幻の生物を捕獲しました!
明くる日、カリーナとローズは寝室のテラスで淡く光る幻想的な街並みを鑑賞しつつ雑談をしながら穏やかなティータイムを楽しんでいた。
しかしその穏やかな時は長くは続かなかった。
「か、カリーナ!」
そう……カリーナの安らぎの時間をあっけなく潰したのはみんなお馴染みのアリエルだ、いつもやたらとテンションが高いのに、この時はいつも以上にテンションが高かった…何せ室内から窓を左手でバンバン叩きながらカリーナを呼んでいるからだ。
あまりに必死で叩いている為、窓が割れる前にとカリーナは背中に悲壮感を漂わせながら室内に入っていった。
「はぁ……どうしたのよ」
「つ、ツチノコ! 中庭を散歩してたらツチノコを見つけたの! ほら!」
アリエルは興奮しながら右手に持った胴体が短くて丸っこい茶色の蛇をカリーナに見せ付ける。
それを見たカリーナは目を剥き、その蛇をぷるぷるしながら指を指した。
「ほ、本物じゃないこれ! 凄いわアリエル! これ売れば凄いお金を貰えるわよ!」
「うん! だからギルドに持ってく前にカリーナに見せてあげようと思ってね!」
アリエルとカリーナが大興奮していると、二人を見て様子がおかしいと思ったローズが入ってきた。
「どうしたのですか? お二人とも」
「あ! ローズちゃん! ほら見てツチノコ! さっき捕まえたの!」
「えっ! あの幻の未確認生物で有名な?……これどう見ても本物じゃないですかぁ!」
ローズも興奮しながらアリエルが持っているツチノコをまじまじと見て、凄い凄い言っている。
三人が興奮するのは、この生物を見たと言った貴族のコレクターが物凄い額の懸賞金をかけているからだ。
しかしこの生物はもう10年も目撃例が全く無く、幻の未確認生物として、見たものは幸せになれるとか、特別な力が貰えるとかいう噂だけが広がっているのだ。
「早くギルドに持って行きましょう!」
そう言って三人が凄い勢いで外出の準備をしていると、ドアが凄い勢いで開き、明らかに怒ったリップちゃんが入ってきた。
「こらアリエル! お主丸ヘビを持って城を走り回るなど何を考えておるのじゃ!」
「丸ヘビ?」
「お主が今手に持っておるそれじゃ! どうせまた下らないいたずらでも企んでおるのじゃろう? 早くそれを捨ててくるのじゃ」
「えっ! ダメだよ! これは今からギルドに持っていくんだから!」
リップちゃんの捨ててこいと言う言葉に、アリエルはツチノコを守るように自分の後ろに隠してそう言った。
「はぁ? そんなものギルドに売っても二束三文にしかならんぞ、分かったら逃がして来るのじゃ」
「そんな訳無いでしょう、それは莫大な懸賞金が掛かっている幻の生物よ」
「それは人間の大陸の話じゃろう、こちらではその辺で少し探せばいるから幻じゃなくお馴染みのヘビじゃよ」
「なら人間の大陸に売りに行こうよ! リップちゃん連れてって!」
アリエルがお願いしますとばかりにリップちゃんに擦り寄るが、リップちゃんは困った顔をして喋り始める。
「むう、悪いのじゃが、妾はこれから傘下である夜の国に行かねばならぬ故に二日ほど出掛けねばならぬのじゃ」
「何しに行くの?」
「魔王国と夜の国と鬼の国の三か国会議があるのじゃよ、だから妾と文官長のエテルノで向かわねばならぬのじゃ、だから三人は留守を頼む、それとアリエルはくれぐれも大人しくしておいて欲しいのじゃ」
リップちゃんは事情を話し、懇願するようにアリエルに頼みながら何度もカリーナとローズに頼むのじゃと念押しをしていた。
「じゃあさっき作ったこの愛の籠った腕輪を私だと思って持っていって」
「分かったのじゃ、だから大人しくして欲しいのじゃ、フリじゃないからの! 本気のお願いじゃからな!」
リップちゃんはアリエルから腕輪を受け取り、身に付けた後、物凄い必死に、何度も何度も振り返りながら部屋から出ていった。
そのあまりに鬼気迫ったリップちゃんにカリーナとローズは少し哀れに思った。
「リップちゃん凄い必死だったわね、可哀想だから二人でちゃんとアリエルを見ていましょ」
「は…はい」
「取り敢えずツチノコを逃がしてくるね、ローズちゃん行こ」
アリエルは少し寂しそうにした後、ローズを連れて中庭に向かった。
そして二人は中庭に逃がした後、謁見の間に居た……。
「やっぱりリップちゃんが居ない間は魔王の代理が必要だと思うんだ、だから私は今から魔王アリエル、ローズちゃんは側近ね」
「え…あの……勝手な事は不味いのでは?」
「仕方ないよ、許可をとるのを忘れたけど誰かがやらないといけないんだもん、はい、ローズちゃんは槍持って」
アリエルはローズに魔槍フェイルノートを渡し、自分は玉座に座りナナちゃんを膝の上に乗せ、段の下の椅子にローズを座らせた。
そして暫く経ち、謁見の間の扉が開き、入ってきたのは竜王アヴィスナーガとキャロ、それと知らない黒髪の大和撫子風なのに煙草を吸っていて背中に子供を背負った柄の悪そうな女性だった。
「お、メイド門番ではないか、魔王様はどこだ?」
「ご無沙汰しておりますアリエル様」
「ふーん、あんたが虹龍様の親かい…」
「おおー、ナーガ君とキャロちゃんだ、後、その人は?」
アヴィスナーガとキャロが笑いながらアリエルに声をかけ、もう一人は見定める様にアリエルを見ていた。
「あたしはアヴィスの嫁のステラで、娘のノアだよ」
「私は光と闇を操る、プリティー魔王アリエル! そしてこっちが、側近である、輝きの聖女ローズマリア!」
「いえ違います、私は奴隷のローズマリアです」
アリエルの自己紹介は場を大いに白けさせ、すごすごと玉座に座り直した。
「魔王? 魔王はリップじゃなかったか?」
「私は代理だよ、リップちゃんから留守を預かった」
「気にするなステラ、どうせメイド門番が思い込みで勝手にやってるのだろう」
アヴィスナーガの言葉にローズは心の中でそのとおりですと盛大に頷いた。
「じゃあ用件を伺いましょう」
「あ…ああ、用件はこれからの方針の報告だから次の機会にしよう、それでは失礼する」
アヴィスナーガ達はそのままさっさと出ていってしまった。
「何しに来たんだろうね」
「わかりません……」
ローズは解っていた、彼等はアリエルの相手が面倒だから逃げたのだと。
そしてここに居ないリップちゃんに不幸が訪れる、それはアリエルは思い出してしまったからだ、玉座の後ろにダンジョンコアを隠したことを。
「あった…よーしここを魔王らしくしてあげよう」
アリエルがメニューを開き、ピコピコ動かすのを見て、ローズは嫌な予感がし、もうどうしようと頭を抱え、俯く事しか出来なかった。
その間にアリエルはあろうことか魔物を呼び出した。
「ワン!」
「ふむ、君は毛が真っ白だからシロだね」
ローズはいきなり聞こえた犬の声にはっと顔を上げ、ばっとアリエルの方を見た、そこに居たのは白い小型犬だった。
「アリエルさん、それなんですか?」
「これは地獄の番犬、ケルベロスミニだよ」
「ケルベロス…ミニ?」
ローズは意味が解らなかった、ケルベロスは知っている、とても有名なS級の魔物で、頭が三つで、巨大な漆黒の猛獣であることを。
だが目線の先の犬は毛も真っ白でふわふわ、頭も一つで見た目が愛玩動物で人気のトイプードルにしか見えなかったからだ。
「ケルベロスミニは強いんだよ、魔法を使えるし、ブレスも使えるんだから! リップちゃんの許可なしに襲わないように設定したから番犬も務まるよね」
「はぁ……」
そしてアリエルはケルベロスミニのシロを玉座に乗せると、満足そうな顔をして、疲れたから私は魔王は無理だねとかほざいて寝室に戻り、ソファーで昼寝をし始めてしまった。
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現在夜の国の城内は在籍している兵を総動員した厳重な警戒が行われていた。
それはこの大陸の頂点にいる魔王リップと、夜の国女王リリス、鬼の国の王グランズが会議室にて重要な会議をしているからだった。
「今回の議題はなんなのじゃ? 妾は何も聞いておらぬのじゃが」
「今回は魔物の事ね、最近穏やかだった各地の魔物の主が急に活発化したのよ」
「魔物か……被害はどんな感じじゃ」
会話の内容にリップちゃんは顔をしかめ、冷たい声で被害の確認をした。
「被害は今のところは無しだ、だがいつまでもという訳じゃねぇからな、早い内に手を打っときたい」
「そうねぇ、此方も同じ意見よ」
「ふむ……手を打つのは良いが、具体的に何をするのじゃ」
「各地の王が直々に動いて貰う、出来るなら討伐、無理なら足止めと被害を出さないように行動して貰う、だからあんたには足止めをしている地を廻って手を貸して貰いたい」
グランズの話をリップちゃんは顎に手を当てながら聞いていた、そしてどうして討伐した国を動かさず、自分を動かそうとするのかに気付いた。
「成る程、動いて欲しいのは妾だけでは無くアリエルとカリーナもじゃな、アリエルは理不尽な能力を持っているからS級の魔物くらい一人でも倒せる、カリーナは詳細不明だが、汎用性が高い能力の為、誰と共闘させてもかなりの戦力になる、それが狙いじゃな」
「そうよぉ、貴女が重用しているみたいだから調べたのよ、そしたら一人は共闘は難しいけど単独戦闘では他に追随を許さない強力な魔法を使いこなして敵を蹂躙するデストロイヤー、もう一人は単独でも強いけど、汎用性の高いオールラウンダーだものね、驚いたわ」
「ああ、確かアリエルだったか? 正直サシで戦っても瞬殺されるビジョンしか浮かばなかったぜ、もしあれがうちの国に居たなら即、軍のトップに置くぜ」
二人はアリエルとカリーナをべた褒めするが、リップちゃんは苦い顔をしている。
確かに戦闘では凄い貢献をするだろう、しかし通常時の態度があまりにも酷いからだ、まずはアリエル、あれはすぐにとんちんかんな事をし始め、人の好き嫌いが激しい。
カリーナも通常はまともだが、実際アリエルより酷い問題児だ、彼女はとにかく男に対して当たりが強い、態度が気に入らないから殺す位平気でやるような女なのだ、この前の異世界人の時も、あの時リップちゃんが殴らなければ、間違いなくカリーナが殺していただろう。
「それより、二人の戦闘の情報なんぞ何処で手に入れたのじゃ」
「貴女ちょっと前に人間の大陸に行ったでしょう、その時の戦闘を隠密に記録させてね、見て分析したのよ、それとちょっと気になったのだけど、貴女がしている腕輪、何処で手に入れたの? 素敵なデザインで私も欲しいのだけど」
「これか? これはアリエルが作ったのじゃよ、だから妾にはわからんの」
リリスはリップちゃんの腕を取り、腕輪をまじまじと観察するように見ると、いきなりカッと目を剥き、リップちゃんの肩を掴んだ。
「この宝石、プラネットサファイアにサニールビー、フォレストエメラルド、インフェルノガーネット、スターアメジスト、月の涙、あ! オリジンダイヤモンドまであるじゃない! 何これ! 全部失われた宝石じゃない! どう作ったうんぬんの前に、この宝石は何処で手に入れたのよ!」
「何だぁ? そんないいもんなのかよそれ」
グランズのどうでも良さそうな態度に、リリスが掴み掛かり胸ぐらを掴んでドスの聞いた声で話し始めた。
「この失われた宝石はコレクターなら幾ら出してでも買う位希少な……それはもう希少な物なの! 現存しているのは各一つか二つ!しかももう既に現存していない筈の物まであるのよ! いいもん? そんな次元では無いの、いい? もし売ってくれるとしたら、私なら女王の座を手放してでも買うわ!」
「お、おう…悪かった」
リップちゃんはアリエルに今すぐに何て物を作ったんだと説教をしてやりたかった。
「それじゃ、魔物に関しては了解した、此方はできる限り対応しよう、では次の議題はまた明日じゃな、妾は失礼させて貰うのじゃ」
こうしてリップちゃんは一気に喋り、その勢いで部屋から飛び出して今日泊まる客室に到着時、ソファーに座ってのんびりしていた。
しかしリリスがノックもせずに部屋に入ってきて、対面のソファーに座り真剣な顔で瞬きもせずにリップちゃんを見ていた。
「な、何の用じゃ」
「その腕輪……確かにアリエルが作ったと言ったわよね…」
「う、うむ」
リップちゃんは余りの緊張にごくりと唾を飲み込んだ。
「そう……もしかしたらまだ宝石を持っているかもしれないわよね……会議が終わったら貴女について魔王国に行くわ、彼女に交渉させて頂戴」
「わ…分かったのじゃ」
そうして次の日の交易についてや、自国の状況の報告などは滞り無く終わり、無事、会議が終了した。
そしてグランズは鬼の国に帰り、リップちゃんとリリスは魔王国に転移した。
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リップちゃん達が城に到着した時、アリエルは大量に作った宝石を使って、100%宝石で出来た酷い成金のような腕輪と、宝石を無駄にふんだんに使った天罰が落ちそうな十字架のネックレス、宝石の髪留め、宝石が付いた指輪、さらには大量の宝石が付いて装飾が派手な聖女の衣を作り、ブーツまで大量の宝石で改造して、全部ローズに着させていた。
「アリエルさぁん、これじゃ金の亡者みたいですよぉ」
「そんなこと無いって、凄く神秘的でいいと思うよ、もういっそ普段着にしてもいいんじゃない?」
ローズの抗議を、アリエルは宝石が入った袋をジャラジャラしながらうんうん頷いている。
「これ盗難されたら被害額が国家予算越えるんじゃない?」
「なら今日からローズちゃんの装備は歩く国家予算ね」
「ぶふっ! ちょっとアリエル! それじゃローズちゃんが金庫みたいじゃない!」
「酷いですよぉ……」
そんなふざけた話をしていると、リップちゃんとリリスが入ってきて、二人はローズを見るとピシッと石のように固まった。
「おかえりリップちゃん」
「うむ……で、ローズは何故あんな格好をしておるのじゃ」
「あれ? あれは私が作ったローズちゃん専用装備、歩く国家予算だよ」
「ぶふっ! ちょっとそれ止めなさいよ!」
カリーナがケラケラ笑いながらアリエルを注意する。
ローズはもう遠い目をしていた。
「ちょ…ちょっと……」
リリスはさささとローズに寄り、服や装飾品をじろじろ見た後、アリエルに駆け寄り、手をとった。
「貴女がアリエルよね! あの宝石まだ余ってたりしない!?」
「う、うんあるよ…はいどうぞ……ってかこの人誰?」
「これは夜の国の女王リリスじゃ、アリエルの宝石がどうしても欲しいらしくてな、ついてきたのじゃよ」
アリエル達がリリスを見ると、宝石を底の深い皿にざーっと入れて一つ一つ見ていた。
「あぁ凄い、失われた宝石がこんなに……あ、レインボーライトがある……何この神秘的な宝石は……正に幻と言われているだけあるわね……え? 何これ? 桃色? 中心に行くほど色が濃くなる宝石なんかあったかしら? しかも星形とか……うーんこんなの文献でも見たことないわね……」
「ふふ、それに目をつけちゃうなんて、お姉さんいいセンスしてるねぇ、それは私のオリジナル、アリエルスターだよ!」
リリスがぶつぶつ言いながら、桃色の宝石を見ていると、横に居たアリエルがいきなりこれはオリジナルだと騒ぎだした。
「アリエルスター? オリジナル?」
「そう、それは全部の種類の宝石を入れて最後にヒトデを入れて練金した私の自信作」
その言葉に全員沈黙する、カリーナとリップちゃんは呆れ、ローズは自分の服の胸の部分に付けられたアリエルスターを見ながら固まり、リリスは呆然としていた。
「みんなノリ悪いなぁ、もっとキャー素敵とか言って欲しかったのにさ……ふんもういいよーだ、お姉さんに宝石全部あげちゃうから! そして私はふて寝するからね!」
アリエルはそう言ってベッドに飛び込み、毛布を巻き付けて寝てしまった。
「そういう事じゃ、リリス、それは全部持って帰っていいのじゃ」
「え? いいの?」
「いいよ!」
リップちゃんが苦笑いしながらリリスに持って帰っていいと言うと、リリスは唖然としながら確認をとる、するとベッドのアリエルが大きな声でいいよと叫んだ。
「本人がいいって言ってるしいいんじゃない?」
「じゃ、じゃあ有り難く頂くわね」
その後リリスは宝石を袋に入れると、リップちゃんが送ってくると言い、二人は部屋を出ていった。
「どうじゃ? アリエルは個性的じゃろ」
「個性的って言うか変人ね、こんな希少な宝石をただでくれるなんて思わなかったわよ、気前がいいのか宝石に興味が無いのか……とにかくよく分からない子だったわ」
「まぁあれの相手は大変じゃよ、その分楽しいのじゃがな」
リップちゃんがそう言うと、二人はその場から消えていった。




