命運! 故に賭けを放棄し眼前の()に立ち向かう!!』


 レオンは、テレノスは、地を蹴って互いの姿を視界から一切外さず、自身の刃を振りかざした。

 ごうと轟く風切り音。

 ずしりと響く得物の感触。

 こうして、数千年の未来の先に待つ結末は、今、姿を現した。


 異世界の双子という形を伴って。


 レオンの剣は、テレノスの爪は、良明が具現した盾により、陽が具現した手甲により、受け止められた。

『アキ!』

『陽!!』

 名を呼び、二頭のドラゴンは兄妹のところへと駆け付けようとして、直後の二人の叫びによりそれを躊躇った。



「ふざけるな!!」

「ふざけるな!!」



 良明は、重い一撃を受け止めた盾を払う様にして、レオンの剣を弾いて続けた。

「それを確かめる為に”宝珠”とは何かを尋ねたって? それでその先どうなる!? 俺が、陽が何て答えたってお前達は戦ったんじゃないのか!?」


 陽は手甲を消失させると共に腕を大きく振り薙いで、テレノスの爪を逸らして続けた。

「何年も何年も、あなた達は友達だったんだよね!? それ以上の何かだったんだよね!? なのに、その関係を壊すためにここに来たって言うの!?」


『それが我らが受け継いできたもの。我とこの男の絆だ』

「双方全てを承知したうえでの今この瞬間なのだ」


 強い風に、突如としてレオンの剣が奪われる。

 レオンが何事かと辺りへと視線を向けようとした瞬間、彼の上空でその獲物は爆散した。

 三池が、極めて不機嫌そうに毒づく。

「くっそ……くだん、ねぇ……」

 けやきは朦朧とするまどろみの様な意識の中でさえも、力強くこう言った。

「そうでは……ないだ……ろう」

 身体を地面に横たえたまま、残る集中力をかき集めて辛うじて放たれた二人の魔法。それは、彼女達の身を護る為のものでも、仲間達を助ける為のものでもなかった。


 双子は、そんな二人の言葉を代弁する。

 それはまるで法撃の様に、自身の想いを叩きつけるのである。

「あなたたちは、どうしたい?」

「あなたたちは、どうしたい?」

 レオンとテレノスが何かを言おうとするのを遮る様に、彼等は続ける。

「使命も伝統も関係無い! 今この瞬間、あなた達はどうしたいのか!」

「大切な相手を傷つけてまで守る御先祖様の約束なんて、知った事か!!」


「それでも戦うっていうんなら……」 

「私達がやる事はたったひとつだけ」

 良明は、陽は、眼前のこの世界の一片へと手を翳してこう言った。

数千年の継承(あなたたち)だけを排除して、この世界から去ってやる!!」

数千年の継承(あなたたち)だけを排除して、この世界から去ってやる!!」


 威嚇の眼差しを向ける良明と陽が吐いたその言葉に、レオンとテレノスはしばし沈黙した。

 その沈黙は、恐らくは彼等兄妹の言葉に耳を傾け、その言葉が指す意味を頭で理解し、解釈し、評価した事により生じた間であった。その段階を踏んだうえで、テレノスは彼にとって率直な主張をこの双子に浴びせる事をしたのである。

 先程のレオンとテレノスの話が本当ならば、この時彼等兄妹に浴びせたのは言葉では無く刃であっても何らおかしくは無い。なんなら、そうする事でレオンとの殺し合いをしなくても良くなったかもしれないのだ。だがそれでも、テレノスは言葉を発する方を選んだ。


『貴様共に、解るのか? 我等が積み上げてきた、世界を護る為の覚悟の歴史が』

「己の個を捨て、後任者にも個を捨てさせ、秘密を共有する無二の友人を殺める覚悟をしながら、その相手と共に空を飛び続ける。それがどれ程の事か、お前達異世界人に解るのか?」

 テレノスに続き、レオンも同じ様な主張を放った事で双子はこの時ある確信をした。それは、生死を分けるこの日まで誰よりも近くで支え合ってきた彼等双子だからこその気づきだったのかもしれない。

 故に、彼等はこう言い放って一人と一頭の言葉を一笑に付したのである。


「やっすいセリフだなぁ」

「やっすいセリフだなぁ」


 実際の所彼等は哂ってなどいなかったが、レオンもテレノスも良明と陽のその言葉に嘲笑の意味が含まれている事に深く憤りを覚えた。

 叩き伏せて全てを終わらせてやりたくなる衝動に駆られながら、再び武器を具現させて眼前のドラゴンへと構えるレオン。

 それを見て牙を向いて威嚇するテレノス。

 そして双子は、その二者の間で枯れ枝一本持たない丸腰の状態で棒立ちになった。


『なんのつもりだ』

 ドラゴンはそう言い。

「どけ!」

 語り部はそう言った。


 双子は、確信の元に指摘する。


「親友を手にかけたくなんてないんだろ? 当然だ」

「こうして私達の言葉に耳を貸してるのがその証拠」

 レオンとテレノスは動かない。

 互いを襲う事を今この瞬間、していないのである。

「葛藤してるんなら、そんな馬鹿らしい使命なんてぶん投げればいいじゃないか」

「”解るのか”って尋ねるのは、私達にそれを否定して欲しいからなんでしょ?」


「”俺達には解るよ”……そう言ってほしいのか?」

「”私達に解るわけないよ”……そう言ってほしいの?」

 ついに、ドラゴンと男はその爪を、剣を、双子に対して向けた。

 それはレオンの思想的な敗北(・・)を意味していたが、テレノスはそれを指摘しない。

「俺達を無視して殺し合わないお前達の生き方を選ぶのは、お前達自信だろ!」

「あなた達の覚悟が揺らいだ時点で、受け継がれてきたその呪縛の負けだよ!」

 兄と妹は、駆け出す。

「俺達に、救いを求めるな!」

「私達に、救いを求めるな!」

 良明は、陽は、向けられた爪と剣へと跳躍し、再び具現した双剣を全力で振り薙いだ。

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