婚約破棄されました
とうとうこの時が来た……。
やっとこの窮屈な場所から解放される。
私を呼び出したこの男は、ワール王国、第二王子のサヘル、その横にいる女がカリーナ。
そして私が、イージス侯爵家の長女のアリエルだ。
「ここに呼ばれた理由はわかっているな?」
「いえ、分かりません。」
本当は分かっているけどね。婚約破棄でしょ? カリーナさんを苛めたとかで。
「ふん、白々しい、お前がカリーナに悪質な嫌がらせをしてたのは分かっているんだ! 今ここで宣言する! 俺はこの女との婚約を破棄し、カリーナと婚約する! お前はこの国から出ていけ!」
「分かりました。婚約破棄を了承します。国も明日には発ちましょう。」
ほんと……ありがとね、カリーナさん。
貴女のおかげで、私は解放された。本当に感謝してもし足りないよ。
「ふん!さっさと行け!」
私は侯爵邸に帰ってきた、そしてそのまま侯爵の部屋の前まで行って、ドアをノックし、声をかけた。
「ああ、アリエルか、入れ。」
「失礼します。」
「何の用だ?」
「はい、サヘル様との婚約が破棄され、国外追放が決まりましたので、ご報告に。」
私は淡々と用件だけを話した。
「なんだと!?」
「申し訳ありません。」
「くっ!もういい、お前はさっさと準備をして出ていけ。」
「分かりました。」
そう言い一礼をして、部屋を出た。
その後、私は自室に戻り、動きやすい服と、貯めておいたお金を鞄に入れ、うきうきしながらこの日は休むことにした。
………………………………
次の日の早朝、私は侯爵邸を出て、自由都市アクエスへ行く馬車に乗った。
乗客は私と、女性冒険者らしき二人組、後は旅人のおじさんの四人だった。
ふぅ、私……やっと自由になれたんだよね……。
やったー! この日の為にお金貯めたり、動きやすい服を買ったり、剣の練習も頑張ったんだよ!
うぅ……あまりの嬉しさにちょっと泣けてきた。
カリーナさんに会ってから、いつかこうなると分かっていた。だから事前準備をしっかり出来たし、行き先も考えられた。自由になりたかった。
それに、私にはこの眼がある。
この眼の事を言ったら国に囚われるだろうから今まで誰にも言わなかった。
この眼の名前は精霊の眼、この眼を持つものは、全ての精霊から愛され、守られる。
そして精霊を視認出来るようになる。
この世界では精霊との契約は極めて重要だ、彼らの力を借りないと、人間は魔法を使えないし、精霊のいない土地は、作物などが育たなくなり、次第に死んだ土地になる。
それほど、精霊は世界には無くてはならないもので、余程のバカじゃない限り怒りを買うようなことはしない。
ワール王国でも年に4回、精霊祭と言うものを行うし、毎年1度の奉納を必ず行う。
しかしもう意味はないだろう。私は精霊に愛され、守られる存在だから、彼らは大事にしているものを傷つけられるのを何よりも嫌う。
だから私がなんとも思ってなくても、私を使うだけ使って捨てた国を怒った精霊は呆気なく捨てるだろう。
ごめんね? 精霊がここまで怒ってるとさすがに止めようにも止められないんだよね。多分王家が原因だから、この王国が無くなるまで止まらないかなぁ、でも仕方ないよね。
私がこの世界に転生して17年、王家や実家は私を王子に結婚させる道具のように扱ってきた。
別に恨みはないけど、本当にきつかったよ。
だから精霊がここまで怒ってるんだよ? 精霊達はずっとそれを見ていたんだから、これが少し危害を加えられたくらいなら簡単に止められるけど、今回は道具扱いが17年も積み重なった強い怒りだから、さすがに聞いてくれない、だからワール王国にはなるべくしてなった事だと思って諦めてもらう。
追放された私には何も出来ないから。
さて、これから頑張るかー。
確かアクエスまでは一週間か、それまでのんびりしようかな。
あー、こんなにゆっくり空を見るのはいつぶりだっけ? 青空は綺麗だし、ぽかぽかしてあったかいなぁ。
「ねぇ、貴女はアクエスに何をしに行くの?」
ん? 隣に座ってた女の冒険者が話しかけてきた。
「私は冒険者になりに行くんです。」
「へー、それじゃ同業者になるんだね。なら自己紹介しとこうか、私はベル、Cランクだよ。で、こっちがライラ、同じくCランクだ。」
「ライラだよ、よろしくね。」
「あ、はい、私はアリエルといいます。よろしくお願いします。」
この二人美人だなあ、大人の色気っていうの? それがすごいわ。
ベルさんは茶髪でポニーテール、ライラさんは肩までの金髪。
そして胸がでかい、巨乳美女ってやつだね。
外見チートすぎて、羨ましい。
「アリエルは戦えるのかい?」
「はい多少なら、魔法もそれなりに使えますし、剣も練習しましたから。」
ちなみに私は魔法をかなり使える。
全ての精霊が力を貸してくれるし、属性魔法は効かないしね。
「そうなんだね、戦えるなら大丈夫だ。」
「うんうん、冒険者は荒事が多いし、戦えないときついからね。」
なるほどね、現役冒険者の忠告はありがたいね。この機会に色々聞いてみようかな、冒険者の知識を知ることは損には無いだろうし。
「冒険者ってそんなに荒事が多いのですか?」
「ああ、そりゃあもうね。争い事には事欠かないよ。」
「依頼も討伐系が多いし。」
ふーん、やっぱり戦いは必須だね、街に着いたら剣の特訓にもっと力を入れないといけないね。
こうして、私はベルさんとライラさんに冒険者の話を聞きながら、ワール王国を出て最初の1日が終わった。
そして、この日を切欠に、人間達の平穏な日々は少しずつ終わっていく事になる。