カティアさんと再会できました
「あー暑いー暑いよぉ、二人も熱中症にならないように水飲まなきゃだめだよ」
三人は門の兵に事情を話し、連れてきた人を引き取って貰った後、暑い中門の順番を待っていた、カリーナとリップちゃんは暑いのを我慢していたのだが、アリエルが水をガブ飲みしながら暑い暑い言って鬱陶しかった、三人は常に夜で涼しい気候の常闇大陸にしばらく居たため、此方の人が普通だと思う気温でも暑く感じていたのである。
「アリエル、もうちょっとおしとやかに水飲めないの? さっきから見てるけどそんな溢しながら飲むなんて小さい子供みたいよ」
「それとシャツをパタパタするのも止めた方がいいのじゃ、さっきからお腹が見えておるぞ」
二人にそう言われ、アリエルはばつの悪い顔をして服から手を離し、水を溢さないようにチビチビ飲み始める。
「全くアリエルは……リップちゃん知ってる? この子前まで本当に悪い癖が多かったのよ? 今は辞めさせたけど、酷かったのはお金を貰うとき手をスリスリしたり、洗髪剤を持ってるのに石鹸で頭を洗ってたことね」
「なっ! 止めて! もう直ったんだから言い触らさないでよ!」
「ふっ、まるで親子のようじゃの」
こうして三人…主にアリエルがギャーギャー騒いでいると、門番が一人、三人の方に歩いてきていた。
「そこの三人、すまないがちょっと此方に来てもらっていいか?」
門番に呼ばれ、アリエル達は大人しく列から少し離れたところに歩いて行った。
「急に呼んで悪いな、大事な用件なんだ。」
門番は最初に謝ると、急に真面目な顔になる。
「君、アリエルだろう? 前に来たとき印象に残っていたから覚えている、それで…だ、現在この街には君を探している国の奴等が結構いる…だから直ぐに、寄り道もせずにギルドに直行しろ、後はカティアがどうにかしてくれるだろう」
「私を助けるような事していいの?」
「ああ、君はこの街の住人だからな…そりゃ助けるさ、じゃあ俺に着いてきてくれ、このまま審査無しで門を通すから」
門番はそう言うと三人を連れて門に潜り、頑張れよ! と言い配置に戻っていった、滅茶苦茶良い人だった。
その後三人は急いでギルドに向かった。
そしてすぐに到着し、アリエルは懐かしいギルドのドアを開けると二人を連れて中に入った。
「おぉ、何も変わってないねぇ、でも何か人が少ないね」
「そうね、何かあったのかしらね」
アリエルがキョロキョロしていると、一人の女性と目が合い、その瞬間、その女性は驚いた顔をし、カウンターを飛び越え勢い良くアリエルに抱きついた。
「アリエルちゃん! 今までどこ行ってたのよ! 居なくなったと思ったら指名手配されてるし、凄く心配したんだからね!そ、れ、と、カリーナさんも! 心配してたんだからね!」
「ごめんなさいカティアさん、」
「ごめんなさいね、心配かけてしまって」
涙目で怒るカティアに、アリエルとカリーナは素直に謝る。
「まぁ無事て本当に良かったわ、最近はドクーズの動きが活発になってるからね、それと…そこの女の子は?」
「妾はリップじゃ、お主はアリエル達が信用しているようじゃから言うが、魔王と呼ばれておる」
「魔王……成る程ね、それで常闇大陸で反応があるという事になったのね……解ったわ、私はカティア、よろしくね」
リップちゃんの名乗りにカティアは顎に手を当てぶつぶつ言った後、何か解ったかのように頷き、リップちゃんに自己紹介をした。
「それでねカティアさん、私達状況が良く解って無いの、何か光魔法が使えなくなったとか環境が悪くなったとか聞いたけど大丈夫?」
「あぁそのことね、どういう事かアクエスの住人は今までより高度な光魔法を使えるのよ、しかも犯罪者以外の全員よ? それに環境も悪くなる所か良くなっているわ、もう野菜や薬草が育つ育つで豊作よ」
「ふむ…おかしいのう、報告では確かに悪くなっていると言っておったのじゃが……」
「それも間違いではないのよ、アクエスと帝国以外はリップちゃんの言う通りの状態だから」
「ふむ……それと外に結界が有ったが、あれは?」
リップちゃんが難しい顔をしながら聞くと、カティアさんは困ったように頬をかきながら答えた。
「あれね…あれは誰がやったか解らないのよ、ただあの結界は心に反応してるみたいよ、だからおかしな事を考えてるのは皆弾かれてるみたい」
「そっか、だからドクーズの馬鹿王子は入ってこれなかったんだね、納得納得」
「ドクーズの王子が近くに居たの?」
「うむ、じゃがアリエルに石をぶつけられ、髪の毛を焼け野原にしておったがの……それにしてもやけにアリエルに執着しておったな…知り合いなのか?」
「うーん、話したことも無いよ」
「大方昔のアリエルに一目惚れでもしたんでしょ、あの頃に会っていたなら間違いないわよ」
「そう言えばアリエルちゃんは侯爵令嬢だったのよね、正直最初の頃は報酬を渡す時いつも手をスリスリしてるから貴族だなんて夢にも思わなかったわ」
カティアがそう言うと、リップちゃんが信じられないとばかりの驚いた顔をし、口をパカッと開けており、カリーナはアリエルの悪い癖をカティアさんが知ってることにがっくり肩を落とした。
「アリエルが……侯爵令嬢じゃ…と……」
「事実よ、あの頃のアリエルはそれはもう素敵だったわ、貴族の幼い少女がまず憧れるのがアリエルで、その気高い姿は誰も嫉妬すら抱けないほどの美しさ、それに誰に対しても優しく丁寧に対応し王家より評判が良かったわよ」
「ば……馬鹿な……あ、アリエル…その頃のアリエルをやってみてくれんか? 妾は見ないととてもではないが信じられぬのじゃ!」
リップちゃんはカリーナの話がどうしても信じられずに錯乱する。
「態度と話し方だけでもやってみたら? 」
「うーん……解った………では、どうぞ?」
「じゃあ私が質問してみるわね、アリエルはお休みの日は何をしているの?」
「わたくしは庭園のお花にお水をあげたり、お茶を楽しんだりしておりますわ」
「じゃあ街の貧民をどう思う?」
「彼らも我が国の民です、今は辛い生活を強いてしまっておりますが、学園を卒業しましたら是非彼らのような生活をする方々が一人も居なくなるような豊かな国にしますわ」
「な…なっ…まるで別人ではないか! 何だその溢れ出る気品さは! いつもはそんなキリッとした顔なんかしておらぬではないか! うっ…うっ…うわあぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっとリップちゃん、大丈夫!?」
アリエルのあまりの別人さにリップちゃんは叫ぶように文句を言い、最後は叫びながら頭を抱えて踞ってしまい、アリエルが焦って駆け寄って抱きしめている。
「刺激が強すぎたようね、でもあの頃は今よりオーラ出てたわよ」
「何故じゃ…何故アリエルにあんな事が出来るのじゃ、いつもはヘラヘラしてふざけたことばかりしていたのに何故……」
「あの頃は必死だったんだよぉ、ちょっとでも態度を崩すと王妃様が扇で手をビシッて叩いてくるんだもん、あれ痛いんだよ…手が真っ赤になるの、だから嫌々やってたんだよ」
「アリエルちゃん大変だったのねぇ」
「王子の婚約者だったものねぇ、普通よりもかなり厳しかったと思うわ」
そしてリップちゃんという被害者を出し、この無駄な話は終わった。
「それでこれからどうするの?」
「えっと、エンジェライト神殿に行こうと思ってるんですよ」
「あら、観光でもするの? それなら一時間位で着くわよ、門を出て、右斜め前に見える山を目指して歩くだけだから」
「かなり近かったのね」
「うむ、早く行くのじゃ」
「なら、終わったら帰ってきてね、アリエルちゃんの部屋、まだ残ってるから」
「はい! じゃあ行ってきます!」
そうして三人は三十分程山を目指して平原を歩いていた。
「はぁ……あそこの林に何か居るわよね」
「うむ、なんだか予想は付くが……」
「え、誰?」
林に何かが居るのを三人が気付き止まると、少し前に見た鎧が五人と、焼け野原のキーチクが姿を現した。
「やぁアリエル……今度は確実に捕まえるからねぇ……お前ら三人を捕まえろ!」
『はっ!』
その言葉と同時に鎧が凄く遅いスピードでアリエル達の方へ向かってくる。
リップちゃんとカリーナは余裕な態度を崩さず、アリエルは剣を抜き、上段に構え風属性を付与し始める。
そして、まずアリエルが行動を始めた。
「よし、いくよー!」
アリエルが上段に構えた剣を思い切り降り下ろすと、巨大な風の斬撃が鎧達を襲い、三人が吹き飛ばされて戦闘不能になった。
そして次に攻撃を始めたのはカリーナ、魔力で作った無数の黒い槍を、鎧に向かって放ち、全身鎧を貫通させ穴だらけにした。
リップちゃんは闇の魔力をビームのように飛ばし、鎧を飲み込み消滅させた。
「後はお前だ、ストーカー野郎! 無駄な抵抗は止めて大人しく地獄に落ちなさい!」
「ふざけるな……君は僕の物だぁぁぁぁぁぁ!!」
そう言うとキーチクはアリエル達に向かってファイアーボールを放った、しかしそれは、アリエルの前で霧散し消滅した。
そしてキーチクは見てしまった、アリエルの右目が不気味な桃色に光っている事に。
「なっ……くそぉぉぉぉ!」
予想外の事にキーチクの動きが止まるが、すぐに立て直し何発ものファイアーボールを撃ち始める。
しかし全てアリエルの前で消滅してしまい届かなかった。
「私に魔法は効かないよ、無駄な抵抗お疲れ様」
アリエルはそう言い、振りかぶった剣を振り抜いて風の斬撃を発生させ、キーチクをズタズタにして息の根を止めた。
「あれは死んだわね」
「うむ、普通の人間であれは耐えきれんよ」
「まぁこれで治安も良くなるし気にしない気にしない」
アリエルはそう言って、キーチクの死体には目もくれずに歩き出し、カリーナとリップちゃんもそれに着いていった。
そして少し歩くと、神殿が見えてきて、それからすぐ入口に辿り着いた。
「綺麗な神殿だね、汚れが一つもないよ」
「確かに……こんな長い時が経っているのに汚れが一つもないなんておかしくない? 」
「うむ……ここは異常じゃよ、光の力が強すぎるのじゃ」
「……そういえばここには光の精霊しか居ないよ…こんな事初めてだよ」
三人が不審がっていると、カリーナがある事に気づいた。
「アリエル……左目光ってるわよ」
「え? 何もしてないよ」
「確かに光っておる、正確には銀の部分がじゃが」
アリエルがわたわたしていると、突然神殿の扉がギギギと開いた。
「入って来いってことかしらね」
「じゃあ行こうよ」
「そうするしかあるまいな」
三人は開いた扉から中に入ると、一瞬強い光が目を覆い、目を開けるとそこは神の神殿に相応しい豪華でありながら神聖な気をビシビシ感じる場所で、奥の一際大きな玉座にはアリエルにとっては見慣れてきたエンジェライトの姿があった。
『いらっしゃい、アリエル、カリーナ、リップ、三人ともよく来てくれたわね』
「うん、それでここに何かあるの?」
『いいえ、特に何も無いけれど、あるものなら好きなものを持っていって良いわよ、アリエルは私の可愛い娘だからね』
「あの、貴女は光の女神様なのですか?」
カリーナが冷や汗を流しながら丁寧に聞くと、エンジェライトはにこっと笑った。
『丁寧に喋る必要はないわよカリーナ、そして貴女の言う通り、私は光の女神エンジェライト、アリエルの母だと思って気軽に接してちょうだい?』
「じゃあアルゴス神聖皇国が信仰する光の女神シャインは……」
『ええ、そんな女神は存在しない、だから私が彼等の為に動いた事は一度も無いし、特別な加護を与えた事も無いわ』
エンジェライトはカリーナの疑問にはっきりとそう答えた。
「何故本当の名前を教えぬのじゃ?」
『ふふ、教えた所で人間があれでは私の加護を商売にしたりして今より酷くなると思ったからね、はっきり言うと、私は人間なんかとうに見捨てていたのよ、だから今までは最低限の加護だけ与えて放置していたけど、アリエルを狙い始めちゃったしそのアリエルも出ていっちゃったからね、見込みのある一部分の加護を強化し、結界を張ってから私はこの大陸を捨てたの』
エンジェライトがどうでも良さそうに、この大陸を捨てたと言い出した為、カリーナとリップちゃんは驚きが隠せなかった。
「エンジェライト様はアリエルだけが大事ということね」
『その通りよ、だから私はアリエルの為に動いてくれる者には最大の加護を与え、害そうとするなら加護を奪い取る、それが今の大陸の現状よ』
「なるほど……なら終焉とは何かを教えて欲しいのじゃが」
『簡単に言うと終焉は神と精霊の定期試験なのよ、その時期にどちらかの大陸に精霊の愛し子という目印を発生させ、精霊にあえて愛し子の言う事を聞かせて人の出来を調べるの、力に溺れず正しく行動すれば合格、力に溺れるならその場で失格、失格の場合は環境を大規模に悪くして後悔させるの、だから今回のは終焉ではないわ、あえて言うなら……天罰ね』
「……これが最後の質問じゃが……アリエルは何なのじゃ?」
「私はアリエルだよ?」
リップちゃんの真剣な問いに何故かアリエルがぼけっとしながら答えた。
そしてそれを聞いたリップちゃんはがくりと肩を落とした。
「そういう事では無いのじゃ……」
『解っているわ、リップ…貴女は気付いたのよね、アリエルの存在の異常さに』
「それはどういう事?」
『その問いの答えはその通り…ね、アリエルは今代の精霊の愛し子では無いわ、彼女の独断みたいだから精霊は気付いてないようだけど』
「では何なのじゃ?」
『そうね……アリエルは私とフィリスノア……そして精霊の女王が我が子として愛した子なのよ』
リップちゃんの問いにエンジェライトは困ったように笑いながらそう答えてアリエルの頭を撫でた。