表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

亡骸を追って

 ティティリアそれはバナソニル中央大陸3国と新大陸、新新大陸との国交を結ぶ要所であり、中継港である。

 バナソニル中央大陸の東端に位置し、温暖な気候、常夏の避寒地としてエールバーン王国からも多くの人が訪れる。

 過去は極東、太陽の昇る島国と呼ばれたヤパンが支配していたが、ヤパンが新大陸への侵攻を決め、ティティリア等への手綱を緩めたために現在は独立しティティリアを首長とする周辺の島々と自由都市連合を名乗っている。

 ロドス連邦共和国と密接な関係にあり、ロドスとヤパン、さらには新大陸の国々との交易により発展を続けている。

 今では商人ギルドの本籍地、大陸同士の玄関口、貿易港として名を馳せていた。


 しかし


 闇がある。


 ティティリアには奴隷市場がある。


 どこの大きな都市でも奴隷や奴隷市場は珍しくはないのだが、ティティリアの奴隷市場だけが他国に滅ぼされた国の生き残りや、獣人、亜人種、バナソニル中央大陸3国内外の少数民族が、年齢、性別問わず、手に入れる事が出来るといわれている。

 商品(奴隷)の豊富さはティティリアだけであり、船に乗り奴隷を買う商人、貴人が余りにも多かったために商人ギルドの本部が担う事となったのだ。

 そして、エールバーン王国の12氏族のうちの1氏族、エルマン族が住まうエルハの森にオークが攻め入り森を焼かれ族長らが殺されたという話はバナソニル三国に広く伝わっていた。

 エールバーン以外の2国、ロドス連邦共和国やスフェーン帝国の他に新大陸にある他の国々が絡んでいるのではないかという話もあった。

 

 エルフが欲しい。


 エルマン族はエルフという種族に属する。エルフ族という亜人は人間よりも長寿と言われ200年は生きるとも言われており、特に北方、エルマン族に代表されるエルフの女性は肌が滑らかで白く美しく、整った顔立ちにエルマンのような睫、エルマンのような瞳と揶揄される程に女性達が憧れる目元、妙齢と呼ばれる期間が長く、男達の羨望のまなざし、欲望の対象として見られる事が多かった。

 エルマン族は別名、森の美女、森の妖精と謳われ、もしも奴隷として取引が出来るのであればその価値は伝説の名剣と引き換えにしてもよいと云われる程の価値を持つと言われていた。


 女性であれば忌み嫌う場所それがティティリア。

 そこに滅ぼされたエルマンの女性が奴隷として市場に現れるのではないか。噂は民草にも伝わり、お忍びで王族や貴族たちが入港していた。


 お目当てはエルマンの少女達。

 王族や貴族は忘れることが出来なかった。

 舞踏会で、祝勝会で、謁見の間で、勇者のパーティの一行として訪れた美しいエルフの女性を忘れる事など出来なかった。

 エルハの森が焼かれた時、思い出したのはイーリスの美しく気高き姿。

 そんな気高き娘たちを好きな様に出来る。男たちは欲望を滾らせティティリアに滞在している。


 エールバーン王国の軍艦、ガヤルドも各国の貴族達の私有船や軍船に交じり停泊していた。

 「見ろ!あれは東方大聖の金剛、ゲルーマのヴェルクカイザ、エールバーン十二氏族のガーウィンにダーヒル!軍艦に豪華客船にタンカー、ワイバーン強襲艇なんでもありだ!皆エルフエルフエルフ、エルフの娘の事で頭が一杯の奴隷買い共だ!」


 ガノレオは船から降りながら副官と共に笑った。

 エールバーンとしてはエルマンの民を一人でも多く救いだすためにこれからギリアムと交渉する事になっている。

 もしも。エルフが攫われ競りにかけられるような事があれば世界からこの様に金と暇、そして欲望だけはある奴らがティティリアに集まる事は想像が容易かった。

 だがこのハイエナのように集った糞共から、エルマンの民を救う事は困難を極めるだろう。だからガノレオは予めティティリアの主ギリアムとは話をつけておいた。

 

 ティティリアの自治独立も今日の繁栄もエールバーン王国、ロドス連邦、スフェーンの後ろ盾があればこそである、本来ならばあってはならない事だが発生する事は十分に想定されている事なのだ、

 だから、ガノレオは自分の目的が達成される事は疑っていなかった、だから副官と笑った。

 




 最初リーリエは嫌がった。

 

 「どうして私があんなに、おぞましい場所へ行かなければならないの」


 「お前のお姉さんの遺体がティティリアに運ばれたからだ」


 「どうしてお姉さまがティティリアに運ばれたの」


 「ギリアムがどうしても手に入れたかったモノだからだ」


 「ギリアム……私、ティティリアから逃げ出すとき、ギリアムに遭いました。ものすごい魔力の男で、一緒にいた子が、一緒に連れられてきた、その子はエルフじゃないんですけど、その子が……その男をギリアムって」


 「ギリアムを知っている子供?まぁ、そいつがギリアムだろう。見た目の印象より魔力の印象だけがものすごく残る。魔力で強制的に精霊を酷使したりするのが得意な奴だ」


 リーリエはうなずき同意した。精霊が喜んで使われている感じはしなかったのだ。そしてリーリエは少し怯えるような表情をしながら言葉をつづけた。


 「そのギリアムがなぜ?勇者の一行だったのでしょう?何故お姉さまや他の勇者の一行を裏切るような悪いことをするの?」


 「ギリアムはお姉さまが欲しくてエルハの森を襲ったというの!?」


 矢継ぎ早にネロに問いかけるリーリエに一つ一つ答えてゆくネロ。

 ネロはこれまでに関わった敵に吐かせた情報と推測から、俺がこう思うという話だが。と前置きした上で語りだした。


 「ギリアムはな、勇者の一行とか呼ばれていた頃から、旅を続けていた何年も前からずっとギリアムはイーリスに夢中だった。これは俺も見ていたから間違いない。

 お城の舞踏会で踊る姿を、宿屋の吟遊詩人のリュートに合せて歌う姿を、戦いの最中にも、イーリスを恋い焦がれる瞳で見つめていたのはあいつだけじゃないがな、とにかくイーリスに夢中な奴らがいたのさ。イーリスに夢中だったのか、エルフが好きだったのかは知らんがな。

 だがイーリスには好きな男がいた。それでも諦めきれなかったんだろうな。ギリアムは魚のフンのようにイーリスにずっと付きまとっていたよ。

 イーリスを殺した魔族から聞いた話では、イーリスも勇者の一行の連中に騙され、魔族と一騎打ちする事になった。誰もいなかった。付きまとっていたギリアムさえもな。

 ギリアムはイーリスが死ぬ事なんて考えていなかったんだろうな。」


 姉の好きな男、誰だったんだろう、勇者の一行にいたのだろうか、そんな事を考えながらリーリエはネロの話に長い耳を傾ける。


 「そして死んだイーリスだが。

 1対1の魔族の将との戦い、それは魔族に大きな感銘を与えた。誇り高き戦士として、美しい姿のまま溶けぬ氷の棺の中に埋葬され、魔族の一人がエルハの森で安らかに眠れるよう送り届ける事になった。

 だが、サンラインを抜けられる奴の中で彼女の棺を運べる者がいなくて、結局そのイーリスを殺した魔族が別の場所からエルハの森に運ぶ事になった。


 つい、数か月前の話になる。エルハの森にイーリスの遺体が戻ってきた。

 当然、勇者の一行の突然の帰還だ。勇者の一行である連中にはエルマンの民が態々伝えた筈だ。

 そして、イーリスはエルハの森で安らかに」

 

 ネロが一呼吸置く、一気に話をしていた男がため息を付くようにリーリエは思えた。


 「 眠り続けるはずだった。 」


 ここからが、今回、オークがエルハの森を襲撃した原因だが。ともう一度ため息をついてネロはまた語りだす。


 「イーリスがエルハの森に安置されていると聞いた時、ギリアムはなんとかしてイーリスをまた、一目見たいと考えた筈だ。

 勇者の一行とはいえ、一目見る事すらエルハの森にあるのでは、ギリアムには無理な事だ。

 エールバーンにしてみたら自国の聖地十二氏族の治める森に他国の要人を、おいそれと入れる訳にはいかないからな。

 ギリアムは何とかして入ろうと考えた。もしくはイーリスを持ち出そうと考えたんだ。」


 「だからオークを雇ってエルハの森を襲ったんですか?」


 「少し違うな、そもそも、君が知っているエルフの結界であれば森の中の村を襲撃する事すら出来ないだろう?それに、エールバーンはエルハの森の街道警護隊を配置している筈だ」


 「はい、結界があれば大丈夫と教わってきました。あの日……オーク襲撃の日。警護隊のみなさんはエルハの森の中で結界を張り直す作業をしていたと聞いています」


 「精霊を使いこなすエルマンの民を欺きオークがイーリスを持ち帰るには、結界を無視出来る様な、圧倒的な大戦力で、森を焼き討ちにしなければならない。だがそんな事をすれば必ず気づかれるし、イーリスを持ち帰る目的は達成出来ない」


 森が燃えたら、死んでいるイーリスは逃げられない。

 森が燃える前にイーリスを確保しなければならないが、イーリスの所在はギリアムにはわからない。

 ギリアムが欲しているのは美しい、棺の中で眠る、昔の姿のままのイーリスだ。


 「どうしたらいいと思う?ギリアムならどうしたと思う?」


 「内通者を作る……ですか?街道警護隊の中に裏切り者がいたと?でもエルマンの感知魔術でそんな方はいなかったと……」


 「もっと上だ。街道警護隊にごもっともな指示を出せる奴、結界の仕組みを知っていて、イーリスの眠る場所を確認出来て、ギリアムとの繋がりがある奴。つまり君が会った事があるであろう、勇者の一行の」 


 リーリエは、ネロの話を聞きながら、震えた。

 脳裏に浮かんだのは、エールバーンの偉い人、勇者の一行。イーリスによく似ているねって褒めて頭をよく撫でてくれた。自分に最も優しかった人物。 


 「ガノレオ様……叡智のガノレオ」 

 

 「そう。ガノレオなら入れる。ギリアムと親交のあったガノレオであれば、エルハの森に入れるし、結界の解除もわかる。

 

 ガノレオは今やエールバーンの司令官様だが、あいつは勇者の一行という名声や実力から得た身分だけでは飽き足らない男だ。

 自分の才に溺れ、高みを目指し続けた男だが、奴にはエールバーン王国でのトップになるには足りないものがある。

 王位継承権だ。王位は十二氏族から選ばれる。そして奴はただの人種族であり、十二氏族ではない。

 だが幸い独身だ。十二氏族、特に美しいエルマンの女性を妻に娶る事が出来れば、十二氏族を名乗れる。圧倒的なネームバリューと国民の人気、エルマンの民を救ったという名声から王になる事も夢ではなくなる。

 どうしたらエルマンの妻が手に入るか。ガノレオはイーリスにも粉をかけていたが、歯牙にもかけられなかった。

 エルマンの民だけでなく、十二氏族には見透かされていたんだろうな。けれどもどうせならプライドを満たすエルマンの妻が欲しい。

 そう考えたガノレオは、ギリアムの欲しいものがわかったんだろう、ギリアムに話しかけ、ほかにいるのかもしれんが、奴らは組んだ。


 ガノレオがエルハの森の結界を丸裸にする。

 金のあるギリアムがエルハの森を襲う。


 ガノレオもギリアムもオーク達に伝手があるからな、金さえあればオークは動かせる。その金も回収は簡単だ。


 あとはオークを使いエルマンの娘たちを分散してティティリアに運べば完了だ。


 特に。イーリスの妹であれば、リーリエ、君が恐らくガノレオのターゲットだ。君の顔を見て確信した。

 君ならガノレオに会える。用心深い奴も君には会わざるを得ない。だから君たちを救う名目で恐らくはティティリアにいる。

 黒幕は他にもいるかもしれないがな。


 だから、君にお姉さんを助けたくないかと、協力しないかと、ティティリアに行こうと言っているのだ。」


 リーリエは少し考えた。

 ティティリアに行く事ではない。それはもう腹の中では決まっている。

 エルーシャを助けたい。そしてイーリスも助けるのだ。お姉さまは今ある平和のために頑張った。そして安らかに眠っている。

 魔族は憎いけど、お姉さまを殺した魔族は憎いけど、今の話が真実ならば、魔族はお姉さまを、尊敬し、姉の事を考えて森まで連れてきてくれたのだ。確かめなければならない。

 そして、その魔族の事を知り、姉の事を知るこの男は何者なのだろう。


 「ひとつ、聞いて良いですか。」


 「なんだ」


 「どうしてギリアムがお姉さまを好きだったって見ていて知っているんですか」


 ネロはあっさりと答える。

 

 「そりゃあ、俺が残念ながら、勇者の一行だったからだ」


 「え、でも貴方魔族なんじゃ……」


 「魔玉をな、飲んだんだよ」


 「え、じゃぁ元はヒューマン族か何かなんですか……」


 「そうだ、こんな手をしているがな、だがな、君のお姉さんの眠りを妨げられるのは我慢ならなかったんだよ」


 ネロはそう言うと腕を、何か黒銀の鎖で出来た手のようなものをリーリエに差し出した。

 リーリエは手を差出し、その手を握る。

 その手は金属なのに、ほのかに暖かく、血が通っているような気がした。

ものすごく時間がかかってしまいました。

もしも読んで下さる方がいらっしゃったら申し訳ないです。

分かり難い話にならないようまとめたつもりなのですがどうでしょうか……

書いてみて初めて分かったのですが、私は時系列的に割り込ませたい事がものすごく多くて、あっちこっちに話が飛びそうになるのを抑えるとまた、書き直しての繰り返しをしてしまいます。ひょっとして群像劇が書きたいのでしょうか。


それならばキャラクターの味付けを上手にしないとなと思います。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ