2話・転生の書
青白い光に照らされた室内には、クラスメイトたちが真ん中に空間を作るようにして円になって立っている。
さっきまでバスの中で楽しそうに談笑していたその顔は一転して、強張っていて不安そうな顔つきだ。
それもしょうがない。
ついさっき俺たちは、修学旅行中の移動のバスで事故にあっていたはずなのだから。
俺が最後に記憶しているのはバスが横に大きく倒れこみ、クラスメイトが宙に浮いたこと。
そして大きな衝撃とともに身体中を焼き尽くすような炎が襲ってきたことだ。
一瞬のことだったけど確かに俺は覚えている。
あの痛みを。
あの恐怖を。
それなら一体ここはどこなんだ? という疑問が湧いてくるが、どうにも隣の藤本に聞こうとしても声が出ない。
それだけじゃなく、首以外が金縛りにかかったようにビクともしない。
他のみんなも同じなのか、誰も声を出さないで突っ立ている状況だ。
ここに来てから数分経っただろうか?
辺りを見回しても俺たち以外はこの部屋に誰もないようだ。
ここがあの世ってやつなのか?
意外と地味というか……案外こういうものなのかもしれないな。
なーんて思っていると、何かやばいことが起こりそうだ。
青白い光が粒のような小さい塊となって、一点に集まりだしている。
光の粒は大きな塊となって、徐々に人のような形を作り出した。
そしてその光の塊は光度を少しづつ落として、人肌と同じような色へと変わっていく。
そこには服を着ていない、男か女か分からない特徴の無い顔立ちをした『何か』が立っていた。
一見すると人間みたいだが、表情が一切無くて薄気味悪い。
どっちかっていうとマネキンみたいだ。
『何か』は表情の無いまま口を開いた。
「皆様初めまして、私は『理の管理者』というものです。この先、会うことも有りませんので名前は忘れてもらって結構です。ただこれから話すことはしっかりと聞いて、覚えておいて下さい」
『理の管理者』と名乗った奇妙な物体は、クルリと一周回って俺たちの表情を見ていく。
「もう理解している人も多くいるようですが、残念ながら皆様方は既に死んでいます。ここは皆様が想像している通り、あの世に近い場所です。今は魂だけの状態となっており、これから生まれ変わる準備をしているのです。いえ……残念ながら、もう地球に戻ることはできませんよ」
『理の管理者』は西野さんの方を向いて言葉をかける。
首を傾けて視線を向けると、西野さんは涙を流しながらバスの運転手の方を見つめていた。
その目には悲しみだとか、恨みだとか、色々なものが込められているのかもしれない。
俺は別に恨んではいないけど、普通は恨むよな。
「皆様にはこちらの事情により、今の記憶を持ったまま地球とは異なる世界に生まれ変わってもらいます。……賛否両論といったところでしょうか。もちろんその分、生まれ変わる特典をご用意しております」
ここまでの流れを聞いていると、ネット小説で毎日勉強したあれなのか?
転生なのか?
しかも特典付きで!
恨むどころかバスの運転手さんグッジョブじゃないか。
「なるほど特典となるとほとんどの方が気になるようですね。では先に特典の内容を説明した方が良さそうですね」
一部の男子生徒が勢いよく頷き出した。
心なしか目が血走っているように見える。
俺もどっちかっていうとそっち側の人間か。
「それでは目の前のこちらをご覧下さい」
『理の管理者』が手を上げた瞬間、目の前に15インチほどのパソコン画面のような物が出てくる。
パソコン画面みたいな物はどこにも固定されいないのに何故か宙に浮いている。
画面の中には日本語が書かれているようだ。
「これは『輪廻転生の書』といわれるものですが、今は皆様が一番慣れ親しんでいる形にさせて頂きました。それではそこに書かれている文字を読んで下さい。両腕だけ動かせるようにしましたので、画面を指先で触れて頂くと先に進めます」
俺もその文字を一つ一つ見落とさないように見ていく。
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階層
次元
星
時間
国
種族
性別
容姿
家柄
能力
資質
スキル
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なるほど、なるほど、これってキャラメイクじゃないのか?
このパターンだとポイントをもらって自分で能力とかスキルを選ぶんだよな。
だとするとここでのポイント割り振りが第二の人生を分ける訳か……。
やばい、楽しすぎだろ!
「驚きました、既に理解されている方がいらっしゃるようですね。それではこの転生の書を見ていただくと………」
俺はどのスキルを取るべきか、必死にスキル欄を下の方に進めていく。
こういうのは時間との勝負だ。
どれだけ良いスキルを見つけられるか、そして裏技を発見できるかだ。
この一年、必死に学んだ知識を活かせる時が遂に来たんだ!
恐らく貰えるポイントは一律のはずだ。
だからこそポイントの使い方で、こいつらを出し抜くことが出来るんだ。
授業中のように『理の管理者』の言葉に耳傾ける他の連中を他所に、俺は良さそうなスキルの位置と名前を大体覚えていく。
ただ、数が多すぎて全てを見ることはできなかった。
「………というこで、それではこちらのルーレットを回して頂きましょう」
あれ? ルーレットてなに……の話?
隣を振り向いて聞こうとするが声が出ない。
夢中になりすぎて気付かなかったが、目の前にはルーレットが浮かんでいる。
数は0から36までで何故か00という数字もある。
それぞれ色分けされていて、何故か0は銀色で00は金色に光っている。
なるほど、これはカジノによくあるタイプのやつか。
「0か00が出た場合はもう一度だけ回してもらいます。0なら10、00なら100を二回目に出た数字にかけてもらいます。ただし二回目も0もしくは00だった場合は獲得ポイントも0ということになります。それでは回して下さい」
獲得ポイントっていうことは……一律じゃなくてランダムなのか?
それはそれで良いけど、手に入れる数字って基本的には36以下だよな。
少な過ぎじゃないか?
職業とかスキルにかかるポイントが少ないっていうことなのか。
それに、0と00が出た時と出ない時の差があり凄すぎる。
右手でルーレットの真ん中にある軸を右回りになるように捻る。
勢いよく回り出したルーレットは暫く止まる気配を見せない。
隣で突っ立ている藤本のルーレットを見ようとするがそこには何もない。
「覗かれる心配をしていた方は安心して下さい。ルーレットは自身にしか見えないようになっていますので」
成る程、意外とサービスがいいようだ。
自分の数字が知られるとそれだけである程度の強さが分かってしまうからな。
ルーレットは少しづつ勢いをなくしていくと、0を通過して22、6、14と進んでいく。
頼む、こいっ!
いけっ!!
ーールーレットの針先は金色に輝く00の前で動きを止めた。