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街道警護隊の生存者

 エルハの森の街道警護隊の紅一点であり、今回のオークによるエルハの森襲撃の被害者の一人となった、アダルジーザは語る。


「最初はに違和感を覚えたのは一月と二週間前の乾季の終わりでした。

 街道警護隊の駐留所にエルマンの連絡係の人が来て、我々に相談したいことがあると仰ったんです。

 珍しいなと私は感じました。エルマンの方から、相談ごとなんて今までありませんでしたから。

 内容は、最近、エルハの森で小火が多いと言うことでした。

 ですが、問題はそこではありませんでした。

 小火になった場所が問題でした。木が燃やされていたのですが、エルハの森は迷いの森です。

 エルハの森には他種族や他民族の侵入を防ぐために結界が張られ、他者には入り込めない様に目印の順に入らないと森に迷い続けてしまう自然のトラップが作り出されているのですが、その目印の木に限って放火されていたのです」


「ふむ、そのエルハの森の目印を知っている者は多くはないのかね?」

 偵察隊の隊長、バロテダが顎に手を当てたままアダルジーザに尋ねる。


「エルマン族以外に知っている人は限られています。目印の位置を知っているのはエルマン族のみなさんと、我々エルハの森の関係者やエールバーン王国中枢部のごく一部の人物だけです。

 王国の決まりでエルハの森での猟はエルマン族のみが許されていますから、ヒューマンの猟師や密猟者、獣人のオークもゴブリンも結界の目印を知っている筈がないのです。

 それに目印の木に順番に触れていく事でエルマン族の集落に入れるという仕組みの結界ですから、それが燃やされるという事は」


「先の一部の中に放火犯がいる、もしくは放火犯にその秘密を伝えた人物がいるという事か」


「はい、その通りです」


「今の話だと警護隊の中に内通者がいたのではないのかね?」


「我々警護隊は真っ先に疑われそうなものですが、エルマンの連絡係の人は警護隊を信じて下さるとの事でした。

 今までの働き、同じ森を愛する人として、信頼を置いてくださっていたようです。

 そして、我々とも色々協議した結果、新たなる目印の木を選定し、エルマンの森の結界を張りなおすという結論に達しました。」


 確かに、結界の目印が燃やされ所在が明示されているのならば、内部への侵入を許しているという事になる。

 順序立てて触れなければならないという結界だが、アダルジーザによれば場所と順番さえわかってしまえば誰でも入ることが出来る結界のようであった。

 しかし、結界を張りなおすという事は結界を一時的に解くという事ではないのか?そう警護隊隊長は問いかけた。


「あの日……オーク襲撃の日。我々警護隊は全員、エルハの森の中にいました。」


 結界を張りなおす瞬間、エルマンの結界士を犯人は狙うかもしれない。

 そう判断し、警護隊はエルマン族の結界士を警護していたのだという。


「判断は結果として間違っていたのか。犯人の目的は結界の張り直しそのものにあり、結界の張りなおす数刻を作り出し、その時間にオークが殺到すれば、地の利があろうが、数の少ないエルマン族が勝てるはずもないか」


 警護隊隊長、バロテダは責める考えはなかった。彼女は、そして警護隊はエルハの森を正しく守ろうとした。

 結果としてエルマンの村は滅びたが、それは彼女たちが負う咎ではない。嫌な考えがバロテダの脳裏をよぎる。先ほどのアダルジーザが言った言葉が蘇る。






エールバーン王国中枢部のごく一部の人物だけです。





 一体誰だ……

 バロテダは警護隊の死体の数の報告は受けていた。

 エルハの森の警護隊はアダルジーザを除き全滅のはずだ。


 バロテダは意識をアダルジーザの報告へと戻す。


「私達を襲ったのは大きなオークでした。アボと名乗っていました。ゴブリンもいました。

 ゴブリンはそのアボに指示を出していました。我々警護隊はアボ及び、ゴブリンが首謀者であると判断しました。

 そしてゴブリンを倒し、アボのみになれば、エルマンとの共闘で倒せる。そう判断しました。」


 しかし結果は違った。

 ゴブリンを倒すことすらままならなかった。

 アボが前衛でゴブリンの盾となり、ゴブリンが後衛として後方からアボをサポートする。

 ただそれだけの陣形が警護隊では崩せなかった。

 街道警護隊の仕事は主に、害獣退治、エルハの森近辺の街道の治安維持、エルハの森に侵入しようとする犯罪者が主だったものであり、騎士の国エールバーン王国の兵士、錬成十分といえど、オーク、獣人族を倒すような装備を持っていなかったのが原因であった。


 アダルジーザの声がかすれてくる。


 ここからは、本当に思い出したくもないのだろう。

 警護隊は同じ釜の飯をたべ、同じ訓練をし、ずっと同じ景色と日の元で同じ目的を持って何年も生きてきた、家族のようなものだ。

 好きな男の一人もいたかもしれない。

 彼女の事を好いている男もいたかもしれない。

 仲間に訪れた”死”を口にさせる事で、今、彼女は胸が締め付けられ、胸にある何かが奪われ身体から離れていく事を実感させてしまったかもしれない。

 彼女の中で去来する幾つもの想いが耐え難き痛みとなり、心の痛みは涙となり、アダルジーザの頬を滴り落ちた。


 嗚咽混じりに報告は続いていた。


「アボに刃が通らず、成す術なく我々は倒されました。私は気を失って…捕えられ、目を覚ました時にゴブリンに言われました。お前 だけ は商品価値があるから生かしておいたと」


「よく……よくぞ生き残ってくれた」


 バロテダはアダルジーザの肩に優しく手添えた。

 彼女がいてくれれば、彼女が生きてくれていたおかげで、このエルハの森襲撃の全貌がわかるかもしれない。

 そして彼女が言った事が本当ならば、彼女が生きている事を知らされた何者かが彼女を狙うかもしれない。


 バロテダの思考は疾走する。


 我々は彼女を守らなければいけない。彼女の身柄は偵察隊が確保し、またその生存を知られてはならない。

 我々は行方不明になっているゴブリンを探し出し捕えなければならない。これは本国に知られても良い。

 我々はエルハの森を襲ったオークが全滅した事を全世界に知らしめなければならない。

 そして、我々はオークを全滅させた魔族の目的を知らなければならない。


 バロテダはアダルジーザに向き合いながら、一つ尋ねる。


「君は魔族を見たか?」


「魔族……ですか?」


「実はな、私たちは、君たちを助けろと命じられて来たわけではない」


「理解しております、オークに対して人数が少なすぎます」


 アダルジーザは実際にオークと戦った者として、戦力の彼我を分析した。


「うむ、数日後に1000程の対獣人装備を持ったエールバーンの精鋭達がエルハの森を取り戻すため森に入る手はずになっていた。我々の役目はあくまで偵察だからね

 そしてその偵察の役目は二つ。我々はオークと魔族が内通しているのではないかと主導者達は考えたんだけれどね」


「いいえ、私が起きている間は少なくとも魔族を見ていません。リーダーはゴブリンだったと思うのですが、そのゴブリンの近くに常にアボがいただけで他の種族や魔族など……」


 そこまで言うとアダルジーザは口をおさえ目を泳がせた。何かを思い出そうとしていた。

 偵察隊とアダルジーザの元で沈黙が走る。

 何度か首を傾げながら、アダルジーザは目元の涙を指で掬う


「そういえば、私は見たかもしれません。ゴブリンとアボが会話をしており、アボが酷く興奮し……その、恐らく、アボが私を襲う、その寸前でした。

 アボに黒銀の鎖が巻きついた瞬間、私は長い、長い鎖の先を見ました。その一瞬でしかその鎖の先を見る事はできませんでした。鎖は腕から伸びているようでした。

 フードを深く被っていたので顔色まではうかがえませんでした。暗い紺色の服を着ていました」


「その直後でう、私は強烈な睡魔に襲われ、抵抗する間も無く、眠りました。私だけではなく、恐らくオーク共も眠ったのだと思います」


「アダルジーザ、とても良い情報だ。確定だな。オーク共を倒したのは我々が追っている魔族だ」


 黒銀の鎖。サンライン防衛隊のニック・ベルン将軍からの報告で上がっていた魔族の特徴だ。


「魔族がオークをですか?」


「ああ。我々が追っている黒銀の鎖を持つ魔族はサンラインをたった一体で突破し、このエールバーンに潜伏している。魔族がこちらに来た目的もわからなかったが」



 ひとつは間違いなくこのエルマンの森がオークに襲われたという情報を持っていた事から、エルマンの森の解放が目的だ。

 そして、エルマンの森からいなくなったという事はゴブリンを追って出たのかそれとも、他の目的があるのか。

 ここ一年でエルマンの森に起こった事件を洗い出さなければいけない。そうバロテダは考えた。


6月28日:修正

5話と同じ内容になっていました。

アップロードを失敗した模様です(´・ω・`)

データから復旧してみました。

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