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海蛇の大地

 バナソニル中央大陸に移り住んだエルフ王エールバーンは人々のために山脈程の大きさと称される水蛇ヴァイアを得意の弓術で倒した。

 その体が湖を埋め立て、肥沃で広大な平地であるヴァイア大平野を作ったと、エールバーン興国記には記されている。

 そしてそのヴァイア大平野は殆どが「水蛇の大地」と呼ばれる湿地帯である。


 今も昔も冒険者や旅の者、商人も街道を通るため、訪れる者こそ少ないが、ここに暮す人々は少なくはない。

 いつの世でもそうだ。

 水が無ければ人類は、生物は生きては生けない。

 水が有る場所に人は集まり集落を形成し村に、街に、国へと発展してゆく。

 そこには恵みがあるからだ。天の恵み、大地の恵みは水があってこそ。

 この湿地帯には水の恵みと呼ばれる、エールバーン王国の主食の一つ「エール米」がよく育つために一大穀倉地帯となっていた。

 今は苗も植え終わり、雨をゆっくりと待つ次期となっている。


 収穫の次期ともなれば黄金色が湿地を埋め尽くし、他国の冒険者が黄金の大地とも表現する美しい風景を作り出すのだが、今は土色にまみれ、ただ、泥が視界を埋め尽くすようなそんな場所である。


 水しぶきが舞う。

 ただ、ただ一直線に。

 湿地を這うようにに滑走する。

 帆に満杯の風を受けた船よりも遥かに速く、全力で疾走する馬車より軽やかに。


 エールバーン王国での最高の移動速度を持つ乗り物「トゥドゥ族の湿地船」は水蛇の大地にて最速の生物と言われる「エアーニ」という魔力を持ち、湿地にて浮かぶ浮遊草に、魔力を過剰に与えると天に向かって回転してゆくという特性を利用した乗り物である。

 エアー二は人の頭二つ分以上の大きな葉が4枚あり、それが風を受けたり、封印された水蛇の魔力を感知すると回転し、空に浮くという特性がある。

 根腐れしやすいエアーニは雨季になるとものすごい勢いで空に舞い上がる。それを見た昔の生物学者が、鳥よりも早いと古代言語で空を駆ける者、エアーニと名付けた。


 エアーニを4つ船に組み込み、湿地の上にてエアーニを進行方向に向け、魔力を注ぎ込めば、駆け馬の何倍もの速度で直進する低空滑降船の出来上がりである。

 なお、乗る奇特な民は元より魔力の使用においてバランス感覚に優れたトゥドゥ族のみであった。

 なぜなら止まるにも魔力が必要で、滑空時の数倍の魔力にて空気のブレーキを作動させる必要がある。

 4つのエアーニへの魔力調整を誤るとバランスを崩し、エアーニへの魔力供給を怠ってもバランスを崩し勢いそのままで湿地へ飛び込み中の術者は吹き飛ぶ。

 浮遊させるための膨大な魔力を持つコントロールが卓越した術者、ブレーキする者にも膨大な魔力とバランス感覚が必要と、二人の熟練した魔術の使い手が必要なため、現実には湿地船は荷馬車と同じ様に使われたり、ゆっくりと浮かぶ赤ん坊をねかすベッド等に使用されていた。


「おうい、ネロ、ネロやい、この調子ならベーモス半島の入口の峡谷まで二日、二日やゲ」


 魔族のネロに声をかけたその男もまた人間ではなかった。

 トゥドゥ族、この水蛇の大地に棲む、亜人種の民族であり、この湿地船の持ち主ベロナガである。

 見た目はどちらかと言えばベロナガの方が大分人より遠ざかっていた。

 丁度1メトル程の身長に緑茶色の肌、斑模様。指は三本、顔の両端から飛び出しそうな程の大きな目、人で言えば子供の大きさなのにまるで年寄りのようながに股。

 顔の下半分はむっちりとした頬に裂けた跡のような口……端的に説明するのであれば二本足で歩く蛙であった。

 トゥドゥ族は蛙にとっては天敵の蛇の大地に生息する(これをトゥドゥ族に言うのは禁句であり水蛇と蛇は違う!と激昂され否定される)蛙人族で蛙とは関係ない。

 どちらかと言えば、コボルトやゴブリンに近いらしいのだが彼の種族よりも魔術、特に水系統の魔術の扱いに優れ、この穀倉地帯では欠かせない種族であった。


 ネロが振り向く。

 ネロとベロナガ、誰が見ても人間に近いのはネロであった。

 ベロナガと違いネロは人類の平均身長を大きく逸脱してはいない。

 前が見える位置に(これもトゥドゥ族や馬族、ミノタウロスには禁句である。)目も2つ。口も鼻の下にあるし、顔の真ん中に鼻もある。

 人間でも白銀の髪の人物はいるし、足だって2本である。

 ネロは人間でも優男、美丈夫と呼ばれる顔立ちをしていた。

 魔族を知らない人間が見れば、魔族と気づかないかもしれない。

 もしもフードを外した状態の彼をアダルジーザ辺りが見ていたならばヒューマンと、少なくとも亜人種と勘違いしたのではないだろうか。 


 ベロナガも彼がネロだとは気付かなかった。

 昔、戦時中に、迫害されていたトゥドゥ族にぴったりの生活環境を提供してくれた上に、穀倉地帯というサイコーの仕事舞台を用意してくれたのだ。

 今やエールバーン王国にとってトゥドゥ族は大切な民族であり、12氏族に名を連ね13氏族になるのではと言われる程ここ数年でエールバーンに貢献している。

 それもこれも、あの時、ネロが湿地帯の農家との折衝役になってくれていたからだ。

 ベロナガだけでなく一族は皆ネロに感謝していた。

 再開を誓って、別れて、すぐに死んだと聞いて悲しかった。干からびる程泣いたのだ。

 それが生きていた。



 魔族となって。



 なんで魔族になったのかベロナガは聞かなかった。ただ、ネロを受け入れた。

 ネロに会うまでに何度も噂や吟遊詩人の勝手な英雄譚を色々聞いたが、ベロナガを納得させるものは一つとしてなかったのだ。


「2日か、すまん、喋る余裕がない……なんだこの植物は!どれだけ俺の魔力を食い散らかすんだ!」


 ネロの足元には4層の魔方陣が描かれ、それぞれに描かれた魔術回路から船体の4か所に取り付けたエアーニに魔力を供給している。

 ネロの足は金具で靴を固定されている。その下に魔力供給用の魔方陣が描かれていた。

 旅装束のフードを脱ぎ、マントも外されている。とにかく風を受けるため、少しでも向かい風の抵抗を減らしたかったのだろう。

 だが、本来捕まり、支えとなる所にある筈の手がなかった。人間にあるべき一部がネロには欠如していた。

 ネロには上腕部から先がなかった。両腕共に腕がなかった。先にあるのは黒銀の鎖だけであった。

 その黒銀の鎖が湿地船の手すりへと伸び、絡み、支えとなっていた。

 魔力を足から供給する考えは実はトゥドゥ族以外にはなかった。それを昔、ネロは教えてもらった。

 トゥドゥ族は手も足も同じ足と考えており、後ろ足で魔力を操る事も出来る種族である。

 代表的な魔術は跳躍、と水面歩行等の移動魔術。

 サンラインにてネロが壁に張り付き魔方陣記述の舞が出来たのはトゥドゥ族の魔術の賜物であった。


「あったり前やゲ、おみゃぁさん、一体どんだけ速度出しとると思っとるゲ、儂の4倍出とるゲ!ただの4倍やない4つのエアーニにそれぞれ4倍の魔力を注いどるで16倍は使っとるゲ!」


 ひたすらに魔力を消費する原因はネロ自身にあったのだが、エアーニ事態魔力をすぐ回転で消費してしまうとても魔力の変換速度の早い植物のため、加減がわからずこの湿地船はベロナガの操縦の腕でまともに走っているのだが、ベロナガも余りの速度に高揚してしまいそうになるが、ネロをとりあえず宥めるのであった。


「おうい、ネロ、ネロやい、なんでこんなにいそいどるゲ」

 

「いいぜ、峡谷についたら話してやるよ、とりあえず余裕がねぇ……」


「峡谷で話されたらその間にオラ干からびちまうゲ、湿地の中で話してくりょ」


 そうおどけると少しネロの魔力が弱まるのを感じる。そしてネロは口を歪ませながらベロナガに語りかけた。


「いいぜ、簡単に言うとな、今の魔族ってのは魔玉を魔王に返さない奴が強いのは覚えているよな?」


 ベロナガはうなずいた。ベロナガも魔族と戦った事がある。その魔玉を持った魔族と対峙したとき、ネロが隣にいた筈だ。

 ベロナガは依然魔族とネロが会談した際に教えてもらった魔族側の国の根本となる仕組み、むしろ魔族としての仕組みである「魔玉」を思い出していた。

 魔玉は魔王の力の一部。魔王を復活させるのが本来の魔族の役目ではあるが、今の魔族は自分たちに力がある事を是としている。

 魔玉が全て一体の魔族の元に集まれば、魔王は魔王として復活する(おそらくそのまま集めた魔族を乗っ取るのだと言われている)が、今の魔族の魔玉持ちは十数体おり、力も拮抗しているため魔族は合議制である。

 いずれ、寿命で魔族も代替わりが行われる等して、魔玉の複数持ちが増え、パワーバランスが崩れたために野望を持った魔族が現れ、魔玉を集めきった魔族が魔王になる、もしくはその魔族から魔王が産まれる可能性はある。

 そしていつの日か魔王は封印され、再び魔玉が産まれ、魔玉が複数の魔族に憑依し魔族に力が与えられる。民主政治と独裁政治を繰り返すようなものであった。


「その強い奴がどうしたんろ?」


「サンラインを通らずにバナソニル中央大陸にやってきている。そしてそいつがブチ切れる。」


 そういうネロは嬉しそうでもあった。起こって欲しい。そんな目をしている。


「そいつを止めるために態々自分の術を解呪してまでやってきたゲ?なんか、ネロは別の目的ありそうね」


「ああ。俺が来たのは、借りを返すためと、俺を裏切ったド汚い奴らを殺す」


「借り……あぁ、イーリスさんゲロ?」


 ベロナガもさすがに理解した。ベロナガの所に来る前に襲われたエルムの森に行ったと言っていたから間違いないだろう。

 イーリスはエルムの森の戦士で、イーリスがいなくなってしまったせいでエルムの森が襲撃されたのなら

 恩を感じていたネロがどんな姿になっても帰ってきてもおかしくはないと思えたのだ。


「イーリスさん、綺麗やったゲ……」


 ベロナガは曇天の隙間から除く青空と陽光による光の柱を見つけ、イーリスになぞらえた。


 湿地船を邪魔する物は何もない。

 地平線が見えるこの湿地帯は山も崖も無い。ひたすらなだらかな平野で、ただただ、2人を乗せて滑走してゆく。

 ネロの白銀の髪はたなびき、ひたすらに南東を目指す。

もっと時間をとれるようにしたいなぁと思うのと

もっと話が1話1話長いほうがいいのかなぁと思うのと。

会話長くした方が人物像込めれるかなぁと思うのと。

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