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13話・選んだ道

 俺って何だろう?

 何のために産まれてきたんだろう?


 いつも考えていた疑問。


 あいつと出会ってからいつの間にか考える時間が無くなっていた。

 それは俺という存在をいつの間にか見つけられたからなのか?

 答えは少しだけ違う気がする。

 俺が俺の存在を見つけた訳じゃなく、あいつが俺という存在を見つけてくれたっていう方が正しい気がする。

 ずっと人を避けていた俺が、他人に自分の存在を見つけてもらえるなんて本当に皮肉な話だ。


 親がいないという事実。

 養護施設で育った過去。

 小中高で感じた虚無感。


 これまでの全ての出来事が俺という存在を形作っている。

 どうでもいい過去かもしれない。

 でもそれを含めて俺なんだ。


 だから俺という存在は捨てない。


「おい、聞け! ずっと俺の中で暴れてる奴! 俺はこれから先もお前と一緒になるつもりは毛頭ない。俺が受け入れない限り、お前が完全に俺と一緒になることは出来ない。ということは分かるだろ? このままだとお前という存在はこのまま俺の中で生きていくのか、消滅するのか、それは分からないが、お前の望みは叶わない訳だ」


 胸の奥がより一層、裂けるような痛みに襲われる。


「くっ……だが、俺としてもこうやって暴れ続けられるのはたまったもんじゃない。だから取引だ。お前は大人しくしてろ! それと俺に干渉するな! そうすれば、俺がお前の望みを叶えてやる。どうだ?」


 痛みが少しづつ和らいでいくのを感じると、さらに言葉を続ける。


「お前が取引に応じるなら俺は必ず約束を守る。必ずだ!! お前の望みは何だ!? 俺と一緒になることか? クレアを助けることか? 言ってみろ!!」



 ………。




 ー幸せー




 ー家族の幸せー




「……そうか、それがお前の望みか。これで交渉は成立ってことでいいな?」


 返事はないが胸の痛みは完全に消えていた。

 早速、約束を守ったということか。


 まさか前の俺の望みが"家族の幸せ"だとはな。

 なんて、偽善に満ちた言葉を吐きやがる。

 人はもっと利己的で、他人を蹴落としてでも自分の幸せを掴み取ろうとする生き物だろ?

 それが自分の子供、家族であっても。

 反吐が出そうだがそれでも約束は必ず守ってやる。


 クレアと初めて出会った日から何日経っただろうか?

 森を彷徨っている間、時間と方向の感覚が完全に麻痺していたみたいだ。

 幸いにもホールド山脈が進む方向を示してくれている。

 胸に残ったモヤモヤした感覚を振り払うかのように、全力で森の中を走り抜けた。


 これから俺がすべきこと。

 それは基本的に今までと変わらない。

 自分を鍛えて、鍛えて、鍛え抜く。

 どんな暴力にも、権力にも屈さない力が必要だ。

 相手は辺境伯の息子。

 並大抵の力で歯向かえば、こちらが喰われてしまう。

 厄介なのがもう既に歯向かってしまっているということだ。

 時間があれば辺境伯ごと喰える力を手に入れられるが、その肝心の時間がない。

 このまま学院に戻れば、どう転んでも理不尽な結果が待ってるだろう。


 ということで、当初の予定通り『ゴブリンの肥溜め』にやってきた。

 レベルアップの検証をする為だ。


 鑑定。


 〔能力〕

 HP79

 MP197

 SP80

 筋力14

 知力19

 器用20

 敏捷26



 これがゴブリンを倒した後、爆発的に上がった今の俺の能力値だ。

 二週間ほど前の能力値と比較して、特にMPと敏捷が大きく上がっているのは、転生前の資質の設定が影響している可能性が高い。

 俺が想定するレベルアップに資質が関係あるとすれば、この爆発的な上がり方にも納得がいく。

 もしゴブリンを倒した時にレベルが1上がったとすれば、資質の2%程度が能力値に加わったことになる。

 レベルが2上がったとすれば、資質の1%程だ。

 今でも能力値だけなら教師を含めて学院最強だろうが、まだ足りない。

 資質の10%は欲しい。


『ゴブリンの肥溜め』は火攻めの影響から一面焼け野原となっていて、もぬけの殻だった。

 狩る相手が居ないなら仕方がない。

 更に奥地にある魔狼の巣を襲うしかない。




 魔狼の巣を目指して走っていると、数日前と同じ臭いが嗅覚を刺激する。


「またこの臭いか。あの野郎、もっと自重しろよ」


 流石に魔狼まで狩られているとなると面倒なことになる。

 更に走っていくと案の定、森が焼けている。

 焼ける森から逃げ出すように、魔狼がこっちに向かって走ってきた。


 鑑定。


 名前なし

 年齢2

 性別オス

 種族魔狼


 能力値

 HP17/28

 MP6/6

 SP29/38

 筋力9

 知力2

 器用1

 敏捷15


 スキル

 遠吠え レベル一



 ミニゴブリンに比べればかなりの強敵だ。

 体のサイズは大型犬くらい。

 この敏捷値で集団に襲われれば例え学院のトップクラスの連中でも危険だろうに、あの馬鹿、何を考えてやがるんだ?

 自分の能力を過信しすぎだろ。

 そう思いながらも、こいつは有り難く頂いておく。


「悪いが、お前は俺の糧になるんだ」


 魔狼の進行方向に割って入ると短刀で頭を一突き。

 そのまま短刀ごと魔狼を地面に叩きつける。


 苦しまずに死んだのか、魔狼は声を上げることもなく動きを止めた。

 短刀を引き抜くと、紫色の液体がプシャッと音を立てて噴き出す。


「この短刀もそろそろヤバイな。切れ味がイマイチだ……おっ、この感覚。ゴブリンの時と同じ、体が作り変わっていくような感覚だ」


 鑑定。


 〔能力〕

 HP134

 MP317

 SP137

 筋力25

 知力32

 器用33

 敏捷46


 よしっ! 上がっている!

 今回も資質の2%程上がっている。

 ということはレベル1で資質の2%が増える可能性が高い。

 後はレベルが上がるメカニズムを調べるだけだ。


 これで学院生徒が相手なら万が一もないだろう。

 だがまだ足りない。


 炎に包まれる魔狼の巣に向けて駆けていく。

 が、魔狼の巣を前にして俺の直感がこの場から離れるべきだと警鐘を鳴らした。


「どういうことだ? 今の俺なら魔狼程度どうとでもなるはずだ。この先に魔狼以外の何かがあるのか?」


 これまでの人生で直感に反したことはなかった。

 反する理由もなかったし、直感が大きく間違うことはなかったからだ。

 そこそこ信用をしているって訳だ。


 だが今回はそういう訳にはいかない。

 反する理由がある。


「この先には俺の目的と、こいつの望みがあるからな」


 と言っても細心の注意は必要だ。

 近づき過ぎればリシャールの気配察知の範囲に入ってしまう。

 その距離は恐らく五十メートルから百メートルほど。


 ここに来るまでどうすればこいつの望みを叶えられるのか考えていた。

 クレアだけをどうこうしてくれという望みなら、このままクレアを連れ去ればいい話だ。

 簡単な仕事で俺としてもそれが良かったんだが、こいつの望みは家族の幸せときた。

 このまま俺とクレアが失踪すればこいつの両親はどうなるのか? と考えた時、学院から逃げ出すのは約束を違えることになるだろう。


 俺は知らないといけない。

 リズベルグという人間がこの十年、どうやって生きてきたのか。

 誰と出会い、何を感じ、どうしてそこまで想うクレアと離れ離れになったのかを。

 それを知った時、俺が取るべき行動は自然と決まるだろう。

 何をするにしても力が必要な訳だが。

 非常に面倒だが、権力っていう人の欲の塊さえ必要になるかもしれない。


 まあ長々と話したが、俺が言いたいことは何かするにしても情報が少なすぎるから、直接クレアの口から聞いてみる! ってことだ。

 スキル、鷹の目を使ってリシャールたちの様子を伺う。

 取り巻きが円となってリシャールを中心に置き、火魔法と風魔法を上手く織り交ぜながら攻撃しているようだ。

 陣形を保ちながら、更に魔狼の巣の奥地に進んでいる。


 この距離だと鑑定はできないが、すでに魔力を相当使っているはずだ。

 更に奥地に行ってどうするつもりだ?


 後をつけつつ、更に魔狼を一匹始末する。

 今度は能力値に変化なし。


 微かに聞こえるリシャールと取り巻きたちの声から、どうしてここまで無茶をしているのかが掴めてきた。

 どうやら俺のせいみたいだ。

 俺が男連中を全員失神させたから、リシャールが切れてしまったようだ。


「お前たちが不甲斐ないからこんなことになったんだろ!! 帰りたいなら一匹でも多く駆除してみせろ!!」


 取り巻き連中もヤバイのが分かってるから帰りたいが、リシャールには逆らえない。

 リシャールを含めて人数は合計、十六人。

 クレアの姿も見えるし、誰も死んでないようだ。


 火の勢いを強めながら更に進んでいくと、辺りの様子が少し変わる。

 先ほどまでの木が生い茂っている光景からうって変わり、大きな石の壁が目の前に広がった。

 大きな石というか、岩の壁には幾つもの大きな穴が空いていて、高さは相当なものだ。

 行き止まりのようにも見えるが、傾斜は登れないほど急ではない。

 だが、流石にリシャールもこの先に進むのは気が引けているようだ。

 十六人の集団が石壁の前で止まる。





 ーーピリッ


 ーーピリッ


 突然、脳天から背中にかけて電気が走るような感覚に襲われる。

 スキル、危険察知の発動。

 しかもこれまで感じたこのない強さだ。


 ヤバイ!

 俺がそう叫ぶ前に、リシャールの声が響いてきた。


「お、お前ら! そ、そ、そこに居ろ!! 命令だ!!」


 リシャールの声も束の間、鼓膜をつん裂くような遠吠えが聞こえてくる。


「ウオオオォォォォォォオオオオンン!!」


 走り出すリシャール。

 それを追いかける一部の取り巻き。

 腰を抜かすプジャ。

 呆然と石穴を見上げる女の子。


 それぞれがそれぞれの行動を取り、動き出した。

 この場にいる人間、誰もが同じ感覚を共有しているだろう。

 ここはとてつなく危険だと。


 他の奴らはどうでもいい。

 クレアだけはこの場から逃がさないといけない。


 全身が総毛立つような感覚を抑えて、クレアだけを見据えて全力で走り出した。

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