コバルト大陸、メタル王国だそうです
アリエルは親からの愛情というものを知らない。
今回も、そして前回も道具のように育てられてきたからだ。
前回は何かよく分からないものの為に。
今回は王族への生贄の為に。
だから甘えられる存在を求め続けてきた、どれだけ甘えても許してくれる存在を。
「起きろアリエル」
「んー、あっおはよう、昨日は甘えちゃってごめんね」
朝、目が覚めた瞬間アリエルはやっちまったという顔をし、マグナに謝った。
昨日はやり過ぎた、甘えに飢えていたからか、つい暴走してしまったのだ。
「甘え? 何のことか分からないが、気にするな」
前言撤回、悪いのは自分だけじゃなく、父性をやたらに振りまくマグナも悪いとアリエルはムッとした顔をした。
「マグナって優しすぎ、てか結婚とかしないの? これだけ性格が良いなら女が寄ってくると思うんだけど」
「結婚か…まぁ確かに俺も年だし、したいとは思うけど…理想の相手が居ないんだよな」
理想の相手とかもしかしてマグナって理想が高過ぎるんじゃ…と思ったアリエルは、以前水月から貰った写真を見せる事にした。
「ねぇ、この中で誰が一番好み?」
写真は、カリーナ、リップちゃん、ローズ、サクラ、水月、星歌のものだ。
前にお守りにするからとか言って貰ったものだった。
「おい…何だこの天使は! マジかよこんな美人見た事ねぇよ! これ、お前の知り合いか?」
アリエルの顔は引きつった、何故ならマグナが選んだのがリップちゃんの写真だったからだ。
あり得ない、リップちゃんは大人びた所があるものの、まだ12歳の正真正銘の非合法ロリなのだ。
「この子まだ12歳なんだけど」
「あ…そうなのか…てっきりアリエルと同じ歳位だと思ってたわ」
マグナは露骨にテンションダウンした。
さっきまでは泥酔してんじゃないかって位まで高かったものが、詐欺にあって全財産失った人くらいまで落ちるといった、落差が半端じゃない見事なテンションダウンだった。
「なに…マグナってロリコンなの?」
「いやロリコンっていうか…童顔で背が低い子が好きなんだよ、ただ成人してるのにそういう子って居ないからさ…」
そう語るマグナの背中には言いようのない哀愁が漂っているように見えた。
「その辺の分別はあるんだね」
「当然だろ、未成年に手を出すとか人として終わってんだろうが」
「まぁ、マグナがそんな人間だったら今頃私の剣の鯖になってたけどね」
アリエルがドヤ顔で剣を抜きマグナに向けると、彼は残念な物を見るような目でアリエルを見た。
「いやお前…それじゃ剣の鯖とか無理だろ、そもそもそんな観賞用かなんかの剣じゃ何も切れねぇよ」
「えっ? 何言ってんの?」
「何言ってんのって…それ刃が丸まってるし、辛うじて刺す位しか出来ないだろ?」
「…嘘でしょ?」
「お前…本当に剣使えんの?」
「使えるよ! ただ…そう! 達人は武器を選ばないっていうでしょ! 私はそれなんだよ!」
「いや達人こそ武器の目利きはしっかりするだろ、間違ってもそんなおもちゃは選ばねぇよ」
その言葉にアリエルは何も言えなかった、返す言葉が無いというのはこの事を言うんだと思った。
「取り敢えずこれ使えよ、ちゃんと切れるからそのおもちゃよりはいいだろ」
「…ありがと」
マグナから渡された剣を観賞用の剣と入れ替えてお礼を言った。
アリエルの顔は恥ずかしさからか真っ赤になっていた。
「いいよ、それで次はどこに行くんだ? 俺は仲間を探すなら王都に行くのが良いと思うんだけど」
「じゃあそれで、それとこの大陸の名前と国の名前、後は最近変わった事があったかを聞きたいんだけど」
「あーなるほど…お前、突然出現した大陸から来たんだな、偵察でもしにきたのか? それとも侵略か?」
マグナの目が鋭くなり、いつもの柔らかな雰囲気が一転、針のように鋭くなり威圧感と殺気が漂っている。
それを感じたアリエルは、これは厄介な手合いかもしれないと顔をしかめた。
理由はマグナが愛国者、もしくは騎士や兵士といった国の犬のどちらかで間違い無いからだ。
前者なら殺して死体を消してしまえば行方不明で済むから良い、しかし後者なら最悪だ、国の組織は複数で動く事が多い、だからマグナが国の犬なら仲間も彼と同じようにそこらに紛れている可能性が高いし、何人いるかも分からない状態で殺したりしたら、直ぐに足がついて私だとバレるだろう。
そしてそうなったら最悪だ、間違いなく侵略者認定されて調査に支障が出るし、カリーナ達に余計なリスクを背負わせる事になるのだ。
よってアリエルがするべきは、正直に調査をしているだけと言う事だ。
「いや調査だよ、敵対の兆候があるかとか、うちの大陸に来れるような危険な生物が居ないかとかだよ」
「それは偵察だろうが、ったくまぁいい教えてやるよ、この大陸はコバルト大陸、この国の名前はメタル王国で、この大陸にはこの国しか無い、そして変わった事は近くにでかい島が出現した事だが…はっきり言うが、現在メタル王国にそちらの国を気にする余裕など無い」
「余裕が無い? 内戦でもやってんの?」
「いや先日王が亡くなってな、王位継承で揉めているんだ、まぁある意味内戦よりひどい状況だよ」
アリエルは王位継承と聞き呆れたような顔をする。
彼女は腐っても元侯爵令嬢だから他国での王位継承の話を聞いた事があるのだ、ただこの状況はアリエル達にとってはとても動きやすいと言えた。
何故なら相手がこちらを気にしていない以上、調査が妨害されたり邪魔をされたりする確率が限りなく0だからだ。
「そっか、血で血を洗うような事態にならないといいね」
「おい! 縁起でもない事言うなよ!」
アリエルは投げやりに言って歩きだし、マグナはそれを聞いて怒鳴った後、アリエルを追いかけて道が違うと怒りながら先導し、2人は王都へ向かい歩きだした。