予想もしていなかった事態です
ゴウの騒動から少し時が経ち、気持ちよく寝ていた所を、星歌に起こされ目が覚めたアリエルの目の前には、待ちに待った海鮮丼が置かれていた。
「おー! 美味しそうだねぇ、じゃあいただきまー……え!? ちょ! なにこ…」
「ころちゃん!」
アリエルは早速食べようと、海鮮丼を素早く手に取り口に運ぼうとした…しかし突然アリエルの足元に魔方陣が出現し、目映い光の帯が巻き付いたのだ。
それに驚いたアリエルは咄嗟に精霊を止めようとしたが、何故か魔方陣には精霊が居なかった、この異常なものに焦ったアリエルは、手を伸ばし駆け寄ってきた星歌の手を掴むことも出来ず、そのまま魔方陣に呑み込まれてしまった。
「まずい…早く皆に伝えなくちゃ…」
顔を真っ青にした星歌は、まずいまずいと呟きながら、困惑しざわめく会場を放置して皆を探しに一目散に走り出した。
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一方、魔方陣に呑み込まれたアリエルは、半端じゃなく機嫌が悪かった。
それもその筈、飛ばされた先は何処かも分からないジメジメした深い森だったのだ、ただでさえ海鮮丼を食べられず怒り狂っているアリエルは、この不快指数がMAXの蒸し暑い森にストレスが倍々に上がり機嫌が滝のように落ちており、簡単に言うとぶちギレていた。
「あーあっついなぁ! もうムカついた! こんな森消し飛ばしてやる!」
アリエルは怒りのあまり、森から抜け出そうとか現状と周りの確認、周りへの被害の全てがどうでもよくなり、この不快な森を消すことしか考えていなかった。
それは、取り敢えず邪魔な木を全て消し飛ばせば見通しも良くなるし、あわよくば自分を転移させた奴を殺せるかもしれないと思ったからだ。
「《我は望む、全てを消し飛ばし死の大地を生み出す虚無の爆発を》エンドバースト!」
両手を大きく広げ、少し長めの呪文を唱えて発動した古代の禁術は、アリエルを起点にして凄まじい衝撃を超広範囲に発生させた。
結果、広大だったと思われる森は跡形もなく更地になり、近くにあった巨大な山の一部を削り落としたのだった。
そしてその山を見てアリエルは固まった……それは何処かで見た、正確に言うと『前世』で見た、もう名前も覚えていない、国で一番大きな山だったからだ。
「…なるほどねぇ……異世界召喚かぁ、通りで発動を止められないわけだよね、こっちの精霊を使われたら流石の私も干渉できないもん」
自分がいる世界が分かってこの予想外の事態に納得したアリエルは、さてどうするかと、道に向かってあるきながら、元の世界に帰る方法を考え始める、連絡が録れない以上向こうからの召喚は無理、こっちからの自発的な転移も無理と来れば、おのずと候補は限られる、まずはこの世界の神に送らせる、これは取り敢えず地球を滅茶苦茶に荒らせば私を追い出そうと向こうからコンタクトを取ってくるだろうから簡単だ、それともう一つは、私の力を欲しているだろう転移の首謀者の頼みを聞き、完了後送還して貰う。
ただこれは博打に近い、まず送還方法があるかも分からないし、向こうが私の頼みを聞くかも分からない、そして何より利用されるのは絶対に嫌だ、よってこれは無しの為、前者の手段を取ることに決めた。
「よし、取り敢えず都会に行こう、人が沢山いた方が混乱が起きやすいしね」
それから道路に着いたアリエルは、突然森が消えた事に驚いて車から降りてきた野次馬のエンジンがかかっている車を当然のように奪い、前世のおぼろ気な知識の通り、ギアをドライブに入れてアクセルを踏んで出発した。
そしてこの瞬間、前世の事をろくに覚えていない最悪なドライバーが誕生した。
「むー、運転おかしかったかなぁ…さっきからサイレン鳴らしながら警察が追いかけてくるんだけど」
アリエルは不満そうにしながらそう言うが、おかしいのはアリエルなのだ、信号、一時停止を当然のように無視し、高速に入ってからは休止中の料金所に全く減速せず突っ込んでバーを叩き折り、スピードも常にMAX、この捕まれば免許取り消しどころか、ブタ箱行きも有り得る運転に、追いかけない理由があるだろうか?
そしてしばらく危険な暴走が続き、見覚えのある首都の出口に減速せず入ったアリエルは、当然カーブを曲がりきれず、風魔法で強化された車は、壁を突き破って道路から飛び出して空中に投げ出される、しかしこの馬鹿はこれまで命懸けの戦いを乗り越えてきたダイヤモンドのメンタルを持つ猛者、この程度では慌てず、普通にドアを開けて車から飛び出し、無傷で街に着陸し人混みに紛れてその場から立ち去った。
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アリエルが首都に入り込んだ翌日、この国に未知の技術を取り込む為、大昔に存在したシャーマンと呼ばれる超能力者が書き残した秘伝書を読み解き、儀式によって異世界から人を呼び出してしまった国の最高権力者は、予想もしていなかった事態に呼び出した事を後悔していた。
まず昨日儀式を行った直ぐ後の時刻に、原因不明の何かが起こり樹海が跡形もなく消し飛び、世界遺産である山を無惨な姿になったのだ、さらにその後暴走車が出現し、各地の料金所を突破し、出口から飛び出して首都のビルに突っ込んだ、さらには夜中に首都のシンボルである電波搭と商業施設、駅が爆破され大惨事になったのだ。
これは間違いなく異世界人の仕業だ、恐らく樹海に呼び出された後暴れまわったのだろう……。
何故こんな事になってしまったのか……予定では現在捜索している警察が呼び出されて戸惑っている異世界人を保護した後、こちらに有利な交渉しようと思っていた。
だがこの異世界人には交渉など出来ないだろう、平気で人の多い場所を爆破するような者だ、自分が会えば確実に殺されるのが手に取るようにわかる。
だから彼は決断する、呼び出しておいて悪いが、テロリストとして排除することを……。
そして彼は、机の隅にある電話に手を伸ばした。
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翌日、アリエルは屋外にある大きなテレビを見て、満足そうに頷いていた。
何故か? それは昨日アリエルが起こした事件を繰り返し放送しているからで、その影響なのか、この日は外出禁止令というのが発令され、昨日は人で溢れていた大きな交差点には車や人が一切居らず、屋外テレビをじーっと見ているアリエル一人だけが道路のど真ん中を歩いており、そういえば銃とかいう強い武器があった筈だから、奪って持って帰ろう、アリエルはこんなバカな事を考えていた。
そしてしばらく静寂に満ちた道路を歩き続け、そして止まった……。
突然、アリエルの前と後ろに大きな車が止まり、中から凄い勢いで黒い服みたいな防具を付け、透明な盾と銃を持った集団が降りてきて囲まれたのだ。
「そこの少女、此方の言葉が理解出来るか? 出来るなら手を上げその場に膝をつきなさい」
囲まれて少し経つと、おかしな声が集団の後ろの方から聞こえた、彼らは取り敢えず穏便に降伏を求めるが、アリエルはその呼び掛けにイラついていた。
まず、此方に顔を見せず、安全な後ろから呼び掛けるというのがあの卑怯で姑息な闇ギルドみたいで気に入らない、それに一方的な物言いが気に入らなかったありがとは眉を寄せ苛立ちを隠そうともせず囲んでいる者達を睨み付けるのだ、こいつらに地獄を見せてさらなる混乱を起こす、そうすれば危険なイレギュラーである私に誘き寄せられた神を引き摺り出せるかもしれないと…。
そして考えがまとまったアリエルはニヤっと笑い、始まってしまったのだった…一人の化け物の圧倒的な力による慈悲の無い殲滅という、勝負にもならない蹂躙劇が…。




