小説を当てにし過ぎるのはよくないです。
「どう思う?」
「随分落ち込んでるように見えるわ」
「あ、やっぱりそう思う? ていうかさっきと打って変わって何か凄い気が弱そうじゃない?」
「多分あれが本来の姿なんでしょう、いじめられっ子だったのかしら?」
「うーん、どうだろうね」
私達は現在日本刀の男を尾行しています。
ただ街に向かって歩いてるだけだからすっごくつまんない。
「あ、ほら岩に座ったよ」
「ええ、それより遠目だからはっきりとは言えないけれど何かぶつぶつ言ってるように見えるわ」
「あ、本当だ。 ちょっと待って風の精霊に声が聞こえるようにしてもらうね」
「風の精霊よ、あの男の声を私達に届けて」
私が風の精霊に頼むと、微かに風が吹き何処からともなく声が聞こえてきた。
『あーさっきの人達は美人だったな、ヒヒヒ、さっきは恥ずかしがってたみたいだけど、無理矢理襲えば良かったか? さっきの戦闘で好感度がかなり上がっただろうしな、無理矢理でもハーレムに入っただろうし、勿体無いことしたかな?まぁいいか、次に街で会ったらまた誘ってみるとしよう…そして食事かデートで好感度上げれば二人揃って宿に連れ込めるだろ、ヒヒ』
「……あいつやばくない? 話聞いた限りさっきマジでヤバかったじゃん」
「…そうね、完全にロックオンされてるし、このままだと襲われるかもしれないわね」
「カリーナ、顔真っ青だけど大丈夫?」
「いえ、大丈夫じゃないわ、それよりアリエルこそ顔真っ青だけど大丈夫?」
「大丈夫じゃない……」
ほんとにもうこれ以上は異世界人を呼ばないでほしい。
人選に悪意がありすぎるよ。
はぁ、あいつ今すぐ死なないかな?
いや、待って……実力不明の変態勇者はともかく、来たばかりのあいつなら殺すまではいけなくても深い怪我位ならいけるんじゃない?
「……ねぇカリーナ、もしかしたらあいつ位なら殺すまでは出来なくても深手を負わせる位ならいけるんじゃない?」
「…可能性はあるわね。」
「やろう、あんなのに襲われるくらいなら殺すか再起不能にした方がマシだろうから、じゃあ私がここから全力で切断特化のエアファングを全力で飛ばすから、飛ばした瞬間地下通路に向かって走ろう」
「結果は見なくて良いの?」
「いいよ、それよりバレないようにした方がいいでしょ」
「そうね、ならやりましょう」
カリーナは無表情な顔で私を見てそう言った。てかその全てが抜け落ちたような顔は怖いからやめて欲しいと思いつつ、私はまず精霊眼を発動し、風の精霊を周りに集める。
よし……これだけ集まれば。
「《我は望む、全てを切り裂く風の爪!》エアファング!」
私が引っ掻くように腕をふると、5本の風の刃が奴に向かって飛んでいく。
そして私達は地下通路まで全力で走り、中に入った。
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はぁー、俺はさっき会った二人の美女の事を考えていた。
二人ともかなりの上玉で、日本にはあんな美人はいなかった。
だが今俺がいるのは異世界、そして俺は主人公だ。
異世界トリップした場合の定番はやはりハーレムだろう。
そしてどうあっても、もうすぐ二人とも手に入る。その事を考えるだけで興奮が止まらん。
まぁトリップ物の定番通り、助けたあの二人には今日の夜にでも会うだろう。
そこで俺は彼女たちを食事にでも誘い、クールに対応しつつ好感度を上げて最後に愛を伝えハーレムに加える、もしくは無理矢理宿に連れ込みヤった後ハーレムに加える。
これで完璧だ。俺の知識では失敗はないだろう。
ヒヒヒ、この世界は最高だ! ここには俺をいじめる奴等は誰も居ないし、直ぐにあいつらでは一生手に入らないような女を手に入れるんだ!
俺はあいつらとは違う。
俺は神に選ばれた者なんだ! ここで思うがままに行動し、欲しい物は全て手に入れる!
ヒヒヒ、笑いがとまらないな! さて、そろそろ街に向かうか……。
「ガッ! ギィ!」
な…なんだ…何故俺は倒れている……。
「あっ……ああ…腕が……俺の右腕が無いぃぃぃ!!」
「い、痛い…痛いよぉ! 」
お、俺の右腕が無いぃ! クソ!浅いが脇腹も切られてる!
何で俺がこんな目に!! 誰だ! 誰がやりやがった!
チクショウ! 何も居ねぇ! 主人公である俺が何故こんな怪我をするんだ!!
し、死ぬぅ……早く、早く街に行かないと……。
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「断言するけど、今日はこの世界に来てから3本の指に入るくらい最悪な日だったよ」
「私もそれには同意するわ」
「あいつ怪我したかなぁ?」
「そうね、腕か足が吹っ飛んでいてくれたら、アリエルを褒め称えてあげるわ」
「まぁ今日の一撃はかなり自信あるよ。異世界人を呼んでる奴への怒りと、あいつの独り言で溜まりに溜まったストレスの全てを込めた渾身の一撃だったし、あいつも完全に妄想の世界か何かに入ってたみたいで全くこっちに意識が向いてなかったから避けられたとは思えない」
そして私達は心底疲れた顔をしつつ雑談をしながらトロトロ歩き、家に帰ってきた。
あーもう今日はこのまま寝るー。
「お休みカリーナー」
「そうね、今日はもう寝ましょうか、お休みアリエル」
こうして二人は最悪の一日を乗り越え、明日の闘技大会を楽しみに眠りに着いた。




