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大虎高龍球部のカナタ  作者: 紫空一
8.大虎高龍球部のカナタ
226/229

すべてはそこに(2)


「この場に……お前の様な”知っている”人間が現れた事は必然なのか?」


 愕然としつつも、何かを悟った様な顔をしてそう呟いたのは園宮だった。

 ごつごつとした左手で右の肩を押さえ、樹木に寄りかかる事でなんとか立っている。彼の周囲にはソルスタの者はおらず、また、彼が操る自律機械の姿も見て取れない。

「園宮さん……あなたは、この期に及んでまだ何か隠してるんですか!?」

 良明の指摘に対して、園宮はくたびれた様に首を横に振ってこう言い返した。

「隠してなどいない……ただ、知ってはいる…………あの世界に、ドラゴンが居る理由を」

 ドラゴン達は澄ました顔で園宮の話に興味を示し、双子は反射的に問うた。

「どういう、事ですか?」

「どういう、事ですか?」


 轟轟と舞い狂う炎の向こうでは、三池とけやきの二騎がなんとかそれを退けようと攻防を続けている。


 ソルスタ自警団団員・レオンは、この場で相手の持ちうる情報を探る目的で園宮と彼等の問答を許した。その事に園宮とショウは気づいているが、あえてそれを表情という表層には出さない。

 園宮は、双子に思い起こさせる。

「あの世界に於いて、ドラゴンの祖先に当たる存在が見つかっておらず、ドラゴンという存在の起源が謎とされている事は知っているだろう」

 確かに。

 英田兄妹がけやきに連れられて行った竜属博物館でもそこは謎とされていた。国内へのドラゴンの流入については触れられていたが、それは今しがた園宮がしようとしているのとは別の話である。


 双子は直感する。

 パラレルワールド。並行世界。それは往々にして似通った世界同士を指す事が多く、彼等は当初こちらの世界においてもドラゴンの起源は謎とされている物だと思い込んでいた。

 だが、園宮がこのタイミングでこの話題を出すという事は、つまり。


「この……世界から――」

「――転送されてきた?」


「いかにも」

 と、答えたのはレオンだった。彼はテレノスの首筋を軽く叩いて視線を落とし、その相棒を深い想いを込めて見つめた。

「かつて、何千年もの昔にこの世界と、そうではない違う世界が邂逅を果たした証拠はいくつもある。ごく限られた者にのみ伝えられた事実はこの世界各地で符合し、それによりその言い伝え……つまり異世界の実在の証拠とされた」

 レオンは、視線を正面へと移す。彼が語る対象その者が、そこにいた。

「異世界のエルフの存在も、その口伝の一部だ」


 この場に実在している、良明と陽。その他数名と数頭。

 それが、現代、現在において世界を繋ぐ方法が実在している何よりの証拠だった。

 良明と陽にとって今重要なのは、レオンがそれをどう思い、レオンがそれに対してどうする事が出来るのかという事である。

 嫌な汗が、双子の頬を伝う。

 思う。

(そんな事を知っているこの人がこれほどまでに強いっていうのは、つまり……)

(異世界人である私達と時と場所を同じくして、あらゆる状況に対応する為……)


 延々と。

 何世代にもわたり。

 言い伝えレベルの”物語”を信じ。

 世界の秘密と強力な武力を伝え続けてきた家系。


 ただの高校生とそれを背に乗せるドラゴンなどが、戦って勝てる相手とは思えなかった。


 問うてはならないが、問うべき事。

 耳にしたくは無いが、聞かずにはいられない事。

 双子は、ありったけの勇気を振り絞り、その一言を口から吐き出した。

「貴方は……何を、望むんですか?」

「貴方は……何を、望むんですか?」


 彼等の背後では、未だ炎が舞い上がっている。その向こうでは、けやき達が戦い続けているのである。彼が敵であると誰もが認識できるこの状況で、レオンはこう回答した。

「……我が存在意義は、”語り部”である」

 園宮は、それにどの様な意味があるのか、眉間に皺を寄せた。

「何者にも屈さず、何事にも動じず、確実に史実と力を伝え続ける。それが、我が家系が成すべき事だ」

 双子の背後の炎が、突如として消えていく。

 姿を現したガイとクロ。その背の上のけやきと三池は、共に双子同様の完全集中の眼光で敵を視界の中央に捉えた。


「――!!」

「――!!」

 振り返り、双子が叫ぶ。

「待ってください!!」

「待ってください!!」


 今の二騎に、双子の声は届かない。

 千載一遇の好機。これを逃すわけにはいかなかった。ガイは羽ばたき、クロも羽ばたく。全身全霊の進行で眼前の敵へと迫っていく。

 ドラゴン二頭はけたたましく鳴き声をあげ、けやきと三池もまた、吠えていた。

 何としてでも元いた世界へと帰るという信念。

 眼前の敵に屈しないという鋼の様に強い意志。

 洗練された、無駄の無い二つの斬撃がレオンへと降りかかる。


「見事」

 囁く様に、レオンは彼女達の攻撃に賞賛の言葉を放った。

 申し合わせなどしていない。

 三池は向かって左上から叩きつける様に。けやきは右から薙ぎ払う様に。

 クロとガイは攻撃の邪魔にならない様に首を下げ、彼女達を確実にレオンとそのドラゴンの正面まで運ぶ事だけを考えていた。


 金属と金属がぶつかり合う音が、森に響き渡った。


 次の瞬間、地面に伏していたのは四つの身体。

 二騎から放たれた斬撃は夫々レオンの片腕でいなされ、同時にその身体諸共叩き伏せられた。

 驚くべきは、けやきも三池もそれらの攻撃を辛うじて防御していた事である。

 全力で振り切った攻撃の後に生じた隙。それを確実に突いて来たレオンの動きを見極め、防がねば命を奪われる一撃を防いでみせたのである。


「やはり……」

 レオンは、勢いのまま地面に転がる様にして倒れて行った相手へと冷静な視線を向け、敗北を認めるのである。

「そちらが万全ならば、確実に負けていた。素質も、実力も、こちらよりも君達の方が上だ……。強い意志を感じる一撃。迷いの無い一撃。見事としか、言いようが無い」


「涼しい顔して、ぬかしや、がって……」

「英田……兄、妹……」

 三池もけやきも、とうに身体の怪我は限界を超えていた。戦う事は愚か立ち上がって歩くという事自体が驚愕に値する様な状態での戦闘を長らく継続してきた事により、もはや身じろぎ一つさえも儘ならなかった。

 ガイはけやきに寄り添い、クロは倒れて動かない。


 異世界の者達とレオンとテレノス。それだけを囲う様にして、雷撃が張り巡らされていく。

 その外から声がした。

「レオン、なんだ、どうなった!?」

 レオンは、ソルスタの指揮官に対して答えない。


 言葉を紡いだのは、テレノスだった。

 良明と陽は、突如として一帯から切り取られた空間の中で聞いたドラゴンの声に身震いする。

 その声はしゃがれ、重く、絞り出す様に厚みがあった。その声音には、今この時この瞬間に立ち会っている事に対する興奮や感慨は読み取れず、それはつまり、彼がレオンの家系に仕える己の使命を全うする事に対して身命を賭している覚悟の現れに他ならなかった。


『問おう。異世界の者達よ』


 ”何を望むか?”

 ”何を企てるか?”


 悪事を企む者が、果たしてそんな事を正直に話すのだろうか?緊張と恐怖に身じろぎ一つ出来ないでいる双子は、この時そんな事を考えていた。

 だがそれでも、やれる事は一つだけ。

 自分達が今この場に居る事の意味を問われたならば、ありのままを告げるしかない。それが正義で、それが正解だと確信した。

 震えていようが、緊張していようが、言うべき事を言うだけだ。

 そう覚悟を決めた二人に対してテレノスが放った言葉は、彼等にとって全く別次元の問いかけだった。


『”貴様の宝珠(・・)は、なんだ?”』


 ドラゴンにより求められた情報。

 それは、この場に至る者により千差万別であるはずのものであった。

 白竜・テレノスの眼は相手の嘘を禁じている。ありとあらゆる欺瞞を看破し、眼前の命の色を見極めようとしている。そんな眼をしていた。


 宝珠。

 それは、ドラゴンが生きる上でただの一つ心に決めた”譲れないもの”、”大切なもの”、”自身の存在を自身たらしめるもの”。

 あちらの世界では、一般的にそういう言葉である。(※1)

 今この時、異世界のドラゴンは双子と二頭のドラゴンに対してそれを問うた。


 良明も陽も、レインもショウも、すぐに直感する。これが、語り部に寄り添うドラゴンの役目なのだと。

 この問いは、代々に亘り伝えられる事で、連綿と受け継がれてきた作法の一つ。異世界(・・・)の者に対して問う事を彼が強いられている、いわば儀式の一環なのである。


 ショウは、視線を逸らさずに真っ先にその問いに対して答えた。

『己の(せい)の謳歌』

 たとえば世界の平和だとか、そんな浮世離れした崇高な信念などではない。ショウが何年にも亘って生きてきて導き出した答えは、今の彼女にとって嘘偽りの無い物だった。


 続いてレインは張り詰めた緊張を肌に感じながらも震えた声を張り上げようとしたが、それが喉に引っかかって出てこない。

 まるで”その答えはダメだ”と彼女の中の何かが訴えている様に二度ほどそれを繰り返し、そして三度目にしてついに彼女はその驚くべき答を口にする。

『この、ふたり』

 良明と陽は、思わず彼女の顔へと視線を移した。

 金色の美しい虹彩が怯えと勇気の狭間で揺れ動いていた。

 拒絶でも非難でも無い。驚きの表情でレインを見る双子。

『わたしは……ずっと、ずっと……狭い場所に捕まってて、それで、そこから連れ出されたかとおもったらころされかけて……そんな時に身体をはって助けてくれたのが、このふたりだから……だから、わたしは! 私の宝珠は、このふたり!!』

 この答で文句があるなら知った事かと言わんばかりの思い切りで、レインは言い切った。


 テレノスは、何かを促す様な視線を眼前の相手に向けている。

 双子はもしやと思い、彼の顔を見返した。

 宝珠とは、少なくともあちらの世界ではドラゴンのみが持つ概念である。人間には使われない言葉、概念なのだ。

 数千年の歴史の中で言葉の指す物が変わり、意味すらも変えていく事は十分に予想される。つまりはそういう事らしいと気づき、二人は焦った。


(よ、陽……これってもしかしなくても俺達も言えってこと……だよな?)

(……考えた事なんてないよ! 私まだそんな事考える程生きてないよ!!)

 ばりばりと少年少女等を囲う雷撃の壁は、どんな恥ずかしい答えも外に洩らす事は無いだろう。

 そういうハナシではない。

 彼等は高校一年生。人生の意味を問われて答えられる程大人ではない。彼等の叔父など、未だに人生をなんとなく生きていると自分で言っていた。

 とてもとても。例えばこれが、将来を期待され何かに全力でぶつかっている子供に対して投げかけられた問いならまだしも、この双子の兄妹はつい数時間前まで他人に刃物を向けたことも無かった、ちょっとテレパシーが使えて魔法が得意なだけのただの一般人なのである。


 回答次第で、テレノスは何をするつもりなのだろう?

 レオンは自身を”語り部”だと名乗り、己を敵であると言いきれない人間である事を示唆した。だが、テレノスはそうは言ってはいない。

 双子とレインとショウがあらゆる展開を想像しようとしたところ、警戒する事を余儀なくされた。


 嘘は、見透かされる。

 その確信がありつつも、双子には”宝珠”たる存在が未だ見いだせない。兄と妹にしてみれば、迷宮の行き止まりでミノタウロスに追い詰められた様な心地である。


 彼等の回答次第で何が起こるとも知れない問答に対し、この場で最も神経をすり減らしている者――園宮――が、双子をまじまじと見ている。


※1・・・・【4.真夏の暁光 背水の挑戦者(6)】参照

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