自由都市アクエスに着きました
あれから一週間経ち、ようやく自由都市アクエスに到着した。
この街は、人口が約一万人程で丸い形をした中規模都市だ。この街は、何処の国にも属しておらず、この都市独自の法律があるので、貴族は滅多に来ない。
貴族は基本的に、国に甘やかされている存在なので、こういった立場を振りかざせない場所を、酷く嫌う傾向がある。
今私達は城門の前の列に並び、順番を待っている。
「アリエルも冒険者ギルドに行くんだろう? 良かったら案内するよ。」
「ええ、お言葉に甘えさせてもらいます。」
良かった、場所わかんないしね、この二人は面倒見がいいんだな。
うーん、順番はもうすぐだね、初めて他の街に来たんだし、早く入りたいな。
「次の者、荷物を見せろ。」
「はい。」
「何をしにこの街に来た。」
門番は荷物を確認しながら聞いてきた。
「冒険者になりに来たんです。」
「何?そうなのか?」
「はい。」
「はあー、あんたみたいな育ちの良さそうな子が冒険者かよ、大丈夫なのか?」
「はい、これでも少しは戦えますから。」
「そうか、それならいいけどな、よし、確認が終わったから通っていいぞ。」
心配をしてくれた門番は、中身に問題がないのを確認したのか、私に鞄を返しつつそう言った。
「ありがとうございます。」
「ああ、頑張れよ。」
そう言ってお辞儀をしてから、私は城門を抜け、街に入った。
街の中はとても賑やかだった、私がいる大通りは、城門から真っ直ぐ伸びていて、石畳の大きな道だった、この道は、様々な人や馬車が行き交い、レストランや宿屋が多く、城門近くには露店も沢山出ている。
「ほら、アリエル、行くよ?」
「あ、はい。」
私達は、大通りを進み、1つの建物の前に着いた。
この建物は、前の世界で言う、白い公民館みたいな建物で、壁には剣が交差した絵が描いてある旗が付いている。
「ここが、冒険者ギルドだよ。」
「変わった建物ですね。」
「そうだね、何でも昔にこの世界じゃない所から来た人に教えてもらった技術で建てたとか聞いたけど。」
え!? それって……いや、昔の事なら私には関係ないか、それに今どうしても知らないといけない訳じゃないし、生活が落ち着いてから少し調べてみよう。
そう考えながら、ギルドの中に入った。
「アリエル、あそこが受付だから行ってきな。」
「はい。」
私は、受付の黒髪で爆乳のお姉さんに話しかけた。
「あのー、冒険者になりたいんですが。」
「あ、はい、冒険者ギルドにようこそ、ではこの紙に必要事項を書いて貰えますか?」
「はい。」
渡された紙を見ると、登録用紙と書かれてあった、ふーん冒険者登録って、こんな感じなんだねと思いながら書き始めた。
さて、まず名前は、アリエルっと、家名はもう無くなったし書かなくていいよね。
性別は女、歳は17、戦闘スタイル? 何それ、剣と魔法じゃダメなの? とりあえず聞いてみよう。
「すいません、この…戦闘スタイルって何ですか?」
「ああ、これはどうやって戦うかですね、例えば、剣と弓を使うなら、普通に剣と弓って書けばいい訳です。」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます。」
じゃあ、メインが剣で補助が魔法っと、これでいいよね。後は備考か、どうしよう……ワール王国に入れない事、書いた方がいいかな? いや、もしワール王国に行けって言われて、後から行けませんって言うのは不味いよね、よし、やっぱり書いとこう。
えっと、婚約破棄による追放のため、ワール王国には入れません……これでいいか。
「はい、出来ました。」
「お疲れ様です。ふむ……ではアリエルさんはワール王国では活動出来ないと言うことですね。」
「はい、大丈夫でしょうか?」
「問題は無いですね、ワール王国の依頼を受けなければ良いだけですし、ではカードを発行してきますので、少しそこの酒場ででも待っていてもらえますか?」
「わかりました。」
あー、良かった。
これで二度とワール王国に行くことはないね。
良かった良かった。
私は、お茶を頼み、カードが出来るのを待った。
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その頃のワール王国。
「何? この国の作物が急に枯れ出しただと?」
彼はワール王国の国王ジェイド、彼は今悩んでいた、一週間前から急にこの国の環境がおかしくなったからだ。
「はい、それに鉱石も採れなくなり、山からも山菜や果物などの全ての実りが無くなったらしいです。」
「どういう事だ、精霊の加護が無くなっているという事か? しかし、我が国では欠かさず祭りと奉納をしているはずだ……なぜ今になってこうなった?」
彼は頭を抱えながらそう言った。
ワール王国では一週間程前から異変が起こっており、民や冒険者ギルドから薬草が全く見付からなくなっただの、作物が急に全て枯れたなどという報告が上がるようになっていて、調べてみたら周辺の精霊が居なくなっていってる事が判明したのだ。
「原因は不明です。しかし精霊が居なくなっている事だけは間違いないのです。」
「くそ、ただでさえサヘルの馬鹿が男爵令嬢と婚約するなんて言い出していて面倒なのに、今度はこれか。」
「サヘル殿下と言えば、婚約破棄だけではなく、アリエル侯爵令嬢を追放したとか。」
「ああ、頭が痛い、いや……ちょっと待て、確かアリエル嬢が追放されたのは一週間前だったか?」
「ええ、そうですね。」
「アリエル嬢の追放が一週間前、精霊が行動を起こし始めたのも一週間前だったな……まさかこの二つは関係しているのか? そういえばカリーナもこの事を言っていた気がするな……。」
「そうなのですか? それは気になりますね。」
「ああ、アリエルが今何処にいるか分かるか?」
「いや、分かりません、それに分かったとしても連れ戻したりは出来ません。彼女はもうこの国の人間ではありませんし、命令を聞く義務はありませんからね。」
「そうか、まぁとにかくこの状況を何とかしないとな。」
こうして、この国は止める方法が分からないまま、次第に衰退していく。
そして、この後、この事態はまだ序の口だということを、彼等は思い知る事になる。