表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大虎高龍球部のカナタ  作者: 紫空一
8.大虎高龍球部のカナタ
212/229

何を求めて<上>(3)



 その時は来つつあった。


 園宮が無人機を食い止めている事。

 園宮が【キューブ】を開発した張本人である事。

 園宮がドラゴンと人間との繋がりに圧力をかけた理由。

 全てが終わった時、元居た世界に現存している【キューブ】が破壊される事。


 様々な事が明らかになった今、彼等がやるべき事はフジの帰還までにコロニーを護り抜く事だった。

 なにも少年少女が命を懸けて戦う必要はない。園宮はそう思ったが、良明と陽は友人であるフジの事を案じていたし、ショウとレインはそんな英田兄妹と共に戦うと固く決意している。三池やクロはと言えばむしろこの状況を楽しみ、戦いを心待ちにしている様な顔をしていた。そもそも、向こうの世界の者達が次に【キューブ】を起動するタイミングは予め決められており、任意のタイミングでこちらから帰る事は不可能なのである。


 なにより。

(この者達が居てくれなければ、無人機だけでトラクの者達を食い止める事は不可能だ)

 園宮は、事ここに至って眼前の民間人達を自分の目的――この世界の戦争回避――に利用するつもりでいた。彼はなにも、何かを反省して詫びのつもりでこの場に居るわけではないのである。


「おうてめぇら」


 大穴が空いたコロニーの壁の前に集った異世界人(・・・・)の群れの中、三池は双子達に向かって言う。

「なんでしょう」

「なんでしょう」

「お前等、人を殴った事なんて無ぇだろ」


 良明は気まずそうに三池の顔を見た。

「……えっと」

 フジの顔が脳裏に過る。

「ん? そうでも無ぇのか」

 三池が意外そうな顔を良明に向けた。


 さらに意外な事に、陽も同様に気まずそうな顔をしている。

「ええっと……」

 大虎高校で行われた練習試合の際、兄に止められていなければ間違いなく来須の顔面に拳を叩きこんでいた陽は、三池への答えに窮した。


「まぁ、いいや。そういう経験無ぇんだったら覚悟を決めとけよって言おうと思ったんだけどよ、その分なら問題無ぇな。いいか、二人とも――」

「はい」

「はい」

「今回の喧嘩、命がけだって事を忘れんな。相手は多分事情の全部は解っちゃいねぇが、それでも躊躇うな。あいつらだって、仕事でやってんだからな。危険は承知の上でこの場に迫ってんだ。そんな奴等……それもプロ相手に手加減なんざしてたらこの場の全員が危なくなる」


 良明と陽は、未だ実感の沸かなかった戦いの気配を、この獰猛な生き物の助言のおかげで漸く感じつつあった。

『もう乗っとけ。いつ来てもおかしくない』

 三池の背後からのっしのっしと歩いて来たクロが二人にそう言った。

 ショウとレインが頷き、双子が騎乗する。

 三池だけは、その様子を見守るのみでクロに跨ろうとはしなかった。この一人と一頭は、どうやら当面は別々で敵に対処するつもりらしい。


「……樫屋先輩、今頃――」

「……樫屋先輩、今頃――」


 双子が何事か言おうとした時だった。


 コロニーに対面する茂みの一角から、声がした。

「確保ーーッ!!」

 園宮を含め、その場の誰もが声のした方を振り向く。

 直後、三池だけがその鋭い勘で気づく。

「叫んだって事は相手は方々に散ってんぞ! 全方向に気を張れ!! トオル、てめぇはミアルと協力して戦況の確認。誰か危なくなったら俺に知らせろ!」

「はい!」

「園宮、精々死ぬな! 無人機をまとめて向かわせろ」

「いいだろう」

「ドラ共! てめぇらの相棒が死ぬかどうかはてめぇらの機動力次第だと思え、いいな!!」

「グァ!」

「グゥ!」


「っしゃあ、かかれぇ!」


 三池の号令を合図に、コロニーの大穴を背に皆、夫々の方向へと飛び出した。

「第三班を統率するレタル一星だ。おとなしく――って、お前は!」

 第三班の眼前に見えた男。園宮の名をレタルは知らなかった。

「先程から姿が見えないとは思っていたが、まさか、貴様――」

「一星殿!」

 園宮は、己の悪事もこの危機的状況も自覚していないかのように、堂々としていた。

「!?」

「私は、デバイス開発者だ」

「な、お前まで何をワケの解らない事を――」

「故有って、渋々彼等に加担しているが、それもあと少しここで静かに待ては全て終わる。どうか、(つるぎ)を収めて待機してはくれないか?」


「ほほう、良い事を聞いたぞ」

 レタルはにやりと園宮の顔を見た。

「皆、聞いたか! 相手の目的は時間稼ぎだ!! 詳細は不明だが、兎に角彼等を取り押さえてここを確保する必要がある!!」

「っ!」

 レタルが園宮の居る方を手で示し、彼が率いる第三班に叫ぶ。

「第三班、攻撃用デバイスの使用を許可する! この内通者を捉えろ!! これは人間とエルフによる争いの最初の一手だ、絶対にしくじるな!!」

 軽装鎧に身を包んだ者達が茂みから飛び出し、園宮へと手を翳す。


 園宮は獅子のペンダントを掲げ、印を結ぶように振り回した。

 それがそのデバイスの起動条件だったのだろう。木々の上、草むらの中、或いはどこからともなく現れた自律機械が、相手の群れに襲い掛かる。

 無人機。別称自律機械。その姿は、表面を深い緑に着色された土偶の様なフォルムの、言ってしまえばロボットだった。

 高さ五十センチ程。頭部は円盤状になっており、どうやら全方位の情報を検知出来るらしい。大まかに円錐の形をした寸胴な胴体は接地する際にバランスが良く、四本あるラグビーボールの様な形をしている足はその先端から空気を出す事で、あらゆる体勢を維持出来る様に作られていた。


 そんな不気味な物体が、三十前後、突如として襲い掛かってきたのだ。誰も、園宮への攻撃どころではなくなった。最も身近な一体へと魔法を浴びせて破壊を試み始めるが、無人機達はどうにも巧妙にそれをかわしていくのである。



「ケッ! 動きがまるで戦い慣れちゃいねぇ!!」

 三池へと襲い掛かって来た者達は、レタルとは対照的に第何班であるだのと名乗りを上げる様な事はしなかった。

 リーダーによる「かかれ」という号令を皮切りに、一斉に十名ほどが三池へとその身を突進させてきた。

 魔法による迎撃を想定していないかの様な馬鹿な戦術にかえって何かしらの策の気配を感じ取った三池だったが、彼等の身のこなしでそれがはったりである事を察したところだった。


 最初の一人が懐からダガーナイフの様な物を取り出し、三池の腹をめがけて一切の躊躇いなく突きを繰り出す。

 身体を捻ってそれを避け、そのまま一回転。三池は刺すような殴打を男の頬に見舞った。痛快に地面へと転がっていく最初の一人。

 三池は、その手応えに違和感を覚える。

(……なんだ? 今の)

 妙に、軽かった。まるで紙粘土で作られた人間大の――


「ッ!」

 二人目。足払いをかけ、三池を跳躍させる事に成功する。

 すかさず三人目が三池の視界の端から現れ、殴り掛かる。

「武器すら持って無ぇだと?」

 三池は左手でその一撃を受け流すと、着地の勢いを乗せて二人目の頭を踏みつけ、三人目の顎へとその脚で膝蹴りを見舞った。

 四人目、五人目、六人目が三方向から襲い掛かる。

 ちらりと視線を泳がせ、夫々の距離と構えを確認し、三池は自分から正面の五人目の懐へと潜り込んだ。

 鳩尾へと鋭い拳を突き刺して、左手の四人目へと後ろ蹴りを、右手の六人目には頭突きで対応した。


 倒れた合計六人を見て、三池はある事を確信する。

「おうおう、魔法ってぇのはこんな事もできんのかよ」

 そう言い放った彼女の正面には、二十代程の男が立っていた。

 長髪で、百八十センチはありそうな長身をしている。肩幅が広いせいかぱっと見ガタイが良く見えるが、よくよく見れば痩せている。多分に漏れず彼も軽装鎧を身に纏っていた。

「お前、名は?」

「ああ? 三池だコノヤロー!」

 男は、一歩、二歩と踏み出した。

「成程、やはりお前か」

「どういう意味だ」


「俺の名はアベル・ブラックウッド。トラク国自衛軍の特務部隊に所属している。階級は三星。同選抜部隊に所属する、リント・ブラックウッドの弟だ」

「んなっ!」

「仲間からお前の話を聞いて確信したよ。お前は、ここに……この事件の最前線に現れるとね。だから今回の作戦に志願し、第四班の班長をやらせてもらっている」

「あー……とな。弟、まぁてめぇと()りあうってコトには異論は無ぇんだが……」


 アベルは、何か言おうとしていた三池を手で制す。

「解っている。どうせウチの馬鹿者が酒場の事件の発端なのだろう」

「あ? いや、その通りだけどよ……」

「俺はなにも、お前へと身内の恨みを晴らそうとここに現れたわけではない。純粋に、兄を打ちのめした者がどういう見た目で、強いのか弱いのか、どんな人間性なのかを知りたかったのだよ。戦ってみたかったのだ」

「ほぉう?」

 三池は、楽しそうににやついた。


「知っているのだろう? リント・ブラックウッドという人間は、自らが必死で勝ち取った地位を盾に……いやむしろ剣の様にして、自分よりも身分が低い人間を卑下したがるような下種だ。あんな人間の為に誰が仇討ち(・・・)などするものか」

「え、あいつ死んだのか!?」

「言葉のあやだ、生きている。しぶとくな」

 アベルは、手を三池に翳して言う。

「こちらには時間が無いのだ。始めよう。楽しもう」

「っへ! 良いぜ良いぜぇそのシンプルなカンジ。てめぇみてぇな解りやすいヤツは大好きだ!」


 三池は全身の神経を尖らせて、相手の攻撃の瞬間を見極める。



「ねぇ、君達」

 リリ・スタンバレー二星。第五班班長。リリはそう名乗った後、かつて列車にて彼女を追い詰めた二人に対して問うのである。

 フジが帰ってくる時間を稼ぎたい二人には、それを遮る理由は無い。

「君達は…………何がしたいの?」

 その表情は固く、緊張からなのだろうか、喋り方は随分とゆっくりとしていた。おまけに、口調まで列車の中で見せた時のそれである。

 先程けやきと話していた時の彼女を見ていれば、その異様なまでの雰囲気の隔たりにより双子は動揺さえしただろう。



 問いに対して、答えるべきか、否か。

 それを考えている双子に対し、ショウの思考はこうだった。

(これは、相手にとっても時間稼ぎなのかもしれない。話を聞く限り、アキと陽は列車でこのリリ・スタンバレーを一度は撃退している。相手にとっても、この兄妹は戦いたくない相手のはず。まして今は私やレインという機動力も備えている。向こうに勝ち目は無いんじゃないの?)

 ショウがめぐらせる考えをよそに、良明は緊張と恐怖から震える声で、それでもはっきりと言った。

「僕……達は。友人を助けたいだけです」


 良明の返答の意味を考える様な、間。その後、リリはさらに問う。

「……この状況は、極めて危険だと思うのだけれど?」

 今度は陽が答える。

「こ、こうしなければ、過激派エルフに巻き込まれた人達を救い出せなかった……だからこんな事をしでかすしか、なかったんです」

「…………エルフは、一枚岩では無いの?」

「その通りです!」

「その通りです!」


 双子は、その問いに微かな希望を見出した。

(対話が出来る――ッ?)

(対話が出来る――ッ?)

 今になって、マトモに事情を説明するチャンスが訪れた。二人はそう思った。

 これまで、ただ漠然と”トラクの自衛軍は敵である”と思っていた。命を脅かされ、追われ、事実として自分達は大事件を巻き起こそうとしているのだ。いわばこの双子が眼前の相手に対して怯え逃げる事しか頭に無いのは当然であった。無論、その状況を作り出した原因の一端はこの二人にもある。


 だが、ここにきて。

 まさかこんな問答をするタイミングがあるとは、夢にも思っていなかった。

 だから双子は期待した。


「リリさん! 僕達は事が終わったら速やかに去ります! 姿をくらまし、二度とこの世の中に現れないでしょう」

「だから、どうか今だけは見逃してください! これから先、私達がこれ以上迷惑をかける事はありませんから!」

 リリは、「……じゃあ」と言って二人を蔑む様な眼で見た。

「今現在あなた達がやった事に対する落とし前は? なにもなし? 現にコロニーにはこんな大穴が開いてしまった。貴方達も存在を認識している、過激派エルフが外の世界へと現れて、ここぞとばかりにこの世界を征服しようとするかもしれない」


「たった一つのコロニーです! 抑え込む事は可能でしょう!!」

「私達も勿論ご協力します。世の中への戦火は食い止めます!!」

「……貴方達は…………」

 ここで、良明は漸く気が付いた。否。今の今まで頭のどこかで気づいてはいたのである。だが、リリとの問答――とそれによる時間稼ぎ――が意識の中で優先され、その違和感に対して注視する事をしていなかった。


(なぁ、陽)

(うん、おかしい。この人、どうしてさっきからこんなにゆっくりと……)

 はっとして、背後を振り向く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ