女の子に酷いことをする奴は許しません
明くる日の魔王国の街には、二人の女の子が歩いていた。
「やっぱりおかしいわよ、星歌にはこの街に住む魔族があいつらが言ってたように人を襲ったり極悪非道な事をするように見える?」
このプンプン怒っている女の子は高坂水月、地球では高校二年生で17才のギャル風茶髪女子だ。
「見えない…元からあの人達は信用していない…わたしはこの機会に逃げるのが良いと…思う」
この子は七崎星歌、同じく高校二年生で16才の大和撫子風のクールガールだ。
ちなみに水月は某アイドルグループのセンター、星歌は雑誌のモデルをやっていて、二人共学校では男には超絶人気だが女子の友達はお互いしか居ないという子達だ。
「そうだね…前は何とかなったけど、次また襲われる前に逃げないとダメよね…でも行く当てが無いのも不味いわよね」
水月と星歌が悩んでいると、水月が後ろから誰かに肩を叩かれ、またナンパか何かかと嫌な顔をして振り向くと、そこに居たのは少し小さめで金髪の女、トラブルの申し子アリエルだった。
「こんにちは、何かお悩みかな? 私で良かったら相談に乗るよ?」
「え? あぁうん、ありがとう……そうだね、良かったら少し愚痴っていいかな?」
「いいよ、じゃあそこのお店行こうよ、お茶くらいご馳走するからさ」
水月が疲れたようにお願いすると、アリエルはにこにこしながら快諾し、三人はすぐ近くの喫茶店に入った。
「水月…大丈夫なの? 関係無い人を巻き込んだりして…」
「うーん、何かあの人ならいい気がするんだよね、ほらめっちゃ可愛いし、癒し系って感じだから話聞いてもらうだけでもスッキリするよ」
二人はひそひそ話をしているが、アリエルは全く気にしていない、それどころか微笑みながら見守っている。
それを見た水月と星歌は安心したように紅茶を飲み、相談をし始めた。
「で相談なんだけど、実は私達さ、遠くから無理矢理連れてこられてね……ここに来てからは最悪なのよ、男は寝込みを襲おうとしてくるし、納得出来ない事を無理矢理押し付けられるし…」
「うん…最悪…わたし達はもう逃げたい…あの…貴女はどこか逃げるのに良い所とか知らない?」
二人の相談に、アリエルは顎に手を当てて考える、この二人は話せば此方に取り込めるんじゃないかと、もし此方につけさせられれば、敵の情報が期待できるし、罠も仕掛けられる。
「……一つ、良い所があるよ、でもそれを紹介するには貴女達が今所属している所を裏切って貰うことになる……それでも良いなら私が責任を持って貴女達の悩みを解決してあげる」
アリエルは真剣な顔をして二人を見てそのように提案をした。
「私は乗る、今の綱渡りみたいな生活はもう嫌だから」
「わたしも……もうびくびくしながら寝るのは…もう嫌」
二人が頷いて提案に乗ると、アリエルは二人に笑いかける。
「分かった、じゃあまず貴女達の名前と、任務の内容を教えてくれるかな?」
「私は高坂水月、この子は七崎星歌、人数はは混沌王国から私達の他に後10人が来てて、任務は魔王国の偵察、出来れば魔王を討伐して国を乗っ取れというのとアリエルって人の拉致ね、これが私達が無理矢理やらされてることよ」
それを聞いてアリエルはそっかぁーと言って背もたれに体を預けて少し上を向いた後、二人に向き直った。
「……実は私がそのアリエルなんだよね、私は貴女達を見たときから異世界人だって気づいてた、だから話しかけたんだよ、上手く話して此処に何をしに来たか確かめようと思ってね。
あぁ…勿論さっきの約束は守るよ、私達は二人に何かしたりしないし、住む所も用意する……でも後の10人は別だよ、彼等は排除させて貰うからね、あと二人にも少し協力して貰うことになるけど…いいかな?」
「……いいわ、元々あいつらを殺したいくらいムカついてたのよ、毎日毎日、水浴びを覗かれたり、夜になると体を求めてきて、本当にムカついてた……」
「わたし達は協力する……だからお願い…助けて」
水月が歯を食いしばって怒りを露にし、星歌は悲しそうに目を伏せながら助けを求めた。
この瞬間、アリエルのやる事は完全に決まった。
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「やっと帰ってきたな、今日こそ部屋に鍵はかけるなよ、俺が行くんだからな」
この男、チームリーダーである倉崎天魔は意味不明な命令をしながら帰ってきた水月と星歌を見ていた。
「……そんな事よりさっき魔王城の隠し通路を見つけたのよ」
「ふむ…そうか、では行く用意を急げ、これでこの国は俺達の物だ、なんでも好きにできるぞお前たち」
倉崎がそう言うと、周りの男達はニヤニヤとゲスな笑い顔をしながらおおー! とやる気をみなぎらせていた。
そして……彼等は街を走っている川にある秘密通路から中に入った。
「なかなか広い所だな、まるでコロシアムのようだ」
倉崎達がコロシアムのステージの中に立ち入ると、突然ガシャン! と入り口に鉄格子が現れ、前には五人の女が立っていた。
「あら、本当に来たわよ?」
「うむ、アリエルもたまにはやるものじゃ」
「そうでしょ、でも今回は水月ちゃんと星歌ちゃんが頑張ってくれたからね」
アリエルがそう言うと、水月と星歌はアリエル達の方に走っていて、まるで仲間みたいにお疲れ様と言われ迎えられている。
これを見た倉崎は戸惑いながら怒鳴り始めた。
「水月! 星歌! これはどういう事だ!」
「見たままよ、あんた達の仲間なんてもうごめんよ! 毎日毎日いやらしい目で私達を見て! だからアリエルさん達にあんたらを売ったのよ、殺したいくらいムカついたからね!」
「なっ! 俺達は地球の仲間だろうが! こんな事は許されないぞ! 」
倉崎の言葉にサクラが笑い出す、それはもうケラケラと。
「何がおかしい!」
「あはは、だって、ここは地球じゃないんだよ? こんな裏切りなんて珍しくもないし、裏切られるような事したあんたらが悪いんじゃん」
「そうそう、仲間って言いつつ嫌がらせしてたんだから恨まれて裏切られてもおかしくないよ、それにここは地球じゃないから犯罪じゃないとか言って覗きとかし始めたのは貴方達の方だって聞いてるよ、一応言っとくけど、覗きは犯罪だよ」
「だ、黙れよ、俺達はお前等を倒して魔王も倒す、そうすれば英雄になれるんだ……」
「やってみなよ、覗き魔の卑怯者」
倉崎の言葉にアリエルは剣を抜くと挑発を始め、得意の風の斬撃で後ろの方に居た男の頭を飛ばした。
さらにそれに合わせてカリーナが三人の敵を黒槍を飛ばして蜂の巣にして、リップちゃんは闇の刃を飛ばして五人の敵を真っ二つにした。
そして残るは倉崎ただ一人となった。
「俺を嘗めるなよ!」
倉崎は両手から鉄の玉を出し、凄い勢いでアリエル達に向けて飛ばしてきた。
その攻撃はローズが張った障壁の後ろに入って防いだが、依然雨のように鉄の玉が飛んで来ている為、アリエル達は攻撃出来なかった。
「うーん、この距離だと呪いは届かないなぁ……」
「私がやってみるわ……ギリギリ範囲内ね」
カリーナはそう言って倉崎の後ろに黒槍を出現させ、そのまま発射して、倉崎を針ネズミにして勝負がついたと思ったその時、倉崎が無防備な水月に向かって玉を発射させた。
「あいつ! …あれ水月ちゃん気付いてない!? 危ないよ!おーい! 」
一番近くに居たアリエルはまだ気付いていない水月の元に呼び掛けながら走り、もう気付いても間に合わないと、アリエルは自分の右手を伸ばして鉄の玉をぶつけた。
「いてー!」
「え!? アリエルさん大丈夫!?」
アリエルに駆け寄った水月と星歌は右手を見て驚いた、アリエルの右手は紫色に腫れ上がり、変な方向に曲がっていたからだ。
「ローズちゃーん、治してー!」
アリエルに呼ばれる前から走ってきていたローズはアリエルの右手を持って回復を始める。
カリーナは、さらに槍を飛ばし、倉崎にとどめを刺していた。
「まぁ今回は相手が間抜けじゃったから楽じゃったの、とりあえず戻るぞ、こんなジメジメした所に長く居たくないしの」
リップちゃんの言葉に全員が頷くと、普通に川の出口から外に出て、街を歩いて帰っていった。
そう、水月達が案内したこのコロシアムは昔廃棄されたもので、城に通じてなんかいなかったのだ。
そして城に戻ると、皆は解散し、アリエル達の寝室の隣を水月と星歌の部屋にして決めた後、アリエルとリップちゃんはそのまま居座って、お茶を飲んでいた。
すると、アリエルを見ていた水月が何かを思い出したように話始めた。
「そういえばアリエルさんって顔とかは違うけど話し方とか性格があの子にそっくり」
「あ…確かに……思えばよく似ている」
「え? 私に似ている人がいたの?」
アリエルがそう言うと、二人は悲しそうな顔をした。
「うん…私達がここに来る前に事故で死んじゃってね……名前は天宮羽衣って言うんだけどね、凄い優しくて変わった子だった、髪とか地毛がピンクでね、黒染めしてたんだけど根本からピンクになっていくの…あれは笑ったなぁ……それとね! あの子の目ってね、右が銀で左が紫なんだよ! 初めて見たときはすっごいびっくりしたなぁ……」
「わたし達と仲が良かった……でも…死んじゃった……凄く…悲しくって…でもあの子の親は悲しんでなかった…」
星歌がそう言うと、水月はいきなり不機嫌になり、その時の事を話始めた。
「あれはムカついたよ、あの親、ころちゃんが死んだっていうのに、混沌の器がとかころちゃんを道具のように言ってるんだもん」
「待つのじゃ、混沌の器? なんじゃそれは」
リップちゃんは水月の混沌という単語に反応した。
「わかんない、でも復活がどうとか無駄になったとかボソボソ言ってたよ」
「そういえばアリエル、お主以前に転生したとか言っておったの?」
リップちゃんがアリエルに聞くと、お菓子をモシャモシャした後飲み込んでから喋り始めた。
「うん、でも名前とか覚えてないんだ、事故で死んじゃったのは覚えてるんだけどね、あれは確か…白いワゴン車に跳ねられたんだ」
「えっ!? ……ちょっとごめん…………あ…やっぱり…貴女ころちゃんよね…この癖間違いないわ」
水月が驚いた後にアリエルのほっぺをぐにーっと引っ張るとアリエルは意味もなく歯をカチカチやりだした、それを見た水月と星歌は目を見開きながら涙目になり、アリエルをころちゃんと呼んだ。
「そんなので解るものか?」
「わかる、この子他にも変な癖とか行動があるでしょ? お金を貰うとき手を擦ったり、体のついでとか言ってシャンプーを使わずにそのままボディーソープで頭洗ったり、それに落ち着きが無いでしょ? それにこの子が良かれと思ってやった事でも、結局面倒事になったりしない?」
「ちょ、ちょっと待つのじゃ、カリーナを呼んでくる」
リップちゃんは慌てて部屋を出ると、隣の部屋に居たカリーナを引っ張ってきて、さっき水月が言ったころちゃんの特徴をカリーナに話した。
「……確かに同じ癖を持っていたわ、それに水月が言ってる事は全てアリエルに当てはまる…水月の言う通り、この子の前世は天宮羽衣という子で間違いないと思うわ」
「そうなんだぁ、でも覚えてないんだよねぇ」
アリエルがお菓子を食べた手を舐めようとすると、水月が腕を掴んで止めた。
「この癖も残ってるのね…懐かしくてつい止めちゃったわ」
「あはは…懐かしいね…ころちゃんはお菓子を食べた後、何も付いてないのに手を舐めるんだよね…それを水月がはしたないから止めろっていつも止めて……ぐす」
水月と星歌は懐かしい話をしながら死んでしまったころちゃんが姿を変えてまた自分達の前に現れたことを喜び、そして泣いていた。
いつも三人一緒だったよね、とか、ころちゃんはいつも元気だったとか、思い出話は二時間程続いた。
「そうだころちゃん、私ね、アイドルになったんだ…「アイドルじゃと!」…え?」
リップちゃんは水月の方に身を乗り出して驚いていた。
「アイドルというとあれか? アリエル」
「そう…あれだよ……過去リップちゃんが大金を稼いだあれ」
「なんと……実在していたとは……」
リップちゃんは水月をじろじろ見て、おもむろに手を握った後、元の位置に戻った。
「な、なに? どうしたの?」
「妾達は以前に人生ゲームというものをやったのじゃ、その時、一番給料の額が高かったのがアイドルじゃ、あれにさえなれば最下位は無いと言っても過言ではないのじゃ」
「はぁ……ほらそろそろ二人を休ませてあげなさい、行くわよ」
カリーナは呆れたように溜め息をつくと、リップちゃんを小脇に抱え、アリエルの手を引っ張って騒がせてごめんねと言って部屋から出ていった。
「…ころちゃんにまた会えて良かった…」
「私も凄く嬉しいわ、姿は違うけど中身は完全にころちゃんだったわ、ほんと……ここに来て良かったわ」
それから二人は各自のベッドに入り、この世界に来て初めて幸せな気分で眠りについた。