3話・バグ
まっ、まじかよ……。
来たぞ! 来たぞ!
俺は周りの人間に悟られないように小さく拳を握った。
そして周囲に気を使いながらもう一度ルーレットを回してみる。
00が出た興奮と、次の人生を決める結果がもうすぐ決まるせいで心臓が破裂しそうなほど痛い。
もう一度回り出したルーレットは、今度はユックリとした低速で回っている。
なんともじれったい。
10だ! 最低10は欲しい。
それが出れば他に何もいらないから。
頼む!頼むって!! 一生のお願いだから。
俺の願いも虚しくルーレットの針先はまたもや00の位置で動きを止める。
てっ、おいおい。
もう00は要らないから。
要らない!
要らない!
要らない!
要らない!
要らない!
「 いらねぇってんだろぉおッッ!!」
俺はルーレットの針先の一点を睨みつけながら、無意識に神経がブチ切れそうなくらい思い切り叫んでいた。
ルーレットの針先は俺の気合いに気圧されたのか、止まっていた針先がまた動き出す。
よっしゃ! いいぞ、いいぞ。
次の数字は23、これは最高の結果になりそうだ……って、待て、待てよ!!
どこまで行くつもりだよ止まれって。
ルーレットは回る速度を上げていき、ついには目視出来ないほど高速に回り出した。
ルーレットから火花が飛び散り、鉄と鉄が擦れる様な音が響いてくる。
潰れたのか?
ーーバッキッッッン!!
回転に耐えられなくなったのか、ルーレットから凄まじい音が聞こえてくる。
あっ、マジで潰れやがった。
これってどうなるんだ? やり直しとかあるのか?
他人の物を壊してしまったような焦りと、これからどうなるのか不安を感じながら『理の管理者』の方に目を向ける。
すると周囲の視線、いや、この場にいる者全ての視線が俺に集中している。
何故か驚きの表情を浮かべて。
な……なんでみんなこっちを見ているんだ?
あっ、俺がさっき叫んだせいか。
「やり直しはありません。結果を受け入れて下さい」
『理の管理者』は俺の瞳を一直線に見つめてそう言った。
う、嘘だろ……0ポイント……なのか?
『理の管理者』の言葉に、俺は腰から砕けてしまい立ち上がることが出来ない。
周囲の視線がなんとも言えない哀れみを含んだ目になっているのが余計に辛い。
一部、ニヤニヤしているやつもいるが。
「それではみなさんの結果が出揃ったところで、多くの方が楽しみにされているポイントの割り振りをしてもらいます。説明はそれぞれの項目に載っているので省略させて頂きます。最初に言っていませんでしたが、皆さんがこの場に立って居られる時間は決まっております。残り時間は皆さんの時間で言いますと三十分です。三十分経ちますとポイントの割り振り関係なく一斉に転生して頂きますので、ポイントは早めに使い切って下さい」
制限時間を聞いた時の周りの表情が一様に変わっていく。
みんな明らかに焦っている。
正直、こんなの決めるのに三十分も要らないだろ?
まあ、もう俺には関係のない話だ……。
ガンッッ!!
え? 一体何だ?
俺の頭上で金属と金属がぶつかり合うような音が聞こえてくる。
上を見上げるとそこには宙に浮いたルーレット台が見える。
まあ、やることもないし一応確認しておくか……。
立ち上がると同時に左右に視線を送ると、皆んな必死に何もない空中を指先でなぞっている。
側から見ると馬鹿にしか見えないな。
俺はこんな馬鹿みたいなことしなくて済んで、あー良かった、って……虚しいだけか。
………………。
えっ!?
刺さってる……。
針が刺さっているんだが……。
ルーレット台を見てみると、垂直に針が突き刺さっていた。
『36』の数字に。
え? これってもしかして……。
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国
種族
性別
容姿
家柄
能力
資質
スキル
所持XP3600
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項目が何故か減っているがそんなの関係ない。
今一番重要なのは一番下のポイントだ。
3600!?
ど、どうしよう?
これってヤバくないか?
もうチート超えてるだろ。
いや……そうなるかはこれからのポイントの割り振り次第か。
こうなってくると時間が全然足りない、三十分って馬鹿かよ!!
人の人生をなんだと思ってやがる。
急いで国の項目に向けて指先を伸ばしていった。