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11話・課外活動

「Gクラスのみんな! 死なないよう健闘を祈る!」


 ヴァンダレイの一声に、クラスの連中が森の中を一斉に走り出した。

 どいつもこいつも次こそは上のクラスに! ということなんだろう。


 ヴァンダレイはポツリと残っている俺を見ると、早く行けよという表情で無言の圧力をかけてくる。

 このヴァンダレイという教師、性別は男で、年は三十半の独身だ。

 小太り中背で覇気はなく、小役人という印象を持つ。

 去年から辺境伯の推薦でこの学校の教鞭を執っているらしいが、どうにも俺によくつっかかってくるのが面倒くさい。


 と、まあそれくらいにして俺も行くか。

 こいつの嫌味を聞くのはもう飽きたからな。


 独り、森の中を歩いていく。

 モルモットはどうしたかだって?

 流石にモルモットを連れて狩りをする訳にもいかず、ヴァンダレイに預かってもらっている。

 あの野郎、最初からこうなることは分かってただろ。


 今回の課外活動で俺には二つの目的がある。

 それはレベルアップの可能性を確認することだ。

 能力値、スキル、とくればレベルがあっても何らおかしくない話だ。


 それともう一つ。

 モンスターを倒すとことで、能力値、スキルが上がりやすくなるのかという検証だ。

 ここを把握しとかないと後悔することになる。


 だから今回はミニゴブリンを積極的に狩っていく方針だ。

 その点、独りというのは都合が良い。

 魔法を使えるからな。

 禍い転じて福となす! って、ちょっと違うか。


 森に入ってから小一時間、早速ミニゴブリンを発見した。

 身長は五〇センチくらい、肌の色は緑色、頭の上には小さなツノが一ついている。

 見える範囲では三体固まっていて、ウギャウギャと声を上げて騒いでいる。

 早速、鑑定。


 名前なし

 年齢0

 性別メス

 種族ゴブリン


 能力値

 HP4/4

 MP0

 SP3

 筋力1

 知力0

 器用0

 敏捷1


 スキル

 なし


 事前説明の通り、武器を持っていない限りはミニゴブリンに危険性はなさそうだ。

 とは言っても、喧嘩の経験すらない俺にいきなり殴り殺すというのは無理な話だ。

 魔法の威力を確かめる為にも先ずは風魔法で倒す。


 標的は固まっている三体だ。


「風よ、風よ、力を貸してくれ。あそこにいる奴らをぶちのめす為に。風刃」


 魔法詠唱はそれぞれ自分に合った詠唱方法を唱えることになる。

 同じ魔法でも詠唱の長さ、方法は十人十色だ。


 魔法詠唱を終えると、俺の意思を再現するように複数の小さな風の刃がミニゴブリンを襲う。


「ウギャアァ!」

「ウギィ?」

「ウギャギャアッ!」


 断末魔をあげてミニゴブリンは崩れ落ちた。

 思ったより、ヤバイというか……なんだこれ、気持ち悪い。

 無数の傷から血が流れ出て、地面が赤色に染まっている。

 ひどい光景に一瞬視線を逸らしてしまった。


 ミニゴブリンのHPが0になっているのを確認してから近づいてみる。


「うっ、ひどい臭いだ」


 ミニゴブリンの血の臭いのせいか、とにかく生臭い。

 臭いにつられて強烈な吐き気が襲ってくる。


「現実と小説は違うってことか」


 当たり前のことだけど、それでも実際にその場に居ないと分からない。

 五感から直接伝わる死という存在。

 狩る者と狩られる者。


「どんな世界でも弱者は強者に生殺与奪権を握られてるって訳だ」


 俺はもう一度狩られる側に回るつもりはない。

 絶対にだ。


 こいつらは人を襲い、人を犯し、人を喰うモンスターだ。

 迷う必要は無い。

 やるべきことは単純で簡単、只ひたすらこいつらを狩るだけだ。

 俺という存在の糧にするために。


 ミニゴブリンの左耳を剥ぎ取ると鞄の中に入れていく。

 今度は目を逸らさない。

 この光景を目に焼き付けるために。






 今回の課外活動の期間は二週間あり、既に一週間が経過した。

 課外活動中はポイント、ポイントに休息地点が存在し、そこにはリネット魔法院の教師が常駐している。

 ほとんどの班がその休息地点で寝泊まりして、狩りに出かけるという方法を行っている。

 俺も安全性の観点からこの一週間同じやり方をしてたんだが、今日からはもう少し奥地に行こうと思っている。

 バズの森ではこの時期、ササの木に成るササの実という果物が熟れて食べ頃になる。

 ミニゴブリンたちはこれを食べて成長するらしい。

 もちろん俺たち人間も食べることに支障は無いので食料の心配は無い。

 まあ、美味しくはないんだが。


 日が昇る前に出発準備をして、森の奥地に向けて走り出す。

 どうして奥地を目指すのかというと、奥地に行けば行くほど親ゴブリンとの遭遇確率が上がるからだ。

 この一週間、能力値、スキルの成長の経過を観察していたんだが、ミニゴブリンをいくら狩っても変化は無かった。

 ところが一度だけ能力値が大きく変化した時があった。

 しかも爆発的にだ。

 それが親ゴブリンを倒した時だったんだ。


 レベルというのが存在すると仮定して考えた場合、ミニゴブリンでは上がらず、親ゴブリンで上がった理由としては三つ考えられる。

 1、ミニゴブリンを倒しても経験値は溜まっていて、偶々親ゴブリンを倒した時にレベルのようなものが上がった。(経験値の差が大きい可能性も)

 2、ミニゴブリンに経験値は存在せず、親ゴブリンには存在する。(ミニゴブリンが弱すぎるから?)

 3、そもそも経験値を得るには戦闘の結果よりも過程が重要で、そこで差がついたから。


 細かいことを挙げればまだあるが、大体この三つだろう。

 ゴブリンを倒したのはバズの森に来てから五日目。

 それから二日の間、数値が大きく上がったことはない。

 そもそもレベルが存在せず、別の要因で上がったという可能性も全然あるんだがな。


 残り一週間、そろそろ仕掛けてみるべきだろうと考えたわけだ。


 俺が向かっているのはバズの森の中層にある『ゴブリンの肥溜め』と言われる場所だ。

 そこには親ゴブリンが大量に居るらしい。

 更に奥地行くと魔狼の巣があり、そこを超えるとアストロ帝国と国境を別つように、ホールド山脈がそびえ立っている。

 山頂付近では竜が暮らしているらしく、そこに行くのが当面の目標だ。


 この森に来た時とは走るスピードが段違いだ。

 転生前の俺より速いのは間違いない。

 しかもこれで速足程度だから恐ろしいことだ。


 走り出してから一時間ほどだろうか? 平静とした森の様子が少し変わる。


「早速香ばしい臭いがしてきやがった」


 香ばしいとは言葉の意味の通り、何かが焼けて焦げる臭いだ。

 更に奥地に入っていく。


「マジか……」


 日が出て間もないっていうのに、俺の視線の先は赤く染まっている。

 燃えているのだ。

 バズの森が。


 一体のゴブリンがこちらに近づいて来る。


「グギィイイ」


 戦闘態勢に入ろうとするが、ゴブリンを鑑定すると直ぐに止める。


 ドスンッ!


 左半身が焼け焦げているゴブリンが前のめりに倒れた。

 鑑定した時には既にHPは0だった。


 森が燃えている方から人の声が聞こえてくる。


 ゴブリンの巣を火攻めってわけか。

 やることが酷い……って俺も同じ穴のムジナか。


 どんな奴がやっているのか興味はあるが、多分あいつだろうな。

 この際だし、こっそり鑑定でもしとくか。

 人を鑑定する為には、相手の顔をはっきりと認識できるまで近付かないといけない。


 まあ俺の場合、新しく手に入れたスキル、『鷹の目』があるから多少遠くても大丈夫だ。

 燃えていない木の陰に隠れながら息を殺して近づく。


 ここからなら大丈夫だろう。

 さあ鑑定、っというところで怒鳴り声が響く。


「コソコソと何してやがる!! 俺がリシャール=シーメンスと知ってやってるんだろうな!?」


 俺の隠密活動は完璧だったはずだ。

 この距離で俺の存在に気がつくってことは、こいつは『気配察知』持ちってことか?

 しかも高レベルの。


「その面を見せろっ! じゃないと今直ぐ消し炭にしてやるぞ!?」


 普段はこいつらの取り巻きとクレアのことがあって、あっちの校舎に行ったことなかったしな。

 こいつもそう言ってることだし直に鑑定してやるか。

 今の俺なら多少の面倒はなんとか出来る力はある。


 木の陰からゆっくりと体を出す。


「なんだ、クズじゃないか。お前みたいな無能者がよくこんなところまで来れたな。最近はクレアのストーカーを止めたと思っていたらまた恋しくなったのか? 懲りない馬鹿だな」


 こいつがリシャールっていう奴か。

 なるほど、なるほど、心置きなく潰してオッケーだな。


 リシャールの周りには男が五人か。

 どいつもこいつも見たことない奴らだが、こっちはAクラスに居る取り巻きってやつか。


 取り敢えず、片っ端から鑑定だ。

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