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太陽の長城

 先ず腕を咀嚼された。


 紋章の入った腕はオークキングに噛み砕かれ


 肘から先が無くなり


 支えの無くなった身体は地面に転がり落ちた。


 逃げるために這いずりながら


 グチャ、くちゃ、と下品な汚い、咀嚼の音を


 ゴクリ、と先程まで己の身であった腕が目の前の敵のエサとなり、喉の鳴る音を聞いた。


 止まらぬ血、魔術を使う手段を奪われた身


 朦朧とする意識の中、身体の痛みは感じず


 裏切りを認められず、されど胸の痛みは耐え切れず


 心が擦り切れそうになれど


 仲間達の事を想い


 目の前の敵だけはと無い腕を動かした。



 Evil Evolve



 バナソニル中央大陸三国の最北の国、エールバーンは魔族の支配する地との境に巨大な壁、陽の当たる世界と影の世界とを分ける長城「サンライン」を持つ軍事国家である。

 サンラインより北部の厳しい北の大地、それは永年凍土人類未踏の大地、影の世界から訪れる魔族の大多数を足止めするためにサンラインは存在した。

 魔族との大戦以前は三国同士で紛争を繰り返してきたが、大戦時はまさに国家で壁となった。

 サンラインは魔族の進攻を抑えきった人類の最終防壁であり、人族の支配地と魔族の支配地との明確な分かれ目であった。

 サンラインというアバルプス山脈の南の麓に東西数十キロに及ぶ長大な城、城と呼ぶよりも重厚な壁と呼ぶのが相応しい城は、数百年の間人類を守るためにボロボロになりながらも数十の砦の役目を、不落城としての役目を果たし、そして魔族との戦争の基盤として常にあった。 

 そしてそのサンラインを守り、使い、維持し続けたエールバーンこそ魔族大戦において、三国同盟を支えた屋台骨であった。


 吉報はその激戦区でもたらされた。

 エールバーン王国歴577年ジューチの月の7日目。エールバーン王国に、王国が有るバナソニル中央大陸、全ての国に吉報がもたらされた。

 魔族との和睦成立である。

 23年間続いた魔族との大戦はサンライン城塞にて講和条約が結ばれ終結した。

 魔族支配地域と人種族連合との和平においては


 一:国境をエールバーン王国北部サンライン城塞、アバルプス山脈とする。

 二:両国境は陽の世界(バナソニル中央大陸三国)、影の世界に分けお互いを不可侵とする。

 三:戦争犯罪人、捕虜、難民においてはお互いの世界へと送り返す。そのため魔力結界はエールバーン王国歴577年ジューニの月の10日目より10日間停止する。

 四:その際互いの戦闘力は2キロ以内にサンラインの壁に近づいてはならない。

 五:サンライン城塞の所有権はバナソニル中央大陸三国に有り、魔族は所有権を主張しない。


 他、様々な条件が取決められた。

 

 人種族連合にとっては魔族の脅威からの解放であり大勝利であった。

 それは「勇者達の一行」の功績であり、バナソニル中央大陸の三国の国民は、サンラインの向こう側である陽の当たらぬ常冬の世界、影の世界から生還した彼らを英雄と呼び讃え、英雄譚が謳われた。

 また、勇者達の一行と行動を共にしたが殉職し、帰らぬ数人の故人は祀られた。


 そして勇者達を裏切った背徳者の名前は忌み嫌われ、怒りの矛先となり吟遊詩人の唄の中で

 英雄たちを賛美するための闇として扱われていた。


 エールバーン王国歴583年ジューチの月の7日目。

 最大の犠牲者を出し、激戦区であった サンラインに慰問の詩人が訪れていた。

 魔族も来ない。魔獣もいない。見張りも立っているだけ。

 結界で守られた城塞には魔術の矢も普通の矢も舞う事はない。ただ、サンライン城塞の上で歌う詩人の唄声とリュートをかき鳴らす調べだけが舞っていた。

 

 ロンドスの至宝「ティスケス」


 バナソニルの勇者「アレクサンドロ」


 2人を引き裂くのは闇の魔導士ネロ


 ネロはティスケスの光に恋焦がれ近づく

 

 心が欲望に染まりティスケスを闇の世界に連れ去ろうとする


 勇者達一行を裏切ったネロは討たれ


 2人は闇の世界から戻る



 詩人は歌う。

 伝え聞く勇者の物語を。


「不思議だよね、サンライン結界の外にも声は届くんだね」


「勇者の物語か。それが創られた英雄譚だとしても詩人は謳い続ける。それが奴らの性だからな」


「おー、作り話だとよくご存じで」


「嫌味か?作り話に作り物の平和。もう十分に享受しただろ」


「じゃぁ、私たちも私たちなりの性で動いてもいいのかしら」


「良いんじゃないか、俺も私怨で動くわけだし……ちょっといってくる」


 時代は再びこのエールバーンの地から戦乱の世を迎えようとしていた。


 近年は戦時中の英雄達や冒険者、自由騎士を登用しサンラインを固めつつも、他の二国と木工産業や繊維業で貿易を行い人々の暮らしは


 平穏とそれ以上の目まぐるしい発展を遂げていた。


 しかし、その日々も―――


 続かない。


 エールバーン国内は多民族国家である。

 王家を支えていた12氏族、森の民エルマン、街の民ヒューマン、魔術の民ガンダや小人族も少なからず存在していたが、それ以上に木工を生業とする獣人ウォリス族や、石加工をして暮らす獣人トロール族、傭兵をして生活の糧を得る獣人オーク族、その他の民族同士で争いが絶えなかった。

 特にオーク族は先の大戦で魔族側に付き、エールバーン内に1年国家を作り上げ、エールバーンに宣戦布告をした。

 用兵は巧みであり、次々と他の種族の村を襲い、暴力はサンラインまで届く所であった。

 オークは王をサンライン手前で失い、争いに敗れ、オーク達は殆どの村、街を奪われ不毛の地に追いやられた。

 それだけでは他種族の気が治まらず、オーク族の殆どはエールバーン国内で奴隷として扱われた。

 不満の鬱屈したオーク達は戦争から数年経過した今、他の種族に憎しみを抱き続け、多種族の村を、部族を襲い、種族ぐるみで逆賊として活動していたのである。


 そして、オーク達はひとつの村を滅ぼした。


 英雄の一人が生まれた村


 エルマン族の村を。


 エルマンの森が焼かれ


 エルマンの民は攫われた。


 その知らせは一ヶ月もするとバナソニル中央大陸津々浦々に届いた。


 

 届いてしまった。




 エールバーン王国歴583年ジューチの月の12日目。



「将軍!将軍!!!魔族がサンラインにすごい速度で近づいて来ます!!」


「で、またしても、たった1体の魔族がのこのことやってきたのか・・・・・・」

「はい、また同じすばしっこい魔族です」


「またか・・・・・・いつもので追い返せ!適当にファイアボール、ポイズンアローの雨あられで痛めつけてやれい!!」


 ニック・ベルン将軍は足を己の机に置きながら、柔らかな椅子の背もたれに体重を預けつつ言い放った。

 これで先週から6回目だった。なにやら動きのはやい魔族と報告は受けているがせいぜいがサンラインの壁に張り付く程度だ。

 サンラインという壁はロドス連邦共和国の偉い印章魔術使いによって防御魔法が何層にも組まれ破壊する事は魔族でも困難だ。

 それはこのサンラインが太陽のマナ、魔力を印章によって吸収し昼も夜も壁の無い上空に至るまで魔族の侵入を拒み続けている事からも明らかだった。

 ドラゴンの破城槌や岩石落としの魔術ですら太陽のマナの力は寄せ付けずまさに難攻不落の壁といえた。


 ニックはこの辺りの魔物ではこの壁を壊すことが適わない事を知っていた。

 また、この壁を壊すには、破壊する事を考えればドラゴンブレスでも耐えるため、解呪魔術を利用する他ない。

 そして印章魔術を解呪するには平面を利用した積層型の魔方陣を描く必要があるが、壁の向こう側には魔方陣を張る平地が全く無い事、


 整地できておらず、岩や石だらけで、魔方陣を描くには不適な土地である事、を大戦時に向こう側で戦った身として十分熟知していた。

 それに整地を行い、積層魔方陣を描く隙などこのサンラインの兵士達は許す筈も無い。

 つまり、件のすばしっこい魔族が何をしようとも。たとえ爆弾を仕掛けてこようともマナの力で守られている印章魔術を解呪する事は出来ず、壁を突破する事は不可能であるのだ。

 それでいて結界はこちらからの魔術や矢は通す。一方的に攻撃が可能なのだ。


「撃て!撃てい!!」


 サンラインの防壁の上に立ち、命令を受けた百人隊長が檄を飛ばす。

 防壁の上から矢が、魔術の矢弾が間断なく降り注ぐ。たとえ魔族が防御魔法を張ろうと、いずれその防壁を打ち破るだろう。

 しかし、その魔族は壁の元まで回避する事もなく神速とも言える速度で駆け抜ける。

 そして魔族は右腕からチェーンフックを出し壁に投げつけると、その先が壁に張り付く。

フックの先を拠点として、魔族自身が振り子となって壁を弧を描き登ってゆく。


「矢を放て!石を落としても構わん!ちょこまかと鬱陶しい野郎をたたき落とせ!!」


 百人隊長の指示で兵士を数十人並べ、矢を雨のようにそそぎ、石を雪崩のように落とす。

 しかし、魔族は右腕に付いたチェーンを使い壁に張り付いたまま、クルクルと踊るように回避を続ける。

 本当に回避をしているだけだろうか。とニックは考えた。魔族は攻撃をしてくる気配がない。

 こちらからは見えない。だが、毎日回避の練習のために壁に張り付いている等とは思えないし

 今まで壁に張り付いてきた魔族は全て、矢弾を放つ兵士達を撃とうと下から狙ってくる奴ばかりだったのだ。


 下を見る。

 まだ回避をしている。鎖を伸ばし、まるで円を描くように魔族は壁を大地の如く蹴って疾走する。

 重力など関係無しに壁に垂直に立ち、鎖と、魔法なのだろうか、壁を七色に輝やかせ踊る。

 タンッ!タン!軽やかにステップを踏み、上半身を沈ませたと思えば、脚を前へグンっと伸ばし虹色に輝く軌跡で弧を描く。

 両腕から伸びる黒銀の鎖は天女の衣の様に自在に動き、次の場所へと次の場所へと弧を描き、線を描き魔族を優雅に誘う。

 上から覗く兵士達の立場から見たままを言えば、酒場で一度見たリボンを使った少女の舞踊のように美しかった。

 だが、その舞の美しさは黒き妖精が闇の神に捧げるような邪悪さを持ち合わせた、魅了の踊りのように感じた。

 気が付けば石を落としていた兵士の手が止まり、矢弾の数は少なくなっている。

 兵士達は皆、足跡の軌道を彩色の線が追いかけているのをただ、美しい光景として見ていた。

 6日間続けて起きる、この魔族の踊りは常駐する兵士への慰問なのではないかとも思う者さえいた。



 百人隊長も、ニックも戦士であった。ここに居る兵士皆、知らなかった。

 そして多数いた魔術師達もサンラインという偉大な魔術障壁を過信していたため気付かなかった。

 このサンラインを改修したという魔道士であれば気付いたであろう。

 英雄達が一人でもこのサンラインに常駐していれば止めたであろう。


 光り輝く軌跡が一つの図形として浮かび上がる。


「隊長!隊長!サンラインの防御魔法が解呪されていきます!!」


 いち早く気付いたのは氷の魔術で魔族を攻撃し続けていた魔術師であった。


「な、なに!?」


 百人隊長も驚きを禁じえなかった。

 何故踊っているだけの魔族の前でサンラインの防御魔法が解呪されるのだ?


「積層魔方陣です!壁に!壁に直接……あの魔族は直接!魔方陣を描いているのです!」


 平らな場所が無ければ魔方陣を描けない。

 壁の向こうには魔方陣を描ける平地が全く無い。


 だが「サンライン」は平面である。

 だからこの魔族は壁を壊す積層魔方陣を直接「サンライン」に描いた。


 だから壁は積層魔方陣の実行により描かれた場所が輝いている。

 輝いているという事は解呪魔術はすでに実行されている!


「止めろだれか!誰か止めてくれ!!!」


「まぶし!!!」


 魔方陣が輝く。


 多くの兵士が目を腕でかばった瞬間、遅れて大音響が発生する。


 ドグゥォォォオオオ!!!!


 兵士達の悲鳴は爆発音でかき消され、サンラインが揺れる。


 魔族との戦争中に改修されて以来一度もここからは魔族の突破を許したことはなかった。

 それをたった一体の魔族に突破された。

 魔族は6日間で6箇所の魔方陣を描き、そして今日、最期にその6箇所の中央に画竜点睛の瞳を描いたのだ。

 壁の輝きは消え、サンラインの本来のベグワット石で出来た壁が魔族の魔法によって1メトル程の小さな穴を空けられた。


「城内に!城内に潜り込まれましたぁあああ!!」


 ニックはもう城塞の上でふんぞり返っている場合ではなかった。


「追え!追え!なんとしても倒せ!この城塞を突破させるな!」


 全ての兵士が階段に向かう。

 警鐘を鳴らす。

 城内全て隈なく廻る

 走る、走る、魔族を探す。


 しかし


 魔族は見つからず、ニック・ベルン将軍は己の首をかけ、軍本部に伝令を届けよとエールバーン王国首都ヴィルモアへ早馬と、魔術での伝令の指示を出すのであった。

ちょっとづつですがのんびり書いていきます。

更新は不定期です。

反省点だらけですが、主人公がわかるように書きたいなと…

無口な主人公という設定はダメなんじゃないかな;

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