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魔界祭二日目、三日目です

 ご飯を食べたアリエルとリップちゃんは、ベンチでのんびりと食後の休憩をしていた。

 しかしその時間は長くは続かない、城のメイドが血相を変えてアリエル達の方に走って来ていたのだ。


「はぁ…はぁ…お楽しみの所申し訳ありません魔王様、緊急報告させて頂きます、先程二名のメイドが今日東の搭最上階に幽閉した者に攻撃され、軽傷を負いました」


「なに? 封印の中から攻撃じゃと?」


「はい、被害者は風の魔法らしきもので突然切られたと報告しております」


 メイドの言葉にリップちゃんは顎に手を当てておかしいと考え込む、そもそも東の搭に施した封印というのは、普通の封印の他に、封印内の者の力を使えなくするものであり、魔法なんか使える訳が無いのだ。


「どういう事じゃ…」


「とりあえず行こっか、行かない事には何がなんだか分かんないしさ」


「うむ…それもそうじゃな、ならすぐに行くのじゃ」

 

 二人は、疲れた様子のメイドに、先に行くから休んでからおいでと言って城に向かって歩き始めた、そしてしばらくして東の搭に着いた二人は、相手にいきなり攻撃されないように気を付けながらそーっと幽閉部屋の小窓から中を覗いて驚いた。


「あー、あの見慣れた目の色は、本物の今代精霊の愛し子だねぇ」


「そのようじゃな、まぁそういう事なら封印内からの攻撃にも合点がいくの、要するに封印外の精霊に干渉して攻撃した訳じゃな」


「うん、それで間違いないね、まぁ異世界人みたいな得体の知れない能力じゃなくて良かったよ、これなら私が精霊を抑え込めばいいだけだしね」


 アリエルはそう言うと堂々とドアの前に行き、ソフィーに姿を見せつけるように腰に手を当てて立った。

 すると、ソフィーは勝ち誇った様な顔をしてアリエルに向けて手を翳した。

 しかし発動を命じても精霊が全く行動しない事に困惑したのか、何度も何度も手を翳すが、先程まで言うことを聞いていた筈の精霊が何故か全く自分の命令に反応しなくなってしまった、この事に、ソフィーはドアの前に立つ不気味な雰囲気の女が何かしたのではないかと、危機感から冷や汗をかきながら焦っていた。

 そんな時、そのドアの前に立つ不気味な雰囲気の女…アリエルが突然ニヤッと笑って喋り始めた。


「ふふ、精霊が突然言うことを聞かなくなって焦っちゃったかな?」


「なっ!? あんた精霊が見えてるのか!? それにどうしてあたしの命令が…」


 ソフィーは一瞬驚いた後、桃色の目を鋭くしてドア越しでヘラヘラした顔をしているアリエルを睨み付けた。


「勿論見えてるよ、それでどうして精霊が貴女の言う事を聞かないのかについてなんだけど、単純に貴女より私の方が優先順位が高いからだよ、所詮その力は作られた紛い物だしね、私がここに居る以上貴女に従う理由が無い」


 アリエルは笑顔でそう話して、精霊に反応し、桃色に光る目がよく見えるようにドアに近づける。


「なっ!? あたしと同じ目……あんた何者よ、この世界に精霊の愛し子は私だけの筈でしょ」


「そうだね、精霊の愛し子は貴女だけだよ……あれ? ちょっと、そんな怯えた顔しないでよぉ…私は何かしたりしないからさ」


 ソフィーはにこにこと微笑むアリエルが纏う得体の知れない空気が恐ろしかった、後、あの薄気味悪い雰囲気はヤバい、その恐怖は精霊が見える目を持つソフィーだから分かる、その目に人嫌いな光と闇の精霊だけが寄り付いている事のおかしさと、自分を遥かに凌ぐ異常なまでの精霊の使役力が。

 そしてソフィーは気付いてしまった、アリエルには勝てない、例えそれがアジ・ダハーカであろうとも確実に無理であるという事に。

 そしてソフィーはアリエルが居る限り何をしても無駄だと悟り、今頃自分を探しているであろう兄とアジ・ダハーカの皆がどうかこの化け物に殺される事が無いようにとベッドに腰掛け、女神に祈るのだった。


「これで終わりかの?」


「そうだね、それにしても彼女が精霊の愛し子なのは驚いたなぁ、私はアジ・ダハーカのリーダーの妹だからあんな辺境に居るんだと思ってたんだけど…よく考えると、どうもそれだけじゃ無さそうだよね」


「それは大体見当がついておるよ、精霊の愛し子という破格の戦力をわざわざ隠していたのは、自分達が捕まりそうになった時に精霊をだしにして国を脅す為、そしてこの大陸中の裏社会のトップでも取ろうとしていたのではないかと思うのじゃ」


「なるほどねぇ、奴等は私達にのしあがる為の鍵を奪われて後が無くなった訳だ…ふふ、今頃必死になって探してると思うと笑えてくるね」


「まぁ笑えるかどうかは別として、娘も大人しくなったし、もう今日は帰るのじゃ、あれから随分時間が経っているから会場の出し物も終わってしまってるからのう」


 こうして、魔界祭二日目が終わり、後にアジ・ダハーカの落日と言われる殲滅戦の下準備が始まったのだった。

 そして三日目……。

 アリエルがとても楽しみにしていた、料理大会が幕を開けた。


「あれ? 随分参加者が少ないんだね?」

 

 会場の審査員席に偉そうに座るアリエルが、苦い顔をしながら、何で会場のステージに居る人数が12人しか居ないのかを後ろの椅子に座っている本日の同行者、星歌に聞き始めた。


「ころちゃん…それはさっきリップちゃんが…説明してた…なんでも…今日の参加者は…事前に行われた選考会で…選ばれた人達だって」


「あーそうだったねぇ、ごめんねぇ」


 アリエルは頭をかきながらヘラヘラして謝ったが、それからしばらく経つと、今度は大会直前だというのに寝るという暴挙に出たのだ、そしてアリエルが椅子に座りながらピクリとも動かなくなった事を不自然に思ってアリエルを覗きこんだ星歌は絶句してしまった……。


(寝てる!? なにこれ…地球に居た時より行動が酷くなってない? 確かにころちゃんはふざけた事をよくする子だったが、こんな大事な時に堂々と寝るような子じゃなかった筈……これはまずい、ただでさえおふざけが酷いのに、さらに堕落なんかプラスしてしまったら、もう手におえない……ここは心を鬼して注意しよう)

 そう決めた星歌は、後ろからアリエルのほっぺたをギューっと引っ張った。


「いてててて! なに!? 星歌ちゃんやめてー!」

 

「ダメ…大会直前に寝るなんて…流石に非常識…」


 アリエルは痛い痛いと言いながら涙目で星歌の手を引き剥がそうとする。

 しかし残念な事にアリエルの腕力が弱すぎた為引き剥がせず、結局星歌のお小言が終わるまで、ほっぺたを引っ張られ続け、肝心の大会が始まったのだった。


 そして時は過ぎ、現在予選最後の料理、今大会の優勝候補筆頭である海鮮料理専門店サメールの海鮮丼がアリエルと星歌、そして審査員の前に置かれた。


(ほうほう、これはまた美味しそうだなぁ、今まで料理もほとんど味と見た目が最高だった…不満だったのはラ・ブシールとかいう所のがあんまり美味しくなかった事だけだ、もう食べた瞬間これは予選落ち確定だと思った位だよ、てか何であんなのが選考を通ったのか不思議なんだけど、まさか金か? 金を使ったんだな? くそ! この神聖な大会にそういった汚い策を持ち込むなんて絶対に許さない、失格だけじゃ生ぬるい! 徹底的に非難してやる! 後でだけどね)


 そう思いながら、今まで通り鑑定機で目の前海鮮丼を調べる…すると画面には毒海鮮丼と出ていた。

 ヤバいと思ったアリエルは慌てて星歌の海鮮丼を鑑定すると、予想通り此方にも毒が入っていた。


「おかしいなぁ……ねぇこれ毒が入ってるよ」


 アリエルが、サメールの料理長にそう言うと、料理長は酷く驚いた顔を、審査員達はビクッとし、鋭い目でサメールの料理長を睨み付ける。

 しかし、アリエルは確かにサメールの海鮮丼に毒が入っていたのは事実だが、これは狙ってやった計画ではなく、誰かにサメールが嵌められたのだと思っていた。

 何故ならこれは間違い無く審査員長であるアリエルだけを狙っていたからだ、料理が出されて最初に食べるのは審査員長であり、それを食べたアリエルが死ねば他の人は食べないし、大会は中止され、サメールの評判は地に落ちる……恐らくこれが毒を仕掛けた奴の狙いだろうと思ったアリエルは、敵の作戦なんかに乗って大会を中止させてたまるか! と思い、すぐに作戦を考え、実行することに決めた。


「まぁ…取り敢えずちゃんとした食材で、もう一度作り直して貰えるかな? 見た感じわざとじゃ無さそうだし、折角大会の為にここまで頑張ってきたのにこれじゃ可哀想だよ」


 その誰もが予想しなかった言葉に、審査員達は『正気か?』と驚き、サメールの料理長はその場に膝をつき、泣きながらながら感謝の言葉を何度もアリエルに言っていた。


「とにかく! サメールにはもう一度作り直して貰う! 参加者の皆には迷惑をかけちゃうけど、私としては料理の審査は公平に味で決めたいから!」


「ころちゃんは…いつもそうなら…いい女なのにね…」


 アリエルが参加者や審査員に真剣に自分の決意を告げると、批判だらけかと思いきや、参加者の殆どは料理大会が中止されないならそれで構わないと賛同し、審査員は、流石…審査員長に選ばれるだけの度胸はあるなと賛同してくれていた。


 しかしこの決定に納得できない者が一人いた。


「いや、毒が盛られたのにそれは不味いのではないですか? 状況から犯人も分かっているのだから、大会を中止し、サメールの者を捕まえ背後関係などを確かめるのを優先させるのが良いと思いますよ」


 そう、ラ・ブシールのオーナー、ゴウがアリエルの決定に、否定の姿勢を示したのだ。


「それは私が決める事、貴方が口を挟む必要なんて無いんだけどなぁ…それとも貴方にとっては中止の方が都合が良いのかな?」


「な! 何を言うのですか!」

 

 アリエルは決定を否定された瞬間、ゴウが毒を仕掛けたのだと確信していた。

 先程の通り、ラ・ブシールの現在での料理の評価は一番低い、ただどうして大会に出れたのかは解った…金だ、金を使ってここまできたのだ。

 恐らく前回までの審査員長や選考した者には賄賂が効いたのだろうが、アリエルは取り合おうともしなかった。

 だからゴウは今までの賄賂で築いた仮初めの栄光と店の高い評判を手放したく無かった為に商売敵のサメールを嵌めたのだろうとアリエルは考えていた。


「そうだ、貴方ラ・ブシールの代表だったよね、丁度良いじゃん、不満なら貴方は待たないで帰っていいよ? 今の時点で予選落ちが決まってるからね」


「はぁ!? まだ最終審査もしてないだろうが! 」


「してないけど、ラ・ブシールは最下位だから終わりなのは変わらないでしょ、味も微妙だったしさ」


 ゴウはぶちギレ一歩手前だった。

(生意気な小娘が俺様に対して上から目線だと? ふざけるな! ここまで来るのにどれだけの金を使ったと思ってやがる! だがこのままだと破滅は確定…なら最後の手段、脅すしかないか)

 そう考えたゴウは、アリエルにニヤっと笑いかけ、堂々と脅迫を始めた。


「いいのか? 俺を怒らせるとどうなるか分からんぞ? 例えばだが…明日あたりから誰かに襲われたりするかもしれんなぁ…クク」


「あははは! 何それ脅し? それならどうぞご自由に、お返しに襲ってきた人を返り討ちにして死体を全部お前の店の前に送り返してあげるよ」


 アリエルがケラケラ笑いながらそう言うと、ゴウは顔を真っ赤にし、鋭い目でアリエルを睨み付け、後ろに居た星歌に目をつけ利用しようと考えた、このバカだけでなく、後ろの気弱そうな女も巻き込んでしまえばいいのではないかと。


「そうか、なら後ろの女も襲わせ……グギャァァァァァァ! 熱い!熱い! 止めろ! やめてくれぇ!!」


 ゴウの台詞は最後まで続かなかった、それは突然ゴウの両手足首に炎の枷が現れ、ゴウの手足を燃やしながら地面に縫い止めてしまったからだ。

 審査員や参加者は突然の事に唖然とし、星歌は『あーあ…ころちゃんを…怒らせちゃった』と椅子に座りながら言っており、アリエルは肘掛けに肘を乗せ頬杖をつきながら冷たい目で必死で枷を外そうとしているゴウを見ていた。


「あの…そろそろやめた方が…」


「やめないよ、あいつは私の友達を脅迫なんて真似をしたからね、そんな事が出来ないように、両手足を消し炭にしてやるんだ」

 

「や、やめろぉぉぉぉ! ぐぅぅ! 手足が無くなったらこの先どう生きろと言うのだ!」


「死ねば? お前は生きててもろくな事しなさそうだし」


「は、はあぁぁぁぁぁ!? 何だそれは! そんな事で…人の人生を何だと思っている!」


「お前の人生はゴミ以下にしか思ってないよ、もういいかな? そろそろ大会を再開したいからさ」


 アリエルがそう言って手を振ると、ゴウの体が枷に引っ張られるように後ろに飛び、凄い勢いで壁に衝突した。


「じゃあ再開しようか、いきなりで悪いけどサメールの人は料理作ってくれるかな?」


「は、はい! ただいま取り掛かります!」


 アリエルはゴウが兵に連れていかれるのを見た後、料理が出来るまで一休みしようと目を閉じたのだった。







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