神様とのお喋り
僕は今、とても神様には見えない神様なる存在の話し相手になってあげている。
「でさー、最近隣の太陽神ラーさんがカップヌードルにハマりだしてね。お湯が作れないっていうから、自分の熱で温めろよ!ってツッコんじゃったよヌハハハ」
太陽神ラーさん、ね。隣っていったい何の事なんだ。何が隣に換算されるんだよ。
とにかく、さっきまで部屋で勉強してたんだから、とっととこの変な場所から帰してくれ。受験まで一ヶ月無いんだから。
「え?返してほしい?いやいやクッハ!君何面白いこと言ってんの?何で自分がここにいるのか、もしかして理解してない?そりゃあ自分に関心なさすぎだ、ゼーッと!!」
ああ、ウゼェ。でも、こんな精神と時の部屋的な場所に連れて来られる理由なんて本当に分からない。僕は淡々と静かに暮らしていただけなんだから。それに、僕は自分が気になって仕方ない。だから関心が無いなんていうのはアンタの見る目がおかしいだけだ。
「君もしかしてドラ●ンボー○とか興味あんの?あれは本当に面白いよねー。神様界でも流行ってるんだよ。原作者と握手するのが私の夢」
神様界って何だよ。太陽神ラーだか豊穣伸フレイヤだか知らんが、とりあえず日本産の漫画知ってる事についてはあえて無視させてもらおう。
「無視しちゃう?まぁ君の事なんてどうでもいいんだ。とりあえず、君は死んだ。何故かって?そんなの知るかボケェ!何でもかんでも神様が知ってるなんて思ったら大間違いなんだよバーカ!」
神様にバカって言われた。僕一応偏差値67の人なんだけど。
というか、僕が死んだなんて話、一体全体誰が信じるんだよ。そもそも、僕はアンタの存在すらまだ認めてないのに。
「え!?これだけ言葉のキャッチボールしてていまだに私を否定?そんな頑固で自己中心的な人間初めて見たよ!ここに来る奴ってのは大抵落ちこぼれなんだけどなぁ」
その言葉は心外だ。僕はこの方勉強を諦めた事は無い。小学1年生の頃から今まで、ずっと勉強だけに時間を注いできた。何かを知り、学び、新たな段階へとステップアップするあの感覚。僕はあれが大好きなんだ。
「つまりガリ勉野郎ですか分かります。ごめん、私はそういう人間が苦手でね。今まで相手してた人間はみんな、殺し屋とかマフィアとか凶悪殺人犯とか癖の多い人間だったから、君みたいな人間とはあまり縁が無いんだ」
僕もアンタみたいな人の事を知ったような口を叩く上に殺し屋とか殺人鬼とかを扱ってきた神様は初めて見たよ。むしろ見たくなかった。地獄でえんま大王でもやってりゃいいだろうが。
「ホント、おかしな事に人間の裏側にどっぷり浸かってる奴に限って天国に来るんだよ。それで私にせがむんだ。『もう一度生き帰してくれ』ってね。全く、神様の話を聞かないなんて恥知らずな人間達だよ」
暗に僕の事を言ってるのは分かってんだよ。で、仮に僕が死んだとして、その動機は?一応現実で死ぬような事は何もなかったけど。なにしろ、友達はいなかったからね。
「なるほど、一人ぼっちなのか。で、君の死亡の動機?だーかーらー、私にそんな事を聞かれても困るんだって。勝手に死んだのは君達本人だろ?私の役目は、ここで天国にやって来た人間と楽しくお喋りして、良い奴か悪い奴か判断するだけなんだから」
単刀直入に言うと、つまりアンタはいらない神様なんだな。
「本当に前置き無しだね。人間ってのは何故こうまでも捻くれているのだろうか。私にはそれが不思議でたまらない。もっと大らかになれないのかね」
アンタが全てを受け止めすぎなんだよ。もっと取捨選択を細やかにするべきだ。
「おお、なんと!私のいけない点をこうまでもズバズバと当てるとは!友達無しコミュ力無しにしては素晴らしい観察力だ。一体どうやってそんなウザったい力を身に付けたんだい?」
友達はいないがコミュ力はあると自負してるぞ。というかそんな嫌味たらしく言われて誰が教えるかよ。
それよりも、これは本当に何なんだ。ここが仮に天国だとして、僕はこの先どうすればいいんだ。こうしてずっとアンタと喋っていないといけないのか?そんなの時間の無駄だから行先を教えろ。
「ほうほう。君は私との時間がもったいなく感じるか」
ここに来た人間はどうだったんだよ。
「みんなキレて日本刀振り回したりアサルトライフルぶっ放したりしてた」
十分短気じゃん。僕、だいぶ大人しい存在だと思うよ。
「君はあれだ、言葉の暴力だね。きっと君は自分が進むべき道が出来るまでずっと口を閉じるのを止めない。そういう人間だ」
さあ、どうだろうね。もしかしたら僕が経歴を偽ってる……なんて事は考えないのか神様。
「ふうむ。それについては考えなかった。どうやら君は言葉で人を引きずり込む事が出来るようだね。人間としては厄介なタイプだね。出来ればこのまま地獄に落としてやりたいぐらいだよ」
アンタもけっこうな短期だな。でも、少なからず自分が死んだ理由ぐらいは知っておきたいんだ。
「あーはいはい、めんどいからちょっと待ってね。今二軒隣の死神さんに電話するから」
この世界でも電話って使われてるのか。まぁ、これが受験問題に出るわけでも無いし、使えない情報だ。
「ちょっと黙っててくれよ人間。……ああもしもし、シャベクリガミです」
(こいつ、ウケ狙ってるのかな)
「地球人死亡リストの日本人データについてなんですが。……はい、はい、すいませんね、お忙しい中。えっと名前は……なんていうんだっけ」
ったく、僕の名前は……だ。
「えっと、その人間はつい30分前ここに来たんですが。それで自分の死亡理由が聞きたいと言って聞かなくて。はい。ホント、人間ってのは時に殺したくなりますよねぇ」
こいつ、神様のくせに人間殺したいのか。マジでお前が地獄行けよ。
「え?我が直々にぶち殺して差し上げる?そんなそんな!死神の旦那にそんなちゃっちい事に時間を使ってほしくは無いですよ!ええ、はい。分かりました」
死神って偉いのか?いや、それよりも死神ってのは本来天国にいるような奴じゃないだろ。天国地獄なんて、意外と適当なんだな。
「あ、見つかりました?わざわざお手数お掛けしてしまいまして申し訳ありませんでしたぁ。……はい、ええ、はい。……え?」
なんか神様(笑)から笑顔が消えた。……いったい、何がどうしたんだろうねぇ?
「なるほど。了解しました。ありがとうございます。では」
やっと死神との電話は終わったのか。で、僕の死亡理由または動機は一体なんだったんだい?俺に分かるように、よーく、聞かせてくれよ。神様さんや。
「はは、本当に君という人間はどこまでも……厄介だ」
そんな真面目な顔しないでくれよ。僕はただの受験生。本当に時間が無くて困ってるんだ。でも僕はそんな中で死んでしまった。このままわけも分からず成仏しろって言われても、絶対に無理だ。だって僕は、自分が大好きなんだから。
「それも、嘘。全部嘘なんだろ?いやいや、本当に私とあろう者が会話で人間から遅れを取るとはね。最初は普通の人間かと思ったけど、やっぱり私のところに来る人間は隔たりが無いんだね」
どういう意味?僕が殺人鬼や殺し屋みたいな『裏』の人間だって言いたいの?変な見方だよ、それは。人間ってのは千差万別で、みんながみんな、それぞれの『個』を持ってる。似ている事があっても、同じにはなれないんだよ。
「だと良かったんだけどね。でも、やはり私の所にやって来る人間ってのは、一つのコースしか存在しなようだ。……君は殺人鬼、殺し屋、マフィア、そういう人達よりも性質が悪い」
へえ。会って間もない人間にそれ程言えるなんて、死神さんはどれだけの事を知っているんだろうか。僕はそれが気になって仕方が無い。一度会わせてくれないか?
「良いよ。ここで顔面の皮を削いで肉を全部切り取って生々しい骸骨の姿で会うのが絶対条件だけどね」
僕は死んだんだろ。じゃあそんな事しても無駄だ。つまり死神さんとやらに会う事は絶対出来ない。そして、死神さんに会えないもう一つの理由。それは、死神さんがこの世界に存在しないから。
「君はあれだね、神様の心すら読んでしまうほどの能力を持っているのかい?騙す上に読み取るなんて、どれだけチートを重ねれば気が済むんだか」
しょうがないだろ、これこそが僕の生きている間に手に入れた唯一の資産なんだから。死んだ理由、教えてくれないならアンタみたいなお喋りで本心を隠している奴の心も読んじゃおうかな。
「君はどれだけ嘘を重ねているんだい?もしかして全てを偽りで塗り固めたせいで自分自身すら見えていないんじゃないか。きっと、自分が一番大好きっていうのも、受験生で入試を一ヶ月に控えているっていうのも、嘘が教えた事象だろ」
さぁ、そういうところは素なんじゃないか?で、死神兼お喋り大好き神様が見つけ出した僕の本性は?そして、僕は本当に死んだのかな?
「はは、面白いね君は。死んだのは本当だよ。でもさ、それにしては性質が悪いんだよ。ああ、実にいやらしいよ、君という人間は」
「なにせ、自分から人生を捨ててここまでやって来て、お喋りを通じて、今度は私自身を滅ぼそうとしているんだからね」
そうかそうか。本当に僕の事を理解しているようだ。まぁ、最初のお話、楽しかったよ。僕は自分が大好きだから話すのを止めないしね。でも、僕は神様が嫌いなんだ。
要約させてもらうと、お喋りは終わりだクソ神様野郎。って事だ。嘘じゃないよ?立派な本心さ。