世界が変わり始めました
異世界から帰ってきて3日、リップちゃんが突然全員を集めた。
リップちゃんの顔はあまり良くなく、何か困った事が起こったということがわかる。
「皆よく集まってくれたのじゃ、突然呼んだのは訳があっての…実はこの大陸というか、この世界に突如大きさはわからぬが、島がいくつか増えたらしいのじゃ」
「どういうこと?」
「わからぬ、むしろ妾が聞きたいくらいじゃ…あっ、それと闇ギルドの幹部、ベータの目撃証言があった、妾としてはアリエルとローズの2人で向かって貰おうと思うのじゃ」
リップちゃんの提案に他の皆は驚いた。
それも当然、闇ギルドの幹部と戦闘する可能性があるというのに2人というのは明らかに数が少なすぎる。
そもそもベータが1人でいるという保証すら無く、闇ギルドの構成員が沢山いるかもしれないのだ。
それを考えると無謀としか言えない。
しかしこのメンバーが心配しているのはそんな事ではなかった。
「それ大丈夫なの? ローズ1人でアリエルを制御出来るとは思えないのだけど」
「私も心配ね、ローズさんがストレスで大変な事になっちゃいそうだし」
「皆失礼すぎんでしょ、私を何だと思ってる訳?」
アリエルは暴言を吐かれて怒るが、いつもの事なので無視され、話は進んでいく。
「しかし、2人以外の皆には出現した島の事を調べて貰いたいのじゃよ、1つずつ確実にの」
「まぁその言い分はわかるわ、どちらかと言えばこちらの方が大事だしね」
「ならアリエル、ローズ、妾以外の全員でまずは暗黒大陸の近くに出現した島に向かってほしいのじゃ、前に行ったシートレインの軍港にはもう話をつけておるのでな」
「わかったわ、じゃあ私達は行くわよ」
「うむ、よろしく頼むのじゃ」
「行ってらっしゃーい」
「気をつけてくださいね」
そして調査組が出発した所でリップちゃんが地図を出してある一点に指をさした。
「ベータはここ、歓楽都市、ゴールドフォールで目撃されたのじゃ、この街は一言で言うと無法地帯じゃ、まず兵士など居ないし、暴行、殺人何でも日常のように起こる」
「ほえー、それはまた世紀末みたいなとこだね」
「ふむ、言い得て妙じゃな…まぁとにかくそういった土地柄からか、裏組織、非合法組織などの後ろ暗い者達の溜まり場みたいになってるのじゃよ」
「話を聞いていると、とても酷い状態の様ですが、そんな状態で街として機能しているのですか?」
ローズが顎に手を当てて思案した様な表情をしながらリップちゃんに問いかけると、リップちゃんは苦々しい顔をした。
「うむ…もっともな質問じゃな、まぁ一番大きな理由はそこにあるダンジョンじゃな、そこのダンジョンは欲望の洞穴といっての、その…そこで採れるものが品質の良い化粧品や精力回復の薬の材料になるのじゃ、ただそれだけじゃなく、麻薬や媚薬の類の非合法な物の原料もあるのじゃ」
「なるほど…化粧品は女性にとって必需品、品質の良い物となれば利益も相当なものでしょう、要はそれを表面に出し世間的にはクリーンな街を装っていて、タチの悪い事に一般の人には裏がバレてない所か受けがいいのでしょう、だからリップさんは手が出せない…そういうことですよね?」
「…その通りじゃ、さらに言えば、かの街は旅行者からの評価も高く夢の国と言われている程じゃ」
リップちゃんは忌々しいとばかりに眉を吊り上げてそう言った。
「それで、私達はその裏組織とかを片っ端から襲撃してゴミの情報を聞き出せばいいんだよね」
「アリエル…お主まさか、いつも通りにやる気なのか?」
「うん、それが一番簡単だからね」
アリエルはそう言うと、ローズを連れて目的地、ゴールドフォールに向かった。
後に残されたのは、やれやれと呆れた様に首を振りながらも笑っているリップちゃんだけだった。
出発から3日後、ゴールドフォールの門を問題無く通ったアリエルとローズ、そして何故かエテルノが宿屋…ここではホテルという宿泊施設に向かっていた。
「やっぱり馬車に乗ると腰が痛くなるわねぇ…チビとローズは大丈夫?」
「大丈夫だけど、私チビじゃなくてアリエルだから」
「ああ、そうだったわ、ごめんなさいねアリエル」
「と言うか、エテルノさんは何故この街へ?」
ローズはアリエルの頭を愛おしそうに撫でているエテルノにそう質問した。
「私はこの街にいる友達の結婚式に来ただけよ、あらもうこんな時間…そろそろ行くわね、2人ともこの街には気をつけなさいね」
エテルノはそう言うと、早足で歩いて行ってしまった。
「じゃ、私達はやる事やろっか」
「アリエルさん、あまり派手にやらないで下さいね」
アリエル達はホテルの部屋を取ると、そのまま近くのマフィアの事務所を襲撃した。
3分程の非常に鮮やかな襲撃だった。
「おいてめぇら、こんな事してどうなるか分かってんのか?」
「そっちこそ状況分かってる? 今から質問するけど、答えなかったり反抗的な態度を取ったら仲間を1人ずつ殺すから、じゃあローズちゃんこいつらに質問して貰えるかな?」
アリエルはローズに質問を任せると、転がっているマフィアの数を数え始め、15人居る事を確認すると腰にある剣を抜いた。
「じゃあ質問しますね、闇ギルド、アジダハーカの幹部ベータがこの街で目撃されたそうなのですが、居る場所知ってます?」
「はっ! そんな事って…おい、マジかよ…」
男がローズに対して舐めるような態度をとった瞬間、アリエルは転がっている男の1人の胸に剣を突き刺した。
「あと14人だよ」
男はアリエルのその言葉と表情にとてつもない恐怖を覚えた。
人間、人を殺したら大なり小なり表情に出る、どんな人間でもだ。
だがこの女はどうだ? 完全に無表情、まるで無抵抗の人を殺して全く何も感じてない。
尋問している女はともかく、こいつはヤバいと頭の中に警笛が鳴り響く。
「わ、わかった! 質問に答えるから命だけは助けてもらえないか?」
男の言葉にアリエルは笑顔で頷く。
それを見た男は、安心したような表情になった。
「では先程の質問の答えを」
「ベータならアジダハーカの本拠だと思う、場所は分からないが、この街に本拠地があるとアジダハーカの構成員から聞いた事がある」
「では次の質問です、この街で有名どころの裏組織を教えて頂けますか?」
「それなら…まずはあんたらが探して居るアジダハーカだな、この街の裏を仕切ってるのは奴らだ、それとクラウン、こいつらはこの街で行われてる人身売買の元締めだ、正直大手の組織はこの2つしかないと思う、他の組織は大体この2つの組織の傘下に入っちまうからな」
それから、男にクラウンの本拠地を聞いたりして、全ての質問が終わった。
「質問はこれで終わりですね」
「そうか! なら解放してくれ!」
「勿論だよ、私は約束は守るからね、それとは別に貴方に提案があるんだけど」
「なんだ?」
「貴方…この街の裏組織のトップになってみる気はある?」
その言葉を聞き、男は驚愕の表情を浮かべる。
男は頭が良く、アリエルがどうしてそんな提案をしたのかが分かってしまったからだ。
「ま…まさかあんた…奴らを狩るつもりか?」
「狩るなんて大袈裟だなぁ、私がするのはただのゴミ掃除だよ、ちょっと大規模なゴミ掃除」
「嘘だろ…」
「それでどうなの? あっ、ちなみにトップになっても私達と魔王リップには絶対服従してもらうからね、それが守れないならやめておいた方がいいよ」
「あんたは…いやいい、提案を飲むから俺たちを解放してくれ」
「いいよ、貴方名前は?」
「クロードだ」
「そう、じゃあクロード、ゴミ掃除が終わったらまた来るから…逃げないでね?」
アリエル達が事務所から出て行くのを見て、クロードはやっと気を抜き、縛られている男達を解放した。
「兄貴、あの女ヤバいっすよ…」
「分かってるよ、だがあそこで突っぱねたら…俺ら死んでたぞ、にしても絶対服従ね…お前ら分かってるな、あいつらには絶対に逆らうな、そしてあの女が戻って来るまでは外に出るな、巻き込まれたら洒落にならんからな」
クロードの言葉に、男達は頷き、殺された男の死体を片付け始めた。




